戦場のヴァンガード   作:栗山飛鳥

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ヘイ! ジョー様の『前回のあらすじ』コーナーだぜ!
東軍のエース“地獄猟犬”ジンに首都まで攻め込まれ、大ピンチの我らが西軍!
サラもいいとこなく敗れ、西軍の敗北が確定した瞬間、フランがジンの前に立ちはだかった!
フラン! もう君だけが頼りだ! なんでもいいから、なんとかしてくれぇ!


report#5「夢中の聖戦」

「じゃあ、こうしましょう。特別ルール追加です。首都を制圧したあと、あたしに勝つことができれば、その陣営の勝利ということでいかがでしょう?」

「ふざけるな」

 フランの提案をルイが一蹴した。

「そうやって自分に都合のいいルールを付け足していくつもりか。

 これでお前の腹は見えたな。この殺し合いをしない戦争をダラダラと永遠に続かせる。それならいつまでも人が死ぬことはないと。そういうことをやりたいのだろう、お前は」

「そう思われても仕方のない状況だとは自覚しています」

「だが!」

 ルイが声を荒げた。

「この国は資源も少なく、特に食糧難は深刻だ。戦争などしなくても人は飢えと病で死んでいく。俺達がこうしてカードゲームで遊んでいる間にもだ!

 だから、たとえ殺し合ってでも、まずは意思と思想を統一して一枚岩のような国になる必要がある。……口減らしも兼ねてな。

 お前のような、豊かで平和な国から来た人間からすれば狂気に見えるのだろうが、俺達には戦争が必要なんだ」

 激昂した口調とは裏腹に、その表情はどこか泣き出しそうに歪んでいた。

「どんなにクソッタレな国だろうと、ここは俺達の国だ。これ以上、お前のような異邦人に踊らされはしない」

「じゃあ、どうしますか?」

 そんなルイを気遣うようにフランが問う。

「約束だったな。お前が俺の期待を違えた時は……」

 ルイがフランの眉間に拳銃を向けた。

 成り行きを見守っていた見張りの兵士が、迷いながらもルイを撃とうとするが、それをフランが手振りで押し留める。

「ええ、約束でしたね。好きなようにしてください。あたしのようなズボラな人間には、あなたのようにマジメな人間が必要なんです。あなたに殺されるのであれば、あたしはそれを受け入れます」

「……お前は大した道化だったよ。いい夢を見させてもらったとだけは言っておく」

 ルイの指が引き金に触れる。

「待て」

 その銃口に巨大で分厚い掌が覆い被さった。ジンだ。

「おい!」

 短い非難とともに、ルイが慌てて引き金から指を離す。

「早まったことをするな。要は自分がファイトで勝てばいいのだろう?」

「そういう話ではない。彼女がルールを違えたことが問題なのだ」

「だとしても、友が殺されるのをみすみす見てはおれんのでな」

 ルイが大きく舌打ちをした。ジンの悪癖だ。友誼に篤いうえに、その判定が異常に甘い。ほんの数分、尋問をしただけの捕虜であっても、気が合えば友人認定してしまうことさえあるのだ。

「それにな。お前が俺達の気持ちを代弁してくれたことで気分は晴れた。それだけで十分だ」

 不器用に微笑み、ジンは銃口よりも気配を鋭くしてサングラス越しにフランを睨みつけた。

「そういうことだ。自分は君の提案を受け入れてもいい。ただし、これ以上東の……いや、ボルクアの誇りを汚すような真似は謹んでいただきたい」

「はい。ごめんなさい」

 フランはペコリと頭を下げた。言葉も動作も簡単なものだったが、不思議とどんな謝罪よりも誠実に見えた。

「今後、己の都合による唐突なルール変更は無いと誓えるか」

「誓います」

「ならいい。やろう、淵導フラン」

「はいっ!」

 ジンは壇上から手招きし、フランが小走りになって同じ場所に立つ。

「このままいけば俺達の勝利だったものを……」

 ルイはなおもブツクサと言っていたが。

「そうはならんさ。これで戦いが終わったとて、数週間もすれば西軍からゲリラ攻撃が行われ、新たな戦争が始まっていただろう」

「それもそうだが……」

「それにな。ヴァンガードは面白いが、歯ごたえのある対戦相手が少なく物足りなかったのでな。どうか自分から強者とファイトする機会を奪ってくれるな」

「ちっ。毒されやがって」

 肩をすくめながら、ルイは壇上を下りていった。

「……そういうことだ。君の強さには期待していいのだろうな?」

 兵士とは違う、別種の戦士の顔つきになってジンが問う。

「さて、どうでしょう?」

 デッキをシャッフルしていたフランは不敵にはぐらかした。

 

