ペストマスクは別のダンジョンに行ってみたい 作:読専の翁
組合のロビーで未だに気分が悪そうな橘を見てやはり先に体験させて良かったと思ってしまう。
「一応言っておくがダンジョンにいるゾンビは俺の連れているゾンビよりも腐敗が進んでるし臭いもきつい、ここをホームにするなら臭い対策は必須になるだろう。」
「だから根来さんはペストマスクしてたんですね……。」
俺はそれに大きくうなずくと受付にマスクは用意してあるか聞いてみる。
「一応用意してはいるんですけど、香水はどれを用意すればいいかわかんなくて用意できませんでした、良ければ今回は分けてもらえると……。」
「その辺は自分の好みの香水を探して使うしかないだろうな、今回は俺の香水を使ってもらおう。」
そこまで言うとおずおずと橘が声をかけてくる。
「あの……ゾンビの見た目はどうやって克服すればいいんでしょうか。」
「慣れだ。」
即答する、慣れ以外にはない。とはいえそんなすぐに慣れるものではないだろう、そんな簡単に慣れれるならこのダンジョンはこんなに過疎化していないだろう。
「で、ですよね。ちなみにスケルトンだけで生計って建てられたりは……。」
「それもできないだろうな。」
そこまで言い受付に目配せをする。すると受付はどこから取り出したかフリップを取り出した。
「スケルトンのドロップは魔石はなく骨粉だけ、そしてその骨粉も1匹につきうまく回収できて10円ほど、それも粉の状態でドロップするので回収するのはとてもめんどくさく割に合うとは言えませんね。」
ちなみにゾンビはこのくらいですとフリップをめくって値段を出してくる。同じくらいの強さのモンスターより割高の値段が出てくる。コンスタントに狩れるなら専業でもまあ生きていけるくらいの金額だ。
「やっぱりそんな甘い話はないですよね……。ちなみにスケルトンを捕まえたら何か変わったりしますか?」
多くのネクロマンサーが陥った地雷を聞いてくる、ちなみに俺も陥った地雷だ。
「ネクロマンサーの多くがダンジョンに潜らない理由がスケルトンだ、ネクロマンサーは自身の従魔を出しているか死んでいる間ステータスが上がる。しかしスケルトンは戦力にならず、パーティーを組みづらいネクロマンサーはソロで潜らなければいけない。パーティを組めず、ソロで潜れないやつはそこで詰むというわけだ。」
ちなみに俺はソロで潜って殴り倒すことを選んだ。結果的には専業でも生きていけるからよかったのかもしれないが最初の頃はずっとこのジョブを恨んでいた記憶がある。
「だから自分が強くなるか、誰かにレベリングを手伝ってもらえるまでスケルトンはお勧めしない、スケルトンは進化すれば基本的にゾンビも簡単に倒せるようになるがそれまではゾンビすら倒せないしなんならすぐに倒される。」
そこまで言うと橘はネクロマンサーがいかに大変なのか自覚したのかげっそりとした顔をした。
「僕少し、いやかなり甘く見ていました。不遇だ不遇だって言われていたって実はどうにかなるんじゃないかって、でも実際はやっぱりきつくて辛いんですね……。」
現実は非情だ、それが分かった橘はやる気がかなり削がれているようだ。今日はやめるか?と聞くと橘は黙りこくり何かを考えているようだ。
「……いえやらせてください!お願いします!」
てっきり一回帰ってから考えさせてくださいっていうのかと思っていたが俺が考えているよりもガッツがあるようだ。俺はその返答によしと答え受付からマスクを受け取り香水を仕込む。
最初にスケルトンと戦わせたがゾンビよりは怖くないようだ、すぐに殴り倒していた。俺はスケルトンも恐ろしかったんだがなぁ……。そんなことを思いながら他のスケルトンを殴り倒し、大部屋を確保した後橘に向き合う。
「さて順番が変わってしまったがなんでダンジョンに潜りたいのか、まずはそれから教えてもらえないか?」
またゾンビと対面させられると思っていたのか橘は少しだけ固まった後、少し考えるそぶりをする。
「あの、笑わないで聞いてもらえますか?」
「あぁ約束する。」
「その……男っぽくなりたいなって。」
その答えに少しだけ笑ってしまう。何ともまあまともな理由だ。
「あ!今笑いましたよね!!ひどい!!」
少しだけなのに気づかれたようだ、悪い悪いと言いながら弁明する。
「正直驚いた。俺はもっとしょうもない理由で潜り始めたからな。それに比べてひどくまともでとてもそれっぽいなと。」
「……根来さんはどんな理由で潜り始めたんですか?」
少しむくれた感じで聞いてくる橘、笑わないと約束したのに笑ってしまった俺に非がある、ここは正直に答えよう。
「金だ、そこそこ金をもらえれば何でもいいと思ったんだ。それこそダンジョン専業で生きていけなかったらどこか適当なところで適当に働いて適当に生きていたと思うぞ。手っ取り早いのがダンジョンダイブだったから潜ってみたら意外と性に合ってただけだな。」
そういうと橘は納得したような納得してないような顔をしていた。一体何を思ったのやら。
「ダンジョンってのは力がすべてを言うし女より男の方が人が多いし人気だ。なんで男っぽくなりたいかなんて言うのはあえて聞かないが金が欲しいからなんて理由よりはよっぽどマシだろう。」
そこまで言うと橘はわかりました、その態度悪くなっちゃってすみませんでした。と誤ってきた。なかなかいい子じゃないか。俺こそ約束したのに笑ってしまってすまんな。
「それじゃ理由も理由だしやる気も十分だろう、さっそくゾンビに慣れる練習をする。」
そういうと橘にマスクを渡して装着される、しっかり着けてるのを確認し、覚悟が決まった教えてくれと伝える。
さっきと同じように三度深呼吸し少したってから大丈夫ですと返事が来た。
ゾンビを召喚すると橘は少し悲鳴を漏らすがさっきよりはマシなようだ。というよりもマスクでよくわからないが半目で見ているのか……?まあ直視できなくても見れている時点で前進だな。
「臭いは大丈夫か?」
「香水が少し強い気がしますが……ゾンビの臭いは大丈夫ですね。」
臭いが大丈夫ならあとは見た目を慣らすだけか、少しずつ慣らすからゾンビをしっかり見ろよと言って俺はゾンビを連れて歩き出す、結局今日の残りの時間はゾンビにスケルトンを狩らせて終わるのだった。