ソードアート・オンライン〜フリーライフ・デイズ〜   作:ΣiGMA

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ユイのレベリング・後編

 ユイの防具を製作して貰うためにリズベット工房へと足を運んだ俺達。

 

 リズは大強盗クエストのお陰で工房開設資金が貯まり、今ではこうして立派な工房を構えるまでになった。

 

 

「いらっしゃ────って、なんだあんた達か」

 

「なんだとは失礼な奴だな?せっかく依頼しに来たってのに」

 

 

 営業スマイルから途端に不満そうな顔になるリズにそう文句を言う。

 

 

「依頼?製作の?言っておくけどあんた達に丁度いい防具はまだ作れるレベルじゃないわよ?」

 

「いや、作って欲しいのはユイの防具なんだ」

 

「ユイちゃんの?もしかしてここでもユイちゃんも戦うってこと?」

 

「そういう事。どうしても強くなりたい、戦えるようになりたいって言っててさ。だからこれからレベリングしに行こうって事になったんだ。でもユイが装備出来る防具が無くってさ」

 

「防具だけで良いの?武器は?」

 

「武器はクロウから貰った」

 

「クロウさんから?でもクロウさんの武器って大鉈でしょ?」

 

「それがクロウは一通り……いや、全ての武器を扱えるらしい」

 

「ひょっとして全ての武器スキルをカンストしてるってこと?」

 

「〝ウェポンマスター〟っていうユニークスキル持ちなんだってさ」

 

「なに……そのチートみたいなスキル……」

 

「俺も最初聞いた時そう思ったよ」

 

 

 リズでさえもやはりクロウのユニークスキルはチートだと思うか……。

 

 

「あ〜……まぁ、全ての武器スキルがカンストしてるってのは間違いでは無い。多分だが、全武器スキルをカンストした事で出てきたスキルなんじゃねぇかと思ってる」

 

「ひぇ……そうだとしたら、よくそこまで育てたわね?」

 

「必要に駆られてね。なにせ昔はよく色んな奴らからレクチャーを頼まれてたんでな」

 

「わざわざその為に身に付けたんだ」

 

「教える以上は俺自身使いこなせてねぇと示しが付かんからな」

 

「なるほどね」

 

 

 クロウの言葉に納得するリズ。

 

 

「それで……どんな防具が良いの?」

 

「そうだな……レベル1でも装備出来るちょいとでも頑丈なものが良い。あとは比較的軽めなやつかな?レベル1だからそこまで筋力は無いだろうし、それに使う武器がショートソードとスモールシールドだから身軽な方が丁度良いんだよ」

 

「オッケー……とは言っても何気に難しい注文なのよね。だからあまり期待しないでね?」

 

「構わんよ。本来なら既にあるやつを買えば良い話なんだが、せっかくだからお前さんの鍛治スキルの成長に貢献出来ればなと思って来てるしな」

 

「そうだったの?それは何だかありがたいやら申し訳ないやらだわ」

 

 

 なんだろう……クロウは気配り上手なのだろうか?

 

 自分の為でもあると言われたリズは何処か嬉しそうにしながら準備を始めた。

 

 

「こうしてるとふと思い出すわ……SAO時代に私の渾身のひと振りをあんたにへし折られた時のこと」

 

「思い出さなくて良い事を……」

 

「は?なに?へし折ったのか?」

 

 

 リズがふと口にした思い出話にクロウが反応する。

 

 

「おいおい……お前、それは流石にアカンだろ……」

 

「い、いや……俺もまさか折れるとは思ってなくて……ただ頑丈さを確かめたくて」

 

「お前さぁ……鍛冶師だろうと裁縫師だろうと、自分が作った品物が目の前で破壊されたら悲しいに決まってんだろ?製作者にとって作品ってのは我が子くらい大切なもんなんだから。そのひと振りにどれだけの丹精が込められてるのかくらい理解しとけよそこは」

 

「うぐっ……」

 

「流石はクロウさん!そいつにもっと言ってやって!」

 

 

 ド正論をかまされぐうの音も出ない俺の前ではリズが満面の笑みでクロウにそう言っていた。

 

 

「なんだろう……色んな人達がクロウさんを慕ってる理由がなんとなく分かった気がする……」

 

「ですねぇ……これは慕われて当然だと思います」

 

「アスナ?!ユイ?!」

 

 

 突然クロウを褒め始めるアスナとユイに俺は思わず焦燥に駆られてしまう。

 

 

