ソードアート・オンライン〜フリーライフ・デイズ〜   作:ΣiGMA

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ユイのレベリング・前編

 あれから数日が経ったある日のこと……クロウが餞別に買ってくれた家のリビングでは、俺の目の前でアスナが左手の薬指に輝く指輪を見ながらうっとりとした表情を浮かべていた。

 

 

「毎回ログインする度に見てるよなぁ」

 

「だって……キリト君が買ってくれた結婚指輪なんだもの。毎日見てても飽きないわ」

 

 

 あの日、家を手に入れた後、俺はアスナを連れてセントラルにある宝石店へと向かった。

 

 そこでアスナと共に結婚指輪を選び購入したのだった。

 

 それ以降アスナはログインする度にこうして指輪を眺めているのだ。

 

 凄く照れくさかったが、買ってよかったと心からそう思える……本当にクロウには感謝だな。

 

 

「それに資料で見た時から良いなって思ってたけれど、実際に住んでみたら更に良いよね、この家」

 

「でもまさか使用人NPC付きだとは思わなかったよ」

 

「調べてみたらここの住宅街ってお金持ちプレイヤーが多く住む場所なんだって。だから全ての家に使用人NPCが付いてるそうよ?」

 

「まさかの高級住宅街でしたか……」

 

「まぁそのお陰でリズ達全員を呼んでも全然余裕だったけれどね」

 

 

 家を購入したその日、俺達は引越し祝いを盛大に行った。

 

 皆それぞれに食材を持ち込んでくれて、大人組はお酒で乾杯してたっけな。

 

 もちろんクロウもそうだが、せっかくなのでレイヴンさんやイサミさんも招待した。

 

 その時にレイヴンさんとイサミさん夫婦がご近所さんだったってのが分かったんだよな。

 

 

「今後ともご贔屓にお願いしますね?」

 

 

 なんて事を言われたりもしたなぁ。

 

 ちなみに当のクロウは家を買うのに興味は無いらしく、もっぱら飯付きの宿暮らしらしい。

 

 曰く────

 

 

「そうでもしないと金が減らん」

 

 

 ……なのだそうだ。

 

 金持ち故の苦労なんだろうな。

 

 

「さて……今日はのんびりレベリングでもしようかな?」

 

「なら、私もレベリングしたいです!」

 

「ユイ?!」

 

 

 ユイの一言に俺とアスナは思わず注目してしまう。

 

 

「私も強くなりたいです!」

 

 

 ユナリンでは率先して戦っていた。

 

 今回もまたユイも戦いたいらしく、その目は何処か決意めいたものがあった。

 

 

「強くなれば、クロウさんに大怪我させずに済みますから!」

 

 

 なるほど……やはりユイの中であの時の事をまだ引き摺っていたのだろう。

 

 クロウは気にしなくて良いと言っていたが、それでもユイとしては自分のせいで怪我をさせてしまった事を後悔していたんだろうな。

 

 

「よし!それならリズに頼んで装備を整えて貰わなくっちゃな」

 

「はい!」

 

「ユイちゃんはまた剣が良いかな?それとも私と一緒で細剣にする?」

 

「う〜ん……どうしましょう……」

 

 

 武器を何にするかで悩み始めたユイ。

 

 俺とアスナも同じく悩んでいたがふとある人物の顔が思い浮かんだ。

 

 

「なぁアスナ……」

「ねぇキリト君……」

 

 

 俺とアスナの声が重なる。

 

 

「キリト君からどうぞ?」

 

「いやいやアスナからどうぞ?」

 

「それじゃあ同時に言ってみようか?」

 

「それじゃあ……」

 

「「せーの……」」

 

「「クロウ(さん)に聞いてみるか(みようか)?」」

 

 

 どうやら同じ事を考えてたらしい。

 

 その事に思わず二人で吹き出していると、ユイが笑顔でこう言った。

 

 

「パパとママは相変わらず仲良しさんですね♪︎」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「ユイの武器は何が良いかって?なんでいきなりそんな事を……」

 

 

 あの後クロウにユイの武器について訊ねてみる事にした俺とアスナは、ユイを連れてクロウを探しに出た。

 

 とは言っても何処にいるか見当もつかなかったのでとりあえずエギルの店に行ってみると、幸運にもクロウは店に来てコーヒーを飲んでいた。

 

 どうやらエギルの店でコーヒーを飲む事が日課となっているようだ。

 

 

「いや、ユイが自分もレベリングしたいって言い出してさ」

 

「自分の身は自分で守れるようになりたいんです!」

 

