戦場のヴァンガード   作:栗山飛鳥

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report#4「地獄の首都防衛戦」

「その戦い、ちょっと待ったああああああぁぁぁぁっ!! ……って、あれ?」

 これまでのように単身で戦場に躍り出たフランは、これまでと違う戦場の様子に小首を傾げた。

 戦いはすでに決していた。それ自体はおかしなことではない。戦闘行為が行われている地域は独自の情報網で知るしかなく、そこから慌てて駆けつけているので、どうしてもライムラグがある。実際、フランが最初に乱入した戦場も、ほとんど勝敗が決していた。違うのは、これまでの戦場が死屍累々であったのに対し、この戦場は西軍の兵士達の多くが、既に両手を頭の後ろに回された状態で並べられており、本当に戦いがあったのか(ひいては本当に西軍は抵抗していたのか)疑わしいほどスマートに決着していた。

「何者だ」

 東軍の指揮官と思しきサングラスをかけた大男の、低く、静かな、されどよく通る声に誰何され、フランは身を竦める。続いて周囲の男達から一斉に銃を向けられるが、それはほとんど気にならなかった。というのも、無数の銃口よりも、目の前の大男から放たれる殺気の方が遥かに恐ろしかった。これまでどんな状況でも飄々と自分のペースを崩さなかったフランですら萎縮してしまうほどに。

 それに気づいたのか、大男が身振りだけで銃を下ろさせ、努めて優しい声音でフランに話しかける。

「お嬢さん。ここは戦場だ。あなたのことは見なかったことにするから、今すぐこの場を離れなさい」

 紳士だ。問答無用で殺そうとしてきたどこぞのイケメンとは大違いである。

「ところがそうもいきません」

 いつもの調子を取り戻したフランが、カードゲームによる代替戦争を提案する。大男は真剣にそれを聞いていた。

「なるほど、興味深い。我が東軍、そして西軍の諸君。自分は彼女の勇気ある試みを試してみたいと考えるが、いかがか?」

 大男の問いかけに、それを受けない理由がない負け戦の西軍はもとより、東軍の兵士からも反対は一切挙がらなかった。彼の判断にすべて従うという鉄壁の信頼が感じられた。

 ここまでとんとん拍子に話が進んだのは初めてのことである。フランはほくほく顔でアタッシュケースを開いた。

「それではどのデッキを使いたいですか? ドラゴンさんに、怪獣さん。スーパーなロボットまで何でも取り揃えて――」

「それがいい」

 フランが言い終わるより早く、黒い皮手袋に覆われた武骨な指がケースの隅を指し示した。

「え?」

 そこにあったのは、ズボラなフランが組みかけのデッキを裏向きにして置いてあったカードの束。戦場で配布するチュートリアル用のデッキではなかった。

「その娘がいい」

 大男が静かだが断固とした声音で言い直した。

「ふーむ、どうしましょう。……あなたは彼と一緒にいたいですか?」

 悩んだフランはカードに問いかけ……やがて彼女は満面の笑みで頷いた。

「わかりました! この子はあなたに託しましょう」

「感謝する」

 適当にカードを水増しして50枚のデッキに仕上げたその束を男に手渡す。

 受け取ったそれを1枚1枚真剣な表情で確認する彼の横顔を微笑ましく眺めながら、フランはふと疑問に思い至った。

(そう言えば、裏向きにして置いてあったのに、なんで女の子だとわかったのでしょうか……?)

 心中の問いに答えはなく、男はただ慈しむようにカードに触れていた。

 

 

●~~~~*

 

 

 “地獄猟犬(ヘルハウンド)”首都に迫る!

