空っぽの王様のひとつだけ   作:カルキよし

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※ オリジナルキャラクターが出ます


第17話「空いた玉座」

 

僭王編・第二話「空いた玉座」

 

王が、死んだ。 玉座が、一つ空いた。

二人の男は、そこに座らせる駒を、選んだ。

 

 歌舞伎町の奥。看板の灯りも届かないビルの一室。煙草と酒の匂いが淀んでいた。

 

「——色あせた毎日だと、思ってたんだけどさぁ」

 

ソファに長い身体を投げ出して

イズナは天井に向かって煙を吐いた。薄い銀の髪が淀んだ光にぼんやりと浮かぶ。

 

「ひさびさに、面白くなってきた」

 

 向かいで、葉巻を燻らせていた巨漢——

エディが、サングラスの奥から、

目を細めた。207センチの体躯が安物のソファを玩具のように見せている。

 

「AFOが、死んだ」。

イズナは続けた。顔に薄い笑みが貼りついている。

 

「あの化け物が、だ。しかもやったのは——ガキ、ときた」

 

「知っている」。エディの声は低く揺るがない。

「で。お前が、わざわざオレを呼んだ理由は、そっちじゃ、ないだろう」

 

「察しがいいねぇ」。

イズナは起き上がった。気だるげな仕草の奥で大きく見開いた目だけが、妙にぎらついていた。

 

「あの男が消えて何が起きたと思う? ——空いたんだよ。裏社会の玉座がさぁ!」

 

 部屋にしばしの沈黙。煙だけがゆっくりと立ち上っていく。

 

「これから、裏社会は荒れる」

 

エディが、葉巻を、灰皿に押しつけた。

 

「我も我もと有象無象が空いた席を奪い合う。だが——ただ座っただけの王など、すぐに引きずり降ろされる。玉座には、誰もがひれ伏すしかない『看板』が、要る」

 

「で、ちょうど良いのが、一枚あるんだよなぁ」

イズナが指を鳴らした。「『AFOを殺したガキ』これ以上の看板がどこにある?」

 

 エディの口の端が、吊り上がった。

 

「あのガキを頭に据える。名ばかりの王としてな。組織を実際に回すのは、俺たちだ。あれは——いわば最強の核兵器。引き金はこちらが握る」

 

「で、その核兵器の旗の下に」イズナの声から、ふっと、気だるさが抜けた。代わりに、柔らかく、ぞっとするような熱が、滲む。

 

「裏の全部を超える組織を作る。連中は、オレが釣ってくるよ。一本ずつ、さ。——ああ、楽しみだなぁ。久々に退屈が死ぬ」

 

 計画は、それだけで、十分だった。空いた玉座。最強の看板。それを利用する、二つの頭脳と、暴力。

 エディは、応えなかった。ただ、新しい葉巻に、火を点けた。

 

 

かつて。この手は何でも掴めた。

 

悪も。絶望も。落ちてくる空さえも。

 

——けれど今この手が掴めるのは。

 

夜の冷たさだけだった

 

 眠れない夜が、何日続いただろう。

 

 私は薄暗い事務所で、また地図を広げていた。痩せ細った指が赤い印を一つ、

また一つと、打っていく。当たった場所。空振りした場所。あの子たちがいたかもしれない場所。——そのすべてが今はただの無意味な点の集まりにしか、見えなかった。

 

 壁の時計が夜の3時を回っている。

 

 身体はとうに限界を訴えていた。神野で負った傷は癒えていない。立っているだけで古傷が軋む。少し横になればいい。誰もがそう言う。眠らなければ倒れると。

 

 けれど。私は、眠れなかった。

 

 目を閉じればあの夜が蘇る。崩れた瓦礫。消えた世界最強の男。そして——振り返りもせず夜へ消えていった、小さな二つの背中。

 

 私は手を伸ばした。待て、と。あの時確かに伸ばした。

 

 届かなかった。    

 

 あの子は何も間違えてなど、いなかった。

 

 考えれば考えるほど、私にはそう思えてならなかった。あの子はただ自分の、

たった一つ大切なものを、守ろうとした。そのために力を振るった。——他にどんな道があったというのか。

 

 あの子があんな男に拾われた、その時。私はどこにいた。あの子が兵器として、

磨かれていくその何年もの間。ヒーローは——私は何をしていた。

 