「あんたもクロウさんを見習わないと、いつか愛想尽かされちゃうわよ〜?」

 

「そ、そんな事ない……と言いたいが、本当にそうなりそうで怖い……」

 

「だったら気をつける事ね」

 

 

 リズにそう窘められ、俺はこれからそうであろうと心に決めるのであった。

 

 

「それにしてもクロウさんって、凄く立派な考えを持ってますよね?なんと言うか……人も物も凄く大事にしてるというか」

 

「ん?あぁ、物心ついた時から親に〝いつも作っている人達に感謝しなさい。そうすれば物を大切に扱えるようになるから〟って言われながら育ってきたからな」

 

「良い親御さんだったんだな」

 

「親父が若い頃に物をぞんざいに扱う友人がいたらしくてな。バイクに乗るのが好きだったらしいんだけど、なのに整備もろくにしない人だったらしくて……それが原因なのか、ある日ツーリングしていた最中にブレーキが効かなくなって、そんでそのまま事故って亡くなったらしいんだよ。親父とは親友同士だったもんで、それ以降親父は物を大切にする事を心がけるようになったらしい」

 

「そうだったのか……そんな事が……」

 

「そんな話を聞かされてか俺も物を大切にするようになって、自衛官の頃はよく同僚達から物持ちが良いって言われてたっけな」

 

「自衛官だったんですか?」

 

「そういや俺が元自衛官だってのはキリトとアスナにしかまだ話してなかったな」

 

「元って事は今は違うんですか?」

 

「今は主に猟師だね。海の方じゃなくて山や森の方の」

 

「あ〜、そっちの方ですか。でもなんで自衛官を辞めたんですか?猟師がやりたくてですか?」

 

 

 リズがそう聞いた瞬間だった。

 

 それまで普通にしていたクロウの表情が険しいものになる。

 

 あまりにも急な変化で俺達は思わず表情を強ばらせてしまった。

 

 

「す、すみません……私、何か失礼な事を聞いちゃったみたいで……」

 

「いや、気にしなくて良い。まぁ、色々とあるんだよ」

 

 

 クロウはそれだけ言うと後は何も言うことは無かった。

 

 それによりその場に重苦しい空気が流れるのだが、そんな空気を一変させるかのようにクロウが手を鳴らす。

 

 

「さて、そんな事よりも早くユイの装備を作ってやらねぇと。時間は有限、ユイも早くレベリングに行きたいだろうしな」

 

「そ、そうですね!よ〜し、張り切って作るからユイちゃんも楽しみにしててね♪︎」

 

「はい!お願いします!」

 

 

 リズはユイの言葉に笑みを浮かべると、装備を作りに奥へと入って行った。

 

 俺はクロウに何か声をかけようと顔を向けたのだが、クロウが何処か遠い目を向けているのに気付き、あえて何も言わずにそっとしておくのであった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「そうそう、無理に攻撃しようとせずに慎重に相手の動きを見極めてから攻撃に移るんだ。基本的に〝攻撃(ヒット)防御(ガード)〟だからな」

 

「はい!」

 

 

 リズの工房でユイの装備を揃えた後、俺達はまたあの狩場へユイのレベリングの為に訪れていた。

 

 ユイはクロウの指導を受けながら攻撃と防御を繰り返して目の前のコモドリザードを相手している。

 

 

「えと……防御をして、次に攻撃……きゃっ!」

 

「おっと」

 

「グギャッ?!」

 

 

 防御から攻撃へと移ろうとしたユイだったが、僅かに急いてしまったのか危うくコモドリザードの攻撃を受けそうになる。

 

 しかしすんでで横からクロウが攻撃した事でコモドリザードの攻撃モーションにキャンセルがかかりユイは辛うじて難を逃れる。

 

 

「ユイ、今だ」

 

「はい!やぁ!」

 

 

 攻撃がキャンセルされた事で僅かに隙が生じたコモドリザード……クロウがユイに指示を出し、ユイはコモドリザードに向かって一閃を放つ。

 

 それがトドメとなりコモドリザードはガラスが砕けたようなエフェクトを放ちながら消えていった。

 

 その代わりにその場にドロップ品が落ちる。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「うんうん、動きはだいぶ良くなってきている。素質があるんだろうね。でもたまに攻撃を急いでしまう傾向があるから、そこは直していかないとな」

 

「あぅ……頭では分かってるんですけど、どうしてもそう行動するのが難しいと言いますか……」

 

「なら、〝ターン制バトル〟と思えば良い」

 

「ターン制……ですか?」

 

