空っぽの王様のひとつだけ   作:カルキよし

99 / 99
第96話「直す手」

夜明け編 第27話「直す手」

 

壊すことしか、できなかった手が。

 

——今直すことを覚えた。

 

---

 

 決戦から幾日かが過ぎた。

 

 新宿は、まだ傷跡だらけだった。両断された摩天楼。崩れ落ちた鉄骨。裂けたアスファルト。あの夜の破壊の爪痕が、そこかしこに生々しく残っていた。

 

 だが——その傷跡の只中に、人々の姿があった。

 

 瓦礫を運び鉄骨を撤去し道を均していく。数え切れないほどの人手。

それは——僭帝の、二十万だった。

 

 

 

 かつて、この国を丸ごと人質に取った武装組織。国家戦力に匹敵する、二十万の兵。その力が今、まったく別のことに使われていた。

 

 破壊ではなく。再建に。

 

 シュンカの号令だった。

 

 「僕たちが壊した。……だから僕たちが直す」

 

 それだけの言葉だった。理屈も演説もなかった。ただ、当たり前のことのように

彼はそう言った。そして二十万は動いた。かつて破壊の道を開いた同じ手で

今度は瓦礫を退け、街を建て直していく。

 

 エディが資材の手配を取り仕切った。蔦漆が復興の工程を緻密に組み上げた。

チェインと赫飛が力仕事の先頭に立った。イズナやアル・カイドすらぶつくさ言いながら、瓦礫を運んでいた。かつてこの街を裂いた者たちが。今汗を流して、それを直している。

 

 

 

 それは、償いだった。

 

 政府がミカを傷つけた罪を、これから法の下で償うように。シュンカもまた

自らの破壊の責任を、この手で果たそうとしていた。壊した者が直す。奪った者が返す。——一方が裁かれ、一方が免れるそんな歪な話ではなく。

傷つけた者は皆それぞれのやり方で償う。

 

 そして、それは同時に。一つの証でもあった。

 

 かつてのシュンカは、その力を破壊にしか使えなかった。世界を拒み、断ち切ることしか。——けれど今、彼はその同じ力を。直すことに使っている。守ることに使っている。

 

 力の使い道が変わったのだ。彼の心が変わったように。

 

 瓦礫の山の上で指示を出すシュンカをオールマイトが静かに見つめていた。

 

 「……変わったな」彼は傍らの緑谷に呟いた。

「あの子は。もう、あの何もかもを拒んでいた子じゃない」

 

 緑谷が頷いた。目を潤ませて。「はい。……ちゃんとこっちを向いてくれてます」

 

 

 復興の現場には、ヒーローたちの姿もあった。

 

 オールマイトが。緑谷が。ホークスが。エンデヴァーが。その他大勢のヒーローが

傷が癒えるのを待たずに、瓦礫の撤去に加わっていた。そして僭帝の幹部たちと肩を並べて、働いていた。

 

 つい先日まで殺し合う寸前だった者たちが。今、同じ街を直している。

 

 あの防衛共闘——刃の中を共にミカを守って進んだ、あの共闘が今形を変えていた。共に守るから。共に作るへと。それは共存という気の遠くなる道の、ささやかなけれど確かな第一歩だった。

 

 「おい、そっち持て」ホークスがイズナに、声をかける。「あいよ」

イズナが鉄骨の反対側を掴む。

——かつての敵同士が当たり前のように力を合わせる。そんな光景があちこちで生まれていた。

 

 

 そして——街には少しずつ、市民の姿も戻り始めていた。

 

 避難していた人々が、恐る恐る自分たちの街へと帰ってくる。

そして彼らは見た。自分たちを恐怖させた、あの破壊の王とその一党が。

汗を流して、街を直している姿を。

 

 人々の目の色が変わっていった。

 

 「……あの子たちが、直してくれてるの?」誰かが呟いた。

「壊したのはあの子たちなのに……」別の誰かが。「でも……悪いのは、政府だったって。あの、放送で……」

 

 やがて人々は、口々に言い始めた。かつて「化け物」と叫んだその同じ口で。

 

 「ありがとう」「あんたたち、本当は、いい子だったんだね」「政府に、こんな目に遭わされて。可哀想に」

 

 手のひらを返すように。恐怖は同情へ。憎悪は感謝へと。人々の心はたやすく移ろっていった。

 

 

 

 その光景をシュンカは、瓦礫の上からぼんやりと見ていた。

 

 傍らのミカに彼はぽつりと言った。

 

 「……よく分かんない」

 

