三つ巴編 第21話「戦の後」
世界を終わらせかねなかった怪物が、一振りで消えた。
——見ていた英雄たちは、言葉を失う。
あれが、我々の託した、子供の力か、と。
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遠く離れた高台から、その一部始終を見ていた者たちがいた。
ホークスと、エンデヴァー。戦場には手を出せず、ただ、市民避難の指揮を執りながら、荒野の決着を見届けていた二人だ。
死柄木弔が、崩れ落ちる。あの、AFOを超えたと噂された怪物が。あの、世界を終わらせかねなかった災厄が。——白い王の、たった一振りで、塵に還った。
二人は、しばらく言葉を発せなかった。
「……嘘、だろ」先に口を開いたのは、ホークスだった。掠れた声。
「あれが……あれだけの怪物が。あんなに、あっさり……」
彼は、羽根を震わせた。
「俺たちが全戦力で挑んでも、勝てなかった。改造で、AFOを超えた。
世界の脅威、そのものだった。——それが。まるで、道端の石ころでも、どけるみたいに。一瞬で」
エンデヴァーも、拳を握りしめたまま、動けなかった。
炎の英雄の目に映っていたのは、恐怖だった。賞賛ではない。あれは、賞賛できるような、生易しいものではなかった。——ただ、底知れぬ、畏怖。
「……関わっては、ならん」エンデヴァーが、低く呻いた。
「あれは。人が、どうこうできる、領域にない。俺たちが、僭帝を、倒そうとしていたなど……今思えば、正気の沙汰ではなかった」
二人は痛感していた。祈るしかなかった。その選択が、正しかったことを。そして——あの王と、二度と事を構えてはならないことを。
力では決して、届かない。ならば、残された道は。——やはり、対話しか、ない。彼らの結論が、より深く骨に刻まれた。
頭を失った戦場は、急速に収束へと向かっていた。
死柄木という指令塔を失った脳無の群れは、統率を欠き、ただの肉塊と化していた。そこへ、僭帝の幹部たちと、異能解放軍の軍勢が、容赦なく襲いかかる。
エディの一撃が、脳無をまとめて吹き飛ばす。チェインの連撃が、群れを刻む。アル・カイドの爆炎が、残党を薙ぎ払う。赫飛の影が、逃げ惑う個体を、次々と呑み込んでいく。
十一万の異能解放軍も、脳無の掃討に加わった。頭を失った獣を狩るのは、もはや、作業に過ぎなかった。
半刻もせぬうちに、脳無の群れは、ほぼ、一掃された。
そして——連合の、残された雑兵たち。
大将を失い、脳無も消え、彼らは、完全に、戦意を喪失していた。あれほど恐れられた、ヴィラン連合。その残党が、蜘蛛の子を散らすように、荒野の各所へと、逃げ散っていく。
もう、組織の体を、成していなかった。死柄木弔、ただ一人で、辛うじて繋がっていた寄り合い。その頭が消えた今、連合は——文字通り、瓦解した。
その、散り散りに逃げるヴィランたちを。
待ち構えていたのは、ヒーローたちだった。
「——確保しろ! 一人も、逃がすな!」
エッジショットが、声を張り上げる。避難誘導を終えたヒーローたちが、荒野の外縁で、逃げ延びてきたヴィランを、次々と捕らえていく。
彼らは、決戦の主役では、なかった。あの怪物を倒したのも、脳無を一掃したのも、彼らではない。ヒーローは、終始、盤の外にいた。
だが——今、この瞬間。逃げ散る危険分子を捕らえ、これ以上の被害を防ぐ。その仕事は、確かに、ヒーローの手にあった。
派手な活躍ではなかった。誰かを劇的に救うわけでも、ない。ただ地道に、
逃げるヴィランを捕縛し、街の安全を少しでも取り戻す。
それでも。
「……これが、今の俺たちに、できることだ」 ベストジーニストは、ヴィランに手錠をかけながら、静かに呟いた。「倒せなくても。勝てなくても。——それでも、拾えるものは、拾う。守れるものは、守る。それがヒーローだ」
力の及ばぬ戦の、その後始末を。英雄たちは、黙々と引き受けていた。
華々しさはなくとも、その手は確かに、人々の明日を守っていた。
荒野に、静けさが戻り始める。
史上最大の戦は——僭帝と異能解放軍の、圧倒的な勝利で、幕を閉じようとしていた。
脳無は消え、連合は瓦解し、怪物は塵に還った。
残ったのは、勝者の軍勢と。空に浮かぶ、白い蛾と。その真下に佇む、白い王だけ。
そして——高台の英雄たちの胸には、拭いきれぬ畏怖と、一つの決意が、刻まれていた。
あの王と、戦ってはならない。あの王とは——いつか、言葉を、交わさねばならない。
力が支配した戦場の、その果てで。「対話」という、か細い希望の芽だけが、静かに、次の時代を、指し示していた。