空っぽの王様のひとつだけ   作:カルキよし

87 / 87
第84話「最後通牒」

夜明け編 第14話「最後通牒」

 

かつて、誰もこの王を止められなかった。

 

——ただ一人、眠る少女を除いて。

 

その少女は今、目を覚まさない。

 

 

 その夜、全ての放送が乗っ取られた。

 

 テレビもラジオも、街頭の大型ビジョンも。あらゆる画面が、暗転

し——そして、一人の男を映し出した。

 

 覇王エディ。

 

 僭帝の大幹部。純破壊力最強の男。その男がカメラの前に腰を下ろし、静かに、口を開いた。国民の全てがその姿を見ていた。

 

 

 「——夜分に失礼する」

 

 エディの声は落ち着いていた。恫喝も、激昂も、なかった。ただ事実を告げる口調だった。だからこそ、聞く者の背筋を凍らせた。

 

 「俺は僭帝のエディ。ボスの言葉を、伝えに来た。……だがその前に。あんたら、国民に。聞いてほしいことが、ある」

 

 彼は、静かに続けた。

 

 「うちのボスは。——何も、悪いことはしていない」

 

 その一言に日本中が、耳を疑った。

 

 「ボスは、この国に何も要求しなかった。支配しようとも、しなかった。

ただ、静かに暮らしていた。……それだけだ。それどころか、な。

——AFOを、倒したのは誰だ。ファナティカを、死柄木を止めたのは。

この国が、何度、あの怪物どもに滅ぼされかけた。その度に、あの王が片づけてきた。あんたらの、知らねえところで」

 

 エディの目が。カメラをまっすぐに射抜いた。

 

 「その男が。ただ静かに生きていた。——なのに」

 

 

 「政府はその男の、大切な者を撃った」

 

 声が、低く響いた。

 

 「子供だ。まだ幼い女の子だ。——三キロの彼方から。個性持ちの狙撃手を、

使って。それも、一度じゃねえ。二度だ。一度詫びると言っておきながら。

裁判を開くと、約束しておきながら。その裏でまた撃った。——何も悪いことをしていない男の、たった一つの大切なものを」

 

 国民が息を呑む音が。日本中で重なった。——政府が。子供を暗殺?

 

 「なぜだと、思う?」エディは問うた。国民に

 

「あの王が、強すぎたからだ。何も求めねえがゆえに、御せなかったからだ。

——恐いから殺す。手に負えねえから消す。……そのために子供を撃った。それが、あんたらの政府の、正体だ」

 

 彼は、一拍置いた。

 

 「——さて。悪いのはどっちだ?」

 

 

 「王は、こう言っている」

 

 エディの声が、静かに、戻った。

 

 「この国の、総理大臣。全ての大臣 官僚 そして、公安のトップ。

——あの少女に、手を出す判断を下した者。承認した者。その全員の身柄を。二十四時間以内に。僭帝の城へ差し出せ」

 

 静寂。

 

 「差し出さなければ」

 

 一拍。

 

 「東京から、破壊する」

 

 

 その言葉に。飾りはなかった。

 

 「これは、脅しじゃ、ねえ」エディは、静かに言った。

 

「予告だ。二十四時間。身柄を差し出せば。ボスは止まる。……差し出さなければ、動く。——止められる者はいねえ。この国の軍も。ヒーローも。何をしても無駄だ」

 

 彼は、僅かに目を伏せた。

 

 「ボスを止められるものは、この世に、たった一つしかなかった。

……そして、それは今。政府が撃った。——だからこうなってる」

 

 放送はそこで切れた。画面が暗転した。——後には、静寂と二十四時間という砂時計だけが、残された。

 

 

 政府は、恐慌に陥っていた。

 

 だが、その恐慌の中心にあったのは。意外にも、罪の露見では、なかった。

子供の暗殺が、世界に知られたこと——それも、確かに致命傷だった。だが、それ以上に。彼らを震え上がらせた事実があった。

 

 「……なぜだ」公安の実務を担ってきた官僚が呻いた。蒼白な顔で。

「なぜ、あの子供は。——生きている」

 

 室内の誰もが、同じ問いに、囚われていた。

 

 作戦の大前提。それはこうだった。——あの少女こそ、王の命綱。少女を殺せば、王も死ぬ。あるいは、無力化する。かつて掴んだ、情報。

 

「王を殺したくば、隣の少女を殺せ」それを信じて、全てを組み立てた。

 

 だからこそ。狙撃手の口封じすら、しなかった。

——どうせ、少女が死ねば王は終わる。ならば、狙撃手が後で捕まろうが、

喋ろうが。もうあの怪物は動けない。そう高を括っていた。

 

 なのに。

 

 「少女は……確かに、撃った」官僚の声が、震えた。

「急所は、逸れたが。……瀕死の、はずだ。命綱は断ったはず。なのに。——なぜ、王はあんなにも。無傷で。動いている——!?」

 

