練習用短篇 作:レファレンス
その嘘だけは、信じたかった。
『ねぇ、私たち付き合わない?』
同級生の月山さんは私に対してそう言った。
どういう意図があったのか、分からないけど、本気ではないことだけは確かだった。
4月1日、エイプリルフール。
一年で一回、合法的に嘘をつけてしまう日。
言っていることが嘘だと分かる日。分かってしまう日。
つまるところ、月山さんの「付き合おう」という発言は必然的に嘘になる。
嘘なのかぁ。
この付き合うというのが、彼女の言う付き合うと言うのが、私の考え通りなら恋愛的な意味合いだ。
清く正しく、慎ましく。
誠実にお付き合いしましょうという事になる。なって良いのに。
いや、もちろん他者の目がある。
私は女で、月山さんも女だ。女性同士付き合うなんて、一般的じゃないかも知れないけど、私はジェンダー賛成派。女性同士の恋愛バンザイだ。
だから、最初に月山さんから言われたときは、「我が世の春が来た……!」と心の中でガッツポーズしながら、心躍ったものだ。まぁ、後からエイプリルフールと気付いて、相応にがっかりしたが……。
そういう意味では、彼女は罪な女だった。
そういう所も好きな女性でもある。
月山さんは、どういう女性なのか。
それを語るには私の脳内ではメモリが少し足りない。
すらーっとした長い髪の毛は、いつも艶やかで美しいし、少し薄目の二重はミステリアスな雰囲気を帯びている。何よりも、おしろいをしたかのような白い肌は磁器を思わせるほど美しい。
同じ同性でもついつい目で追ってしまう。
そして、胸もある。
やっぱり、女性の魅力の一つは胸だ。私以上にあるその胸は正直うらやましくもある。
とにかく私外いたいのは彼女の事を愛していると言うことだ。
私のアイラブユーは彼女に捧げたい。
時刻は既に13時。
場所はあいもかわらず私の自宅。
月山さんと二人で女子会、天国みたいな時間だ。
学校は、春休みなのでお休みだ。
月山さんは、私のベットの上に座っていた。
足をぷらんぷらんとさせながら、出したオレンジジュースを飲んでいた。
その顔は少しつまらなそうだった。
つまらなそうだった。
それは何か私がミスをしてしまったと言うこと。
何をしたっけ。何をしていないんだっけ?
うーんと悩むと、そう言えばと思い当たる事があった。
返事をしていなかったのだ。
月山さんが、私に対して「付き合わない」と言ってから何分経った?
少なくとも5分は過ぎてしまったはずだ。
5分も待たせてしまっていた。
初めから嘘だと分かっていたとしても、何かしらリアクションしなければ言った方もつまらないだろう。
私は内面でこそ、いろいろ考えて、悩みに悩んだけどそれを外側に出した事は無かった。
「えーっと、ごめん。もう一度言って貰っても良いかな」
舌がのどにへばりついたように、唾液が溶けた飴のように動かしにくかった。
そんな状態で、やっとの事で言ったセリフはそんな事だった。
彼女は、オレンジジュースを飲み干す。
カランッとコップに入っていた氷が鳴った。
月山さんがコッチを見る。
その顔はあいもかわらず美しい。
「ん、だから付き合おうって」
もう一度言ってくれた。
嘘だと分かっていても嬉しい。
口角が上がるのを止められなかった。
しかし、対照的に私の喉はカラカラになるまで枯れていた。
私も何か飲まなくては声が出せそうになかった。
「……冗談ですよね?」
私は気付いたらそう言っていた。
言っていて後悔した。
もし、彼女が冗談だよと言ったら私は深い傷を負ってしまう。
月山さんには何も言わないで欲しかった。
このなにもない時間が続けば良いと思った。
でも、そうはいかない。
月山さんは、先ほどとは違って私を真っ直ぐ見ていた。
「いいや、本気だよ」
いや、嘘だ。
酷い嘘だ。
私はその言葉を本気にしてしまうだろう。
ほんとうに真実だと思ってしまうだろう。
酷い嘘だ。
「うそ……ですよね。嘘に決まってます」
自分でも信じたいのに嘘だと思ってしまう。
エイプリルフールとはこんなにも罪深い日だったのか。
「嘘じゃないよ」
「嘘ですよ。月山さん、またそうやって私をからかって……今日がなんの日かぐらい知ってるでしょ。私もさすがに騙されませんからね」
「………」
声は震えていなかったか。
ちゃんと話せているだろうか。
私はどうなっているのだろう。
月山さんは黙っていた。
ただ、じーっと私を見ていた。
「……エイプリルフールは午前中までって話し、恭子さんは知らない?」
「……え?」
「知らなかった? エイプリルフールは午前中までなんだよ。午後からは普通の時間になるんだ」
え、そうなの?
時間を見る。
時計の針は昼の1時を指していた。
午後、つまり本当‼⁇
「え、え、えーーーーー!?」
「それで、返事はどっち?」
顔が湯たんぽに当てたかのように熱くなる。
耳なんてアッチアッチだ。
あれで、どれで、どうなんだ。
「ええっと、はい。え、はい。よろしくお願いします」
私は多分真っ赤な顔でそう言ったと思う。
正面から見る月山さんは相変わらず美しい。
でも、私の返事を聞いたとき、若干耳を真っ赤にしている彼女は可愛かった。
本当のことは信じても良かった。