空っぽの王様のひとつだけ   作:カルキよし

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第98話「償い」

夜明け編 第29話「償い」

 

力で潰そうとした者たちは。

 

——力ではないものによって、裁かれた。

 

---

 

 共存への道が動き出しても。過去の罪が消えるわけではなかった。

 

 子供を暗殺しようとした。それも二度も、詫びると約束しながらその裏でまた撃った。——その罪が。今白日の下に引き出されようとしていた。

 

 公開の法廷。

 

 総理大臣。関係した全ての大臣。そして——公安のトップ。

子供の暗殺を決めて命じた承認した者たちが。一人残らずその場に並んでいた。

 

 国民が見ていた。世界が見ていた。もはや闇に葬ることはできなかった。

あの夜エディが全世界に告発して、スターがその一部始終を目撃したのだから。

 

 

 証言台に一人の男が立った。

 

 公安のトップだった。かつてあの暗殺計画を主導した男。

 

——けれど彼は今告発する側に立っていた。

 

 彼はあの日のことを覚えていた。二度目の狙撃の直前。孫の顔が脳裏をよぎったあの瞬間を。「破滅で結構だ」と。

「子供を殺すくらいなら、破滅した方がまだましだ」と。そう翻意したあの夜を。——だが彼の翻意は政府中枢に握り潰された。頭越しに二度目の引き金は引かれた。

 

 その悔恨を。今彼は法廷で晴らそうとしていた。

 

 「……私は罪を認めます」彼は震える声でけれど、はっきりと言った。

「子供の暗殺を計画した。その罪を。——そしてそれだけではありません」

 

 彼は顔を上げた。総理大臣たちを。まっすぐに見据えて。

 

 「私が二度目の狙撃を止めようとした時。それを握り潰した者たちがいる。

子供を殺してでも、体面を保とうとした者たちが。——そこに並んでいる方々です」

 

 

 

 法廷がどよめいた。

 

 内側からの告発だった。政府の罪を政府のその中にいた人間が暴いた。誰よりも内情を知る男が。自らの罪を認めた上で。共犯者たちを白日の下に引きずり出したのだ。

 

 総理が青ざめた。大臣たちが口々に言い訳を並べ立てようとした。

 

——だが、遅かった。

 

 証拠は揃っていた。翻意した公安トップが握っていた、内部の記録。

エディの声明で既に国民が知っていた暗殺の事実。そして何より——国民の目が。世界の目が。

 

 もはや、誰も逃げられなかった。

 

 

 

 そして——裁かれるべきはこの国だけではなかった。

 

 海の向こう。日本に圧力をかけた、大国。「あの少女を殺せ」と。

「あの王を放置するな」と。二度目の狙撃へと日本を追い立てた、その国もまた。

 

 その為政者たちの前に、一人のヒーローが立っていた。

 

 スターアンドストライプ。

 

 彼女は自国の権力者たちを、まっすぐに見据えていた。かつて力を信じていた女が。世界最強の力であの少年を止められると、信じていた女が。

 

——その力の完全な敗北をこの目で見た、女が。

 

 

 

 「私は見てきた」。彼女は静かに口を開いた。

「あなたたちが日本に圧力をかけた、その結果を。——新宿がどうなったかを。この目で見てきた」

 

 権力者たちが、視線を逸らす。

 

 「あなたたちは言った。力で潰せと。子供一人殺せば済む話だと。

……その結果があれだ」彼女の声が鋼のように響いた。

「世界最強の私が、全力を叩きつけて。それでもあの子を止められなかった。

力では何一つ解決しなかった。むしろ最悪を招いた。

——それを招いたのは。あなたたちのその"力で潰せ"という判断だ」

 

 彼女は、一歩踏み出した。

 

 「私はあなたたちの命令で動く駒じゃない。私はヒーローだ。師がそう教えてくれた。——だから証言する。国際社会にあなたたちが何をしたのかを。

一人の子供を力で潰そうとして。世界を滅ぼしかけたその罪を」

 

 力の敗北を誰よりも知る者が。力で子供を潰そうとした者たちに。力ではない方法で——証言と良心で。対峙していた。

 

 

 

 世界は動いた。

 

 スターの証言が。エディの告発が。翻意した公安トップの内部告発が。

全てが報道に乗り、国境を越え広がっていった。

 

 国内外の世論が加害者たちから離れていく。子供を暗殺しようとした政府。

それをそそのかした大国。——彼らを擁護する声はどこにもなかった。

かつてシュンカとミカを「化け物」と呼んだ、その同じ世論が。今度は真の加害者へとその矛先を向けていた。

 

 総理は失脚した。大臣たちも。圧をかけた大国の為政者たちも。

国際的な非難の中でその地位を、次々と失っていった。

 

 法によって。世論によって。そして内側の良心によって。

——力で子供を潰そうとした者たちは。力ではないあらゆるものによって裁かれていった。

 

 

 

 拳骨よりも、重い報いだった。

 

 殴られるのではなく。法廷に引き出され。世界に恥を晒され。良心に告発され。地位を失い。そして——最も深く。彼らは思い知らされた。自分たちの企てが。もはや何の意味も持たないことを。

 

 仮に彼らが逆恨みで。また暗殺を企てたとしても。それは原理的に不可能なのだ。寄心は分散した。ミカは誰にも手出しできない。

——力で何かを為そうとする、その手段そのものが。彼らの手から、永遠に失われていた。

 

 力は無力だった。加害者たちにとっても。

 

 

 

 そして——その裁きの中心に。

 

 シュンカは、いなかった。

 

 彼はこの裁判を要求しなかった。傍聴もしなかった。総理がどうなろうと。

公安がどう裁かれようと。——彼には関心がなかった。

 

 彼が望んだのは。復讐でも報復でもなかった。ただミカや家族と。

静かに生きること。それだけだった。加害者が裁かれるかどうかは。

彼の世界の、外側の出来事だった。

 

 裁いたのはシュンカの力ではなかった。社会の良心と。法と。

そしてあの夜真実を知った、世界の意志だった。

 

 ——力で潰そうとした者たちは。力ではないものによって、裁かれた。

 

 それは。最後の証明だった。力がすべてを決めるのではないという。

愛 良心 法が。力よりも、確かに世界を動かすのだという。

 

 崩れた街が直り。歪んだ罪が正されていく。

 

 夜明けは。もうすぐそこまで来ていた。

 

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