「そうだ」

 

 

 クロウは近くに落ちていた小枝を拾うと、その場にカリカリと絵を描いてゆく。

 

 

「先ずこちらが攻撃する番だとするだろ?そしたら次は相手の攻撃の番になる。そしたら次はまたこっちの攻撃の番……これがターン制。つまりユイが攻撃したら、次は相手が攻撃してくる番になるから、その時は盾でガードするんだ。ガードしたら直ぐに攻撃、そしてまたガード、これを繰り返していけば良い」

 

「なるほど……つまり無理に追い討ちしようとせずに、落ち着いてそれを繰り返していけば良いんですね?」

 

「そういう事。たとえこっちの攻撃が避けられたり防がれたりしても落ち着いて対処していけば良い。あとは絶対に相手から目を逸らさない事。常に相手のことを見て相手と対面し続ける事を心がけると良い」

 

「もし相手を見失ったらどうすれば良いんだ?例えば素早い動きをしてくる奴とか」

 

「その場合は背後を取られている前提で立ち回れば良いんだよ。今のコモドリザードみたいに正面から襲いかかってくる奴もいれば、常にこちらの背後を取ろうとしてくる奴もいるからな」

 

 

 俺の質問にもちゃんと答えてくれるクロウ。

 

 しかしクロウのように常にソロで活動しているプレイヤーの方が珍しいらしく、基本的に最低でも二人以上で行動するのが一般的だという。

 

 つまり仲間と背中合わせで戦ったり、離れたところで戦う遠距離系、もしくは支援系のプレイヤーが指示を出したりするのが一般的な戦闘だとクロウは話していた。

 

 

「それにお前らはユイを一人で戦わせるつもりじゃないんだろ?」

 

「当たり前だろ?」

 

「なら今は素早い相手がどうとか、背後を取られたらこうとかよりも、先ず目の前の相手を対処する事を重点的に教えた方が良い」

 

 

 確かにクロウの言う通りだな。

 

 そういった応用めいた事は後々覚えれば良いのかもしれない。

 

 それにしてもちょこんと正座をしながらクロウの話を聞いているユイの姿は本当に可愛いな。

 

 

「カメラがあれば今頃何度も撮り続けているところだ」

 

「カメラ?スクリーンショット機能ならあるぞ?」

 

「あれ?今声に出しちゃってたか?」

 

「カメラがあれば〜って下りならガッツリな」

 

「私、キリト君の考えてること分かっちゃった……確かに今のユイちゃんを写真で残しときたいもんね」

 

 

 流石はアスナ……俺のお嫁さんなだけあって考えている事は一緒だったようだ。

 

 その事に若干の嬉しさと愛おしさを感じていると、クロウがジトっとした目をこちらに向けているのに気付いた。

 

 

「な、なんだよ……?」

 

「人が指導している横で甘い空気垂れ流ししないで貰えるか?口から一生分の砂糖が滝のように出てきそうだ」

 

「キリト君……」

「パパ……」

 

 

 アスナとユイにまで同じような視線を向けられてしまった……。

 

 

「聞いてた以上にラブラブなんだな……なんだがお前らのそばにいるのがユイの情操教育に変な影響を及ぼすんじゃねぇかって心配になってきた」

 

「でも私はパパとママがいつまでも仲良くしている方が嬉しいですよ?」

 

「お前、本当に良い子だな」

 

 

 クロウがそう言いながらユイの頭を撫でると、ユイは嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

 そんな愛娘の姿を見ていたアスナの口からこんな一言が溢れ出る。

 

 

「なんだかユイちゃんって、クロウさんにとっても懐いてるよね?」

 

「確かにそうだな。もしかして……クロウに惚れてる、とか?」

 

 

 有り得そうな話ではある……ユイにとってクロウは自らを犠牲にして自分を助けてくれた命の恩人だ。

 

 〝吊り橋効果〟と言うのだろうか……その時に惚れていても何らおかしくは無い話だ。

 

 だとしても父親としては複雑な気持ちがあるのだが……。

 

 

「う〜ん……惚れてるってわけじゃないと思う。あれはなんて言うか……〝大好きな先生に甘える小学生〟?みたいな感じかなぁ」

 

 

 言われてみれば確かにそう見えなくも無い。

 

 というかそれで正解な気がする。

 

 先程からユイはクロウに褒められる度に本当に嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

 それに前に同じような光景を何処かで見たような……。

 

 

「おや?こんな所で何をしているのかと思えば、ユイのレベリングをしていたのですか」

 

