【青学三次】 青学スパイ+生徒の山あり谷ありログ 作:ニャント
お気に入り、感想、誠にありがとうございます。素人書きの三次作品とはいえ、まさかランキング入りするほどこれほど多くの方々に読まれると思ってませんでした……。
「ちょうどいいところにいた、先生!」
昼下がりになり、青学自治区での仕事がつつがなく終了した先生。
少々喉が渇いたので喫茶店に向かおうとしたその足を、生徒の声が呼び止める。
視線を向けるとアビドスから青資秘密学校へと転校した、ナゴミの姿があった。
“どうしたのナゴミ? 何か困り事?”
「実は先生と一緒にして欲しい事がありまして、不都合がなければ参加してもらいたいなーって」
“そう言うことならいいよ。それでどこに行けばいいのかな”
「すぐそこにあるボードゲームができるカフェにです。案内しますね」
彼女に誘われてやってきたのは特に変哲もないカフェ。
だがしかしその三方には各種様々なボードゲームが隙間なく埋められている。
また周囲にはぼちぼちと青学の生徒たちが椅子に座って、遊ぶ姿が確認できた。
「おーい先生、こっちこっち!」
手を大きく振り大きな声で呼ぶのは、周囲から団長と呼ばれる少女。
だがしかし、にこやかな笑みを浮かべる顔には絶好のオモチャを見つけたと物語っていた。
「どうしてあちきがここにいるでちか……」
げんなりした表情かつ、気落ちした声色。テーブルに置いた両手の上に顎を乗せているのは、ゲヘナ学園に所属している給食部の副部長。
その隣には広げたボードゲームの説明書なのだろうか。何度も手元の紙を確認しつつ、コーヒーを飲んでいるのは最近知り合った防衛部の少女。
先生の姿を確認したのと同時に作業の手を止めて椅子から立ち上がり、一礼する。
「お久しぶりです先生。元気でしたか?」
“うん、おかげさまでね。ところでこれって一体何の集まりなのかな”
テーブルの上に置かれた“それ”を見やりながら先生は問う。
一見すれば人生ゲームのように思えるのだが、
①100マスもの目には何も記載されていない
②職業カードがない
③盤上に半分になった水晶玉が嵌められている
④ルーレットの代わりの1〜9の数字が書かれたダイス
と細部が違っているのが見てとれた。
「あーそれが魔術研究部の子に後で感想を述べてほしいって無理やり押し付けられてね」
「何でも遊んでいる人の様々な未来を予想して水晶玉に文字として投影するとか……普通なら眉唾、なのですが」
ナゴミや防衛部部員の説明に先生は思い出す。
嘗てホシノを実験材料にした黒服のように、青学の生徒を神秘の被験体にするという黒い噂を。
最もホシノとは違い契約もきちんと履行しているし、バイト代も確実に渡している。健康被害に至っては今の所、聞いてはいない。
だが守るべき生徒でもこれが危険なものなら、先生として大人として窘めなければと思案する。
「大丈夫だって。あいつ曰く、生徒以外の老若男女が遊んでも健康被害は一つもない安全なボードゲームだって言っていたから」
纏う雰囲気が微かに変化したのを勘付いた団長が安心させるように言う。
「団長の言うとおり、問題ないでちよ。こうやって彼女が渡してくるってことは、何度も遊んで危険性がないって自分を使って実証したからでち」
顔見知りなのだろう。副部長もまた不貞腐れながらも危険性の皆無を保証する。
生徒二人の言葉を信じて先生は疑念の思考を止めた。
“みんながそう言うなら分かったよ。じゃあ遊ぼうか”
「ちなみにルールはすごろくや人生ゲームと同じ。持ち金は全員10万から」
「ゴールをすればゲームは終了。その時点で持ち金が多い人物が勝者だってさ」
「もしこれが好評だったら販売する気なのかな?」
「どうでもいいからさっさとプレイするでちよ」
先生の言葉に防衛部部員が団長がナゴミが副部長が追随してゲームを始めることになった。
同時にすごろくの上にはつい先ほどまでただの棒状の駒だったそれが、いつの間にか自分たちの姿を模していた。しかも生徒たちの頭の上にはヘイローまで忠実に再現されている。
“じゃあ最初は私から、えいっと”
細かいなと思いつつ、先生はどんなゲームなのか体験しようとダイスを転がした。
ころころと軽やかな音が響き、目が6の数字を示す。従うように自分の駒を進めて目的のマスに辿りついた直後、異変が起きた。
「本当に水晶の表面に何か文字が現れたね」
「えーとなになに……
───シャーレに潜入したネグリジェ姿のワカモが先生と一緒に就寝しているのが発覚、生徒に手を出したのかという疑惑と大混乱のために一回休み───……まじか?」
“え?”