 

 その報によって西軍全体が浮足立ち、大混乱に陥った。そして、そのほとんどが「首都が危機に陥っていること」ではなく「地獄猟犬が迫っていること」を恐れていた。

 地獄猟犬とは、生きながらにして伝説になった、とある東軍兵士の異名である。

 巨躯でありながら俊敏。冷静でありながら苛烈。指揮官としても優秀で、彼の指揮する部隊は群が個の如く自在に動く。故に猟犬。その名は東軍のみならず、西軍からも兵士の理想にして究極と畏れ敬われているほどである。

 そんな彼の打ち立てた数多の偉業のうち、代表的なものが――

 曰く、1000人以上の兵士が駐留する基地を単独で一夜にして壊滅させた。

 曰く、投石で戦闘ヘリを撃ち落とした。

 曰く、ロケットランチャーの直撃で手足を吹き飛ばしたはずが、1週間後にはピンピンして戦場に復帰していた。

「いや! 人間じゃねーだろ! もう! それは!」

 机にバンバンと掌を叩きつけてジョーが叫ぶ。

 場所は首都に設置された作戦会議室代わりの小さなテント。そこにサラやジョーをはじめとした首都防衛のため編成された部隊が詰め込まれている。急遽召集されたメンバーの初顔合わせと、作戦を擦り合わせるための会議だったが、肝心の指揮官がてんやわんやしていて不在のため、ほとんど兵士達の雑談場になっていた。

「なんで兵士として優秀な人がヴァンガードでも強いのよ……」

 サラも大袈裟に肩をすくめながら頭を大きく振った。

 今でこそ西軍を代表する精鋭のひとりだが、ヴァンガードが広まる前は名もなき一般兵Aだったサラからすれば、天が二物を与えたような理不尽を感じるのだろう。

 実際、サラ達に比肩する精鋭部隊で構成された首都攻略部隊は、ほとんどが地獄猟犬に蹴散らされたと聞く。その勢いのまま地獄猟犬の部隊は西側の首都に迫り、もう1時間後には首都を賭けた決戦が行われる。フランが定めたルールでは、首都が陥落した時点で、落とされた側の敗北が決定する。街が火の海にならないことだけは救いだが、東の支配下になればどうなるかわからない。こうしてカードゲームをしていると、ふと忘れそうになるが、長きに渡り諍い続けてきた東西の確執は根深い。

「……私達で守ろうよ、この街を」

 アテにならない指揮官に代わって、サラが口を開いた。

「絶対に踏みにじらせちゃいけない。私達が兵士になった理由を思い出せ!」

 その言葉に兵士達は一丸となり応!と声をあげ、隣では目立つことを嫌うサラの性格を知っているジョーが意外そうにヒューと口笛を鳴らしていた。

 兵士になってから、女でよかったことなどまるで無かったが、こういう時だけは便利だなと思い直す。とかく男達は追い詰められると戦乙女や勝利の女神を求めたがる。それは歴史を見ても明らかだ。

(こんなの戦乙女でも女神でもない、ただの生贄だけどね)

 穢れなき乙女だけに許された貧乏くじ。

 盛り上がってきた士気を落とさぬよう作り笑顔のまま、サラは内心で吐き捨てた。

 

 

●~~~*

 

 

 1時間後、首都決戦の会場となる巨大なテントに集められた両軍は整列して向かい合った。西軍が100に、東軍が30。数の上では西軍が有利である。だが西軍は寄せ集めで、東軍は連勝を重ねて勢いがあり、それを地獄猟犬というカリスマがまとめている。

 地獄猟犬が誰かはすぐにわかった。総じて体格のよい兵士達の中にあって、さらに一際巨大な大男がいた。身長は2メートルを超えているだろう。もちろん全身も鍛えあげられており、きっちり着こなされた軍服が内側からはちきれんばかりに膨らんでいた。短く刈り込まれた黒髪に、目元を覆う大きなサングラスも噂に聞いていた通りである。

 その隣には、かつて対戦したリオン少年がおり、サラは手を振りたい衝動に駆られたが、さすがにふざけていられる状況ではないので自重した。

 そんなくだらない葛藤をしている間に、大男が一歩前に進み出る。

「西軍の諸君! 我が名は――地獄猟犬と言った方が通りがいいかな」

 広いテント中に響き渡る大音声にも関わらず、落ち着いて聞こえる不思議な声音だった。

「自分は貴官らの中で最も強き者との対戦を所望する。これを受ける意思あらば、名乗り出てもらいたい」

「私だよ」

 西軍から進み出たのはサラだった。これまで幾多の戦線を支えてきた自負もあったし、戦乙女役(いけにえ)を引き受けた以上、ここでエースを潰して敵の士気を下げ、味方の士気を高めるのが使命だ。