 

 テントの隅に座り込み、俯いていたサラは、のろのろと顔をあげた。

 どうやらジンとフランがファイトして、フランが勝てば、東軍は首都から撤退することになったらしい。そうなった場合、東軍がどう出るかは不明だが(特にルイ)、まだ僅かながら希望はあるようだ。

(お願い。勝って、フラン……)

 直接応援しに行く気力はまだ無く、祈るようにぎゅっと膝を抱いた。

 

 

●~*

 

 

「「スタンドアップ! ヴァンガード!」」

「《もふふれんず! シィチェル》」

「《朝舞う蝶の羽ばたきに ティターニア》!」

 ジンとフランのファーストヴァンガードが同時に公開された瞬間、会場がざわついた。いや、恐慌に包まれたと言っていい。それはつい最近ボルクアにも配備されたばかりの『リリカルモナステリオ 伝説のアイドル!』に収録されているカード達だった。テストプレイはおろか、まともにテキストを把握できている者も少ない。

「おいっ!」

 真っ先に怒声をあげたのはルイだ。

「なんだそのもふふふれんずとか言うカードは! いつものフォルティアはどうした!?」

「新しいカードは使ってみたくなるものだ」

 ジンはしれっと答えた。

「東の勝利がかかっているんだぞ!? わかっているのか、お前は!」

「おいこらフラン! 僕達の命運がかかったファイトで遊んでんじゃねーぞ!」

 ジョーも義手の拳を振り回して騒ぎ出す。

「もー、おふたりとも。人のデッキに難癖つけるのは野暮ってものですよ」

 フランが、軽いが断固たる口調でふたりをたしなめた。

「横紙破りをしてしまったお詫びに、手加減するつもりで使い慣れていない最新デッキを選んだのですが、まさかジンさんも最新デッキを使ってくるとは。あなたとはいいお酒が呑めそうです」

「酒は苦手だ」

「じゃあ女子会しましょう、女子会。日本のおいしいスイーツを用意しておきますよ」

「いいだろう」

 女子とは。

「じゃあ、改めて始めましょう。あなたの先攻ですよ」

「スタンド&ドロー」

 カードが小さく見えるほどの大きな手が、山札から1枚引く。

「《もふふれんず! うずうずシィチェル》にライド。山札の上から7枚見て……《もふふれんず! ポルメ》を手札に加える。

 そして我がドロップは、もふふぁーむとして扱われる!」

 ジンが宣言するや、パステルカラーの草原が視界いっぱいに広がる光景を誰もがイメージした。

「素敵な景色ですね。あたしのターン。スタンド&ドロー」

 今度は、カードが大きく見えるほどの小さな手がカードを引く。

「ライド! 《高雅なる逍遥 ティターニア》!

 G0ティターニアの効果で1枚ドロー。

 ライドデッキからG3ティターニアを公開して、山札の上から7枚確認……《小悪魔的メソッド ヴァレフル》と《瑠璃に咲く軌跡 フリアエ》をソウルに置きます。

 さらに、ライドコストとして捨てられた《Antique Break カルネージエ》もソウルに置きます。

 バトルです!

 ティターニアでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード」

「ドライブチェック……★(クリティカル)トリガー! 効果はすべてティターニアに」

「ダメージチェック。2枚ともトリガーは無い。

 自分のターン。スタンド&ドロー。

《もふふれんず! すやすやシィチェル》にライド。シィチェルのスキルでもふふぁーむから《もふふれんず! ミゥニス》をスペリオルコール。ミゥニスのスキルで、山札からすやすやシィチェルをもふふぁーむに置く。

 ライドコストとして捨てられたポルメのスキルで、山札の上から5枚を確認……《もふふれんず! ルチーノ》を手札に加える。

 ルトリーをコール。スキルで山札の上から5枚を確認……《もふふれんず! コルキー》を手札に加える。

 コルキーをコールし、EC1。ルチーノをコールし、1枚引き、EC1。

 バトルだ。シィチェルでヴァンガードにアタック」

「フリアエでガード。ここでティターニアのスキルが発動します。ガーディアンサークルにデーモンかサキュバスが置かれた時、アタックしているユニットのパワー-5000! さらにフリアエは自身の効果でシールド+5000です!」

 妖精の瞳が妖しく輝いたかと思うと、庭ではしゃいでいたふれんず達の目がとろんとなり、めいめいが安らかな寝息をたてはじめる。

「ドライブチェック……前(フロント)トリガー。前列のパワー+10000」

「!?」

「それで凌いだつもりだろうが、甘い。我がもふふれんずは皆が優れた猟犬。血に飢えた獣」

「ウサギさんも混ざっていますけど」

「狙った獲物は絶対に逃さぬ。そして骨まで齧り尽くす。25000要求のアタック2回、小細工で防げるものなら防いでみよ。

 コルキーのブースト、ルチーノでヴァンガードにアタック」

「ノーガードです」

「ルトリーのブースト、ミゥニスでヴァンガードにアタック。ミゥニスのスキルでEC1」

「ノーガード」

 フランのダメージゾーンに2枚のカードが置かれ、トリガーも出なかった。

「あたしのターンですね。スタンド&ドロー!

 ライド! 《夢想の花園 ティターニア》! スキルでソウルからヴァレフルをスペリオルコール! ヴァレフルのスキルでソウルチャージ&1枚ドロー!

《魂まで蕩かして ナヘマ》をコールして、ドロップから《Darkness of Decadence プティファル》をソウルに置きます。

 バトルですよー。

 ティターニアでヴァンガードにアタックします」

「《ピースフルガーデン アニカ》でガード」

「ドライブチェック! ……治(ヒール)トリガー! ダメージ回復し、パワーはヴァレフルに与えます!」

「ダメージチェック……自分も治トリガー。ダメージ回復。パワーはシィチェルに与える」

「ナヘマでミゥニスにアタックします」

「ルチーノでインターセプト」

「ヴァレフルでヴァンガードにアタックします」

「コルキーでガード」

「あたしはこれでターンエンドです。ふふっ、やりますね」

「ふっ、君もな」

 一進一退の攻防の中、ふたりが和やかに笑い合う。

「国の行く末がかかったファイトなんだぞ、わかっているのか!」

「そうだそうだ!」

 ルイとジョーが口々に抗議するが、当然のように無視された。

「だが、ここから先は……地獄だ!

 ライド! 《もふふれんず! らぶりーシィチェル》!」

 それは愛情たっぷりに育てられた一匹の子犬。

 自慢の毛並みは今日ももふもふ。イチゴのティアラでオシャレして。今日はドキドキアイドルデビュー。

 学園一の人気者(マスコット)が、仲間の声援を受け、ステージで無邪気に跳ね回る!

「シィチェルのスキル発動。もふふぁーむから、ルチーノをスペリオルコールする。ルチーノのスキルで1枚ドロー&EC1。

 手札から《もふふれんず! シプレス》をコール。

 シィチェルはもふふれんずの数だけパワーを1000ずつ上げていく。よって、シィチェルのパワーは18000!」

「まさしくもふもふ地獄ですねー」

「バトルだ。

 シィチェルでヴァンガードにアタック。もふふれんずのアタック時、ルチーノのパワー+5000」

「《トーカティヴ・アワー タンムーズ》でガード。ティターニアのスキルで、シィチェルのパワー-5000です」

「ツインドライブ!!

 1枚目……ノートリガー。

 2枚目……★トリガー! 効果はすべてルチーノに。

 まだ終わりではない。CB1でシィチェルのスキル発動! シィチェルをスタンドし、ドライブ-2!