「それはそれは殊勝な心構えだな。感心するよ。でも戦えるのか?」

 

「実は先頭の経験があるんだ。違うゲームでの話だけどな」

 

「そうなのか?益々AIプログラムとは思えなくなってきたぞ?ALOでか?」

 

「いや、ユナイタル・リングってゲームでだ」

 

「ユナ……あぁ、もしかして前に話題になってたやつか?このゲームは関係無かったから俺は話に聞いてただけだったが……」

 

 

 どうやらユナイタル・リングについてはクロウの耳にも入っていたらしい。

 

 まぁ確かにこのゲームを運営している会社はALOやGGOとかとは全く関係のない企業なのでクロウが巻き込まれることは無かったのも当然か。

 

 

「まぁそういう事なら……ちなみにその時は何を使ってたんだ?」

 

「確か俺と同じく片手剣だったかな?」

 

「片手剣か……う〜ん……確かに基本中の基本とも言える武器だが……」

 

 

 クロウはそう言いながら何やら操作を始めると、手元にひと振りの剣を呼び出した。

 

 

「持ってみ?」

 

 

 そう言いながらユイにその剣を手渡す。

 

 ユイは言われた通りその剣を受け取るのだが、その瞬間、一瞬で俺達の視界からユイの姿が消える。

 

 

「えっ、ユイちゃん?!」

 

 

 目線を下げてみれば、そこには上体をかがめながら必死に剣を持ち上げようとしているユイの姿があった。

 

 まるでユナイタル・リングにて装備出来ない武器を持った時の俺みたいな……。

 

 

「お……重い……です……」

 

「やっぱりな……筋力が足りてねぇか」

 

 

 クロウはそう言うとユイの手から剣を奪い取る。

 

 

「これは初期装備の青銅の片手剣なんだが……それでこれって事は大剣や両手剣はもちろん、槍も双剣すら無理だろうな」

 

「うぅ……」

 

「そうなると武器の種類はかなり限られてくるなぁ」

 

「そうだなぁ……ナイフやダガーは流石にとして、だからといって弓も弓で引くのに筋力要るし、銃なんて拳銃一発撃っただけで反動で倒れそうだしな……あ!」

 

 

 話している途中で何やら思い出したかのように声を上げるクロウ。

 

 そして彼が次に取り出したのは比較的短めの剣であった。

 

 

「これ持ってみろ」

 

「はい……あ、これだと持てますね!」

 

「いったい何を渡したんだ?」

 

「ショートソードだ。青銅のな」

 

 

 そしてクロウは次に小さな盾を取り出しユイに渡した。

 

 

「ショートソードとスモールシールド。これなら振れるだろうし攻防切り替えながらの戦闘が出来る。それに盾があればあるスキルを覚えられるしな」

 

「あるスキル?」

 

「〝シールドインパクト〟。盾を構えた状態で使えるスキルだ。前にジャストガード教えたろ?あれと似たスキルなんだが、このスキルの場合盾を構えた状態でそのまま相手にぶつけるように動かす事で発動するスキルなんだ。効果はジャストガードと同じだが、タイミングはジャストガードより取りやすいし、そのまま攻撃に繋げやすいのが利点だ」

 

「そんなスキルがあるんだな。初めて知ったよ」

 

「まぁお前は盾を使わねぇからな。知らなくて当然だ」

 

「そう言うクロウはよく知ってるよな?お前が使ってるのってその大鉈とあとは鎖分銅だろ?」

 

「昔はよく今みたいに他のプレイヤーにレクチャーしててな。その為に一通りの武器を覚えたんだよ。まぁそれが理由かは分からねぇがユニークスキルを覚えてんだよな」

 

「ユニークスキルがあるのか?」

 

 

 FLOにユニークスキルが存在していると聞かされた俺は思わずそう口に出してしまう。

 

 

「あるよ。もちろん〝二刀流〟とかもな」

 

「うわ……だったら片手剣にしときゃ良かった」

 

「そうは言っても必ずしもそのスキルを覚えられるとは限らんぞ?俺が持つユニークスキルだって半ば偶然みてぇなもんだからな」

 

「クロウのユニークスキルって何なんだ?」

 

 

 そう訊ねた途端、クロウの表情が気まずそうなものになった。

 

 何かあまり口に出来ないようなスキルなのかと思っていたら、クロウの口から出たのはとんでもないスキルだった。

 

 

「〝ウェポンマスター〟……」

 

「……は?なんて?」

 

「だから〝ウェポンマスター〟だって言ったんだよ」

 

「それ……ヤバくないか?」

 

 