「貴官の勇気に敬意を表する」

 地獄猟犬は音を立てて敬礼すると、最も目立つ壇上にあるテーブルへと歩を進め、サラもそれに続く。

 本来であれば他の兵士達も次々にマッチングしていくのだが、誰もそれをせず地獄猟犬とサラのテーブルを遠巻きに見ていた。

 誰もが理解していた。このファイトが事実上の決勝戦であると。

「頼むぜ、サラ……」

 ジョーが祈るように義手の拳を握る。

「おい」

 そんな彼に声をかける男がひとり。

「お前は……!」

 ジョーが振り向くと、そこには東の軍服を完璧に着こなした、艶のある黒髪の美男子が立っていた。

「ルイだ」

 美男子が名乗る。

「名前を聞いたんじゃねぇ。何でお前がここにいるんだ。お前は今日のファイトには出れないだろ」

 ジョーは剣呑にルイを睨みつけた。彼はジョー達精鋭部隊を釣り上げるための囮部隊を率いていた男だ。今の西軍に不利な状況は彼に依るところが大きい。だが、その代償として、彼はサラにファイトで負けている。ファイトに負けた兵士は負傷兵扱いとなり、一週間ファイトに参加できないペナルティが与えられるのだが。

「観戦は自由だ。お前達の負ける様を笑いに、そして同志の勝利を祝いに来た」

「そうかい。ならお仲間と観戦してりゃいいだろうが」

「俺の見立てでは、あそこのふたりの次に強いのはお前だ。同じ観戦するのなら、敵味方問わず強い者と意見を交換し合いながらの方が有意義だ。反論はあるか?」

「なっ! おっ、お前っ……見どころあるなぁ」

 おだてられ、ジョーの相好があっさりと崩れる。

「ふっ。予想通りに単純な男だ。そういう男は嫌いではない」

(好きなように操りやすいからな)

 隠した本音は心の中だけで呟かれた。

「おいおい、気持ちの悪いこと言うなよ。僕にそっちの趣味はないぞ」

「余所見していていいのか? そろそろ始まるぞ」

「おっと」

 ルイの、ジョーの、そしてこの場にいる兵士達すべての視線が壇上に注がれる。

 一方、地獄猟犬と相対しているサラは戦慄していた。

 強者から放たれる圧倒的な気配に、ではない。

 その逆だ。

 これほどの巨体、それも生きながらにして伝説と称されるほどの兵士が目の前にいるのに、一切の気配が感じられなかった。

 戦場でも同じように気配を消せるのだとしたら、茂みに潜まれるだけであっさり背後を取られてしまいそうだ。なるほど、まさしく猟犬である。

「自分の名はジンと言う。手合わせをお願いする」

 そう言って地獄猟犬改めジンは手を差し出してきた。ファイト前後で名乗る者はたまにいるが、握手まで求めてくる者は珍しい。彼らにとってカードゲームはスポーツではなく戦争なのだから。

「サ、サラだよ。よろしくね……」

 どこを取っても異質な存在感に気圧されながらも、サラはその手を握り返した。その手は黒い皮手袋越しにでも分かるほどゴツゴツしていて、まるで金属のようだった。

「では、はじめようか。君達には悪いが、戦は今日で終わりにさせてもらう」

「そう上手くいくとは思わないことね」

 ふたりがテーブルにデッキを置き、カードを引いた瞬間、あたりが呼吸を止めたように静まり返った。

「準備はよいか?」

「いつでも」

「では……」

「「スタンドアップ! ヴァンガード!」」

「《MiMish タビーライラ》」

「《幼竜 ガルグレックス》」

 

 

●~~*

 

 