 ルトリーのブースト、ミゥニスでヴァンガードにアタック。スキルでEC1、パワー+5000。ルチーノのパワーも+5000だ」

「《澄み渡る雪夜 ベレトア》でガード。自身のスキルでシールド+5000。ティターニアのスキルでミゥニスのパワー-5000」

「なるほど。ベレトアもデーモンか。

 シプレスのブースト、シィチェルでヴァンガードにアタック! シプレスのスキルでEC1。ルチーノのパワーさらに+5000」

「……ノーガードです」

「さあ、我が友シィチェルよ。疾風の如く駆け抜け、その爪牙で我が敵を八つ裂きにせよ!」

 ジンの声が聞こえたのか、しぃちゃんは耳をピンと立てたかと思うと、草原を駆け出し、妖精に飛びかかった。

 見た目に依らぬパワーで妖精を押し倒したしぃちゃんは、その白い頬をペロペロとなめ回し、短い尻尾を千切れんばかりに振ってじゃれついていた。

 声は聞こえたが、意図は伝わらなかったらしい。

「ダメージチェック……★トリガーです! 効果はすべてティターニアに」

「コルキーのブースト、ルチーノでヴァンガードにアタック」

「ナヘマでインターセプト。ベレトアでガード。ルチーノのパワー-10000です」

「ターンエンド」

「あたしのターン! スタンド&ドロー!

 ライド! 《漆黒の妖精姫 ティターニア》!!」

 ステンドグラスのように七色に透ける翅を広げ、淡く煌めく燐光を振り撒きながら。小さな体躯を漆黒のドレスに包んだ妖精が夜に舞う。

 その幻想的な歌声が誘うは夢の国。可憐な細指があなたの手を取る。

 今夜はもう、帰れない。

「ティターニアが登場した時、ソウルにいるプティファルのスキル発動! このユニットをティターニアの後列にスペリオルコールします! そして、ティターニアのスキル発動! デーモンかサキュバスが登場するたび、シィチェルのパワーを-2000します!」

「む……」

「ソウルにいるカルネージエのスキルを発動! このユニットをスペリオルコールし、パワー+5000! ティターニアのスキルで、シィチェルのパワーさらに-2000!

 手札から《偉大なる悪魔の力 ジャヒー》と《CozyLazy ラビス》をコール! これでシィチェルのパワーは5000になりました!

 バトルです! ジャヒーのブースト時、スキルでジャヒーのパワー+5000させます! カルネージエでヴァンガードにアタック!」

「……ノーガード」

 ジンに3点目のダメージ。トリガーは出ない。

「バトル終了時、カルネージエを退却させ、スキル発動! 山札の上から7枚を見て、フリアエとプティファルをソウルに。ジャヒーもソウルに置かれます。

 プティファルのブースト、ティターニアでヴァンガードにアタック! アタック時、ティターニアのスキル発動! ソウルからフリアエをスペリオルコール!

 フリアエのスキルで、ソウルからジャヒーを後列にスペリオルコール! ティターニアのスキル2回分で、シィチェルのパワーさらに-4000!」

「ノーガード」

「ツインドライブ!!

 1枚目、ノートリガー!

 2枚目、ノートリガー……ですが! ドライブチェックでティターニアが引かれた時、ティターニアにトリプルドライブを与えます!

 3枚目、★トリガー! ★はティターニアに! パワーはフリアエに!

 トリガーゾーンに置かれたデーモン・サキュバスの数だけシィチェルのパワーは-2000されます! これでさらに-4000!」

 鋭い爪の生えた五指が迫る。妖精姫はしぃちゃんの頭蓋を鷲掴みにすると、わしゃわしゃと優しく撫で始めた。これにはしぃちゃんもたまらずノックアウト。次はここを撫でてとばかりに、ころんとおなかを見せた。

「ダメージチェック……治トリガー。ダメージ回復し、パワーは7000に戻る。

 2枚目はノートリガーだ」

「ジャヒーのブースト。ジャヒーのパワー+5000して、フリアエでヴァンガードにアタックします!」

「ルチーノでインターセプト。そして我がもふふれんずは、将たるシィチェルによってスキルが与えられている。EB2することで、もふふぁーむからすやすやシィチェルを置く。さらに《フィギュリンアドーン ロスカーチェ》でガード。

