練習用短篇   作:レファレンス

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閉店五分前です

 「閉店五分前です」

 

 ふらーっと立ち寄ったパン屋で不意にそう言われた。

 思わず発言者の方を見ると、今川 あかねがいた。

 今川 あかね。同じ高校の部活動の後輩。

 そんな人が、三角巾にエプロンという姿で俺の前に立っていた。

 

 「今川……なのか?」

 

 思わずそう聞いてしまう。

 あまりにも非現実的な光景だったからだ。今見ている光景が夢だと言われたら、自分は信じるだろう。

 

 「そうですよ先輩。ほら、閉店五分前なんですからちゃっちゃと選んじゃって下さい」

 

 そうせかすように今川は言った。

 未だに夢か現実かあやふやな俺にとっては「あぁ…」という生返事しか出せなかった。

 さっきまでの不快感は何処へやら、今じゃ異世界に迷い込んじまったような感じだった。

 

 「どうしたんですか先輩?」

 

 今川は首をかしげながら聞いてきた。

 いつも部活動で見せる天真爛漫な姿は少しなりを潜めていた。

 

 「いや……コレは夢か?」

 「いやいや、先輩。さすがにヤバいですって、また何かドラッグにてーだしたんですか?」

 「出したことねーよ、一回も。そんなに何度もやっている常習犯みたいにいうな!」

 

 俺のリアクションが面白かったのか、腹を抱えて笑っている今川。

 やっぱり現実だよなコレ。

 

 「んで、先輩。どれにします? ウチの商品は上質な粉を使ってるんで、どれも上物ですよ」

 「小麦粉と砂糖だろその粉。危ないクスリみたいに言いやがって、どうやってでも俺にドラッグをやっている設定を生やせようとするな」

 「ひっひっひ」

 「今度は危ねー魔女みたいな笑い方しやがって、言っとくがそっちの方が危険人物だかんな」

 

 薬物中毒者とそれを作っていそうな怪しい魔女。どっちが、悪そうかというか悪いのは使用者よりも制作者だろう。いや、一般的にはどっちも悪いけど。

 魔女姿の今川を想像し、少しふふっと笑う。

 それだけで、少し気が紛れたような気がした。

 

 パンを手に取る。

 売れ残ったソーセージパン。

 売れ残りセールで、フランスパンや食パンの一斤以外は大体50パーセントオフになっていた。

 安くて売れ残ったパンでも、空腹の俺にとっては美味しそうに見えた。

 実際、食べたら美味しいのだろうが

 

 「あ、先輩。良いの選びましたね。そのパンは、今日作られたソーセージパンの中でも一番の出来ですよ」

 「へぇーそうなのか……ん、待てよ。なんで一番の出来いいやつが今の今まで売れ残ってんだよ」

 「うぐぅ」

 

 一番イイ出来だったら、真っ先に売れるだろう。でないとそれこそ店主がかわいそうだ。

 突っ込まれた今川は、図星をつかれたいす」

 

 ふらーっと立ち寄ったパン屋で不意にそう言われた。

 思わず発言者の方を見ると、今川 あかねがいた。

 今川 あかね。同じ高校の部活動の後輩。

 そんな人が、三角巾にエプロンという姿で俺の前に立っていた。

 

 「今川……なのか?」

 

 思わずそう聞いてしまう。

 あまりにも非現実的な光景だったからだ。今見ている光景が夢だと言われたら、自分は信じるだろう。

 

 「そうですよ先輩。ほら、閉店五分前なんですからちゃっちゃと選んじゃって下さい」

 

 そうせかすように今川は言った。

 未だに夢か現実かあやふやな俺にとっては「あぁ…」という生返事しか出せなかった。

 さっきまでの不快感は何処へやら、今じゃ異世界に迷い込んじまったような感じだった。

 

 「どうしたんですか先輩?」

 

 今川は首をかしげながら聞いてきた。

 いつも部活動で見せる天真爛漫な姿は少しなりを潜めていた。

 

 「いや……コレは夢か?」

 「いやいや、先輩。さすがにヤバいですって、また何かドラッグにてーだしたんですか?」

 「出したことねーよ、一回も。そんなに何度もやっている常習犯みたいにいうな!」

 

 俺のリアクションが面白かったのか、腹を抱えて笑っている今川。

 やっぱり現実だよなコレ。

 