 霊体となったサラが降り立ったのは、青空を雄大に泳ぐ巨大なクジラの背。そこに築き上げられた学園都市であった。

 銃痕ひとつない街並み、塵と硝煙で曇ることのない空、明日に自分が死ぬことなど考えたこともないような学生達。

「…………」

 そのすべてが羨ましく、サラはギリリと奥歯を噛みしめた。

「自分のターン。スタンド&ドロー。《MiMish アズハチル》にライド。自分はこれでターンエンドとする」

「私のターン。スタンド&ドロー! 《鉄爪竜 ガルグレックス》にライド! G0ガルグのスキルで1枚ドロー! ライドコストとして捨てられた《旋虐竜 ベリジェアクロ》をスペリオルコール! 手札から《祭砲竜 ディノフェスト》をコールして、バトル!

 ガルグレックスでヴァンガードにアタック!」

「《ピースフルガーデン アニカ》でガード」

「ドライブチェック! ……ゲット! ★(クリティカル)トリガー! 効果はすべてベリジェアクロに!

 ディノフェストのブースト! ベリジェアクロでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード。ダメージチェック……2枚目ともノートリガー」

「ディノフェストをバインドしてスキル発動! 山札の上から5枚見て……ベリジェアクロを手札に加えるよ! 私はこれでターンエンド」

「よっしゃ! これで次のターンもベリジェアクロ確定だぜ!」

 会場がどよめき、中でも一際大きくジョーの声が響いた。

「なるほど。悪くない速攻だ」

「上から目線で人を評価するのやめてもらえる?」

「失礼した。これでも一軍の将でな。こういう話し方がクセになっていたようだ。気を悪くしたなら謝罪しよう」

「あ、ごめん。そんなつもりじゃ……」

 いい人すぎて調子が狂う。ルイのように性根がひん曲がっている対戦相手の方がよっぽどやりやすい。

「では、ターンをいただこう。スタンド&ドロー。

 ……それに速攻なら、自分にも多少の心得があるのでな」

「え……?」

「《MiMish リカシェンナ》にライド。ライドされたアズハチルのスキルで彼女をスペリオルコール。

 リカシェンナの後列に《ActableCrescent シェルナリーシュ》をコール。これによりリカシェンナとシェルナリーシュはフレンド能力により戦友となる」

 カードをこの国の言語に翻訳する際、手違いがあったのか、“友達“のニュアンスが微妙に違う。

「シェルナリーシュのスキルで山札の上から5枚を見て、《君と過ごすこの一瞬を ストラス》を手札に加え、ストラスをコール。

 ストラスのスキルで、ドロップから《Hoppin’Stellar メルティ》をスペリオルコール。メルティのスキルで、手札から《わいわいハイテンション ロクセラ》をスペリオルコールし、1枚ドロー。

 これによってロクセラとアズハチル、メルティとストラスはそれぞれ戦友となる」

(3ターン目で、もう盤面を埋められた……!)

「バトルフェイズへ移行する。

 ストラスのブースト、メルティでヴァンガードにアタック。フレンド能力を持つリアガードが3枚以上あるので、ストラスはブーストを得ている」

「《バーニングフレイル・ドラゴン》でガード!」

「シェルナリーシュのブースト。リカシェンナでヴァンガードにアタック。戦友が5枚以上いるので、シェルナリーシュと同じ縦列にいるユニットのパワー+5000」

「ノーガード!」

「ドライブチェック……ゲット、★トリガー。★はリカシェンナに。パワーはロクセラに」

「ダメージチェック……」

 サラのダメージゾーンに2枚のカードが置かれる。トリガーは出ない。

「アズハチルのブースト。ロクセラでヴァンガードにアタック。戦友が3枚以上いるので、ロクセラのパワー+5000。さらに、戦友が5枚以上いるので、ストラスを手札に戻す」

「ノーガード……」

 さらに3枚目。これもトリガーではなかった。

「これで自分はターンエンド。

 どうだ。自分の速攻もなかなかのものだろう?」

 答える余裕はなく、サラは汗ばむ指でカードを引く。

「《鉄腕竜 ガルグレックス》にライド! G1ガルグのスキルで山札の上から5枚を見て……《焦砲竜 ディノベルム》を手札に加えるよ! さらに、ライドコストとして捨てられたベリジェアクロをスペリオルコール!

