ソードアート・オンライン〜フリーライフ・デイズ〜 作:ΣiGMA
レイヴンさんのギルド〝紅眼の鴉〟のギルドハウスにて、俺達はエギルの店で起こった事を聞く為にレイヴンさんの執務室に集まっていた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
メイド服の女性が俺達に紅茶を配る。
そして去ってゆく彼女を見ながら俺はレイヴンさんにこんな質問をした。
「あの人……NPCじゃないですよね?」
「よく分かったわね?そうよ、彼女もプレイヤーよ。現実で家政婦業をしていてね。その関係でゲームでもああして私の補佐をしてくれているの」
「本当に自由なゲームなんですね」
「〝名は体を表す〟と言うでしょう?〝フリーダムライフ〟なんですもの、誰がどうプレイするかはその人の自由よ」
「とは言っても平気で他人を傷つけたりするのは良しとしないがね」
「そうね。さて……そろそろ本題へと移りましょう。クロウ様、貴方達を襲ったのはドッドで間違いないのよね?」
「間違いない。ちゃんと名前も確認したからな」
「その〝ドッド〟って誰なんですか?」
襲ってきたのはドッドで間違いないかと確認をするレイヴンさんにクロウはそう肯定し、そばで聞いていたリズがそう質問をした。
「〝ドッド〟……正式な名前を〝
「レッドプレイヤー……」
「ここセントラルは他の都市と比べりゃ比較的平和な都市だ……だが必ずしもそういったプレイヤーがいないという訳じゃねぇ」
「故に私のギルドとレイヴンのギルドは互いに連携を取ってセントラルの治安の維持に務めているのだよ」
「そんな中で白昼堂々ドッドは事を起こした……狙いはやはりクロウ殿か」
「どうやらそうらしい。俺のせいでエギル達も巻き込んじまった」
「俺は気にしていないが……客が犠牲になったのは心が痛いな」
「ユイにも怖い目に遭わせっちまったし、ドッドについては最優先事項として対処に当たるべきだな」
クロウはそう言うとレイヴンさんとイサミさんに目を向ける。
二人はそれに同意するように揃って頷いていた。
「それにしてもまさか……今になって〝ムラマサ〟の名前を耳にするとは思いませんでしたわ」
「それ、ずっと気になってた。なぁクロウ、お前はその名前を知ってたようだけど、いったい誰なんだ?」
「ムラマサは過去に運営によってこのゲームから永久追放された害悪とも言えるプレイヤーだ」
「害悪……」
その言葉に俺達は思わずゴクリと唾を飲み込む。
「〝ムラマサ〟……過去にこのゲームにいた鍛冶師をしていたプレイヤーで、自分が作った武器をレッドプレイヤー達に売り捌いていた、いわゆる〝死の商人〟とも言えるプレイヤーだった」
「当時彼がとんでも武器をレッドプレイヤー達にばら蒔いたお陰で、FLOの荒廃期が始まったと言っても過言ではありませんでしたわ」
「しかも奴自身は隠形スキルをカンストまで上げていたらしくてな……誰もその足跡を追えないとまで来た」
「そんでそれを危惧した運営によりあえなく永久BANを食らったってわけだ」
「でも武器を売ってただけでしょ?確かにレッドプレイヤー達に売り捌いていたのは良くないけど、でもそれだけで永久追放されるものなの?」
SAOやALOで鍛冶師をしていたリズならではの疑問だが、俺もそれについては少し気になっていた。
するとその質問を受けたクロウは途端に心底恨みがましい表情をしながら、俺達が思わず驚く回答をしたのだった。
「奴の最も悪質な点はなぁ……奴の武器は全てチートを使って作られたもんだったんだよ」
「チート?!」
「えぇ、ムラマサは独自にチートコードを持っていたようでね……それを使って作られた武器は正に凶悪そのものでしたわ」
「装備するだけで攻撃力がカンストする武器、一度に何種類もの状態異常を確定で相手に与える武器、たったの一撃で即死効果を与える武器……この世界で最もランクの高い武器でさえ顔負けの武器が一斉にレッドプレイヤー達の手に渡った」
〝そこからはどうなったかは分かるな?〟と目で訴えかけてくるクロウに俺達は最低最悪な状況を想像してしまう。
「永久追放されたムラマサはそれ以降姿を現していない……他のゲームに逃げたか、もしくは別垢で未だに存在しているのか」
「別垢の線は無いでしょうね。このゲームの運営の素晴らしい所は、永久追放する際はアカウントではなく端末ごと追放する点ですから」
「そんな事可能なの?」
「どうやってそうしているかは企業秘密なので分かりませんが、実際に永久追放されたプレイヤー達からは今のデバイスでログインすら出来なくなったと報告が上がっておりますから確かでしょうね」
