堂島家の姉は、犯罪者が好きなことを隠している。 作:an-ryuka
久保美津雄が捕まった日の警察署は、妙に軽かった。
重い事件が終わったあとの軽さではない。終わったことにしたい人間たちの、無理に浮かせた空気だった。廊下の蛍光灯はいつも通り白く、紙コップのコーヒーは薄く焦げ臭い。刑事課の机の上には書類が積まれていて、電話も鳴る。何も片づいていないのに、誰かが「これで一段落か」と言うたび、少しずつ全員がそれに寄りかかっていく。
足立はその空気に、いつもの調子で乗った。
「いやぁ、やっと終わりって感じっすねぇ。堂島さん、今日は早く帰りましょうよ。菜々子ちゃんも待ってますって」
「後処理が残ってるだろうが」
堂島はそう言いながらも、声の底に少しだけ緩みがあった。
諸岡の死。
その犯人として名乗り出た久保。
山野アナと小西早紀の件まで自分がやったと言い張る男。
足立は書類の端を揃えるふりをしながら、内心で鼻を鳴らした。
久保は馬鹿だ。
目立ちたかっただけの、空っぽの馬鹿。
殺人犯という看板を欲しがったくせに、肝心の中身が追いついていない。あんなやつが山野アナをテレビに入れられるわけがない。小西早紀をあそこへ落とせるわけもない。
けれど、警察にはそれが見えない。
見えなくていい。
「でも、久保の供述も滅茶苦茶っすよねぇ」
足立は、軽口の形で言った。
「まあ、犯人なんてそんなもんか。まともな神経してたら人殺しなんかしませんしね」
堂島がちらりと足立を見る。
「お前がそれ言うと、なんか腹立つな」
「えー、ひどいっすよ。僕、一般論言っただけなのに」
「口より手ぇ動かせ」
「はいはい」
足立は紙をめくる。
目は活字を追っているが、頭の中には別のものがあった。
その夜、真白は言った。
「……よかったね?」
アパートの部屋には、焼き魚の匂いと大根おろしの辛みが残っていた。外は湿っていて、窓ガラスの端に水滴が光っている。足立はネクタイを緩めたまま、椅子にだらしなく座っていた。
「何が」
「久保くんが捕まったこと」
「別によくねぇよ」
「そう?」
真白は向かい側で湯呑みに口をつける。
表情は穏やかだった。穏やかだからこそ、足立にはその奥で何を数えているか分かる気がした。
「透がやったことには、証拠がない」
足立の目が細くなる。
「言い方」
「事実でしょ」
「お前さぁ」
足立は椅子にもたれ、天井を見た。
「そういうとこ、ほんと弁護士向いてるよ。嫌な意味で」
「ありがとう」
「褒めてねぇ」
「知ってる」
真白は少し笑った。
その笑いに慰めはなかった。
「久保くんが全部やった、で終わるなら、それでいい」
「……終わんねぇよ」
足立はぼそりと言った。
真白は湯呑みを置く。
「終わらないと思う?」
「供述が雑すぎる。現場と合わない。堂島さんも、引っかかってる」
「警察は?」
「上のほうは終わらせたいんじゃないの。楽だし」
「透は?」
足立は真白を見た。
「僕が終わらせられると思う?」
真白は答えない。
ただ、目を細めた。
その沈黙が答えだった。
足立は舌打ちする。
「ほんと、嫌な女」
「透が終わりたくない顔してるから」
「終わりたいよ。面倒くさいし」
「うん」
真白は頷く。
「面倒くさいから終わりたい。でも、鳴上くんたちが動いてるのは気になる。警察が間違った方向に行くのは馬鹿にできる。でも完全に外れると、少し怖い」
「……」
「透は、自分が見えないところで話が進むのが嫌い」
足立は湯呑みを取った。
中身はもうぬるい。
「知ったような口きくなよ」
「知ってるよ」
「そこがムカつくんだよ」
真白は食器を片づけ始めた。
背中を向けたまま言う。
「じゃあ、見ていればいいよ。透はいつも通り、少しだけ間違えて、少しだけ喋って、少しだけ笑ってればいい」
