空っぽの王様のひとつだけ   作:カルキよし

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第14話「拾い物」

 

後継者編・第五話「拾い物」

 

奪うことしか知らぬ男が、生まれて初めて運命に感謝した。

こんな拾い物があるか、と。

——その拾い物の中で。

少年は、終わりまでの数を静かに数え始めていた。

 

 「完成度も上がってきた。そろそろお披露目だな」

 

 私はシュンカをヴィラン連合に紹介した。

 

 「私の自慢の弟子だ」

 

 胸を張って。最高傑作を披露する、職人のように。

 

 連合の面々が、その子供を見た。白い髪。赤い瞳。幼い。

 

だが——纏う空気が、異様だった。何の気負いもなく、誰のことも見ていない。ただ退屈そうに、そこに立っている。十歳の子供のはずなのに、その場の誰よりも、底が知れなかった。

 

 荼毘が目を細めた。私のあの満ち足りた顔。あれは、おかしい。あの男が、あんなふうに何かを誇らしげに見せるなど、見たことがない。何か、引っかかる。

 

 ——彼は、誰にも言わなかった。ただ、その予感だけが、胸に残ったようだった。

 

 そして、その場には死柄木弔もいた。

 

 「弟子」という言葉が、弔の胸を抉った。

 

 自分は、何年も「候補」だった。確定しない宙ぶらりんの駒。なのに、あの白いガキはたった数年で「自慢の弟子」と呼ばれている。胸を張って。連合の、皆の前で。

 

 弔は、傷の本当の在り処から、目を逸らした。本当は、先生に認められたかった。本当は「お前だ」と言われたかった。その満たされぬ渇きを見つめる代わりに、彼は届かぬ相手に刃を誓った。

 

 ——いつか、絶対、殺してやる。

 

 あの白いガキを。そして、先生の唯一の後継者に、なってやる。それが、彼のすがる、最後のよすがだった。崩れていく自分を、かろうじて繋ぎ止めるための、呪文だった。

 

 その誓いが決して果たされぬことも。継ぐべき夢がもうすぐ消えることも。彼は、まだ知らなかった。

 

 ——実戦の様子を見たあと、私は、確信した。

 

 私は、最高の拾い物をした、と。

 

 幸運すぎる、と思った。奪うことしか知らぬ私が、生まれて初めて、運命に感謝した。あの孤児院に足を運んだ、自分の判断に。

 

 拾ったその宝は、あらゆる想像を超えていた。災害級の脅威を一瞬で消し、トップヒーローの攻撃すら届かない。そして何より、空っぽで、従順。鎖一本で、どこへでも従いてくる。これほどの器が、これほど都合よく転がっていたとは。

 

 その瞬間、捕食者の本能が、ほんの一瞬、囁いた。

 

 ——うますぎる。話が、うますぎないか。これは、罠ではないか。

 

 長く生きてきた私の、危機を嗅ぎ取る勘。それが、かすかに、警鐘を鳴らした。

 

 だが、私はその囁きを慢心で握り潰した。

 

 そんなはずがない。私が見つけ、私が育てた器だ。すべて私の計算どおり。

あの子供は、私の掌の上にいる。何も望まず、何も企まず、ただ鎖に繋がれて従う、空っぽの神。そこに、罠の入り込む隙などあるものか。

 

 私は、笑った。そして、もう一度鎖を確かめた。あの少女が、確かに自分の手の内にあることを。

 

 ——ある日、私はその鎖をそっと引いてみた。

 

 ある任務の命令に、ミカの名を、添えて。

 

 「シュンカ。これを、やってくれるね。——ミカの、ためにも」

 

 シュンカは従った。

 

 私は、勝ち誇った。鎖が効いた、と。神が、私の言葉に従った、と。少女の名を出せば、この器は動く。元栓は、確かに私が握っている。完璧だ。

 

 だが——私は、知らなかった。

 

 シュンカは初めからその任務に従うつもりだった。ミカの名など、添えられなくても。面倒だが、やる。それだけのこと。だから従った。鎖が効いたのでは、ない。

 

 そして、シュンカは認識した。

 

 ——この男は。ミカを、「使う」気だ。

 

 僕を動かすためにミカの名を口にした。ミカを、レバーとして握っている。それが、今、はっきりと分かった。これまで漠然と感じていたことが、男自身の口から、輪郭を持った。

 

 少年の中で、秒読みが始まった。

 

 何の感情もなく。ただ静かに。「ミカを危険にさらす存在」が一つ、リストに加わった、という認識だけが。怒りでも、憎しみでもない。床に落ちたガラスの破片を、いずれ片付けねばならない、と頭の片隅に書き留めるような、それだけの冷たさで。

 

 私は、勝利の美酒に酔っていた。鎖を握り、神を従え、完璧に閉じた計画の中で、自らの不死を夢見ていた。

 

 少年は、その同じ部屋で、終わりまでの数字を、数え始めていた。

 

 二人の距離は、これほど近いのに。これほど、遠かった。

 

 私には、最後まで見えなかった。自分が「効いた」と思った鎖の一引きこそが、神に、引き金を引く相手を教えた、合図だったことを。勝ち誇って引いたその手が、自分の終わりを、自分で予約した瞬間だったことを。

 

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