閑話「烏合」
生まれたての城に、六つの牙と二人の王が集った。
それは
ただの、寄せ集めだった。
その城に、七人が集められたのは、ごく最近のことだった。
蔦漆は、広間の隅で集まった面々を眺めていた。彼の個性は、戦うための力ではない。
半径十メートル以内なら、自分と相手が手にしているものを、入れ替える。
——それだけ。幹部の中で戦闘力は間違いなく最下位。
だからこそ、彼の役目は見ることだった。
この城に、どれほどの牙が揃ったのか。頭の中で一人ずつ値を刻んでいく。
ソファに沈み込んでけだるげに煙を吐いている男。——イズナ。
……あれは厄介だ。蔦漆は内心で唸った。
運動エネルギー、光、熱、電気。この世のエネルギーを、片端から吸い込んで、無効化する。
殴っても、撃っても、焼いても彼には届かない。そして、吸い込んだ分を——熱線としてまとめて撃ち返す。
物理の天敵。エネルギーを用いるあらゆる攻撃の天敵。正面から挑む者は、己の力ごと彼に喰われる。
その隣で笛を弄んでいる女。——セイレーン。
彼女の個性は音による調律。そして視神経の操作。戦場で、彼女の笛が鳴れば、敵は狙いを
平衡を、視界を、根こそぎ狂わされる。
派手さはない。だが、暗殺にも、撹乱にも
これ以上なく効く静かな毒だ。
壁際で刃物を磨いている、仮面の男。——赫飛。
伝説の殺し屋。彼の周りの影が、時折、ぬらりと蠢く。影に潜み影に獲物を引きずり込み、
影の中に、あらゆる得物を収める。時に、影から、鋭い刺突を放つ。一撃の殺傷力は低い。
だが、彼の恐ろしさは、力ではない。——気づいた時には、もう、影の中、ということだ。
……ただし、影には、酸素がない。長居はできん。蔦漆は、そこも抜かりなく刻んだ。誰にでも穴はある。
部屋の中央で、生真面目に姿勢を正している武人。——チェイン。
彼の拳は、一呼吸のうちに、11発を刻む。
しかも、当てるたびにその威力が積み上がっていく
十、五十、そして——百。
積み上げた最後の一撃は常人の理解を超える破壊となって対象を粉砕する。武の極み。
干された身であろうと、その技は本物だった。
そして、窓辺に立つ、影。——アル・カイド。
彼の個性は、己の肉体を、爆弾に変えること。
そして、いくら爆ぜても再生する。
歯、爪、目玉、腕、髪。——部位ごとに、威力が違う。腕を引き千切って投じれば、ダイナマイトの比ではない。傷ついた端から蘇り
また己を爆ぜさせる。倒れぬ爆弾。
……あれを、一撃で仕留められるのは、この城で、一人だけだ。
蔦漆の視線が、最後に、椅子に深く腰掛けた
巨躯へと移った。
エディ。207センチ。
覇王。リミッターを、自ら外す。その瞬間
彼の膂力は、人の枠を遥かに超える。純粋な破壊力においては、幹部随一。加えて、その頭脳は、戦場全体を読み、最善手を導く。力と知略。その両方を、最高格で兼ね備えた男。
——アル・カイドの、あの不死の肉体すら、彼の全力の一撃なら一息に消し飛ばす。
……揃ったな。蔦漆は静かに息を吐いた。
物理の天敵。撹乱の毒。影の暗殺者。武の極み。
不死の爆弾。そして力と知の覇王。
——六つの、桁外れの牙。
これだけで、裏社会のどこに出しても恐れられる陣容だ。
だが。
蔦漆の視線が、広間の奥へと向かった。
そこに、二人の子供がいた。
一人は、白い髪に赤い目の少年。
——シュンカ。この城の王。
彼の個性の噂は蔦漆も聞いていた。不変。
——あらゆる攻撃が、環境の変化が彼には「起こらない」傷つくという事象そのものが、彼の周りには存在しない。宇宙の真空に放り出されても
死なない。火力の大小など意味を成さない。絶対の無敵。
加えて欠落。触れたものの存在を、この世から消す。守る盾と滅ぼす刃を、同時に持つ。
——AFOを、一撃で屠ったという噂は、決して誇張ではないのだろう。
……底が知れん。蔦漆の背に微かな怖気が走った。あの六人の牙が、
束になっても。この少年、一人には、掠り傷ひとつつけられまい。
そして、その隣に寄り添う黒髪の少女。——ミカ。
彼女の個性は、夜の王。国を、一つ滅ぼせるほどの化け物を——八体も従えているという。
同時に出せるのは二体までと聞くが。
……その一体だけで、国家の軍隊が、存亡を賭ける規模だ。
蔦漆は悟った。この城の、本当の戦力は。六人の幹部でも、ない。あの白い王、一人ですらない。
——あの、二人の子供、そのものだ。
値踏みは、済んだ。
六つの牙。そして二人の規格外の王。
——寄せ集めの烏合だと、蔦漆は思っていた。だが、並べてみれば、そのどれもが常軌を逸している。
もっとも。
当の、二人の王は。集まった牙にも
蔦漆の値踏みにも、まるで、興味がなさそうだった。
シュンカは、ただ隣のミカだけを見ていた。
ミカが、退屈していないか。ミカが居心地悪くしていないか。
——彼の世界には、幹部も、組織も、映っていない。ただ、一人の少女だけが映っていた。
ミカもまた、幹部たちをちらりと見て
興味なさげに視線を逸らした。彼女が心を許すのも、また隣の少年ただ一人。
六つの牙と、二人の規格外の王。——寄せ集めの、烏合。それが今の僭帝のすべてだった。
この城が、これからどこへ向かうのか。
蔦漆にも、まだ分からなかった。ただ——この烏合の中心に宿る、静かな異質さだけは。
彼の頭脳の隅に、いつまでも引っかかって離れなかった。