「それで?」
「みんな勝手に動く」
水道の音が細く流れる。
「その中で、誰が何を知ってるか分かる」
足立は黙った。
真白は振り返らない。
「久保くんは、たぶん本物じゃない。でも本物じゃない人が本物のふりをすると、本物の輪郭が残る」
「……お前、事件楽しんでるだろ」
「まぁね」
足立は顔を歪めた。
「最低だな」
「透もでしょ」
「僕は楽しんでねぇよ」
「じゃあ、何?」
足立は答えられなかった。
真白は蛇口を止め、濡れた手を布巾で拭いた。
「私は、分からないものが形になるのが好き」
その声は、料理の説明でもするように淡々としていた。
「人がどこで踏み外すのかも、どうやって自分に嘘をつくのかも、どこまで行けば戻れなくなるのかも。見ていたい」
足立は笑った。
短く、乾いた笑いだった。
「それ、僕の前で言うんだ」
「透の前だから言うんだよ」
真白はようやく振り返る。
「他の人には、言わない」
その特別扱いは、甘い毒のようだった。
足立はそれを分かっていて、飲んだ。
事件は終わらなかった。
久保の供述には穴がありすぎた。山野アナの件、小西早紀の件、行方不明者たちとの繋がり。警察の中でも、最初の安堵は少しずつ剥がれていった。
そして名前が浮かんだ。
生田目太郎。
山野アナの不倫相手。
最初から捜査線上にいた男。
山野アナに関してはアリバイがあり、確定できないまま外れていた男。
だが、最近の行方不明者たちとの接触。
配送業者として町を回れる立場。
人に近づいても不自然ではない動き。
足立はその話を、真白に普通にこぼした。
「生田目だってさ」
その日は堂島家から帰ったあとだった。
堂島家では菜々子はもう寝ていて、鳴上は部屋に上がっていた。堂島は久しぶりに少しだけ早く帰れて、疲れた顔でビールを飲んでいた。足立はいつものように軽口を叩き、その足で真白のアパートへ寄った。
「山野アナの不倫相手の?」
真白はすぐに反応した。
「そ。最初のほうで名前出てたやつ。まあ、山野アナの件はアリバイあったんだけどねぇ」
外向きの口調が、部屋に入っても少し残っている。
疲れている証拠だった。
真白はその差に気づいていたが、指摘しない。
「行方不明者との接点でも出た?」
「……お前、何で分かんの」
「生田目さん、今配送業者でしょ。顔見た事あるから」
「やだなぁ。田舎って怖いね」
「透が喋るから繋がったの」
「僕、守秘義務とか向いてないんだよね」
「警察官なのに」
「ほんと、何でなったんだろうねぇ」
足立はソファに沈む。
「ま、あいつら空回りしてんなって感じ。久保で終わったと思ったら、今度は生田目。警察って忙しいよねぇ」
真白はテーブルに肘をつき、指を組んだ。
「空回りかな」
足立の目が動く。
「何」
「生田目さん、少し気になる」
「……また始まった」
「最初期の関係者。警察に一度疑われて外れた人。町を回れる仕事。家にも来られる。テレビを運んでも不自然じゃない」
足立は黙った。
真白は続ける。
「そして、テレビに入れられた人は死なずに戻ってきている」
「……僕が入れた二人は死んだ」
低い声だった。
真白は足立を見る。
「うん」
「なんだよ、その顔」
「事実を並べてるだけ」
「嫌な事実だな」
「透が知らなかったことも、事実」
足立は顔を逸らした。
それは真白の優しさではない。
救済でもない。
ただ、足立が一番欲しがる形の言い訳を、最も冷静な声で差し出しているだけだ。
だから苦しい。
「……生田目が入れてるとしてさ」
足立は天井を見たまま言う。
「何で死なないわけ」
「悠くんたちが助けてるから」
「高校生が?」
「うん」
「馬鹿みたいだな」
「でも、結果は出てる」
足立は笑った。
「警察より優秀ってこと?」
「少なくとも、この件に関しては」