 我がもふふれんずに休息はない。常在戦場。常に敵の襲撃に備えているのだ」

「めっちゃすやすやしてますけど」

「退却時、すやすやシィチェルは山札の下に置かれる」

「バトル終了時、SB2でフリアエはスタンドし、パワー+5000。ジャヒーはソウルに。

 フリアエでヴァンガードにアタックです!」

「無駄だ。ミゥニスでインターセプト。さらにシプレスのスキルでこのカードをガーディアンサークルに移動させ、もふふぁーむからすやすやシィチェルを置く」

「無駄なアタックなんてありませんよ。どんな守りもアタックし続けることで必ず突破できます! ラビスのブースト、ヴァレフルでヴァンガードにアタックです!」

「ルトリーでガード。もふファームからシィチェルとうずうずシィチェルを置く」

「あたしはこれでターンエンド。このターン、ソウルから2枚スペリオルコールしているので、ティターニアのスキルで1枚引きます」

「自分のターン。スタンド&ドロー。

 真の地獄はここからだ……ペルソナライド! 《もふふれんず! らぶりーシィチェル》!!」

 ここまでずいぶんとはしゃいだけれど、しぃちゃんはまだまだへっちゃら。

 きょうはたくさんあそべてうれしいな!

「ルチーノをコール。1枚ドローし、EC1。

 シィチェルのスキルで、もふふぁーむからミゥニスをスペリオルコール。ミゥニスのスキルで、もふふぁーむにすやすやシィチェルを置く。

 シプレスもコールし、バトルだ。

 シィチェルでヴァンガードにアタック」

「ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、ノートリガー。

 2枚目、★トリガー! ★はシィチェル、パワーはミゥニスに。

 待たせたな、シィチェルよ。晩餐の時間だ。その爪牙で我が敵の臓腑を抉り出し、渇きを癒せ!」

 しぃちゃんは行儀よくおすわりしながら『くぅーん?』と首を傾げた。

 どうやらおやつがもらえるものと思っているらしい。

「ダメージチェック……2枚ともトリガーはありません」

「シィチェルは狩りの手を休めぬ。シィチェルをスタンド!

 シプレスでブースト、シィチェルでヴァンガードにアタック。シプレスのスキルでEC1。このアタックはシングルドライブだ」

「《譲れない甘味 ザミール》で完全ガードします」

「ドライブチェック! ★トリガー! 効果はすべてミゥニスに。

 ルトリーのブースト、ミゥニスでヴァンガードにアタック。ミゥニスのスキルでEC1。パワー53000の★2だ」

「《青髪の異才 リシウス》でガード。フリアエとヴァレフルでインターセプト。プティファルは後列からでもインターセプトできるので、この子もインターセプトに参加させます。これでミゥニスのパワー-20000。ガード成立です」

「コルキーのブースト、ルチーノでヴァンガードにアタック。このターン、もふふれんずが3回アタックしているので、ルチーノのパワー+15000」

「《離れてくれなくて エイシェート》と《隷艶の魔眼 サウルヴァ》でガード。シィチェルのパワー-10000」

 これでフランの手札はペルソナ札1枚。

「ターンエンド。どうだ。“地獄猟犬(ヘルハウンド)”と恐れられる自分に、これほど相応しいデッキはあるまい」

「ええ、とってもお似合いだと思います」

 これまでジンの言動に逐一ツッコミを入れてきたフランが、一切の皮肉を含めずに言い切った。

「ドロップをもふふぁーむと呼ぶ、誰も死ななくていい世界。あなたの優しい心が伝わってきました」

「それは違う。真に優しい人間であれば兵士になどならぬ」

「ええ。その裏にある慟哭も、ぜんぶぜんぶ聞こえてきました。

 フォルティアもそうです。誰もが友達になれる素敵な世界。それがあなたのイメージする理想郷なんですね。

 そしてそのすべてが所詮は夢(イメージ)でしかないと諦めてしまっている。

 とても優しくて、哀しい世界」

 フランの左頬に涙がつたう。

「あたしはこの国で戦争を無くそうと頑張ってきました。だけどそれは誰のためでもない、自己満足で突っ走ってきただけの、どこか曖昧で空虚な目標でした。その結果が、追い詰められた今の状況なのでしょう。

 でも、今は違う。あたしはあなたを救いたい。あなたのような人が戦わなくていい世界を作りたいと本気で願う。たとえあなたが諦めても、あたしはあなたの夢を諦めません。

 だからまだ、あたしはあたしの計画を……夢を諦めるわけにもいきませんっ!