 「んで、先輩。どれにします? ウチの商品は上質な粉を使ってるんで、どれも上物ですよ」

 「小麦粉と砂糖だろその粉。危ないクスリみたいに言いやがって、どうやってでも俺にドラッグをやっている設定を生やせようとするな」

 「ひっひっひ」

 「今度は危ねー魔女みたいな笑い方しやがって、言っとくがそっちの方が危険人物だかんな」

 

 薬物中毒者とそれを作っていそうな怪しい魔女。どっちが、悪そうかというか悪いのは使用者よりも制作者だろう。いや、一般的にはどっちも悪いけど。

 魔女姿の今川を想像し、少しふふっと笑う。

 それだけで、少し気が紛れたような気がした。

 

 パンを手に取る。

 売れ残ったソーセージパン。

 売れ残りセールで、フランスパンや食パンの一斤以外は大体50パーセントオフになっていた。

 安くて売れ残ったパンでも、空腹の俺にとっては美味しそうに見えた。

 実際、食べたら美味しいのだろうが

 

 「あ、先輩。良いの選びましたね。そのパンは、今日作られたソーセージパンの中でも一番の出来ですよ」

 「へぇーそうなのか……ん、待てよ。なんで一番の出来いいやつが今の今まで売れ残ってんだよ」

 「うぐぅ」

 

 一番イイ出来だったら、真っ先に売れるだろう。でないとそれこそ店主がかわいそうだ。

 突っ込まれた今川は、口を引きつらせて目を大きく開けていた。

 図星のようだ。

 

 今度は、焼きそばパンをトングで掴む。

 焼きそばパン特有のバターとパン、ソースの香りが鼻腔をくすぐってくる。

 これだけで、空いた腹がぐーーーと鳴りそうだった。

 

 「ふっふっふ。良いものを選びましたね、先輩。それは今週作られなかでも傑作と名高い焼きそばパンですよ!」

 「……コレは?」

 

 今度は近くにあったツナマヨコーンパンと書かれたパンを取る。

 

 「おぉ、先輩。本当に見る目ありますね。それは今月の中でも最高の出来と―――」

 「お前はもう喋らない方が良いぞ」

 

 どんどん過去に遡りながら良くなってくんだよ。

 百歩譲って全部本当のことだとしても、今日の作った商品がどれも良すぎるし、それが売れないというのも悲しすぎる。

 とりあえず、今川には商売の才能というのが無いらしかった。

 

 「ちなみにお前のオススメは?」

 

 とりあえず聞いて見た。

 するとガーンと肩を落としていた今川が顔を上げてパーッと口角を上げて嬉しそうな顔をつくる。

 

 「えーー、先輩の奢りだなんて悪いですよ。でも、そうだなぁ。あ、私これが良いです!」

 「誰が奢るって言ったよ。ってかお前。これ一番高い奴じゃねーか!」

 

 今川が選んだのは、この店の中ででかい商品を除いて一番高い『あんバターホイップクリームパン』だった。贅沢にあんことバターが乗っており、その上からこれでもかと生クリームがのっかっている。見ているだけで胸焼けしそうだった。知ってるか、このパン半額のくせに400円もするんだぜ。

 

 仕方なく、そのパンをトレイに乗せる。

 

 「え? 先輩?」

 

 目を見開き、驚いたよな顔で今川は見てきた。

 

 「今日だけだかんな」

 

 俺はそっぽ向きながらそう言った。顔を見られるのが、今だけは恥ずかしかったからだ。

 そっぽ向きながらも商品を選び続ける。

 良いなと思ったものをトングで掴み、トレーに入れる。

 

 「……先輩、今日はなんだかいっぱい入れますね」

 「……そうか、いつもこんな感じだぞ?」

 「そうですかねぇ、私このバイトしてから結構経ちますけど、先輩みたいに買っている人少ないですよ」

 

 実際、俺のトレーには先ほどから選んで入れているパンでいっぱいだった。

 夕食を抜きにしても、明日の昼食分まではあるだろう

 

 「……先輩?」

 

 先ほどと違って、目尻を下げて捨てられる子犬のような顔で見てくる今川。

 可愛いなコイツと思いつつも、悟られてはいないかと正直不安に駆られる。

 