 ミカが、彼を見上げる。

 

 「あの人たちこの前まで、僕たちのことすごく怖がってた。殺せって、言ってた人も、いた。……なのに、今はありがとうって。可哀想にって」。彼は小首を傾げた。「なんで、そんなにコロコロ変わるんだろう。……よく分かんないや」

 

 そこに怒りはなかった。軽蔑すらなかった。ただ純粋な不思議だけがあった。

世界を拒絶した王は。世間の評価の移ろいやすさを責める気にもならなかった。

そもそも、関心が湧かないのだ。

 

 「どうでもいいんじゃない」ミカが素っ気なく言った。「あんなの」

 

 「うん」シュンカは頷いた、あっさりと「どうでもいい。……僕にはミカとみんながいれば。それでいいから」

 

 

 

 人々が何と言おうと。恐れようと感謝しようと。それはシュンカの世界には届かなかった。彼が求めたものは最初から、世間の承認ではなかったからだ。ただミカと。

そして家族になった僭帝の皆と。静かに生きられればそれで良かった。

 

 だからこそ——彼は承認の移ろいに振り回されない。誰に何を言われようと。

彼の世界は、既に満たされていた。

 

 求めなかった者は。世間の評価といううつろいやすいものの外側にいる。

褒められても貶されても揺らがない。なぜならそれを必要としていないから。

 

 崩れた街が少しずつ、形を取り戻していく。壊した手が直していく。

その中心で王と姫は、ただ静かに寄り添っていた。世界の喧騒のずっと外側で。

 

 直す手は確かに動いていた。壊すことしか知らなかった手が。

誰かのために何かを作ることを。ようやく覚えたのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

個性『異生獣(スペースビースト)』~僕とトガちゃんの共犯者物語~(作者:復活のB)(原作:僕のヒーローアカデミア)

『連続失血死事件』▼世間を騒がせるヴィラン───トガヒミコ▼その傍らには、もう一人の‘‘怪物,,がいた▼ヴィラン名『スペースビースト』▼本名『綾瀬黒斗』▼無数の‘‘異生獣(スペースビースト),,を操り、自らもビーストへと変貌する少年▼だが彼は、生まれながらの怪物でありながら誰よりも人間を理解していた▼そして誰よりも、一人の少女を理解していた▼これはヒーローの…


総合評価:448/評価:7.09/連載:14話/更新日時:2026年07月25日(土) 00:00 小説情報

善意の剥製(作者:タロットゼロ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

「あの子が持ち上げたのは法律じゃない。鉄の塊だ」▼九歳で奇跡を起こし。▼数カ月後に社会に疑われ。▼十四歳で、彼女は「完璧な淑女」として、かつて自分を捨てた世界を否定し始める。▼【警告】この物語に、救世主(ヒーロー)は現れません


総合評価:1469/評価:7.45/連載:29話/更新日時:2026年08月06日(木) 00:01 小説情報

地獄の氷叢さん家(作者:M.T.)(原作:僕のヒーローアカデミア)

地獄の轟くん家以上に地獄の氷叢分家の女の子がヒーローを目指すお話。▼燈矢くんや外典くんを見て、氷叢の血が濃くなりすぎた末路が気になって執筆した作品です。▼※注意▼・女主です。▼・お話の都合上、青山くんが出てきません。すまんな。▼・他作品のクロスオーバーをやり出す可能性があります。▼・オリ主の必殺技や一部設定のみ、以下のキャラの要素があります。▼ ・クザン(O…


総合評価:1895/評価:8.09/連載:52話/更新日時:2026年08月10日(月) 12:07 小説情報

私、ヴィランを目指します!(作者:Sano / セイノ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

人生二週目の女の子。彼女の瞳に映るのは、ヒーローたちが華々しく活躍し、悪逆非道なヴィランたちが跋扈するヒロアカの世界。これは、彼女が最強で最凶で最恐のヴィランになるまでの物語。▼※pixivでも閲覧できます(https://www.pixiv.net/users/1542351)


総合評価:884/評価:7.43/連載:66話/更新日時:2026年08月08日(土) 23:55 小説情報

俺の個性はサイキョー(作者:鈴木颯手)(原作:僕のヒーローアカデミア)

エンデヴァーこと轟炎司の生き写しのような焦凍の双子の兄が雄英高校に通う話。▼※ヒロインタグを追加しました。▼※ヴィラン予備軍タグを追加しました。


総合評価:2502/評価:6.97/連載:32話/更新日時:2026年07月18日(土) 12:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>