空っぽの王様のひとつだけ   作:カルキよし

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第39話「作戦」

 

僭帝編・第二十五話「作戦」

 

彼らの論理は。

どこまでも正しかった。

——たった一つ。

相手が常識の外にいる、ということ以外は。

 

 数日後。ヒーロー協会に、集められたのは。

前回を、はるかに上回る人数だった。

 

 トップヒーローたち。そして——警察の精鋭部隊。物々しい顔ぶれが一堂に会している。

シュンカ、ならびに、ミカ——両名の救出作戦。

その具体的な立案のための、会議だった。

 

 壇上の、ホークスが、資料を掲げた。

 

 「まず、敵の戦力から、説明します。——僭帝の幹部連中。調べた限り...はっきり言って化け物しかいません」

 

 彼は、淡々と続ける。

 

 「個性と経歴は、お手元の資料を。……見ての通りです。覇王。格闘家崩れ。新宿を支配していた怪物。国際指名手配のテロリスト。伝説の殺し屋。——一人ひとりが。それぞれ、特捜隊を一個組んで当たるべきレベルの猛者です」

 

 会議室に緊張が走る。

 

 「そして——組織は、今も拡大を続けている。

ファナティカを葬った、あの噂で、裏社会中の腕利きが、集まってきている。……襲撃時には、恐らく。六百人以上の構成員と、戦うことになるでしょう」

 

 どよめきが、起きた。

 

 六百。しかも幹部は一人ひとりが、災害級。

トップヒーローたちの顔にも。さすがに、畏怖の色が、浮かんだ。とんでもない怪物組織だった。真正面から、ぶつかれば——甚大な被害が出る。

 

 「……勝てるのか。そんな、化け物の巣に」

誰かが、呻いた。

 

 だが。

 

 「——だからこそ、です」

 

 ホークスの声には。むしろ確信があった。

 

 「だからこそ。つける隙がある」

 

 彼は、資料の一点を指した。幹部たちの名が、

並んだそこを。

 

 「よく見てください。こいつら——特に、この、

エディ。それに、アル・カイド。こんな我の強い化け物どもが。誰かの下に、大人しく集うと思いますか?」

 

 ホークスの目が、鋭くなる。

 

 「覇王と呼ばれ、裏の頂点を狙っていた男。世界を敵に回した、テロリスト。……こいつらは。人に傅くような、タマじゃない。忠誠? 忠義? ——そんなもの、こいつらの辞書にはない。断言できます。

連中は利害で。ただ利害だけで、あの組織に集まっているんです」

 

 彼は、言い切った。

 

 「だから——シュンカと、ミカ。あの二人さえ

救出する。あるいは、組織を追い詰める。そうすれば——旨みを失った、幹部連中は。もうそこに留まる理由が、ない。烏合の衆は、あっけなく、散る。組織は——勝手に、崩壊します」

 

 その論理は淀みなく。

 

そして——恐ろしく、まっとうだった。

 

 どんな強大な組織も。中身が烏合の衆なら。

要を抜けば、瓦解する。裏社会を知り尽くした者ならば。誰もが頷く正論だった。

 

 「それに——好都合なことが、あります」。

 

ホークスが続けた。

 

「あの、シュンカという子供。……あれは、神輿だ。組織に担ぎ上げられ奥で、守られている、被害者だ。つまり——最前線に、あの子が、出てくることは、まずない。守られる立場ですからね」

 

 彼は、地図を指した。

 

 「あの規格外の力と、真正面からやり合うのは。

正直無謀です。あの子が本気で動けば——我々に

勝ち目は、ない。……だが。あの子は、出てこない。担がれた神輿は、動かない。ならば——あの子が、奥に、いるうちに。周りの、幹部連中を、叩き、組織を、瓦解させ。あの子とミカを救い出す。それが——この作戦の、肝です」

 

 「シュンカを、戦わせない。動く前に、終わらせる」。ベストジーニストが、頷いた。

 

「……理にかなっている。あの子と、力で、ぶつかるのは、最悪手だ。あくまで、これは——救出、奪還作戦。戦争ではない」

 

 「それに」ホークスが、付け加えた。

 

「あの子は、まだ、子供だ。……AFOに、拾われた時から、ずっと騙されて、脅されて。無理やり

力を使わされてきた被害者だ。だから——安心してください。助けに来た我々を、あの子が攻撃することは、ない。むしろ——救いの手を、待っているはずだ。あの闇の中で。ずっと」

 

 誰も、疑わなかった。あの子は、被害者で。守られる、立場で。無理やり、戦わされている、だけで。だから——出てこないし、助けに来た者に

牙を剥くこともない。その、前提を。

 

 

 「——やろう」。

最初に、口を開いたのは、ミルコだった。

 

「難しい理屈は、あたしには、分かんねぇ。けど——困ってる子供がいる。利用されてる子供がいる。なら、蹴り込んで助け出す。それだけだろ。ヒーローなんだから」

 

 まっすぐな、闘志だった。彼女には、それで、十分だった。

 

 「……感情論だけで、動くのは、感心せんがね」。

 

ベストジーニストが、俯く。

 

「だが——結論は、同じだ。まだ幼い子供を

悪と断じて、切り捨てる。そんなことが許されていいはずが、ない。あの子たちの更生の可能性がある限り。我々には保護する義務がある。

それが——ヒーローの、規範だ」

 

 冷静な、けれど、揺るがぬ正義感。

 

 「俺は——前にも、言った通りだ」。

エンデヴァーが、低く告げる。

 

「あの子にはまだ天秤がある。壊れきっては、いない。今から正しい道を示せば。……やり直せる。俺は、そう信じてる」

 

 その言葉には。我が身の贖罪が。滲んでいた。

 

 「あの子を、道具として使い続ける、大人たち、から」。

 

ホークスの声にも、静かな熱が、こもる。

 

「引き剥がす。……それが、俺の、やりたいことです」

 

 そして——オールマイトが、静かに、立ち上がった。

 

 「みんな……ありがとう」。

痩せた、その顔に。深い決意が、刻まれていた。

 

「あの子たちを、ヴィランにしたのは、我々だ。その責任を。今度こそ——果たそう。必ず救い出す。あの子たちを、あの闇の中から」

 

 トップヒーローたちの心が。一つに、なっていく。

 

 それぞれ、違う理由だった。まっすぐな闘志。ヒーローの規範。我が身に重ねた、贖罪。そして——救えなかった者への、悔恨。だが、行き着く先は、一つ。

 

 ——あの子たちを、救う。

 

 救出作戦は。こうして、動き出した。大勢のヒーローと、警察を動員した、大規模な奪還作戦として。

 

 彼らの論理は。完璧だった。彼らの善意は。本物だった。彼らの決意は。気高かった。

 

 ——何一つ、間違っていなかった。

 

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