空っぽの王様のひとつだけ   作:カルキよし

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第68話「戦の後」

三つ巴編 第21話「戦の後」

 

世界を終わらせかねなかった怪物が、一振りで消えた。

 

——見ていた英雄たちは、言葉を失う。

 

あれが、我々の託した、子供の力か、と。

 

---

 

 遠く離れた高台から、その一部始終を見ていた者たちがいた。

 

 ホークスと、エンデヴァー。戦場には手を出せず、ただ、市民避難の指揮を執りながら、荒野の決着を見届けていた二人だ。

 

 死柄木弔が、崩れ落ちる。あの、AFOを超えたと噂された怪物が。あの、世界を終わらせかねなかった災厄が。——白い王の、たった一振りで、塵に還った。

 

 二人は、しばらく言葉を発せなかった。

 

 「……嘘、だろ」先に口を開いたのは、ホークスだった。掠れた声。

「あれが……あれだけの怪物が。あんなに、あっさり……」

 

 彼は、羽根を震わせた。

 

 「俺たちが全戦力で挑んでも、勝てなかった。改造で、AFOを超えた。

世界の脅威、そのものだった。——それが。まるで、道端の石ころでも、どけるみたいに。一瞬で」

 

 エンデヴァーも、拳を握りしめたまま、動けなかった。

 

 炎の英雄の目に映っていたのは、恐怖だった。賞賛ではない。あれは、賞賛できるような、生易しいものではなかった。——ただ、底知れぬ、畏怖。

 

 「……関わっては、ならん」エンデヴァーが、低く呻いた。

 

「あれは。人が、どうこうできる、領域にない。俺たちが、僭帝を、倒そうとしていたなど……今思えば、正気の沙汰ではなかった」

 

 二人は痛感していた。祈るしかなかった。その選択が、正しかったことを。そして——あの王と、二度と事を構えてはならないことを。

 

 力では決して、届かない。ならば、残された道は。——やはり、対話しか、ない。彼らの結論が、より深く骨に刻まれた。

 

 

 頭を失った戦場は、急速に収束へと向かっていた。

 

 死柄木という指令塔を失った脳無の群れは、統率を欠き、ただの肉塊と化していた。そこへ、僭帝の幹部たちと、異能解放軍の軍勢が、容赦なく襲いかかる。

 

 エディの一撃が、脳無をまとめて吹き飛ばす。チェインの連撃が、群れを刻む。アル・カイドの爆炎が、残党を薙ぎ払う。赫飛の影が、逃げ惑う個体を、次々と呑み込んでいく。

 

 十一万の異能解放軍も、脳無の掃討に加わった。頭を失った獣を狩るのは、もはや、作業に過ぎなかった。

 

 半刻もせぬうちに、脳無の群れは、ほぼ、一掃された。

 

 そして——連合の、残された雑兵たち。

 

 大将を失い、脳無も消え、彼らは、完全に、戦意を喪失していた。あれほど恐れられた、ヴィラン連合。その残党が、蜘蛛の子を散らすように、荒野の各所へと、逃げ散っていく。

 

 もう、組織の体を、成していなかった。死柄木弔、ただ一人で、辛うじて繋がっていた寄り合い。その頭が消えた今、連合は——文字通り、瓦解した。

 

 

 その、散り散りに逃げるヴィランたちを。

 

 待ち構えていたのは、ヒーローたちだった。

 

 「——確保しろ! 一人も、逃がすな!」

 

 エッジショットが、声を張り上げる。避難誘導を終えたヒーローたちが、荒野の外縁で、逃げ延びてきたヴィランを、次々と捕らえていく。

 

 彼らは、決戦の主役では、なかった。あの怪物を倒したのも、脳無を一掃したのも、彼らではない。ヒーローは、終始、盤の外にいた。

 

 だが——今、この瞬間。逃げ散る危険分子を捕らえ、これ以上の被害を防ぐ。その仕事は、確かに、ヒーローの手にあった。

 

 派手な活躍ではなかった。誰かを劇的に救うわけでも、ない。ただ地道に、

逃げるヴィランを捕縛し、街の安全を少しでも取り戻す。

 

 それでも。

 

 「……これが、今の俺たちに、できることだ」 ベストジーニストは、ヴィランに手錠をかけながら、静かに呟いた。「倒せなくても。勝てなくても。——それでも、拾えるものは、拾う。守れるものは、守る。それがヒーローだ」

 

 力の及ばぬ戦の、その後始末を。英雄たちは、黙々と引き受けていた。

 

 華々しさはなくとも、その手は確かに、人々の明日を守っていた。

 

 

 荒野に、静けさが戻り始める。

 

 史上最大の戦は——僭帝と異能解放軍の、圧倒的な勝利で、幕を閉じようとしていた。

 

 脳無は消え、連合は瓦解し、怪物は塵に還った。

 

 残ったのは、勝者の軍勢と。空に浮かぶ、白い蛾と。その真下に佇む、白い王だけ。

 

 そして——高台の英雄たちの胸には、拭いきれぬ畏怖と、一つの決意が、刻まれていた。

 

 あの王と、戦ってはならない。あの王とは——いつか、言葉を、交わさねばならない。

 

 力が支配した戦場の、その果てで。「対話」という、か細い希望の芽だけが、静かに、次の時代を、指し示していた。

 

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