堂島家の姉は、犯罪者が好きなことを隠している。 作:an-ryuka
真白のアパートに戻ってからは早かった。
真白の体がソファの上で揺れていた。
足立は片手で彼女を押さえ、もう片方の手を首元へ置く。
大学の時からある、足立が荒れた時の癖だった。
息が詰まり、真白の呼吸が乱れる。
「っ、……透、それ……」
「何」
「もっと」
足立は目を細める。
「何を?」
「もっと、締めて」
言わせたかったわけではない。
けれど、言われた瞬間、足立の中の何かが強く熱を持った。
「……ほんと、お前さぁ」
首に置いた手に力が入り、真白の喉が押しつぶされる。
足立は真白の腰をさらに引き寄せる。
「ぁ、あ……っ」
真白の声が跳ねる。
手が足立の腕時計を掴んだ。革ベルトを握りしめる指が白くなる。
足立はその真白の手を見た。
「そんな好きかよ」
「好き」
「僕じゃなくて?」
「透ごと、好き」
「気持ち悪いこと言うな」
「好き」
「黙れって」
「好き、透……」
足立は歯を食いしばった。
聞きたくない。
聞きたい。
その両方が同じ場所にあった。
足立は息を荒げ、首から手を離し、代わりのように肩へ顔を埋めた。
石鹸の匂い。
雨の匂い。
生田目のトラックに残っていた洗剤と段ボールの匂いが、まだ真白の服のどこかに移っている気がした。
それが嫌だった。
足立は真白の肌に噛みついた。
「っ、痛……」
「消えろよ」
「何が?」
「他の男の匂い」
真白は一瞬だけ目を見開いた。
それから、嬉しそうに笑ってしまった。
足立はその顔を見て、ますます苛立った。
「笑うな」
「嫉妬?」
「違う」
「うん」
「違うって言ってんだろ」
「うん」
「……っ、くそ」
足立の動きが荒くなる。
真白は声を抑えきれなくなって、足立の肩に顔を寄せ、体が大きく震えた。
ソファの軋みも、外の水音も、遠くなっていた。
やがて足立が体を起こそうとすると、真白が腕時計を掴んだまま離さなかった。
「……離せよ」
「少しだけ」
「重い」
足立はそう言いながら、完全には離れない。
真白は足立の腕時計を撫でている。
外の雨は、いつの間にかまた降り始めていた。
数日後、生田目は戻ってきた。
律儀にも、真白の前に現れた。
顔色は悪く、目の下には濃い隈があった。仕事着のまま、堂島家から少し離れた道端で真白を待っていた。
「危なかった」
生田目は掠れた声で言った。
「あんな場所だとは思わなかった。俺は……俺は、あんなところに人を入れていたのか」
真白は彼の前で、静かに立っていた。
「戻ってこられたんですね」
「何とか。何かに追われて……よく分からない場所で……」
「菜々子ちゃんを入れないでください」
真白は穏やかに言った。
生田目は強く頷いた。
「入れない。絶対に。俺は間違ってた」
その言葉に、真白は微笑んだ。
「よかった」
よかった。
本心だった。
これで菜々子は、少なくとも生田目には入れられない。
そう判断した。
判断したこと自体が、間違いだった。