「堂島さんが聞いたら怒るぞ」
「おじさんは怒るね」
真白は少しだけ目を伏せた。
その一瞬、堂島家の匂いが部屋に入り込んだような気がした。菜々子の笑い声。鳴上が台所で皿を拭く音。堂島が疲れた声で「悪いな」と言う声。
真白はそれを好きなのだろうか。
足立には、分からない。
好きで、なお壊せるのが真白だ。
雨の日の深夜は、すでに二人の習慣になっていた。
映っても、映らなくても。
真白はテレビの前に座り、足立は面倒くさそうに隣へ来る。最初は嫌がっていたくせに、今では何も言わずに座るようになった。
その夜も、雨だった。
窓の外では、細い水音が続いている。アスファルトを叩く雨の匂いが、古い窓枠の隙間から入ってくる。部屋の電気は消していた。テレビの黒い画面には、二人の影が薄く映っている。
十二時。
砂嵐が走る。
足立は頬杖をついていた。
真白は背筋を伸ばして画面を見ていた。
最初は、白くぼやけた輪郭だけだった。
小さい。
画面の中に、幼い影。
足立の頬杖の手が、ゆっくり下りた。
像が結ぶ。
ツインテール。
小さな肩。
見慣れた服。
少し不安そうにこちらを見る、あの顔。
堂島菜々子。
時間が止まった。
砂嵐が消えたあとも、真白は動かなかった。
足立も動かなかった。
テレビの暗い画面に戻ってから、ようやく足立が呟く。
「……見間違いじゃ、ねぇよな」
真白の唇がわずかに動く。
「菜々子だった」
足立が真白を見る。
「なぁ」
声が乾いていた。
「どうすんだよ」
真白は画面を見たまま動かない。
「これ、俺らのせいか? 違うよな?」
足立の声が荒くなる。
「おい、なんか言えよ」
肩を掴まれた。
指が食い込むほど強い。
真白はゆっくり足立を見た。
数秒前まで凍っていた顔が、少しずつ別の表情に変わる。
口元だけが笑った。
「……悠くんが助けてくれるでしょ。いつも通り」
足立の表情が歪む。
「そうじゃねぇよ」
「分かってる」
「分かってねぇだろ!」
足立は声を荒げた。
「菜々子ちゃんだぞ。堂島さんの娘で、お前の……」
そこで言葉が止まる。
お前の何だ。
妹か。娘みたいなものか。家族か。
真白自身がそれをどう呼んでいるのか、足立には分からなかった。
真白は足立の手に自分の手を重ねた。
「分かってるよ」
その声は静かだった。
静かすぎた。
足立は、背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「お前、関わるなよ」
低く言う。
「ろくなことにならねぇんだよ」
真白は目を伏せる。
「……」
「分かるだろ?」
真白は少し笑った。
「分かってるよ?」
その返事の軽さに、足立はむしろ不安になった。
「その言い方が一番信用できねぇんだよ」
「透に言われたくない」
「茶化すな」
足立は真白の肩を掴む手を離せなかった。
「マジで。お前が動くと、何か壊れる」
真白は足立を見上げる。
その目には怯えがない。
あるのは、計算と、焦りと、奇妙な熱。
「壊さないために動くこともあるよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃない」
「お前の場合、壊さないって言いながら、別のとこ切るだろ」
真白は黙った。
それは否定できなかった。
翌日から、真白はいつも通りに見えた。
堂島家に顔を出し、菜々子の朝の支度を手伝い、弁当の残りを冷蔵庫に入れ、堂島には「無理しないで」と言った。鳴上にはいつもの調子で「学校遅れるよ」と声をかける。
声も、手つきも、表情も変わらない。
けれど、頭の中では別の回路が動いていた。
透がテレビに入れた人間は死んだ。
誰かがテレビに入れ、悠くんたちが動いたと思われる場合は、憔悴して発見された。
悠くんたちには、その後も行動できるだけの体力がある。