団長の読み上げた内容に先生の思考が停止すると同時に、駒が鳥籠のような物によって封じ込められてしまう。恐らくはこれが休みの状態なのだろう。
「ええっと、これって先生の未来を暗示しているってこと?」
「あのワカモなら絶対やりかねないでち」
防衛部部員の戸惑いの言葉に副部長が断言する。
「まあワカモの愛は重たすぎるって知ってたけど……」
「だからってこれはないだろー」
ナゴミに続く団長の声色は心底から呆れ返っていた。
「とりあえず警備を強化しておいた方がいいかと。後、キヴォトスには先生が生徒に手を出してはいけないという法律がないとはいえ、しては世間体にどう思われてしまうか……」
“待って、生徒に手を出す気は本当にないからね!”
「本当に気をつけて先生、シロ先ガチ勢の私としてはワカモと結ばれる結末見たくないから!」
“一体何の話なの!?”
全く要領を得ない話に堪らず先生は絶叫する。
本来ならばここで店の中で迷惑行為をすれば店員のみならず、客が白い目を向けたり注意を促してくるだろうがその気配を見せない。
最もとあるスレの中では、
───そこはホシノだろうがぁあああああっ!
───何言ってるのノノミに決まってるジャマイカ
───じゃあワイはセリカで
───どなたか、どなたかアヤネファンの方いらっしゃいませんか!
などと余りにもくだらない会話をしていたが。
「じゃあ次は私だな。どんな未来が待ち受けているのやら」
「大丈夫なの団長。ジャブですらあんな危険な内容だったのに」
「あっはっは、この程度ピンチでも何でもないよ。……アビドス襲撃に比べたら」
“?”
「何でもない、何でもないから先生。ほら今度はどんな内容なのかな」
小首を傾げる先生を紛らわしつつ冷や汗をかくナゴミを他所に団長はダイスを転がす。
出た目は3。駒を進めた後に表示された内容とは───
「えっとなになに……
───キュメちゃんの大事なぬいぐるみを汚してしまって涙目にさせる───……何をやらかしたんだ未来の私ぃいいいいっ!?」
水晶に表示された内容を最後まで言い切ることができなかった。
余りの衝撃のあまりに団長はその場で発狂したように喉を掻きむしる。
何度も何度も首筋に爪を立てて引っ掻く様子は尋常ではなさすぎた。
“しっかりするんだ団長、団長おおおおっ!”
「あー、先生大丈夫だから。いつものと言うかデフォだから心配しないで」
「なんで団長ってアビドスばかりに嫌われているのでしょう。まあざまぁなのでいいですが」
「洗濯代の1万を失うよりよっぽどショックなんでちね。知ってたでちけど」
各々好きな感想を述べた後に、どこぞの雛見沢症候群を発症した団長を精神分析で何とか回復させた後、ナゴミがダイスを無謀にも転がしていく。
しかしその顔には恐怖も心配の感情も全く見せていなかった。逆に逆境や困難に立ち向かう勇者の如き勇ましさがある。
「大丈夫なのですかナゴミさん。あの団長ですらあれなのに」
「へーきへーき、自爆したことより辛いことなんてないって」
「それはそれで見ている方が辛いんでちが……」
どれだけアビドス勢から重い想いを抱いているか欠片も知らないナゴミが淡々と駒を動かす。
「えーと7……内容は───
セリカとアヤネと共にアビドスのアイドルユニットを結成してブレイク、1000万を得る───ちょっと私はもうアビドス生じゃないんだけど!? というか何でアイドルになってるのぉおおおおおっ!?」
まさかのアイドル化。かの未来では後輩と歌って踊れるユニットを組んでいるのだろう。
だがしかし当の本人は既に青学へ帰還している気であったため、これに反論せざるを得なかった。
「おーナゴミのアイドル衣装かー。さぞかしフリフリの恥ずかしい衣装なんだろうなー」
“セリカとアヤネとナゴミのアイドル姿!? ぜひとも見てみたい!”
