ペストマスクは別のダンジョンに行ってみたい 作:読専の翁
そんなわけで数日後、悩んだ末に会ってみることにした、人となりは一度対面しなければわからないし、もし真面目にネクロマンサーをやるなら最初こそが一番大事になる。
「あ、根来(ねぐろ)さんお早いですね!」
ダンジョン組合のロビーに入ると受付がこちらに気づいて挨拶をしてくる。
「この子が今日お願いしたい橘あさひ君、今日はよろしくね!」
「橘 あさひです!今日はよろしくお願いします!」
「根来 幽(ねぐろ ゆう)だ、今日はよろしく頼む。」
珍しく受付前に誰かいると思ったがこの子が言っていた男の子か。受付の友人の弟ということだったからもう少し高い年齢だと思っていたが想像よりも幼い印象を受ける。中性的な見た目で髪の毛も少し長いからなおのことそう思ってしまうのかもしれない。
まあそんなことダンジョンに潜るなら関係のないことだ、しっかり教えれることは教えてマナー良くダンジョンに潜るなら俺には関係のない話だしな。
「まだ約束の時間よりもだいぶ早いがこのまま潜っちゃってもいいのか?」
「あ、いえ!先にダンジョンでの注意事項や装備のつけ方をしっかり教えておこうと思っていたんです!」
なるほど、だから時間の30分前にはもう来ていたのか。それなら先に装備に着替えてくると伝えて組合のレンタル倉庫で装備を付けていく。皮鎧の上にローブを羽織り、いつも通りマスクをつける……前に今日は香水をつけておくか悩みどころだ。ゾンビフロアまで行かないなら正直香水どころかマスクもいらないが、ネクロマンサーにとってゾンビは切っても切り離せない存在だ。聞いてみていくかどうか決めればいいだろう。
ペストマスクの先端に香水を少しにじませた綿を詰め込んでから頭に被り、メイスと盾を腰につける。これでいつものダイブスタイルだ。
「待たせたな。」
「あ、根来さんおかえりなさ……。」
なにやらこちらを見てびっくりしたような顔をしている、一体どうしたのだろうか。
「根来さん、自覚はないかもしれないですがそのマスクは初めて見る人は驚きますよ?」
「何を言っているんだ、ここのダンジョンでは生命線といってもいいだろ、俺はマスク無しで潜るなんて気が狂ってもできないぞ。」
「言ってることはわからなくもないんですけどね……。」
受付と話をしていると硬直から復活した橘が話に入ってくる。
「あ、あのなんでそんなマスクしているんですか?」
心底不思議そうな顔でこちらを見てくる橘をみて受付にダンジョンの説明はしてあるか?とアイコンタクトをすると今からしようと思っていましたと返事が返ってくる。おそらく実際にやらせてみてから説明する腹つもりだったのだろう。深いため息をつくと少し肩をびくっとさせた橘を巣窟についてどれだけ知ってるか聞いてみた。
「えっと、日本だと唯一のアンデッドばかりが出るダンジョン、でしたよね?確か浅い層だとスケルトンにゾンビが出るって調べたら出てきました!」
そういって調べたことをまとめたであろうメモ帳を見ながら答えてくる、事前の下調べしていたこととそれをしっかりメモしていたことは評価できる。臭い対策はどうする予定だった?と聞くと一応マスクを持ってきました、と不織布のマスクを出してきた。
まだ時間が早いがちょっとだけ入って一瞬だけ体験させたらそのまま一回戻って来よう、受付にちょっとだけ連れて行っていいか?と聞いたところ是非お願いしますと言ってきたので連れていくことにする。
ダンジョンに入ってすぐのところで橘にマスクをするように指示をしてからなぜここに来たのかを説明する。
「ここに来た理由はただ一つ、先にゾンビというものを体験してもらおうと思って連れてきた。」
そういうと橘はビクッとした後に周りをきょろきょろしてからこちらを見上げてくる。
「あ、あれでもここってまだスケルトンしかいないんじゃないでしたっけ?」
「その通り、何も最初からゾンビのフロアに叩き込むなんてことはしないさ、君はネクロマンサーで俺もネクロマンサーだ、ネクロマンサーならやることは一つだろ?」
そういって俺はスケルトンポーターを呼び出す。それで合点がいったのか何度かうなづいていた。
「俺はこのスケルトンの他にゾンビも使役している、だからここでも体験だけはできるってわけだ。」
だからゾンビと対面してみる覚悟が決まったら教えてくれと伝えて少しだけ様子をみる。
橘は3度深呼吸をしてからじっと目を閉じた後、覚悟が決まったのか大丈夫ですとこちらに力強く返事をした。
これなら大丈夫だろうと判断した俺は大きくうなづくとゾンビを召喚する。
そして無事橘はゾンビにやられノックダウンするのだった。