公爵令嬢の愛馬〜剛腕ケンタウロス娘の騎士道物語〜   作:ケモ耳はヒト耳を置き換える形が好き太郎

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第1の乗り手、女騎士コンスタンス②

 

 コンスタンスが目覚めた時、最初に感じたものは鈍い痛み。

 左肩が熱を持ったようで、起き上がろうとすると走ったそれに、思わず顔を顰める。

 

「っ……」

 

「無理をするな」

 

 そんなコンスタンスを労るのは、見舞いに来ていたルイスだった。

 

「ルイス? 忙しいのではなかったのか」

 

「もうとっくに落ち着いた」

 

「とっくに? 待て、ボクはどれくらい寝ていたんだ」

 

「寝ていたんじゃなくて気絶だけどな。お前が蹴られたのが昨日の昼、だからまあ半日と少しか」

 

「半日!? ボクとした事が、不覚を取った……!」

 

「長旅の疲れもあるんだろう。気にすんな」

 

 ルイスの心遣いを跳ね除けて、コンスタンスは身体を起こす。

 やはり肩の痛みに平静とはいかないようで、眉間に皺を寄せてはいるが。

 

「何故こんな所に居るのだ、お前というやつは」

 

「見舞いだ。俺が任せた馬に蹴られて寝込んだ騎士が居るんだ、見舞わなければ礼節にもとる」

 

「ボクがたかが馬に遅れを取る訳がないだろう!」

 

 胸を張った自信に満ち溢れた態度ではあるが、コンスタンスのそれは殆ど虚勢だ。

 認める訳にはいかないと、認めなければ負けではないと。

 プライドの問題なのだ。ルイスにもそれは理解出来たものの、それでも呆れてため息を吐く。

 

「はぁ……蹴られたのが肩で良かったな。頭だったら、かち割られただろ」

 

「その一回で仕留め損ねた事を、後悔させてやってもいい」

 

「やめとけ。死なないように加減して蹴ったんだとよ」

 

「情けを掛けられたというのか!? ボクがあのケンタウロスに!?」

 

 それは厳しい訓練経て、高価な装備品に身を包み、騎士として高潔であろうと振る舞ってきたコンスタンスには屈辱だった。

 騎士であるからには、あのケンタウロスは格下である筈、と。その認識を崩されては堪ったものではない。

 そのように考えたコンスタンスの決断は早かった。

 

「ルイス! あのケンタウロスはボクが躾ける! アレを御さずして何が騎士か! ヤツの背中に鞍を着けてやる!」

 

「変に痛め付けて、反旗を翻されるような事はやめてくれよ」

 

「ボクを誰だと思っている!? ボクは騎士コンスタンス、【鉄拳】アドレイの子だ!」

 

「でもお前、馬苦手だろ。下馬で戦う方が多いし」

 

「うるさい!」

 

 ルイスには、このように啖呵を切ったコンスタンスを止める強い理由がなかった。

 その為好きなようにやらせる事にし、鼻息荒く病床を飛び出したコンスタンスを見送った。

 これによりローリーが怪我をする危惧のようなものは、まるでない。

 

「まあいいだろ。アイツ面倒見良いからな……」

 

 果たして、ローリーの前には息巻くコンスタンスが現れたが、最初に口火を切ったのはローリーの方。

 

「あっコンスタンス様! 自分聞きましたよ、騎士は決闘に勝つとお金とか物を貰えるって!」

 

 第一声はたかりだった。

 

「ふん、あれが決闘だとでも?」

 

「じゃあ喧嘩ですか? 自分、喧嘩って初めてしました!」

 

「違う! 喧嘩でもなければ決闘でもない! あれは……事故だ」

 

「えー……せっかく好きな物、貰えると思ったのに」

 

「欲深さは騎士の理想像とは正反対にあるものだ。やはり貴様は獣だな」

 

 残念がって耳を下げるローリーと、コンスタンスは自身の優越性を確認して得意げ。

 心にも余裕が生まれて、腰に手を当て身体を大きく見せる。

 ローリーの目線は鞍上の人間と同じ程度の高さなので、見下ろされる事の圧迫感を少しでも解消しようとして。

 

「そういえば、何をボクからたかろうとしていたんだ?」

 

「足りないので追加の食事を! あと鎧と槍であります!」

 

「鎧も槍も持っていないのか!? 戦に出るのに!? 公爵家からは何を持って来たんだ!」

 

「着替えと毛布? あとは……あっ、秘密であります!」

 

 ローリーは公爵領から出立した日にラシェルから渡された、ケンタウロスの肖像画を思い出した。

 バレたら没収されるかもしれないと、慌てて取り繕ったものの、そもそもコンスタンスは隠し事に興味はない。

 関心は別の事柄に向いていた。

 

「何を隠しているのかは知らないが、鎧や槍でない事は確かか。まったく、なんて適当な……装備の工面の手間を押し付けては、公爵家はケチだと思われるだろうに」

 