 ディノベルムをコールして、バトル!

 ベリジェアクロでロクセラにアタック!」

「メルティでインターセプト」

「ガルグレックスでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード」

「ドライブチェック! ……ノートリガー」

「ダメージチェック……治(ヒール)トリガー。ダメージ回復はできぬが、パワーはリカシェンナに」

「……ディノベルムのブースト、ベリジェアクロでロクセラにアタック」

「ノーガード。ロクセラは退却する」

「私はこれでターンエンド」

「自分のターン。スタンド&ドロー。

 リカシェンナは他に戦友がいる場合、手札を捨てずにライドできる。

 ここからが本番だ……行くぞ!」

 ライドデッキに残された最後の1枚を掴み取り、ジンの声に熱が帯びる。

「日輪に吼えろ、我が戦友! ライド! 《MiMish フォルティア》!!」

 ぽかぽか晴れ渡る陽気に、猫の獣人が勢いよく駆けだした。爽やかな風が桃色の髪と垂れた耳を優しくふわりと撫でていく。

 道行くファンに手を振り返し、恐竜さんにもご挨拶。

 彼女はいつも友達と一緒に一生懸命。

 今日も先導者の要望に応え、太陽に向かって勇ましく吼えてみた。

 

『にゃ、にゃ~ん?』

 

「ストラスをコール。ストラスの効果でドロップから《並んで夜空を ラヴァナ》をコール。ラヴァナのスキルでドロップからロクセラを手札に加え、ロクセラをコール。

 ラヴァナとストラス、ロクセラとアズハチルは戦友になる」

(たった1枚で盤面を埋め直された……)

「バトルフェイズに進行する!

 ストラスのブースト、ラヴァナでヴァンガードにアタック」

「《白光竜 パラソラース》でガード!」

「シェルナリーシュのブースト……フォルティアでヴァンガードにアタック!」

「……ノーガード」

「ツインドライブ!!

 1枚目……★トリガー! ★はフォルティア、パワーはロクセラに。

 2枚目……ノートリガー。

 さあ、我が友フォルティアよ。その爪牙で宿敵の喉笛を引き裂くがよい!」

『ふええっ!? そんなことできないよぅ!』

 それでもなるたけ先導者の意向に沿うように、丸めた拳(ネコパンチ)をポコンと敵の頭に当て、『し、失礼します!』と言い沿えてから喉元を甘噛みした。

 なお、恐竜さんも当てやすいように屈んでくれていた。優しい。

「ダメージチェック……」

 なんだか珍妙なイメージが見えた気がしたが、サラも山札からカードをめくり、2枚目のチェックで★トリガーを引き当てるが、これで早くも5点目。

「安心するのはまだ早いぞ。我がフォルティアの殺戮は、獲物を血まつりにあげるまでけして止まらぬ」

『そ、そんな血まつったりしないよ!?』

「戦友が5枚いるので、フォルティアのスキル発動! CB1と手札を1枚捨てることで、フォルティアをスタンドし、パワー+5000、ドライブ-1!

 フォルティアでヴァンガードにアタック!」

「ベリジェアクロでインターセプト! 相手がG3なのでベリジェアクロのシールド+5000! 《装甲竜 マウントキャノン》でガード!」

「ドライブチェック……引(ドロー)トリガー。1枚引いて、パワーはロクセラに。

 アズハチルのブースト、ロクセラでヴァンガードにアタック。スキルでストラスを手札に戻す」

「ベリジェアクロでインターセプト! パラソラースでガード!」

「自分はターンエンドを宣言する」

「スタンド&ドロー!