「まあ頑張ってくださいナゴミさん。気が向いたら応援しますので」
「全くまともな未来予想が来ないでち。これ、不良品じゃないでちか?」
「自分は関係ないと思って、この野郎ども! この野郎ども!」
“わぁーナゴミ殿がご乱心だー!? ここは殿中ですぞ落ち着いてくだされー!”
「先生も元凶の一人だよねぇえええっ!」
好き勝手に喋っている全員にトサカに来たナゴミが暴れるのを、先生が羽交い締めにして凶行を食い止め……られなかった。それを他所に駒の服装がアイドル衣装に変化していた。
「じゃあ四番手、行かせてもらいますね」
「今度はどんな内容になるのかな? お持ち帰りされるとか?」
「或いは先生とTo LOVEる展開になったりとか?」
「取り敢えず遺書を書いておいた方がいいんじゃないでち?」
“み、みんなせめて応援してあげようよ”
「大丈夫ですよ先生、どうせ自分のことですから旅行とかで散財する程度でしょうし」
一旦状況が落ち着いた後に、お前もこっち側に来いと瞳で語っているナゴミと団長を無視するように、防衛部部員はダイスを転がし内容を確認する。
「2……
───恋人たちの実家に向かうために三回休みぃぃぃぃぃ!? ちょっと待って、自分にそっちの気なんて欠片もないのでありますが!?」
「へー青学らしくない子と思っていたけど、やっぱり青学生だったんだね」
「しかも恋人たちってことは二人以上と付き合っているんだ。良いデート先を知ってるから後で教えてあげるよ」
「あ、待つでち。まだ他にも文章が……身重になるから体を大事にって、どういう意味でち?」
“ま、まあ頑張ってね”
「ですから自分はレズではありませんってばああああっ! と言うか同性の子を孕めるわけないでしょうううううっ!! そうなった日には生物学が発狂しますってばぁああああっ!」
様々な意味でツッコミを入れる防衛部部員の未来に敬礼する一同。
だがここにいる全員が、この荒唐無稽な予言が現実になるとは……まだ知らずにいた。
「じゃあさっさと投げるでち」
さっさと茶番劇を終わらせたい給食部副部長は雑にサイコロを放り投げた。
「5……
───美食研究部×副部長、フウカ×副部長、パンちゃん×副部長の生モノ作品を見て脳破壊されるでちぃいいいいいっ!?」
「ちょ、椅子ごと垂直に飛んでいったどころか頭が天井に突き刺さった!?」
「これってまさかメルリー先生の本じゃないよな? 」
「え、ええと、取り敢えず降ろしてあげましょう。すみません、脚立ってありますか?」
“そんなものがあるのか……ごくり”
こうしてたった一巡目で凄まじい精神的ダメージを与えられた一同。
しかしここで中断することは魔術研究部部員に敗北する気がしたので、最後までプレイしようと満身創痍ながらも挑み続ける。
そして───
「あはは、大きい……彗星かな。いや、違う、違うな。彗星はもっとバーって動くもんな」
「パトラッシュ……疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ……パトラッシュ……」
「地球か……何もかも皆懐かしい」
「燃え尽きたでち……真っ白でち……」
“み、みんな…………”
濁り生気の宿していない瞳を虚空に向けるナゴミ、床に眠るように体を横にして今にも昇天しそうな団長、壁越しの遠い彼方を見続けている防衛部部員、力なく椅子に座り込む真っ白な姿の副部長の死屍累々の状態に先生は戦慄していた。
だが仕方ない。何せこのゲーム、碌な内容を表示されていなかったからだ。
アビドス生全員に監禁されるのは序の口、顔面ステーキと足もぎ、転校先でオカンになる、発情したパンちゃんに連れ去られるetcと尊厳も何もかも喪失し続ける未来を予言され続けたのだから。
勿論、先生も論外ではない。生徒に腹を銃で撃たれるだけではなく、真正面から嫌いや地獄に落ちろなどの罵詈雑言を吐かれ、小学校のイオリが写っているアルバム購入の件でヴァルキューレに逮捕される事を見せられた。
お陰でかろうじて立ってはいるが、足は生まれたての子馬のように小刻みに震えていた。
こうして屹立しているのは一重に大人と先生しての意地とプライドだ。
だがどちらにせよ、
“これを提供した魔術研究部には注意を入れないとね!”
色々な意味で危険物なこれを封印しないといけないと、先生は誓った。
なお後日、このボードゲームを提供した魔術研究部部員は無事フルボッコの刑に処されました。