夜明け編 第29話「償い」
力で潰そうとした者たちは。
——力ではないものによって、裁かれた。
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共存への道が動き出しても。過去の罪が消えるわけではなかった。
子供を暗殺しようとした。それも二度も、詫びると約束しながらその裏でまた撃った。——その罪が。今白日の下に引き出されようとしていた。
公開の法廷。
総理大臣。関係した全ての大臣。そして——公安のトップ。
子供の暗殺を決めて命じた承認した者たちが。一人残らずその場に並んでいた。
国民が見ていた。世界が見ていた。もはや闇に葬ることはできなかった。
あの夜エディが全世界に告発して、スターがその一部始終を目撃したのだから。
*
証言台に一人の男が立った。
公安のトップだった。かつてあの暗殺計画を主導した男。
——けれど彼は今告発する側に立っていた。
彼はあの日のことを覚えていた。二度目の狙撃の直前。孫の顔が脳裏をよぎったあの瞬間を。「破滅で結構だ」と。
「子供を殺すくらいなら、破滅した方がまだましだ」と。そう翻意したあの夜を。——だが彼の翻意は政府中枢に握り潰された。頭越しに二度目の引き金は引かれた。
その悔恨を。今彼は法廷で晴らそうとしていた。
「……私は罪を認めます」彼は震える声でけれど、はっきりと言った。
「子供の暗殺を計画した。その罪を。——そしてそれだけではありません」
彼は顔を上げた。総理大臣たちを。まっすぐに見据えて。
「私が二度目の狙撃を止めようとした時。それを握り潰した者たちがいる。
子供を殺してでも、体面を保とうとした者たちが。——そこに並んでいる方々です」
法廷がどよめいた。
内側からの告発だった。政府の罪を政府のその中にいた人間が暴いた。誰よりも内情を知る男が。自らの罪を認めた上で。共犯者たちを白日の下に引きずり出したのだ。
総理が青ざめた。大臣たちが口々に言い訳を並べ立てようとした。
——だが、遅かった。
証拠は揃っていた。翻意した公安トップが握っていた、内部の記録。
エディの声明で既に国民が知っていた暗殺の事実。そして何より——国民の目が。世界の目が。
もはや、誰も逃げられなかった。
そして——裁かれるべきはこの国だけではなかった。
海の向こう。日本に圧力をかけた、大国。「あの少女を殺せ」と。
「あの王を放置するな」と。二度目の狙撃へと日本を追い立てた、その国もまた。
その為政者たちの前に、一人のヒーローが立っていた。
スターアンドストライプ。
彼女は自国の権力者たちを、まっすぐに見据えていた。かつて力を信じていた女が。世界最強の力であの少年を止められると、信じていた女が。
——その力の完全な敗北をこの目で見た、女が。
「私は見てきた」。彼女は静かに口を開いた。
「あなたたちが日本に圧力をかけた、その結果を。——新宿がどうなったかを。この目で見てきた」
権力者たちが、視線を逸らす。
「あなたたちは言った。力で潰せと。子供一人殺せば済む話だと。
……その結果があれだ」彼女の声が鋼のように響いた。
「世界最強の私が、全力を叩きつけて。それでもあの子を止められなかった。
力では何一つ解決しなかった。むしろ最悪を招いた。
——それを招いたのは。あなたたちのその"力で潰せ"という判断だ」
彼女は、一歩踏み出した。
「私はあなたたちの命令で動く駒じゃない。私はヒーローだ。師がそう教えてくれた。——だから証言する。国際社会にあなたたちが何をしたのかを。
一人の子供を力で潰そうとして。世界を滅ぼしかけたその罪を」
力の敗北を誰よりも知る者が。力で子供を潰そうとした者たちに。力ではない方法で——証言と良心で。対峙していた。
世界は動いた。
スターの証言が。エディの告発が。翻意した公安トップの内部告発が。
全てが報道に乗り、国境を越え広がっていった。
国内外の世論が加害者たちから離れていく。子供を暗殺しようとした政府。
それをそそのかした大国。——彼らを擁護する声はどこにもなかった。
かつてシュンカとミカを「化け物」と呼んだ、その同じ世論が。今度は真の加害者へとその矛先を向けていた。
総理は失脚した。大臣たちも。圧をかけた大国の為政者たちも。
国際的な非難の中でその地位を、次々と失っていった。
法によって。世論によって。そして内側の良心によって。
——力で子供を潰そうとした者たちは。力ではないあらゆるものによって裁かれていった。
拳骨よりも、重い報いだった。
殴られるのではなく。法廷に引き出され。世界に恥を晒され。良心に告発され。地位を失い。そして——最も深く。彼らは思い知らされた。自分たちの企てが。もはや何の意味も持たないことを。
仮に彼らが逆恨みで。また暗殺を企てたとしても。それは原理的に不可能なのだ。寄心は分散した。ミカは誰にも手出しできない。
——力で何かを為そうとする、その手段そのものが。彼らの手から、永遠に失われていた。
力は無力だった。加害者たちにとっても。
そして——その裁きの中心に。
シュンカは、いなかった。
彼はこの裁判を要求しなかった。傍聴もしなかった。総理がどうなろうと。
公安がどう裁かれようと。——彼には関心がなかった。
彼が望んだのは。復讐でも報復でもなかった。ただミカや家族と。
静かに生きること。それだけだった。加害者が裁かれるかどうかは。
彼の世界の、外側の出来事だった。
裁いたのはシュンカの力ではなかった。社会の良心と。法と。
そしてあの夜真実を知った、世界の意志だった。
——力で潰そうとした者たちは。力ではないものによって、裁かれた。
それは。最後の証明だった。力がすべてを決めるのではないという。
愛 良心 法が。力よりも、確かに世界を動かすのだという。
崩れた街が直り。歪んだ罪が正されていく。
夜明けは。もうすぐそこまで来ていた。