「アリス?」

 

 

 不意に背後から話しかけられたのでそちらへと顔を向けてみると、そこには装備を身につけたアリスの姿があった。

 

 

「アリスはなんでここに?」

 

「いえ……最近、対人戦闘をしていなかったせいで感覚が鈍ってしまっているような気がして、なので誰かに手合わせをお願い出来ないものかと思い相手を探している最中だったのです」

 

「それで相手は見つかったの?」

 

「いえ、リズにもエギルにもリーファにも断られてしまい、それ以外はまだログインしていないようでしたから、キリトかアスナにお願いしようと思っていたところです」

 

 

 なるほど……俺達がここに居ることはエギルかリズ辺りにでも聞いたのだろう。

 

 まぁアリスがどうしてもと言うなら付き合ってやらん事も無いが、このゲームでPvPをする際はどうすれば良いのだろうか?

 

 

「付き合ってやってもいいけど、生憎まだこのゲームでのPvPのやり方を知らないんだよな。今クロウに教えて貰ってこようか?」

 

「いえ、どうやらクロウも忙しいようですし……それにしてもあの二人を見ていると、とても懐かしい気持ちになりますね」

 

「アリスもか?」

 

 

 アリスは何処か懐かしむような視線をクロウとユイに向けており、その表情は次第に柔らかいものになってゆく。

 

 

「思い出しました。あの二人はまるでかつての私と小父様のような感じですね」

 

「あぁ、そうか……何処かで見たような光景だなと思ってたけど、ベルクーリとアリスに似ているのか」

 

 

 〝ベルクーリ・シンセシス・ワン〟────アンダーワールドでのかつてのアリスの師匠に当たる人物。

 

 整合騎士第一号にして騎士団長を務めていた彼は暗黒神ベクタからアリスを守る為に戦い見事に打ち倒した。

 

 しかし相討ちだった為、彼も致命傷を負いそのままアリスの腕の中で息を引き取ってしまった。

 

 そんな尊敬する師と、教えを受けていた頃の自分の面影をクロウとユイに重ねていたのだろう、アリスは一歩踏み出すとそのまま二人の元へと向かって行った。

 

 

「アリスだっけ?お前もレベリングに混ざるか?」

 

「いえ、私はそれよりも貴方と手合わせがしたいのです。お願い出来ますか?」

 

「アリス?!」

 

 

 思わず目を見開いてしまう俺とアスナ。

 

 彼女に手合わせをお願いされたクロウもキョトンとしており、隣にいたユイも驚いた表情をしていた。

 

 だがアリスが真剣にお願いしている事を感じ取ったのだろう……クロウは小さく笑みを浮かべると、ユイに顔を向けて話す。

 

 

「ユイ、レベリングはちょっと休憩だ。キリト達の所で休んでな」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 

 そうしてユイが離れていったのを確認してから、クロウは顔の向きをアリスへと戻す。

 

 

「手合わせだよな?受けてやろうじゃないか。それで、訓練と決闘、どっちにする?」

 

「すみません。まだその辺の事は詳しくなく」

 

「確かにそうだな。そうだな……ついでだからやり方も教えるか。先ずメニューを開いてみろ」

 

「分かりました」

 

 

 アリスは言われた通りにメニュー欄を開く。

 

 

「その中に〝PvP〟があるだろ?」

 

「これですね?」

 

「そうそう、それをタップすると選択肢が二つ出てくるだろ?」

 

「〝Training〟と〝Duel〟がありますね」

 

「〝Training〟が訓練、〝Duel〟が決闘だ。訓練は時間無制限で攻撃を食らってもダメージは負わない。そしていつでも終えることが出来る。決闘は細かいルールを設定して行う列記としたPvPだ。ちなみに訓練だと互いの武器が木製になるからな。そして決闘の際はレベルが高い方が低い方に合わせられる」

 

「なるほど……」

 

「必ずPvPをする際はここから申請してからじゃないとカーソルがオレンジになるから気をつけろよ?それで、訓練と決闘どっちにするんだ?俺はどちらでも構わんが」

 

「今回は訓練の方でお願いします」

 

「それなら〝Training〟をタップして……すると今度は三つの選択肢が現れたはずだ」

 

「今度は〝Friend〟と〝Player〟と〝NPC〟が出てきましたね」

 

「〝Friend〟と〝NPC〟は文字通りだな。この〝Player〟ってのは近くにいるプレイヤーから指定して申請を送ることが出来る。今だとタップすると俺、キリト、アスナ、ユイの名前が出てくるはずだ。フレンドからでも良いが、今回はプレイヤーから選ぼう」