 ライド! 《鉄皇竜 ガルグレックス》!!」

 炎が吹き荒れ、鋼鉄の武装に身を固めた恐竜がゆっくりと立ち上がる。

 鋼が擦れ合う不協和音は、弱者に奏でる鎮魂曲。

「さあ! いい加減、お遊びはここまでだよ!」

 猛るサラの長い髪が内側から赤く染まり、ジンは僅かに身を引いた。

「ライドコストとして捨てられた《威喝竜 スレトンプテラ》のスキルで1枚ドロー! G2ガルグのスキルで山札の上から7枚確認……スレトンプテラを手札に加え、ディノフェストをドロップに置く!

 ディノベルムを前列へ移動させ、ガルグレックスのスキル発動! 手札からスレトンプテラを捨て、ドロップからスレトンプテラとディノフェストをスペリオルコールし、シェルナリーシュを退却! スレトンプテラのスキルで1枚ドロー!

《猛進竜 エイニオンラッシュ》と《尖鋭竜 エオラフィアス》をコールして、バトルだ!

 ディノベルムでロクセラにアタック!」

「ノーガード。ロクセラは退却する」

「スレトンプテラのブースト! ガルグレックスでヴァンガードにアタック! ディノドラゴンが3種類いるので、パワー+10000、ドライブ+1! ディノベルムも自身のスキルでスタンドし、パワー+5000!」

「ノーガード」

「まだだ、まだ足りない……もっと、もっと私に力を寄越せ、ガルグレックス!! ……トリプルドライブ!!!」

「ちょっと待て」

 いざカードをめくろうとした瞬間、ジンの重々しい声に止められ勢いをくじかれる。

「何よ!?」

「それはどういった手品だ?」

 ジンの皮手袋に包まれた武骨な指が、サラを、正確には彼女の長い髪を指さす。

「え、髪?」

 サラは髪をつまんで目の前に持ってくると。

「何よこれぇ!?」

 赤く輝く自分の髪を見て、素っ頓狂な悲鳴をあげた。

「気づいていなかったのか? 瞳もおかしいぞ」

 ジンの差し出した手鏡を見ると、瞳は金色に輝き、瞳孔が縦に奔っている。

 それはまるで……

「恐竜……?」

 サラは呆然と呟いた。

「あ、でもちょっとカッコいいかも」

「感想がそれなら心配する必要は無かったな」

 ジンが呆れたように呟いた。

「だが、不思議なことに、君の変化に気づいているのは、どうやら我々ふたりだけのようだ」

 ギャラリーを見やると、ジョーはきょとんとしており、ルイは訝しげにしている。他の者も似たり寄ったりで、サラの変化に戸惑っているというよりは、サラが何を騒いでいるのかが分からないといった様子だ。

「どうする? 体に異常が感じられるのであれば、ファイトを止めるが」

「冗談。こんなところで止められるわけないでしょ」

 実のところ、心臓が痛いほど脈打っており苦しかった。思い返せば――当時は極度の興奮状態にあり気づかなかったが――リオンやルイとファイトした時も似たような症状に陥っていたような気がする。

 だが、今日のファイトには西側の未来がかかっているのだ。……いや、それすらもどうでもいい。

 戦いを止めるという発想そのものが、今のサラにはありえなかった。

「けど、心配してくれてありがとね。……トリプルドライブ!!!」

 無意識に心臓のあたりを鷲掴みにしながら、サラは高らかに宣言した。

「1枚目、ノートリガー!

 2枚目、治トリガー! ダメージ回復! パワーはエイニオンラッシュに!

 3枚目、★トリガー! ★はガルグレックス! パワーはディノベルムに!