「ちなみにムラマサが作ったとされる武器は軒並み使用出来なくなっていたはずなんだが……」
「運営ですら把握していないものがまだ幾つかありそうですわね」
「後でその件について運営にDMを送っておこう」
「いや、別に送る必要無いだろ」
『……は?』
クロウのその一言に俺達は思わず声を上げてしまった。
それに対しクロウはキョトンとしていたが、直ぐに何かに気付くと指を鳴らしてこう言い始める。
「あぁ、すまん……言葉が足りなかったな。正確には〝わざわざDMを送らなくても直接言えばいい〟って話だ」
「クロウ様……流石に私達の中で運営の方とお知り合いの方はおりませんわよ?」
「なんだ、レイヴンはもしかしてまだ知らないのか?今回の超大型アップデートで大きく変更した要素があるだろ」
「……?」
「おいおい……そんなんで古参が聞いて呆れるぞ?」
わけが分からず小首を傾げているレイヴンさんとイサミさん夫妻を見てクロウが呆れた様子でそう話す。
「このセントラル……いや、セントラルに限らず全ての都市や皇族が全て様変わりしたんだよ。それまでNPCだったのが超大型アップデートで全て運営によるサポートプレイヤーに変わったんだ」
「あぁそう言えば……アップデート内容にそのような記載があったような気がします」
「これによって運営が直接ゲームに関われるようになり、つまり直接的に俺達プレイヤーを監視出来るようになったって事だな。ちなみに皇帝は代表自ら演じてるらしい」
「代表自らって……」
「ノリノリで名乗り出たらしいぞ?」
「お、面白いおじさんなんデスネ……」
「社員曰く実際に面白いおっさんらしくてな。気軽に相談もしやすいってんで人気らしい」
「まぁつまりは領主様に直接報告すれば済むって事ですわね?」
「そういう事。つーわけで明日俺が報告しに行くから、キリト達は……とりあえずいつも通りレベリングなり何なり好きにやっててくれ」
「急に投げやりだなぁ……まぁこれに関しては俺達がどうこう出来る事でも無さそうだし、クロウに一任する事にしようか」
こうしてクロウにドッドとムラマサの武器の件の報告を任せる事にし、俺達は明日は何しようか話し合うのであった。
◇
それから翌日……俺達はそれぞれレベリングなり店の経営なりと分かれて行動しており、俺とアスナは念願のマイホーム購入の為に不動産屋へと訪れていた。
不動産屋に関してはSAOにもALOにも無かった機能なので割とワクワクしながら訪れている。
「三人でのお住いで、なおかつ大人数お越しになられても問題無い物件ですと、この辺りがお値段的にもお手頃かと思われますね」
対応してくれているのはNPCではなく一般プレイヤーの女性だった。
様々な物件を探しては購入し、それを他のプレイヤーへと販売する形式らしく、これだけでもこのFLOがどれだけ自由度が高いゲームなのかが伺える。
「う〜ん……やっぱり二階建ての方が良いよなぁ」
「ここはどう?立地的にも良いし、ユイちゃん用の子供部屋にも出来るよ?」
「そうなりますとこちらの方が庭付きなので、ご友人達とバーベキューなんて出来ますよ?」
「うわぁ、それは悩むなぁ」
「ふふっ、まだまだ物件は御座いますから、よく考えて選んで下さって構いませんよ」
こんなやり取りをしているとここがゲームの世界だということをつい忘れてしまいそうになる。
どの物件にするかアスナと悩んでいた時、不意に背後から声をかけられた。
「おっ、家探しか?」
「あ、クロウ!報告は済んだのか?」
声の主はもちろんクロウだった。
クロウは俺にそう質問されると、大きく頷いてそれを肯定する。
「運営で直ぐに対応してくれるそうだ。逆に感謝されたくらいだな。まったく……ムラマサはいったいどれだけの武器をバラ蒔いたんだか」
「運営も見逃す程だもんな……それだけの本数があったってことだろ?」
「本当に居なくなってからも迷惑な奴だ。ところでだいぶ悩んでるようだな?」
「ああ、俺達三人が住めるのは勿論、皆が集まっても大丈夫な家が良くてさ」
「ふ〜ん……どれ、貸してみろ」
クロウはそう言うと俺達が見ていた物件ファイルを手に取りパラパラとページをめくってゆく。
大丈夫なのかと店員さんに顔を向けてみたが、店員さんは迷惑するどころかニコニコしながらクロウを見ていた。
「だ、大丈夫なんですか……?」
アスナが小声で店員さんにそう問いかけると、店員さんは頷きながらこう答える。
「大丈夫ですよ。クロウ様にはいつもご贔屓にして頂いておりますから」
「どういう事だ?」
俺がそう訊ねると、クロウはファイルから視線を外してそれに答えた。