 鎧というものは高い。

 騎士が身に付けるような全身鎧ならば、それは家の資産と呼べるだろう。

 それをポンと気前良く贈れば、きっぷの良さで讃えられる事請け合い。

 そこまでのコストを掛けるつもりがないのであれば、相応の装備もあったのだが。

 ローリーの馬とも兵士ともつかない微妙な立場が、そのような装備の持参を妨げていた。

 

「自分はどうやって戦えば良いのでありましょうか?」

 

「どうやって……まったく、そんなのボクが聞きたい……! くっ、ここで辺境伯閣下やルイスに頼る訳にはいかん。なんとかしてコイツの防具と槍を用意しなければ」

 

「えぇっ! 自分用の鎧と槍が貰えるのでありますか! コンスタンス様に勝った甲斐がありますね!」

 

「ぐっ……うぅ、耐えろ、ボク……丸腰のコイツに戦場に立たれれば公爵家の威信に関わる……ボクがどうにかしなくてはならないんだ……!」

 

 かくして、コンスタンスの苦難の日々が始まった。

 これで相手がただ不相応に騎士を目指す少女であるならば、コンスタンスは苛立ちを覚えても苦労はしなかっただろう。

 だがローリーはケンタウロス、異種族だ。

 更に付け加えれば、ローリーはコンスタンスの事を慕いつつも若干ナメていた。

 日々対立しつつもローリーは「でもこの人は自分の蹴り1発で沈んだのでありますよね」と内心で思う事により余裕を得る。

 対するコンスタンスといえば、ローリーに上下関係を教えようとしては失敗し、鎧と槍を用意しようと駆け回る。

 野営地では、コンスタンスは馬よりも駆け回っていると口々に囁かれる程だった。

 

「ローリー、貴様の鎧と槍を用意したぞ」

 

「えー。その兜、帽子みたいなやつじゃないですか……」

 

ケトルハット(コレ)だって立派な兜だ! 騎士でもない貴様には似合いだろうまったく……」

 

 コンスタンスが用意した鎧は、金属製のハットのような(ケトルハット)、そして布に金属を貼り付けた(ブリガンダイン)

 総じて歩兵か、下馬での身軽な戦闘を重視した騎士が身に付ける物だった。

 しかしこれはコンスタンスの嫌がらせではなく、そもそも騎士が身に付けるような鎧を簡単に用意する事など出来なかったのだ。

 だが槍に関しては、紛れもなくランス。

 巨大な槍は、ローリーも練習で幾度となく握った物だった。

 槍を手にすれば、その重みが手の中にしっかりと存在感を残す。

 鎧も、槍も、己が求めた事で得たローリーの物だった。

 

「これ、全部自分の物でありますか?」

 

「そうだ。まったく、ボクにとんだ苦労を掛けさせてくれたもの──」

 

「ありがとうございますコンスタンス様! 大切にしますね!」

 

「ん……まあ、戦場で扱えば壊れるものだ。壊れる事を恐れて傷を負っては意味が無いからな……あと貴様、鞍を着けろ」

 

 感謝されて満更でもないコンスタンスが流れるように放った言葉に対し、ローリーは全ての高揚を台無しにされて肩を落とす。

 

「嫌ですけど……」

 

「着けろ」

 

「乗せませんから! 乗せる人はもう決めてるんです!」

 

「ええい! 防具にもなるから着けろ!」

 

「そう言って乗るつもりでありますよね! コンスタンス様は卑怯!」

 

「なっ! 騎士に対して卑怯だと!?」

 

「そうやって無理矢理乗るつもりなんだ……!」

 

「違う! 貴様の初陣が近いから少しでも装備を整えてやろうという、このボクの気遣いが分からないか!」

 

 取っ組み合っても体格で勝るローリーに勝てる筈もなく、コンスタンスは無駄な足掻きは、蹴られた肩の痛みがぶり返した事でようやく止まった。

 

「いてて……貴様が初陣でどんな醜態を晒すのか見物だな!」

 

「絶対、上手くやってみせるであります!」

 

「はっ! ならば明日に期待しておくとしよう!」

 

「えっ!? 明日でありますか!?」

 

 ローリーもこの辺境伯領に来た理由を理解している。

 近々戦う事になるだろうと、そうは思っていてもまさか覚悟をする時間も無く、いきなり明日が初陣だと告げられるのは予想外。

 抗議の視線を向けてはみても、コンスタンスも忙しさ故の単純な伝え忘れであったので、返ってくるのは素朴な反応。

 

「む、言っていなかったか」

 

「言ってない!」

 

「文句を言っても仕方あるまい。どのみち初陣は来るのだからな」

 

「開き直ったのでありますか……? コンスタンス様が悪いのに……?」

 

 かくして、ローリーが初陣を迎える準備が……精神的な面を除けば整った。

 歩兵の装備するような物ではあるが、防具があり武器もある。

 少々物足りなくは思っているものの、食事も摂って万全。

 であるからこそ、初陣をどのように飾るかはローリーの心持ち、それに掛かっていた。

 

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