蛞蝓の千年記   作:匿名の筆者

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メイドとナメクジ

 

王宮に居る全ての人間は、基本的に魔術を扱えない。

 

これは単なる伝統として受け入れる者よりも、防衛策として受け入れる者が多い。

単純に、謀反が起きた時に鎮圧しやすいからという身も蓋もない理由が大きいのだが。

 

第一王子については最大の例外であるといえよう。

 

護衛が王子の次に強く、王子が最も強いという警護の状況は全くもって真実なのだ。

守られる対象が最も強いという現象も、謀反を未然に防ぐためである。

 

防御魔術を貫通する攻撃魔術も存在はする。

だが、貫通できることと暗殺できることは別の話だ。

そんなことを考えながらも、未来は分からぬと考えを打ち切る。

 

俺は籠の中で、いつものように太陽光を浴びていた。

 

星々の巡りなど数字で予測できる事柄ではあるものの、日に当たらねば健康を損なう気がする。

 

空の彼方に輝く太陽は、俺の体を程よく乾燥させる。

 

風のある夏というのも存外涼しいもので、王宮の中でも、この広場は特に風通しが良い。

 

周辺では落ち葉を死にものぐるいで掃くメイドたちが忙しく動いていた。

 

葉を茂らせ、枝を育てる庭師。

その成果を片付ける掃除係は、今日も心の中で愚痴を零している。

 

傘を差して歩くメイドが一人。

 

雨でもないのに陽の光を避けている姿は、本人の美を重視した性格を雄弁に物語っていた。

 

彼女は、この広場の清掃を束ねる責任者であり、清掃メイド長だ。

部下は広場一帯を担当する掃除係全員。

 

もっとも、統率は出来ても不満までは完全に消せないらしい。

 

仕事の愚痴を表立って口にはできない。不満を漏らせば、解雇の口実になりかねないからだ。

だからこそ彼女は、自ら現場に立ち続ける。部下と同じように箒を持ち、同じ景色を見る。

その甲斐あってか、不満の矛先は上司ではなく、仕事を増やす庭師へ向かっていた。

 

 

もちろん彼女を快く思わぬ者もいる。

それでも恨みを買うのは大抵、仕事を増やす庭師の方だった。 庭師への悪態は、もはや王宮の日常である。

 

どれだけ不満があっても、清掃役としてメイドたちは律儀に箒を動かし、落ち葉を掃き集めるのだから人間とは不思議なものだ。

 

風が吹けばまた散るが、それでも掃く。

集めた落ち葉を、つむじ風が踊らせる。

 

疲れながらも散った先を追いかけて集める。その繰り返しである。

 

 

アリシルもその点は例外ではない。

 

庭師よ早く枝を切れ、と言いたげな目で木々を見上げながら、別のことを考えていた。

 

 

世話役という仕事は、傍から見れば待機している時間の方が長い。 そのせいで、周囲には暇をしているように映るらしい。

 

世話役が羨ましいと本心からの言葉を言うメイドもいれば、皮肉で同じ言葉を口にする者もいる。

 

 

 

おや、何人ものメイドの視線を感じる。

 

心中を見るに、驚かしてやると腰を抜かすだろう。

 

悪戯心と共に、白色にぼうっと輝かせてみると、俺のことを見ていたメイドは眩しげにするだけだった。

 

なんだと、いきなり輝くとは予想できないはずだ。なぜ驚かないんだ?

 

そうか、照明の魔術を見たことがあるのか。

くそう悔しい、このメイドは全員が漁師か何かか?

 

いきなり光ったんだからもうちょっと驚いてもよかろうに、目を瞑るだけだと?

 

メイドの記憶を読み漁れば、祭礼か何かで照明の魔術を見た事があった。偶然三人の視線が集まったというのに、全員が発光に動じないなんて悔しい。

 

 

悪戯に気がついたのか、近くの3人がひそひそと声を窄めて話し合っている。

 

 

清掃長の目にはそれが怠惰に見えたらしく、金属棒を叩き鳴らして解散させた。

 

音の方が驚くだなんて……くそう、腹が立つ。

 

背筋を真っ直ぐにして、3人のメイドたちは箒で再び掃き始めた。

 

しかし、日光浴というのは良いものだが、俺は葉っぱが嫌いだ。

 

体に張り付いた毛を、ピキンと逆立て、俺に密着した葉っぱを吹き飛ばす。

 

青々と茂る木々は美しいが、こうした煩わしさもある。

アリシルはその様を見ていたようで、慌てて木のそばから歩いて離れた。

 

魔術のひとつでも使えば、簡単に葉など吹き飛ばせる。

しかし魔術を使えると悟られる訳にはいかない。

 

認識を書き換えて、何も起こっていなかったとしてやったとしても、案外気が付かれる。

 

二代目は俺が記憶の辻褄合わせを忘れてしまって、魔術を使われたとすぐに気がついたし、書き換えが効かなくなった。

 

さらには王宮で魔術が使われたとかで大騒ぎになったから自重しているのだ。初代なんて見た瞬間から魔力量を見抜いてきたし、魔術の使えぬアリシルも見抜けるだろう。

 

 

毛を逆立てて、葉っぱを飛ばすのもなんだか二度手間なようで、魔術を一切使わない清掃だ。

 

魔術の痕跡が分かる魔術を教えたのは間違いだったかもしれないが、痕跡が分かるようになってから王宮は魔術に過敏だ。

 

適度に揺れる籠の中では、特有の睡魔がある。

さあて、このまま一眠りしてみるか?

 

微睡む日光というのは気持ちが良い、雲模様も良い事で。このまま今日は寝ようか。

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