 誰も気づかなかった。誰も手を差し伸べなかった。世界中にこれだけの

ヒーローが、いながら。たった二人の、子供を。救えなかった。

 

 だからあの子は。誰にも頼れなかった。誰も信じられなかった。

自分の手で自分の世界を守るしか——なかったのだ。

 

 あの子をあんな場所へ、追いやったのは。あの子に人を殺させたのは。

 

 ——私たちなのだ。

 

 その思いが夜ごと私の胸を、内側から灼いた。眠ることなどできるはずが、なかった。

 

 翌朝も。私は外に出た

 

 ホークスが止めた。エンデヴァーが顔をしかめた。その身体でこれ以上動くな、と。誰もが私を案じてくれた。——けれど、私は止まれなかった。

 

 歩いた。痩せた脚を引きずって。あの子たちが立ち寄ったかもしれない、

路地を。安宿を。子供が、身を隠せそうなあらゆる隙間を。

 

 道行く人は、もう、私を振り返らない。かつて、誰もが見上げた平和の象徴。

その、見る影もない、痩せた背中を。

 

 構わなかった。私の見栄や誇りなど。あの子たちの無事の前では、塵のように、軽い。

 

 一軒。また一軒。聞き込みを、重ねる。

 

 「白い髪の、男の子と。女の子の二人連れを、見ませんでしたか」

 

 返ってくるのはいつも同じだった。首を振る仕草。怪訝な視線。

——いない。誰も、知らない。あの子たちは、どこにもいない。まるで最初から、この世界の、どこにも居場所などなかったかのように。

 

 夕暮れまで、歩いて。私は、また何も掴めずに、事務所へ帰った。

 

     その夜も。私は、地図の前に、座っていた。

 

 新しい赤い印は増えていない。今日も空振り。糸はまた一本、ぷつりと切れた。

 

 痩せた指で、顔を、覆う。

 

 かつて。この手は何でもできると、思っていた。どんな悪も捻じ伏せ。どんな絶望からも人々を救い出せると。笑いながら。大丈夫だと。私が来た、と。

 

 ——なのに。今、私は。たった二人の子供にすら。手を伸ばすことができない。

 

 力は、もうない。かつての輝きも。それでも。

 

 「……まだ、だ」

 

 私は掠れた声で、自分に言い聞かせた。立ち上がる。古傷が悲鳴を上げる。

 

 まだ諦めていない。あの子たちが、どこかで息をしている限り。私は探す。何度、空振りしても。この身体が、動く限りは。

 

 たとえ、もう。あの子たちを、守る力すら私には残されて、いないのだとしても。

 

 せめて。この手を伸ばし続けることだけは。——やめてはならない。

 

 窓の外で。夜がまた深く沈んでいく。

 

 私の伸ばした手は今夜も。その冷たい闇を掴んだだけで。何も得られないまま、力なく、開かれた。

 

 ——それでも、私は。明日もまた、歩くのだろう。

 




キャラ紹介

イズナ

個性:エネルギーの吸収・放出。熱・光・電気・運動エネルギーなどを吸収し、高出力の熱線として放出する。吸収と放出は同時にはできない。吸収でダメージを無効化し、ためた力を攻撃に変える攻防一体型。

見た目:青のアクセントが入った銀髪。長身。

経歴:「新宿の怪物」と呼ばれる、かつてトップヒーローのホークスと互角に渡り合った実力者。一人称は「オレ」退屈を嫌い面白いものに惹かれて動く飄々とした性格。

エディ

個性:リミッター解除。人体に備わった力の制限を、20〜100%の範囲で自在に外す。100%でUSJの時のオールマイト級の出力に達するが、その状態は8分しか持たない。加えて素のフィジカルが圧倒的で、個性を使わずとも中堅ヒーロー程度なら圧殺できる。

見た目:二メートルを超える巨躯。サングラスに葉巻。アロハシャツをよく着ている

経歴:裏で「覇王」と呼ばれる、組織を設計・運営する知将でもある。過去にプロヒーロー五人をまとめて制圧した実績を持つ。冷静沈着で計算高く、物事を一貫して利と打算で判断する。両名とも原作には登場しないオリジナルキャラクター。
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