 「大丈夫だよ。それより、お前のオススメをどんどん教えてくれよ」

 

 ムリに笑顔を作ってそう言う。

 何か選ばないとこの見せに居てはいないような気がして少し焦る。

 

 それからどれくらい経っただろうか。

 後輩のオススメのパンをトングで掴み、トレーに入れる。

 その作業だった。

 

 「先輩」

 「ん、今度はそっちか?」

 「いえ、もう閉店時間です」

 

 不意に自分の地面がくずれたような気がした。

 あわてて、近くの机に手を乗せる。

 全体重を、その手と机にかぶせるような気持ちだ。

 

 「もうっちょっと、選んでも良いか?」

 

 俺は笑顔でそう言った。

 そう言った筈だ。

 笑顔だったはずだ。

 口角を吊り上げて、目元も上げて、鏡で見れば笑顔の筈だ。

 

 そんあ笑顔の俺を見て、今川は不安そうな顔をしていた。

 さっきと同じ表情だった。

 なんでだよ。俺笑ってるはずだろ? なのになんでそんな悲しそうな顔をすんだよ。

 

 実は分かっている。出来てないことぐらい。

 恥もかいている。閉店だって分かってんのに入れて欲しいなんて、恥だ。

 それでもどうしようも無いくらい家に帰るのはイヤだった。

 

 俺は今川にこれ以上、悲しい顔をさせないために精一杯笑顔を作った。

 

 「すまん、無理言ったわ。会計頼む」

 

 そう言って、山盛りにパンが載せられたトレーを今川に渡す。

 彼女の顔は悲しそうなままだった。

 

 会計が終わり、帰り際。今川から、「私ももう上がるんで待ってて下さいね」と言われ、店の前で待つ。

 すーっとした寒さが身体全体をめぐる。

 さっきまでの熱が失われていくのを肌で感じる。

 

 「先輩、待たせちゃいましたかね」

 

 バイト終わり、さっきまでとは違って制服姿で現れる今川。

 そうか、もう終わっちゃったのか

 

 「いや、全然待ってないよ」

 

 これは本当だった。

 もう少し経っても良かった。

 

 「帰るか」

 「帰りましょうか」

 

 街灯のついた道を二人、歩いて帰る。

 見る人が見れば、カップルに見えるかも知れない。

 今川はそういうの嫌がるかな。

 

 「そういえば先輩」

 「ん、なんだ」

 「なにかあったんですか?」

 

 不意に足が止まった。

 それを見た今川の足も止まる。

 

 顔を上げると夜空があって、星は見えずに真っ黒な夜空がそこにはあった。

 

 「……両親が離婚すんだ」

 

 そうぽつりと呟いた。

 声量は分からなかった。

 

 「……え?」

 「あまり重たい話になるから話したくなかったんだけどな」

 

 両親が離婚する。たぶん。

 俺が最後に聞いたのは、どちらの親の元に住むかの話。

 どちらも、ウチに来いと言ってはくれていたけど、その奥にはイヤそうな顔がありありと見えた。

 その空気に耐えられなくて家をでた。

 

 「今日、学校から帰ってきたらその話をしていたんだよ。その空気に耐えられなくって、家を飛び出して適当にぶらぶらしてたらあのパン屋に着いた」

 「そうだったんですか」

 「まだ話すか? だいぶ暗くなるぞ」

 「ならいいです。遠慮しときます」

 「オイッ」

 

 正直な後輩の返答に思わず苦笑する。

 だよな、俺だって他人の不幸話は聞きたくない。

 

 「でも、先輩が話したいなら聞きますよ」

 

 先に歩いていた今川がそう言った。

 顔は見えない。

 後輩なりの優しさだった。

 

 そんな優しい後輩に心配をかけたくなくて、「問題ねーよ」と強がって言ってしまった。

 けど、後悔はなかった。

 

 「先輩、これは持論なんですけど、そういう不幸話はお腹が空いているからでるんです。今日いっぱい買ったパンを家族で食べれば、離婚なんて話し無くなりますよ」

 

 今川はそんな事を言った。

 その通りなのかも知れない。

 両手のレジ袋パンパンに詰まったパンをたべればとても幸せになれるだろう。

 

 ――帰ったら、家族民なん配ろうか。

 

 そんな事を思いながら、頼れる後輩の背に向けて歩いた。

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