 蹂躙しろ、ガルグレックス!!」

 強靭な足が石畳みを踏み砕き、振るわれた長い尾が木々を薙ぎ倒す。

 逆巻く火炎が彩るは、猛る暴君の独り舞台。

「ダメージチェック……」

 5枚目のチェックでジンは引トリガーを引く。

「ディノフェストのブースト! エイニオンラッシュでヴァンガードにアタック! エイニオンラッシュはスキルでパワー+10000!」

「《Cerise-ChuLiP カレット》でガード。EB2でシールド+15000。さらにアニカでガード。ラヴァナでインターセプト」

「ディノフェストをバインド。山札の上から5枚を見て、ガルグレックスを手札に加えるよ。

 エオラフィアスのブースト! G1以下のユニットが3枚いるので、パワー+15000! ディノベルムでヴァンガードにアタック!」

「2枚の《ショッキングキャンディ アウリス》とベトレアでガード」

「エンド時、ディノベルムとエイニオンラッシュは退却。エイニオンラッシュのスキルで1枚ドロー」

 これでサラの手札は8枚。次のペルソナ札も確保した。対するジンの手札は4枚。

「自分のターン。スタンド&ドロー。

 月輪に吼えろ、我が戦友! ペルソナライド! 《ひと時の魔法 フォルティア》!!」

 太陽が落ち、宵闇のスクリーンに満月が灯る。

 月光のスポットライトに照らし出されるは、魔女の衣装にドレスアップした猫の獣人。

 手にしたキャンディを杖にして振るい、ヤケクソ気味に吼えてみた。

 

『にゃ、にゃ~ん!』

 

「ストラスをコール。ストラスのスキルにより、ドロップからシェルナリーシュをスペリオルコール。シェルナリーシュのスキルで、ドロップからラヴァナを手札に加え、コール。ラヴァナのスキルで、ドロップからロクセラを手札に加え、コール」

「う、嘘でしょ……」

 ストラス1枚から4つの空きサークルを埋めてしまった。そしてそのストラスは、ロクセラによって毎ターン手札に戻るため、対処のしようがない。

「いくら除去しようとて無駄だ。自分はけして友を見捨てない。そして必ず皆で勝利を掴み取る!」

 ジンがその巨大な拳をギリリと握りしめる。

 

 

「お前達、西側の人間からしてみれば、あいつは地獄の使者に見えるのだろうが」

 離れたところでポツリと呟いたのはルイだ。ジョーに聞かせるようでもあり、独白しているようでもある。

「ジンが単独で基地を潰したのは、そこで仲間が拷問を受けているという情報を得たからだ。

 ヘリを投石で撃ち落としたのは、空から仲間を一方的に虐殺している状況に出くわしたからだ。

 あいつが異常な戦果を挙げる時は、決まって仲間のためだった。

 俺からしてみればあいつは、友達想いで動物好きの……どこにでもいるような普通の男だよ」

 

 

「バトルだ! シェルナリーシュのブースト! フォルティアでヴァンガードにアタック! 戦友が3枚以上いるので、ドライブ+1!」

「通さないっ! 《ツインバックラー・ドラゴン》で完全ガード!」

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、治トリガー! ダメージ回復、パワーはロクセラに!

 2枚目、★トリガー! 効果はすべてロクセラに!

 3枚目、ノートリガー!

 バトル終了時、手札から《MiMish フォルティア》を捨て、フォルティアをスタンド! ドライブ-2!

 フォルティアでヴァンガードにアタック!」

「……ノーガード」

「★トリガーさえ引かれなければと言ったところか。

 勝負だ。ドライブチェック……」

 この瞬間、サラは確信(イメージ)してしまった。

 自分の負けだ、と。

「……★トリガー。★はフォルティア。パワーはラヴァナに」

「っ……」

「我が友フォルティアよ。その爪牙で怨敵のはらわたを貪り尽くせ!」

『いやいやいや、むりむりむりむりっ!』

 獣人の少女は仕方なく敵のお腹をぺちぺちと叩く。優しい恐竜さんはゴロンと転がり、やられたフリをしてくれた。

 

 

●~*

 

 

 俯くサラのダメージゾーンに6枚目のカードが置かれた。

 西軍はもとより、東軍からも歓声はなかった。誰もがジンの強さに圧倒されていた。

 ジンの最終的な手札は7枚。その中にある2枚の完全ガードを使うこともなく、サラがペルソナライドをする前に決着してしまったのだから。

「自分の勝ちだ。いいファイトだった」

 ジンが手を差し出すが、サラは動かなかった。いつしかその髪の色も元に戻っている。今の体勢からは確認できないが、恐らく瞳も。

「そのような気にはなれぬか。心中は察する」

 ジンが手を下ろし、ゆっくりと立ち上がろうとしたその時。

「ちょっと待ったぁ!!」

 大音声がそれを押し留めた。

 偉そうな態度でのしのしと壇上に上がってきたのはジョーだ。

「サラは西軍のナンバー2! お前の強さを測るための斥候だったのさ!

