練習用短篇 作:レファレンス
僕は今、フードコートでコーヒーを作っている。
まあ、実際のところは、コーヒーメーカーの前でできあがるのを待っている最中だ。
入れるのは二つ。僕と彼女の分。彼女とは、僕と一緒にフードコートに来ている人で、今現在まで付き合って居る女性のこと。そう言う意味でも彼女だった。
彼女はブラウンの瞳の持ち主で頭をなでてやると、目を細めて喜ぶ、そんな人だ。どちらかと言うと犬っぽいというのが、僕の感想。犬種はゴールデンレトリバー。彼女の髪と瞳と性格がソレっぽい。
頭をなでてとよくねだられるし、なでると見えないしっぽがぶんぶんと振ってるように見える彼女だ。
僕もそんな彼女と今日別れる。
ピーと言う音が鳴り、コーヒーが出来たことを知らせてくれる。まだ、ものの数秒しかたっていないハズだけど、ずいぶんと待たされたように感じるから不思議だ。
二つのコーヒー。先に煎れた方は少し待ったため、ほんのりと冷めてしまったようにも感じる。
僕はそんなまちまちな温度のコーヒーを持って席に戻る。彼女はコーヒーをブラックで飲めないから、ご自由にお取り下さいと書かれた場所からスティックシュガーとポーションミルクを取ってポケットに入れる。
僕は両手にカップ、ポケットに砂糖とミルクを抱えて席に戻ることにした。今両手が塞がっているので、他の人と当たったら大惨事になるのだが、案の定というべきか、店内を走り回る子供にぶつかりそうになってしまった。
ひょいと避けられないのでぎこちない形で、両足をピンッと立たせてやり過ごす。コーヒーがこぼれていないか心配だったけど、大丈夫のようだった。
僕とぶつかりそうだったことで、子供は母親らしき女性に怒られていた。旦那さんと思われる男性が、まあまあと柔和な笑みで、少し額に汗をながしながらなだめていた。幸せそうな家庭だなとみていて思った。
そんなやり取りから視線を外して、席が見えるところまで戻ると彼女が待っていた。いや、待っていたと言うよりは座っていた。
彼女はじっと窓の外を眺めているようで、僕が戻ってきたことに気が付いていないようだった。コトッとカップの置いた音で、ようやく彼女はこっちのほうを見てくれた。
僕は何を見ていたのか気になって、「何を見ていたの?」と聞いていた。
彼女は僕から視線を外して、また窓の方を見ながら、「外の景色を」といった。
外の景色。そりゃ、窓を見ているのだから自然と見えるのは外の景色だ。そんな当たり前のことだけど、何か重要そうな意味合いを含んでいそうで、僕も彼女と同じ様に窓の外を見た。
なんの変哲も無い暗闇がそこにはあった。窓の外、それは明るい時間なら、それ相応の景色が楽しめたのかも知れないが、夜中の今では暗闇があるだけだった。
うっすらとした明かりがあるのは感じるけど、何の気なしに眺めて楽しめる風景でもないような気がする。そんな景色を彼女はただ眺めていた。
僕は視線を戻した。窓の外から、手前へのコーヒーへと。少し冷めてしまったあのコーヒーは、まだ変わらず湯気が立ちこめていた。
僕はポケットからミルクと砂糖を取り出す。それをテーブルの上へと広げて、その中の砂糖を僕は手に取った。
普段は砂糖なんか使わずにコーヒーを飲んでしまう僕だけど、今回ばかりは苦いコーヒーには耐えられそうになくて、甘い方が都合が良かった。
砂糖をコーヒーに入れる。僕はカップを混ぜるスティックを忘れたようで、取りに行こうと席を立とうとしたとき、彼女がこちらの方を見ずに「待って」と静かに言った。
もしかしたら、彼女には僕がそのまま帰ってしまうと思ったのかも知れない。仕方ないので、僕は席に座り、カップに口を付ける。
まだ苦く、砂糖の効果が無いように思えるソレを、いつもと違ってチビチビと度数の高い酒をたしなむように飲んだ。
コーヒーはもう冷めていて、ぬるま湯のような温度だった。
「ねえ、見て」
彼女が不意にそう言った。僕も彼女につられて外を見る。
けど、さっきと同じ様に、真っ暗な闇が広がっているばかりで何も見えやしない。一体、彼女には何が見えているのだろうか。僕は既に外の景色のことよりも、彼女が一体何を見ているのかだけに考えをめぐらせていた。
本当に外の景色を見ているだけなのだろうか。それとも、彼女は真っ暗な景色の中に僕らの昔の記憶を辿っているのかも知れない。それともなにか別の情景をめぐらせているのかも知れない。
僕がそう思いながら、またカップに口を加えたとき、彼女は涙をツーッと静かに流した。僕でもびっくりするほど、自然に流れたソレをただ黙って見ているしかなかった。
涙を流した彼女は、非常に不謹慎かも知れないけど、えらく綺麗で、今まで見てきた顔の中でもトップ3には入るのではないかという顔だった。
彼女はこちらに視線を戻した。
一杯のコーヒーを眺めて、ソレを静かに飲んだ。
ほうっと息を吐く声と共に熱い吐息が外に漏れていた。
彼女はなにやら、舌を濡らして何かを言いそうだった。
わかってる。君のことだ。言わなくても充分、分かっているとも
僕は彼女のコーヒーにミルクと砂糖を入れた。かき混ぜる棒を早く取りに行かなくては