 夢を叶える力をあたしにくださいっ! ペルソナライドッ! 《漆黒の妖精姫 ティターニア》ッ!!!」

 フランの傍らに降り立った妖精姫が彼女の涙を拭い、その滴が蝶となって空を舞う。

「ソウルからプティファルをスペリオルコール!

 ナヘマをコールして、ドロップからカルネージエをソウルに。カルネージエをソウルからスペリオルコール!

 リシウスをコールして、カルネージエのパワー+10000!

 ここまででコールしたデーモンとサキュバスは4枚! よって、シィチェルのパワー-8000!

 バトルですっ!

 リシウスのブースト! カルネージエでヴァンガードにアタック!」

「《ショッキングキャンディ アウリス》とすやすやシィチェルでガード。ミゥニスでインターセプト。もふふぁーむからすやすやシィチェルを置く」

「カルネージエを退却させ、山札から……リシウスとナヘマを置きます。2枚置いたので、リシウスを手札に戻します。

 プティファルのブースト! ティターニアでヴァンガードにアタック! スキルでソウルからフリアエをコール! フリアエのスキルでリシウスをコールし、リシウスのスキルでフリアエのパワー+10000! 2回のコールで、シィチェルのパワーさらに-4000です!」

「《シャボンスプラッシュ リビェナ》で完全ガード!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、ノートリガー!

 2枚目、ノートリガー! で・す・が! 引いたのはティターニア! トリプルドライブゲットです!

 3枚目……届けっ! 超(オーバー)トリガー!! 《デモニックフィーバー ガルヴィエラ》!!」

 妖精姫の背後に現れたのは、神に匹敵する力を持つ悪魔にして、伝説のアイドル!

 悪魔は唆(さけ)ぶ。常識なんてブチ破れ。

 

 

 いつしか、サラはフラフラとファイトテーブルに歩み寄っていた。まるで光に焦がれる蛾のように。近づきすぎて警備兵に止められるまで、自分が歩いていることにすら気が付かなかった。

「きれい……」

 まるで子どもにように頬を紅潮させ、瞳を潤ませる。

 そこで繰り広げられているのはたかだかカードゲームのはずなのに、唄う悪魔と、それに合わせて踊る妖精の姿がはっきりと見えた。

 そして、何よりも……。

「あたしはすべてのリアガードのパワー+10000を得て、フリアエのパワーを+1億しますっ!」

 自分の信じた道をひた走るフランの姿が、これまでの人生で見た何よりも輝いて見えた。

 

 

「……フリアエはスタンドできるユニット。1億のアタックが、あと2回か」

 ジンが静かに3枚の手札を握りしめる。

「ラビスのブーストッ! ナヘマでアタックッ!」

「《スノウスキップ パルヴィ》とアウリスでガード。ルチーノとシプレスでインターセプト。もふふぁーむからすやすやシィチェルを移動」

「フリアエでヴァンガードにアタックッ!」

「ノーガード。ダメージチェック……引トリガー。1枚引かせてもらうぞ」

 引いたカードを一瞥し。サングラスの奥、その瞳が瞑目するのが気配で分かった。

「フリアエをスタンド! フリアエでヴァンガードにアタックですっ!!」

「……ノーガード」

 ジンの腕から離れたしぃちゃんが、妖精姫の胸に飛び込んだ。

 姫は優しく彼女を抱きしめると、追いすがるジンの手をすり抜け何処かへと消え去った。跡には仄かに光る粒子と、佇む男を残して。

 

 

●*

 

 