テレビの中で動ける人間と、動けない人間がいる。
条件は何か。
入れた人間か。
一緒にいる人間か。
本人の何かか。
それとも、あの空間に適応するための別の要素か。
確定できることが、少なすぎる。
だから、確定していることだけ使う。
菜々子は映った。
映った人間は狙われる。
狙っている誰かは、現実からテレビへ人を移す手段を持っている。
菜々子は小学生で、一人では抵抗できない。
なら、入れられる前に捕まえる。
あるいは、話す。
真白が堂島家へ行くと、鳴上の様子は明らかに変だった。
顔色が悪い。
無理に落ち着いているが、目の奥が焦っている。
菜々子を見る時間が、いつもより長い。
真白は台所で味噌汁を温めながら、静かに言った。
「悠くん」
鳴上が振り返る。
「はい」
「どうしたの? 顔色悪いよ」
「……大丈夫です」
「大丈夫な顔じゃない」
鳴上は黙った。
真白は火を弱め、鍋から離れる。
「息、吸って」
「え?」
「吸って。そう。吐いて」
鳴上は戸惑いながらも従った。
「もう一回」
真白の声は穏やかだった。
相手を落ち着かせる声。法廷ではなく、相談室で使う声。焦っている人間の言葉を引き出すときの声。
「言えないことは言えないでいいの」
真白は続ける。
「でも、何が起きてるかは言える?」
鳴上の目が揺れる。
「原因は分かる? 推測でもいい」
「……」
「今日だけ? しばらく続く?」
鳴上は唇を結ぶ。
「繰り返されるの?」
「……分かりません」
初めて返事があった。
真白は頷く。
「避ける条件は?」
鳴上は少し迷った。
言うべきではない。
けれど、菜々子を守るためには誰かの協力がいる。
堂島には言えない。警察にも言えない。
真白なら、少なくとも菜々子を見てくれる。
そう判断するまでの時間を、真白は待った。
「私ができること、ある?」
鳴上は小さく息を吸った。
「……変なお願いかもしれないんですが」
「うん」
「菜々子を、テレビに近づけないようにしてほしいです」
真白は一度も聞き返さなかった。
「分かった」
その言葉に、鳴上の肩が少し下りる。
「私がいられる時は、なるべく目を離さないようにするね」
「ありがとうございます。何かあったら、すぐ連絡してください」
「うん」
「いつでも。夜中でも」
「分かった」
真白は少しだけ目を細める。
「悠くん」
「はい」
「あなたは、菜々子ちゃんを助けられる?」
鳴上の表情が固まった。
答えない。
答えられない。
それだけで十分だった。
真白は微笑む。
「ごめん。今のは忘れて」
忘れられるはずがない言い方で、そう言った。
鳴上は一度だけ真白を見た。
疑い、警戒、頼りたい気持ち。
その全部を抱えた目だった。
「……菜々子をお願いします」
「うん」
鳴上は頷き、急ぐように出ていった。
玄関が閉まる音を聞いてから、真白は台所に戻った。
鍋の中で味噌汁が静かに揺れている。火を強める。湯気が立ち上る。
真白はその湯気を見ながら、考える。
テレビに近づけないように。
悠くんは、入れられる場所がテレビだと知っている。
やはりテレビは入口。
入口があるなら、運ぶ側もいる。
菜々子を狙うなら、家に来る。
堂島さんや悠くんがいない時間。
菜々子が一人に見える時間。
配送業者なら、玄関まで自然に来られる。
その夜、真白は堂島にも話を振った。
「悠くん、大丈夫かな」
堂島は煙草を吸いかけて、菜々子の前だと気づき、箱に戻した。
「何かあったのか」
「少し顔色悪くて。学校で何かあったのかも」
「……あいつ、何か抱え込むタイプだな」
「おじさんに似たんじゃない?」
「俺はあんなに器用じゃねぇよ」
「そうかな」
真白は皿を拭きながら続ける。
「最近の事件、学校でも話題になってるだろうし。久保くんで終わりだと思ったら、また色々出てるんですよね?」