 彼らは、知らなかった。寄心が移されたことを。ミカからエディへ。王の命綱が、既に別の場所にあることを。——彼らの作戦の根幹が、最初から崩れていたことを。

 

 前提が幻だった。その幻の上に国家は、子供を撃ち。

 

そして今——止められない破壊を、招いていた。

 

 

 ヒーローたちは。

 

 別の、絶望に沈んでいた。

 

 「……止められなかった」オールマイトが、呟いた。痩せたその身震わせて。

 

「あの子が、破壊の王になるのを。……私たちは、止められなかった」

 

 彼の脳裏にあの教室が蘇っていた。緑谷と、相澤と語り合った、あの夜。

——あの子に扉を開こう。学校を。子供として生きる、道を。神野で背負わせた重荷を、今度こそ下ろしてやろう。

 

 その計画は、実行される前に砕かれた。国家の凶弾に。そして今、あの子は——扉の向こうの、穏やかな未来ではなく。破壊の王として、この国を滅ぼそうと、している。

 

 「間に合わなかった」オールマイトの声が、掠れた。

「また……また、私は。子供を救えなかった。守れなかった、どころか。……あの子を。あんな場所へ、追いやってしまった」

 

 ホークスが、拳を握った。「……止める、方法は。ないのか。何か。一つでも」

 

 誰も、答えなかった。

 

 答えは、全員が、知っていた。——ない。

 

 あの王の力は絶対だ。不変。あらゆる干渉を拒む。物理も個性も、通じない。

国の全軍をぶつけても、ヒーローの総力を挙げても、あの王を止めることは、できない。——そして、唯一、あの王を止められた少女は。今、生死の境で、眠っている。

 

 止められる者が。この世に、一人もいなかった。

 

 

 二十四時間の砂時計が、静かに落ちていく。

 

 日本中が。いや世界中が。固唾を呑んで、見守っていた。あの破壊の王が動き出す、その瞬間を。

 

 国家は震えていた。誤算の恐怖に。ヒーローは沈んでいた。無力の絶望に。

国民は、怯えていた。明日、東京が消えるかもしれないという、現実に。

 

 誰も。

 

 あの王を、止められない。

 

 この世界の、どこにも。あの決壊した王の前に、立てる者など——もう、いなかった。

 

 砂時計が、落ちる。

 

 破滅への時が、刻一刻と、近づいていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

個性『異生獣(スペースビースト)』~僕とトガちゃんの共犯者物語~(作者:復活のB)(原作:僕のヒーローアカデミア)

『連続失血死事件』▼世間を騒がせるヴィラン───トガヒミコ▼その傍らには、もう一人の‘‘怪物,,がいた▼ヴィラン名『スペースビースト』▼本名『綾瀬黒斗』▼無数の‘‘異生獣(スペースビースト),,を操り、自らもビーストへと変貌する少年▼だが彼は、生まれながらの怪物でありながら誰よりも人間を理解していた▼そして誰よりも、一人の少女を理解していた▼これはヒーローの…


総合評価:438/評価:7.09/連載:14話/更新日時:2026年07月25日(土) 00:00 小説情報

善意の剥製(作者:タロットゼロ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

「あの子が持ち上げたのは法律じゃない。鉄の塊だ」▼九歳で奇跡を起こし。▼数カ月後に社会に疑われ。▼十四歳で、彼女は「完璧な淑女」として、かつて自分を捨てた世界を否定し始める。▼【警告】この物語に、救世主(ヒーロー)は現れません


総合評価:1458/評価:7.45/連載:28話/更新日時:2026年08月01日(土) 00:01 小説情報

帰ろう、弔くん(作者:カカカカカカオ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ヒーローになりたい無個性の少年は努力を続けた▼だが彼はヴィランになった▼これは少年が夢を叶える物語


総合評価:237/評価:6.57/連載:12話/更新日時:2026年03月31日(火) 20:39 小説情報

私、ヴィランを目指します!(作者:Sano / セイノ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

人生二週目の女の子。彼女の瞳に映るのは、ヒーローたちが華々しく活躍し、悪逆非道なヴィランたちが跋扈するヒロアカの世界。これは、彼女が最強で最凶で最恐のヴィランになるまでの物語。▼※pixivでも閲覧できます(https://www.pixiv.net/users/1542351)


総合評価:880/評価:7.43/連載:64話/更新日時:2026年08月03日(月) 23:00 小説情報

個性図書館によるヒーローアカデミア(作者:ヨガマスター)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ヒロアカを見ながらLibrary of ruinaをやってたら死んだっぽい。▼そしたらなんかヒロアカの世界に転生した。▼しかも個性図書館。▼……どうしよ?▼ヒロアカ世界で図書館の機能を使えるように拡大解釈と強化が施されてるのでそこで無理になった人は素直に見るのをやめましょう。▼あと作者は割とヒロアカのにわかだから設定に矛盾があったらごめん▼ちなみに個性図書館…


総合評価:2468/評価:8.14/連載:29話/更新日時:2026年08月05日(水) 12:03 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>