「……自分の負けだ」

 ジンが6枚目のカードをダメージゾーンに置く。 

 歓声は無かった。ここから両軍がどう動くのか。ナイフの切っ先を首筋に押し付け合うような、牽制と呼ぶにはあまりにも刺々しい、一触即発の静寂が場を支配していた。

「……ひとつだけ確認したい」

 ジンがゆっくりと口を開いた。

「万が一、東の首都が西軍に攻め込まれた場合、君は今日のように防衛してくれるのだな?」

「はい、もちろんです」

「ならばいい。我々の敗北だ! 撤退するぞ!」

 その号令に、さすが名高い“地獄猟犬”麾下と言うべきか、東軍の兵士達は一縷の乱れもなく即座に撤退行動を開始する。

「本当にいいのか?」

 ルイだけが未練がましく問うた。

「構わん。西軍には彼女に勝てる者などいない。だが、次にやれば自分は勝てる。この戦争、我々の勝利は揺るがない」

「そうか」

 ならばいいとばかりにルイは頷いた。

「……では、もう少しだけこの紙遊びにつきあってやるとしよう」

「嬉しそうだな」

「ぬかせ」

 部下の撤退を見届けたふたりの将は、小突き合いながら悠々と去っていった。

 

 

「フラーン!!」

 東軍の気配が消えるや、サラがフランに飛び掛かり抱きついた。

「ありがとう! 本当にありがとう! それにすっごいファイトだった!」

「あはは……自分の尻拭いをしただけですから、礼には及びませんよ。ルイさんには嫌われちゃいましたけどね」

「初対面から印象最悪だったから、そこは諦めた方がいいと思うよ」

 悲劇はこの後に訪れた。

「「おおおおおおおおおおお!!!! フラァァァァァン!!!!」」」

 サラと同じように感極まった西軍の兵士達――筋骨隆々の男が大半――が地鳴りと土埃をあげながら走り出し、一斉にフランへと飛び掛かってきたのだ。

「へ? みなさん、ちょっと待っ――」

 さしものフィジカルを誇るフランも、圧倒的筋肉の質量には耐えきれず、「もぎゅ!」と妙に愛らしい声をあげてぺしゃんこに潰された。

「ふふっ。人気者だね、フランは」

 ちなみにサラは、数瞬前に危険を察知し、フランから離れていた。

「それよりも、大変なのはこれからですよ」

 惨めな体勢のまま、キリッと真剣な表情になってフランがサラを見上げる。

「今のままでは、またジンさんに攻め込まれて今日の繰り返しです。そして、彼ともう一度ファイトして勝てる自信はありません。あの人、もうとっくにあたしより強いです」

「作戦を考えなきゃ、だね。私も……もっと強くなりたい」

「その意気です。あたしの立場からアドバイスはできませんが、西軍で彼に勝てるのはあなたしかいないと、裏を返せば、あなたなら彼に勝てると信じています」

「ありがとう。その言葉だけで励みになるよ」

 サラは微笑むと、筋肉に埋もれるフランをそのままにしてテントを出た。(え、助けてくれないんですかぁ? という情けない声を背中で聞いた)

 去り行くジンの背に、ビッと銃の形にした指を突きつけ、叫ぶ。

「私のこと忘れないでよ! 次こそは必ず勝ってみせるからね!」

 無視されるかと思ったが、ジンは律儀に立ち止まりゆっくりと振り返った。

「楽しみにしている」

 武骨な唇がそう動いたような気がした。




フランの初ファイト回。
そして『リリカルモナステリオ 伝説のアイドル!』に収録された、最新の2デッキが登場です。
公開時期をずらしたのは、これがやりたかったためでした。

特にシィチェルは、イラストを初めて見た時から一目惚れで、絶対にジンに使わせようと考えていました。
フォルティアを使うのに、異名が犬なのも、こちらを使わせる予定があったからです。(初期案では虎や豹などネコ科を想定していました)

そしてそのシィチェル、テキストが判明したのはなんと11月3日の夜。
ファイト描写を書ける猶予は、わずか1日。
強行軍でしたが、それをしてこそのリアルタイムをウリにした私の作品。いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。

次回からは新章が開幕! 12月1日に公開予定です。
残る2国家の使い手も順次登場します!
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