貞操観念ぎゃくてん・ざ・ろっく!   作:テト

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第3話

 

「―――教室だと迷惑がかかるから廊下の隅の使われていない部屋で練習するって気の利かせ方、流石後藤さんよね!」

 

「……うん、そうだね」

 

 

まあ後藤さん的には教室で演奏したら、みんなからの注目集める事になっちゃって嫌なだけだろうな……喜多さんが陽キャだからそういった解釈には至らないのが救いであった……改めて説明に移るとしよう。朝は後藤さんの体調不良など色々あったものの今はようやく放課後、今日は後藤さんに喜多さんと俺の3人共バイトが休みな事から、本当であればSTARRYのスタジオを借りてギター練習を行いたかったのだが残念な事に空いておらず……そこでちょくちょく利用しているのが学校の椅子や机などの半ば物置と化した空き部屋なのだ。

 

 

薄暗い空間は家の押し入れの中を彷彿とさせ、落ち着いてギターを弾けると後藤さんは嬉しそうに語っていた。それに俺も彼女の演奏の際に同じように押し入れで長い期間いたからか、いつの間にか安心感を覚えるようになっており……そんな思いから先ほどのお昼休みのときに「あんまり2人で出かけた経験ってないけど、もしもどこかへ行く事ならそれこそ商業施設とか人混み溢れる場所じゃなく……思い切って遠くの自然豊かな山奥にある洞窟とかいいかもね」と後藤さんに言ったら「と、遠くって事はつまり日帰りじゃなくとま―――フーッ……!じじ、自制しろ私……!」と何故か昨日と同じように息を荒げ、まるでりんごの如く真っ赤に赤面しながら己にブレーキをかけるように小声で何かをブツブツ言っていた……もしかして話していないだけでどこか体調でも悪いのだろうか?

 

 

そう心配に思いながら、教室のドアを開くとそこには。

 

 

「―――ラブホテルへ行きたいかーっ!?」

 

「やば……」

 

 

鼓膜を突き破らんばかりの叫び声が響き渡ってきた、その声の主は他クラスの女子生徒。某大陸横断クイズの司会者ばりに拳を高らかに天へと突き上げ、その目は完全にキマっている。その周囲にいる女子たちも揃って「おーっ!」と地鳴りのような歓声を上げており……もう今更説明するまでもなくラブホへGOさせようとしている相手は分かる。

 

 

生存本能が危険信号を脳内に最大音量で鳴り響かせてくる……捕まったら最後、俺の純潔という名の誇りは一瞬で消し飛ぶだろう……いやDTを誇りに思うなよとか言わないでください泣きますよ??

 

 

「さ、佐伯君、これって一体何なのかしら……?」

 

 

困惑一色の喜多さん、そして俺は……

 

 

「ごめんね喜多さん!俺先に行ってる!」

 

「佐伯君!?」

 

 

疑問に答える事なく、全速力で逃げ出した。ターゲットの逃亡に一瞬呆気に取られていた女子達だが、「待ってー!」「先にイッてるですって!?ふざけないでイカせるのはこの私よ!」と各自熱を上げて俺を追いかけ始めるのであった。何だこれ……

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……一生分の体力を使い切った気がする……」

 

 

フラフラながらに何とか彼女達を巻く事に成功し、俺は練習場所である空き部屋へ無事に辿り着いた……ていうか喜多さんには本当に申し訳ないな、生きる為だったとはいえ後で謝っておこう……校舎の片隅にあり普段は誰も立ち入らないコンクリートに囲まれた空間。そこには既にギターを抱え、体育座りをしている後藤さんの姿が。彼女は俺を見るなり驚いたように勢いよく立ち上がり。

 

「じゅ、淳くん!? だ、大丈夫……?」

 

「へ、平気だよ……ただちょっと走って汗かいちゃったから制服の上だけ脱いでワイシャツになっても「ダッ、ダメ、それだけは絶対……」

 

 

断固拒否と言わんばかりに首を勢いよく横に振る後藤さん…………そこまで全力でダメと言うなら仕方ないか、ならば別の方法で少しでも癒しを得なければ。

 

 

俺は息を切らしながら真正面から後藤さんを見つめ、そして己の両手を握り懇願する。

 

 

「……お願いがあってさ、ちょっとだけでいいから―――今ここで後藤さんの演奏聞かせてくれないかな?それで心が安らぐと思うんだ」

 

「……ど、どうも、私は淳くんの精神安定剤(???)です……!」

 

 

混乱しつつもどこか嬉しそうにニヤける後藤さんはギターを構えると、この場には俺しかいない事から―――一瞬でギターヒーローの顔になった。ジャカァァァン!と重厚なサウンドが狭いスペースに鳴り響く……その音がカオスな出来事により荒んでしまった俺の心を癒していく。