堂島の目が少し鋭くなる。
「どこで聞いた」
「町の噂と、法律関係の知り合いから少し」
嘘ではない。
全部ではないだけだ。
「……まだ確定した話じゃねぇ」
「生田目さん?」
堂島の動きが止まった。
真白はすぐに首を振る。
「ごめんなさい。山野アナの件で名前が出てたから、まだ疑われるのかなって思っただけ」
堂島はしばらく真白を見ていた。
刑事の目だった。
真白は視線を逸らさない。
少し心配そうな親戚の顔をしている。
堂島は息を吐いた。
「お前が気にすることじゃねぇ」
「うん」
「菜々子のことだけ、見ててくれ」
「分かってる」
真白は微笑む。
「菜々子ちゃんは、ちゃんと見てる」
その言葉は、堂島にとっては安心の言葉だった。
だが真白の中では、別の意味を持っていた。
翌日。
真白は堂島家の玄関先で、わざと明るい声を出した。
近くには配送トラック。
「菜々子ちゃん、ちょっと買い物行ってくるね」
実際には、菜々子はそこにいない。
真白が先に友達の家へ送っていた。
しかし外から見れば、菜々子が一人で留守番しているように見えるように。
玄関を閉め、真白は道へ出る。
そのまま角を曲がったふりをして、視界の届かない位置で足を止めた。
待つ。
数分。
十分。
やがて、宅配業者の制服を着た男が現れた。
生田目太郎。
手には荷物。
顔には焦り。
玄関のインターホンへ指を伸ばそうとする。
その前に、真白は声をかけた。
「生田目さん?」
男の肩が跳ねた。
真白は、偶然会ったような顔をして立っている。
けれど声だけは、ほんの少し低かった。
「……分かってます」
生田目の目が見開かれる。
「菜々子のこと、助けに来てくれたんですよね?」
言葉の刃は、責める方向ではなく、肯定する方向へ向ける。
追いつめられた人間は、否定されるより肯定されたほうが喋る。
生田目の唇が震えた。
「あなたは……」
「まずは、私とお話しませんか?」
真白は一歩近づいた。
「今、菜々子はここにいません」
「いない?」
生田目の顔色が変わる。
「じゃあ、どうすればいいんだ。早くしないと、あの子が……」
「分かってます」
真白は遮らない。
相手の焦りに、自分の呼吸を合わせる。
「だから、まずは車に。ここだと誰に見られるか分からない」
「でも」
「あなたが捕まったら、菜々子は誰が助けるんですか?」
生田目は黙った。
その沈黙を見て、真白は確信を少し強める。
この人は、殺しに来た顔ではない。
助けに来たと思い込んでいる顔だ。
それはそれで、厄介だった。
自分を善人だと信じている人間は、犯罪者より止めにくい。
「テレビは、そのトラックの中ですか?」
生田目の目がさらに揺れる。
真白はすぐに言う。
「私はあなたの味方です。私も連れて行ってください」
「君を?」
「菜々子は、私がいれば連れてこられます」
連れてくるつもりなんてなかった。
だが、生田目には十分だった。
「話しましょう。あなたが何を知っていて、何をしてきたのか。私が整理します」
弁護士の声。
理解者の顔。
罪を責めるのではなく、動機を肯定する言葉。
生田目はまだ迷っていた。
けれど、玄関前に長くいる危険は彼自身も分かっている。
やがて、小さく頷いた。
「……分かった」
真白はトラックへ向かいながら、携帯を取り出した。
生田目の所へ行ってくるね。
机の上のものは好きに使っていいよ。
送信。
部屋の机の上には、小さな端末を置いてある。
真白の位置情報が分かるもの。
そして、足立の位置も映るもの。
足立がそれを見たときの顔を、真白は少しだけ想像した。
来なければ、それまで。
殺されるなら、それも結果。
けれど、足立はたぶん来る。
来てしまう。
そういうところが好きだった。