 もちろん〝ヤバいくらい最強のスキル〟という意味で言った言葉だ。

 

 その事を理解していたクロウは同意するように無言で頷く。

 

 

「武器なら全て扱えるスキルで、しかもレベルに限らず完璧に使いこなせると来たもんだ……だからあえて大鉈しか使ってなかったんだよ」

 

「あ〜……なるほど……どおりで使って無さそうなのに色々な武器を持ってるなと思ったよ。それにしては全部初期のなんだな?」

 

「まぁ俺も戦闘に混ざるレベリングをする際は必要だしな。ほれ、レベルの低いモンスター相手に高ランクの武器を使ったらあっという間に倒せちゃうだろ?そうなると他のプレイヤーのレベリングにならんからな」

 

 

 このゲームはパーティーでモンスターを倒した場合、全員に経験値は入るのだが、LA(ラストアタック)を決めたプレイヤーはボーナスとして更に経験値が入る。

 

 つまり誰よりもレベルが高いクロウが倒してしまうと、本来経験値が欲しいプレイヤーに経験値が入らなくなってしまうのだ。

 

 故にあえて初期の武器で戦うことによって他のプレイヤーがLAを決めやすくしているのだとか。

 

 これがFLOでの上位者による下位者とのレベリングの常識らしい。

 

 

「ところでなんだが……」

 

「なんだ?」

 

「さっきからユイが俺のことを見てくるんだけど……なんでだ?」

 

 

 そう言われて見てみれば、確かに先程からユイはじーっとクロウの事を見ていた。

 

 

「ユイ、どうしたんだ?」

 

 

 そう問いかけてみると、ユイは何か決意したように〝うん〟と溢してからクロウに向けてこう言った。

 

 

「クロウさん、私を指導して下さい!」

 

「……は?」

 

「「……え?」」

 

 

 なんと……ユイは俺達ではなくクロウに指導を頼み始めた。

 

 その事に俺とアスナは勿論、クロウやエギルでさえもポカンとした表情をしてしまう。

 

 

「レベリングならキリト達がいるだろ?」

 

「なんと言うか……パパと一緒だと多分なんですが、パパが途中でノっちゃって倒しちゃうと思うんです!」

 

「ゆ、ユイ?!」

 

「それならアスナに頼めば良いんじゃないか?」

 

「ママはママで速すぎて……あと、ママは基本ガードなんてしないので!」

 

「ユイちゃん?!」

 

 

 何やら辛辣な事を言われたような気がする……いや、気のせいではなく実際にそう言われたのか。

 

 地味にショックを受ける俺とアスナの目の前でユイは何度も〝お願いします〟とクロウに頭を下げていた。

 

 

「ユイの嬢ちゃん。どうしてそんなにクロウに教わりたいんだ?」

 

「だってクロウさんは誰よりも教えるのが上手いじゃないですか?」

 

((ガ────ーン……))

 

 

 俺とアスナの頭の中でユイの〝上手いじゃないですか〟という声が木霊する……。

 

 思わず二人揃ってその場で両膝と両手を着いてガックリと項垂れてしまった。

 

 まぁ……俺達も初めてレベリングをした際にクロウのレクチャーを受けながら行ったのだが、確かにクロウの教え方は非常に分かりやすかった。

 

 その時ユイは彼の後ろでそれを見ていたので、自然と〝教えを乞うならクロウが一番〟となったのだろう。

 

 だとしてもユイの親としては非常に寂しい気持ちがある。

 

 

「はぁ……仕方ねぇな。まぁ、レベル100(……)になってからは、のんびり気の向くままにプレイしてただけだしな。付きっきりでレクチャーしてやるってのもたまには良いかもしれん」

 

「れ、レベル100ぅ?!」

 

 

 急いでフレンド欄を開いてクロウのステータスを確認すると、確かに名前の下に〝Lv.100〟と記載されていた。

 

 

「お前……レベルカンストしてたのか……」

 

「サービス開始してから何年経ってると思ってんだ?そんだけやってりゃそのくらい行ってるに決まってんだろ?なんだ?まだ50そこらだと思ってたのか?」

 

「い……や……た、確かによくよく考えたらカンストしててもおかしくはなかったな……」

 

「だろ?まぁとにかく先に防具を揃えてからレベリングだな。生憎初期の防具は持ってねぇんだ」

 

「それならリズに頼んで作って貰うか?」

 

「ん〜……それより────いや、その方が良いな。そうすりゃリズの鍛冶師のレベリングに貢献出来るだろうしな」

 

 

 そうして俺達はユイのレベリングの為にリズの工房へと足を運ぶのであった。

 

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