「ん?あぁ、前々から俺はたまに採取やら何やらしてる際にちょこちょこ良さそうな物件を見つけててな。それをここに紹介……というか情報提供してたんだよ」
「それだけではなく、立地的に最高……しかし廃墟になっており死霊系モンスターが湧いている物件なども、わざわざモンスターを討伐してから提供して下さっていたんです。しかもそれだけでなくその廃墟を修繕する為の素材も提供して頂いたりしておりまして……お陰でクロウ様には我々一同感謝してもし足りない程なのですよ」
「つまり物件の事なら同じくらい知ってるって事だ。けど俺が自ら紹介しっちまうと仕事を奪うことになるだろ?だから提供するだけに留めてんだよ」
クロウはそう言って手にしていたファイルをアスナへと手渡す。
俺達は再びそのファイルに目を通し始めたのだが、その隣でクロウは何故か店員さんに顔を寄せて何やらヒソヒソと話し始める。
「……という訳なんだが、まだあるか?」
「ええ、それならまだ御座いますよ♪︎」
クロウから何かを訊ねられた店員さんはそう答えるとスっと奥の方へと引っ込んでいってしまう。
そして数分の後戻ってきたかと思えば、その手には別のファイルを持っていた。
そのファイルを手渡されたクロウはパラパラとまたページを捲ってゆくと、あるページで手を止め、それをアスナにだけ見せる。
「これとかどうだ?」
「えっ、凄く良いじゃないですか!ええっ?!しかもジャグジー付きのお風呂?!わあ!キッチンも最新式だなんて……とっても気に入りました!」
「そうだろう?そうだと思ったんだよ」
アスナは嬉々としてクロウからそのファイルを受け取ると、そのまま俺に見せてくる。
「どうキリト君?キリト君も良いと思わない?」
目を輝かせながらそう聞いてくるものだから俺もそのページに目を通すと、確かにとても良い物件だった。
しかしお値段が……。
「い、一千万……」
高い……高過ぎる!
俺とアスナの所持金を合わせても60万……940万も足りない。
(アスナは凄く気に入ってるからこれにしてあげたいけど、流石に今は手が出せないな……)
そう思ってアスナを説得しようと試みる俺だったが、その前にクロウがアスナからファイルを取り上げ、店員に向かってこう言い放った。
「じゃあこの物件で頼むわ」
「ちょっ……クロウ?!」
「畏まりました。お支払いは一括で宜しかったでしょうか?それとも分割に致しますか?」
「一括で」
「おいおいおいおい……」
慌てる俺を他所にどんどん話を進めてゆくクロウ。
俺は断ろうと思ったが、隣にいるアスナが凄く……それはもう凄く嬉しそうな顔をしていたのでなかなか断るに断れない。
するとクロウはコンソールを操作し始め、最後にタップすると今度は店員さんの方から〝ピロン〟という通知音が流れる。
「はい、ただ今入金を確認いたしましたので、今鍵を持って参りますね」
「……はい?」
店員の言葉にポカンとする俺。
そんな俺の目の前で店員さんはコンソールを操作すると、今度は俺の方に通知音が流れた。
見ればログに〝シオリよりセントラル住宅街の鍵が贈られました〟という文字が記されている。
「おいクロウ!これどういう事だよ?!」
「俺からの餞別だよ。まぁいわゆる結婚祝いってやつだ」
俺としてはやはり旦那として自ら家を購入してやりたかった。
その事で恨めしそうにクロウを見ると、クロウは俺に手招きをしてこっちに来るよう促してくる。
それに従ってクロウの傍へと行くと、クロウは俺の肩に腕を回し、アスナに聞こえないように小声でこう耳打ちしてきた。
「いいから受け取っとけ。そんで浮いた金で指輪でも買ってやれよ。このゲームではまだなんだろ?結婚指輪」
「────っ!」
なんと……クロウは俺とアスナの結婚指輪の為にわざわざ高い家を購入してくれたのだ。
確かに結婚指輪も買ってやらなきゃなとは思っていた……しかしその前に先ず家が先だろうと思い後回しにする他無かったのだ。
「それに家を買うならインテリアも揃えなきゃならんだろ?今の手持ちで家を買ったとしたら、インテリアは安物になっちまう。それなら指輪を買って、余った金で良物のインテリア買った方が良いだろ?」
「クロウ……すまん感謝する!このお礼は必ず、精神的に!」
「気にすんな。餞別だって言ったろ?そうだな……それでもお礼がしたいってんなら、いつか俺の手伝いでもしてくれればそれで良い」
クロウはそう言うと〝じゃあ、またな〟と言って手を振りながら去っていった。
その背を見ながら俺とアスナはまるで救世主を見るかのような目で彼を見送ったのだった。