 

ネットであれだけ人気を博しているのだから、みんな良さは知っている。ただこれは、生で聴いた人間にしかきっと分からない……後藤さんのギターには力がある。耳に入れるだけで何だか元気が沸いてきて、また頑張ろうと思えるのだ。こんな世界だから色々と苦労が絶えず辛さが溢れ出しそうになったときも、彼女の演奏に助けられてきた。

 

「そ、そっか淳くんは私がいなきゃダメなんだ……ウ、ウヘヘヘヘッ……」

 

「後藤さん……?」

 

 

不穏なオーラに寒気が走る中、背後にある部屋のドアが勢いよく開かれ―――

 

 

「ちょっと、佐伯君!?急に走るからびっくりしたのよ!」

 

「……本当にすみませんでした」

 

 

だが、喜多さんは怒ってるというより俺を心配してくれているように見えた。彼女はフッと顔をほころばせると、「……でも、佐伯君が無事だったからこの話はチャラって事でいいと思ってるわ」そう優しく微笑んでくれた……朝の件といい喜多さんにはホント敵わないな。

 

 

「それじゃあ練習始めましょう!」

 

「は、はい」

 

「うん」

 

 

気を取り直して、俺はマネージャーとしての仕事を始める。後藤さんの指導のもと、喜多さんがジャカジャカとコードを弾き、歌を乗せていく。最初の頃に比べれば、今の喜多さんの上達ぶりは目を見張るものがあった。

 

 

「喜多さん、今のフレーズ凄く滑らかになってる。 前はコードチェンジの時に一瞬音が途切れてたけど、今回はバッチリ繋がってるよ。ピッキングの強弱も安定してきたし、本当に毎日の努力の成果が出てるね」

 

「ふふ……佐伯君が褒めてくれると嬉しい、ありがとね」

 

「ただ……サビに入る前のここをもうちょっとだけ優しく弾くと、次の爆発力が引き立つと思うんだ―――」

 

 

そんな練習風景の中、俺はふと喜多さんの足元に違和感を覚えた。短いスカートから伸びる脚のその膝の少し下のあたりから……たらりと一筋の赤い血が流れていた。

 

「……え? 喜多さんそれ……」

 

 

 

俺が指を指すと、喜多さんはその場所を見て……困ったような笑みを浮かべた。

 

 

「……さっき、佐伯君が猛ダッシュで逃げちゃったじゃない? それで慌てて追いかけようとしたら廊下で軽く転んじゃったの。今まで気づかなかったけど……多分その時に擦りむいちゃったみたいね」

 

「えっ……」

 

 

罪悪感が一気に胸を突き刺す、俺が自分の身の安全を最優先にして喜多さんを置き去りにしたせいで怪我を……俺は前世で死んだ事から人のちょっとした怪我にでも説明の出来ない感情が襲い掛かってきてしまう。そしてそれが友達なら尚更だ。

 

 

「俺のせいだ……! ちょっと待っててね!」

 

 

俺は慌ててカバンを漁り、常に(※主に護身用、あるいは後藤さんが溶けた時の補修用として)常備している救急箱から絆創膏を取り出した。

 

 

「さ、佐伯君……?」

 

「動かないでね、すぐ終わるから」

 

「すぐって―――っ!?」

 

 

俺は喜多さんの前に屈み込み、その右脚を――そっと包み込むように優しく触れた。

 

 

「あっ……」

 

 

喜多さんの体がビクッと跳ね上がり、上気した頬と潤んだ瞳……本当はそんなに痛みがあったのか。俺は何て馬鹿なんだ……そう強い後悔を抱きながら丁寧に脚を持ちつつ絆創膏を貼ってあげた。

 

 

「よし、これで大丈夫。本当にごめんね」

 

「佐伯君……」

 

 

……俺の名前を呼ぶ声が妙に艶やかで色っぽく感じるのは気のせいだろうか?

 

 

 

(じゅ、淳くんが、女の子の、しかも美少女陽キャの喜多さんの生足に触れちゃった!?アッ脳が……脳が破壊される……)

 

 

(さ、触られちゃった、佐伯君に私の脚を……腕の次は脚……これって、これってもう―――私は佐伯君の彼女って事でいいのよね!??)

 

 

「後藤さん……喜多さん……えっと、どうしたの……?」

 

2人がそれぞれカオスに慌てふためく中、全く状況を理解していない鈍感ボケボケ野郎な彼は首を傾げることしか出来なかったのであった。




次回は虹夏ちゃん回となります!
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