 何を隠そう西軍最強はこのジョー様だ!!」

 ジンが「ほう」と興味深そうに呟き、ルイは「諦めの悪いやつだ」と鼻で息をついた。

「だから僕とファイトしろ、この猟犬野郎!」

 これに関してはジョーのファインプレーだと言える。

 実際のところ、サラとジョーがファイトすれば3:7くらいの割合でジョーが負け越すのだが、そんなこと敵はもちろん、急遽編成された味方の多くも知らない。

 ここでジョーが勝つことができれば、ハッタリは真実となり、士気を逆転することができるはずだった。

 ……勝つことさえできれば。

「我が友フォルティアでヴァンガードにアタック」

「め、めちゃくちゃ強ぇ……」

 5分もかからず、ジョーは負けた。

「機転が利き、度胸もある。お前はいい兵士だ」

 ジンのサングラスに隠された瞳は、何もかもを見透かしているかのようだった。

 それからも西軍の兵士がジンに立ち向かっていったが、あえなく敗北を重ねるだけ。

 リオンをはじめとしたジンの部下も動き出し、士気の落ち切った西軍をひとりひとり丁寧なプレイングで片づけていく。

「私達、どうなっちゃうの……」

 その様子を眺めながら、サラはテントの端に座り込んで膝を抱いていた。

 もはや西軍の敗北は決定的。このまま東の支配下に置かれてしまうのか。それに暴力で対抗すれば、殺し合いをしていた時代に逆戻りだ。どちらに転んでも地獄だった。

 そしてその責任の一端は自分にもある。名もなき一般兵Aのままであれば、けして背負う必要のなかった業。

「私のせいだ……」

 サラの瞳に抑えきれない感情が濁り、こぼれた滴が膝に落ちた。

 

 

「……自分の勝ちだ」

 今、西軍最後の兵士がジンに敗れた。

「さて、我々の完全勝利だが」

 頃合いとばかりにルイがジンの隣に立つ。

「これからどうするつもりだ? どうせそこで見ているのだろう?」

 ルイが視線を投げかけるのはテントの片隅、その天井に仕掛けられた監視カメラ。

「出てこい、淵導フラン」

「いやー、困りましたねー」

 テントの出入り口がバサリと広がり、小柄な人影が姿を現す。

「私の計画では、あと1年は膠着状態が続くはずだったんですけど」

 短めの白髪に、年齢不詳の童顔。その顔半分を覆う惨たらしい火傷痕。

「このカードゲーム未開の地に、これほどの才能が埋もれていようとは。いやはや、麒麟児とはどこにだっているものですねぇ」

 この国にカードゲームを広め、あろうことかそれで戦争をしろと唆した張本人、淵導フランがそこにいた。

「じゃあ、こうしましょう。特別ルール追加です。首都を制圧したあと、私に勝つことができれば、その陣営の勝利ということでいかがでしょう?」

 その提案はルイに向けられたものだったが、彼女のつぶらな瞳はすでにジンだけを見据えていた。




本作のリリカルモナステリオ枠にして、ライバル枠にして、最強キャラ枠。
友誼の猟犬、ジンの登場回です。

原作にリリカルモナステリオ(およびバミューダ△)を使う男性キャラがいないので、私の作品ではなるべく男性キャラにもリリカルモナステリオ(バミューダ△)を使わせるようにしています。
これまで様々なアプローチを試してきましたが、今回はまた新たな試みにチャレンジしてみました。
いかがでしたでしょうか。感想などいただけましたら幸いです。

この続きは、リリカルモナステリオの新弾発売日である11月6日に公開予定です。
いつもより少し間が空きますがご了承ください。
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