空っぽの王様のひとつだけ   作:カルキよし

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第40話「灯火」

僭帝編・第二十六話「灯火」

 

その人は、戦う力を、失っていた。

——それでも。

自分に、できることを。必死に探していた。

 

 私は、戦えない。

 

 もう、あの頃の力は、ない。OFAは、緑谷少年に、託した。この痩せ細った身体では。前線に立って、あの、化け物じみた組織と渡り合うことなど——できはしない。

 

 分かっている。それでも。

 

 ——何かできることはないのか。

 

 私は、来る日も、来る日も、考え続けていた。あの救出作戦で。戦う力を、持たない、この私に。それでも、果たせる役目はないものか、と。

 

 あの子たち。シュンカと、ミカ。

 

 あの子たちは——ずっと、暗闇の中で生きてきた。AFOに拾われ。兵器として

育てられ。そして今も、裏社会という、闇の底で。悪い大人たちに、利用されて。……光の当たらない場所で。ずっと。

 

 救い出したい。あの、暗闇から。そして——明るい世界に。連れてきて、やりたい。日の光の、当たる場所へ。同じ年頃の、子供たちが笑って暮らす、あの世界へ。

 

 私はあれこれと、考えを巡らせた。

 

 ——そうだ。雄英は、どうだろう。あの子たちを、保護したら。雄英で、受け入れられないか。安全な、あの学び舎で。少しずつ、普通の子供らしい日々を。友達を作り。学び。笑う。そんな、当たり前の幸せを、知ってもらえたら。

 

 いや、その前に。心のケアが、要るだろう。あれだけの目に、遭ってきたのだ。深い傷が、あるはずだ。信頼できる、カウンセラーを。あの子たちが、少しずつ、心を開けるような。そういう施設を、探しておくべきかもしれない。

 

 保護するその時。私に、何ができるだろう。戦うことはできずとも。せめて——あの子たちが怖がらないように。安心できるように。かつて、平和の象徴、だった、この顔で。「もう、大丈夫だ」と。笑いかけて、やれたら。それだけでも——意味が、あるかもしれない。

 

 私は、一つ、また一つと。あの子たちのための居場所を。心の中で、組み立てていく。

 

 どうか。あの子たちが。もう、二度と、闇に、怯えなくて、いいように。あの、冷たい、赤い瞳の子供が。いつか——年相応の、あどけない笑顔を。取り戻せるように。

 

 

 その報せを、持ってきたのは、蔦漆だった。

 

 「——ボス。厄介な報せです」

 

 僕は、ミカの隣で、それを、聞いていた。

 

 「ヒーローどもが、動きます。それも——大規模に。トップヒーローと、警察を、根こそぎ動員した、大部隊。狙いは……この、僭帝。近日中に、ここへ、攻めてくるでしょう」

 

 情報を集め先を読む。蔦漆の、そういう仕事は、正確だった。彼がそう言うなら、そうなのだろう。

 

 「奴らの狙いは」蔦漆が、続ける。「どうやら——ボスと、ミカ様の、身柄のようです。二人を、『救出する』と。……我々を、悪の組織と断じ。あなた方を、そこから、引き剥がす、つもりだ」

 

 救出。引き剥がす。——僕には、その言葉の意味が、よく分からなかった。

 

 僕と、ミカを。引き剥がす?

 

 僕の隣で。ミカが、少し不安そうに、僕の袖を、掴んだ。その、小さな手の感触。——それだけで、十分だった。誰が、何のために来ようが。ミカを、僕から、引き剥がそうとするなら。それはただ、片付けるべき対象だ。それ以上でも、以下でも、ない。

 

 だが。

 

 僕が、口を開くよりも、早く。

 

 「——ふざけた話だ」

 

 低い声が、響いた。エディだった。

 

 「ボスを。ミカ嬢を。奪いに、来るだと?」覇王の全身から。凄まじい圧が、立ち上る。「許せるかよ。そんなこと」

 

 「くくっ。面白れぇな」イズナが、舌なめずりをする。「トップヒーロー、勢揃い、ねェ。上等だ。退屈しなくて、済みそうだ」

 

 「ようやく、暴れられるね」赫飛が、影を揺らす。チェインが、無言で、拳を鳴らす。アル・カイドが、恍惚と笑う。セイレーンが、静かに、笛を撫でる。

 

 幹部たちが。誰に命じられるでもなく。当たり前のように。戦う構えを、取っていた。僕とミカを守るために。命を懸けて。

 

 僕はそれを。ぼんやりと、見ていた。

 

 ……不思議な、ことだ。

 

 こいつらは。僕が頼んだわけでも、ない。命じたわけでも、ない。なのに——勝手に、僕と、ミカのために、牙を剥く。自分の命を賭け金にして。

 

 昔の僕なら。何も、感じなかっただろう。道具が、勝手に、動いている。その程度に。——でも。

 

 なぜだろう。今は。ほんの、少しだけ。奇妙な感覚があった。名前の、つかない、何かが。胸のどこか奥のほうで。かすかに動いたような。

 

 その正体が、何なのか。僕には、まだ分からなかった。

 

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