空っぽの王様のひとつだけ   作:カルキよし

48 / 48
第45話「敗軍」

僭帝編・第三十一話「敗軍」

 

剣も、盾も、通じなかった。

言葉も、善意も、届かなかった。

——英雄たちは、その日。

生まれて初めて、敗れることを、知った。

 

 撤退命令が、下された。

 

 救出は、不可能。前提は、何もかも崩れた。これ以上留まれば、犠牲が増えるだけ。——英雄たちは、傷つき、うなだれ、戦場を後にした。

 

 誰も、口を開かなかった。勝てなかった、のではない。——挑む土俵にすら、立てなかった。その事実が、重くのしかかっていた。

 

          

 

 作戦本部に戻っても。空気は、通夜のように沈んでいた。

 

 負傷者の報告。損害の集計。淡々と、事務が進む。だが、誰の顔にも、生気がなかった。

 

 その沈黙を。破ったのは、ホークスだった。

 

 彼は立ち上がり——そして、深く頭を下げた。

 

 「……本当に、すいませんでした」声が震えていた。「全部、俺の読み違いです。要を抜けば崩れると、断言した。だからこの作戦が組まれた。——なのに。全て、外しました。俺のせいです」

 

 あの飄々とした男が。誰よりも自信を持って、瓦解作戦を提案した、あの男が。頭を下げ続けていた。

 

 「ホークス」声をかけたのは、エンデヴァーだった。「頭を上げろ」

 

 「ですが——」

 

 「あれは、想定できるものじゃない」エンデヴァーは静かに言った。

「お前の論理は、筋が通っていた。誰が聞いても頷く、読みだった。俺も、賛成した。——お前一人の責任じゃない」

 

 ベストジーニストも頷いた。「その通りだ。あの読みは、正しかった。……少なくとも、正しいはずだった」

 

 誰も、それ以上は言わなかった。何かが、どこかで、決定的に食い違っていた。だが、それが何なのか。この場の誰にも、まだ、掴めてはいなかった。

 

 ただ——エンデヴァーが、ぽつりと漏らした。

 

 「……あるいは。ただ、遅かったのかもしれんな」

 

 その一言に。誰も、答えなかった。ただ、重い沈黙だけが、部屋を満たしていた。

 

          

 

 会議が終わり。皆が去った、後。

 

 オールマイトは、一人。薄暗い控室に、残っていた。いや——正確には、一人ではなかった。緑谷が、少し離れて、立っていた。何も言えずに。ただ、師の背中を見つめて。

 

 オールマイトは、椅子に腰を下ろしていた。痩せた、その背が。ひどく小さく見えた。

 

 「……届かなかった」

 

 絞り出すような、声だった。

 

 「私は。あの子に、もう——届かないのか」

 

 その手が、震えていた。

 

 「あの子が独りだった時。私は、そばにいてやれなかった。だから、あの子は。AFOを、殺すことになった。……ファナティカも。あんな幼い手で。人を、殺させてしまった」

 

 緑谷は、動けなかった。かける言葉が、見つからなかった。

 

 「そして、今。あの子は、裏社会の頂に立とうとしている。それを——私は、ただ見ていることしか、できない。手を伸ばしても、拒まれる。救おうとしても——ほっといてくれと、言われる」

 

 オールマイトの目から。一筋、こぼれた。

 

 「あの子は、笑わない。あの冷たい目のまま。人を殺し、王になっていく。——なのに、私は。何もできない。届かない。……止められない」

 

 彼は、顔を覆った。

 

 「私が——悪いんだ。全部。あの日、あの子を救えなかった。私が。この国が。大人たちが。——あの子から、光を奪ったんだ。だから、あの子は。ああなった。全部——私の、せいだ」

 

 平和の象徴だった男が。一人の子供を救えなかった、その悔恨に。声を殺して、泣いていた。

 

 緑谷は、ただ立ち尽くすことしか、できなかった。師の背中は。あまりにも小さく、そして——その慟哭に答えられる者は。この世界のどこにも、いなかった。

 

 英雄は。守れなかった。

 

 力でも。善意でも。涙でも。——あの小さな王には。何一つ、届かないまま。

 

 夜が、更けていく。

 

 救えなかった、という、たった一つの事実だけを抱いて。かつての最強のヒーローは。ただ、泣き続けていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

闇なる鴉はかく語りき(作者:とんこつラーメン)(原作:僕のヒーローアカデミア)

あの日、俺が『彼女』と出会ったのは偶然だったのかもしれない。▼けど、出会ったこと自体は決して間違いではなかったと今でも思っている。▼彼女がいなかったら、色んなことが変わっていたかもしれないから。▼これは、そんな闇の中で生きて、闇の中で育ってきた『彼女』と、アングラな俺が出会ったことで始まる物語だ。▼


総合評価:792/評価:7.82/連載:25話/更新日時:2026年07月15日(水) 23:01 小説情報

幻想の力でヒロアカ生活(作者:ろぐいんち)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ちょっと毒舌で皮肉屋、だけど困ってる人をなんだかんだ見捨てられないクール女子が頑張ってヒーローを目指すお話です。▼基本的に主観で進みます。ロボトミ、プロジェクトムーンの知識がないと少し分からない所が多いと思うので、少し情報を書いておきます。これはネタバレではなく前提知識としてお読みください。▼【EGO】▼主人公が使う武器や防具の事▼【侵食】▼EGOの力に精神…


総合評価:194/評価:7.75/連載:16話/更新日時:2026年06月14日(日) 18:00 小説情報

帰ろう、弔くん(作者:カカカカカカオ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ヒーローになりたい無個性の少年は努力を続けた▼だが彼はヴィランになった▼これは少年が夢を叶える物語


総合評価:227/評価:6.57/連載:12話/更新日時:2026年03月31日(火) 20:39 小説情報

プロトタイプのヒーローアカデミア(作者:sr999)(原作:僕のヒーローアカデミア)

Poppy Playtimeのプロトタイプとしての能力を個性として持った転生者のヒーローアカデミア▼原作知識はあり、性別は一応男、チートにはなりませんがそれは相性の問題を解決できていないからです。▼相性いい相手にはチートみたいな強さ出せます、まあプロトタイプの攻撃方法が基本殺すため▼のような状態なんで仕方ないっちゃ仕方ない▼こちらイメージ絵、人間verはUl…


総合評価:330/評価:7.67/連載:6話/更新日時:2026年07月12日(日) 17:08 小説情報

濁った心にヒーローを(作者:イズモ様 カワ(・∀・)イイ!!)(原作:僕のヒーローアカデミア)

私思うんだよねヒロアカって割と終わってる世界だよな〜 ▼せや厄ネタぶち込んでやろう!


総合評価:647/評価:8.62/連載:10話/更新日時:2026年07月15日(水) 12:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>