 

「ちょっと待て……〝NPC〟があるって事は、もしかしてNPCとも戦えるってことか?」

 

 

 割り込むのは申し訳なく思ったが、どうしてもそこが気になってついクロウにそう問いかけてしまう。

 

 

「NPCの中には決闘を行えるキャラがいるんだよ。例えばセントラルの訓練場にいる教官とかな。〝決闘がしたい。でも相手が見つからない〟って時にそういったNPCと決闘したりするんだよ」

 

「そんなシステムがあるんだな……それってアップデート後に追加されたシステムなのか?」

 

「いや、これについては最初から実装されてたシステムだぞ?」

 

「意外と凄いゲームなんだなFLOって……」

 

「最初の頃がヤバ過ぎたってだけだったからな」

 

「クロウ、今回はこの〝SCARECROW〟を選択すれば宜しいのですか?」

 

「ん?あぁそうだ。俺の名前をタップすると俺に申請を受けるか否かの通知が来る」

 

 

 アリスが言われた通りにすると、クロウの方から通知音が鳴る。

 

 

「これで俺が〝YES〟をタップして……これでOKだ」

 

 

 するとアリスとクロウの剣が同時に木剣へと変わり、空中にバトル開始までのカウントダウンが現れる。

 

 

「持っていた武器がそのまま木製に変わった感じですね?」

 

「そう。だから木剣といえど扱い易いと思うぞ?」

 

 

 そうして互いに構えをとるクロウとアリス……そしてカウントダウンが終わり開始の合図が鳴った瞬間、先に動いたのはアリスの方であった。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 アリスは横薙ぎの一閃をクロウへと放つ。

 

 クロウはそれを弾くでも防ぐでも躱すでもなく手にしていた木剣でいなすと、そのままアリスの首元に木剣を放った。

 

 

 ビ──────ーッ!!!!

 

 

 クロウは寸止めにしたが、その瞬間にブザーの音が鳴り響く。

 

 

「これで一本。例え当てなくとも攻撃が入ったと判断されれば今のようにブザーが鳴る仕組みだ」

 

「瞬殺でした……もし真剣であれば今頃この首が飛んでいたでしょうね……正直ヒヤリとしました」

 

「はは、まぁ首元を狙ったからな。ちなみに今カウントが出てると思うが、これはインターバル時間だ。これは30秒で固定されている」

 

「息を整える為の時間というわけですね?」

 

「そういう事だ。ほれ、お前さんの気が済むまで相手してやるからどんどん来い」

 

「是非!」

 

 

 そうしてアリスは何度も何度もクロウへと挑み、その度にクロウに一本取られ続けていた。

 

 

「ハァ……ハァ……強いですね……何度やっても掠ることすら出来そうにありません……」

 

「訓練の場合もレベルはアリスに合わせてるのか?」

 

「もちろん。そうじゃなきゃレベルの高い方が一方的になるからな」

 

「それでも一方的になってるんだけどな……そうなると純粋にクロウの戦い方が上手いのか」

 

「まぁな。これでも自衛官時代は近接格闘の訓練を受けてたり、銃剣道や剣道もしていたから一対一の戦いには結構慣れてんだ」

 

「私も相当修行をしてきた身のはずですが……どうやらまだまだ修行が足りなかったようです。これでは小父様に顔向け出来ませんね」

 

「おじさま?お前の叔父さんは武術が何かやってたのか?」

 

「こ、こっちの話なんだクロウ」

 

「ふ〜ん……まぁ他人のプライベートについて追求するつもりは無いけどな。まぁその〝おじさま〟とやらの代わりになれるよう努めるよ」

 

「いえ、今でも結構小父様より強いですよ?スキルを使わずにこれとは……スキルを使ったらいったいどれ程のものなのか……」

 

「スキルか……スキルね……」

 

 

 クロウは含みのあるようにそう呟くと、ふと何かを確認してからアリスにこう言った。

 

 

「そろそろユイのレベリングを再開したい。アリス、これで終いにしよう」

 

 

 その言葉にアリスも同意なのか無言で頷き剣を構える。

 

 そんなアリスにクロウは更にこう言った。

 

 

「今からお前に向かってスキルを放つ……頑張って防ぐか避けるかしろ」

 

「何を言って……」

 

「それじゃあ行くぞ?」

 

 

 クロウはそう言うとその場で体勢を低くし、左手を地面に付ける。

 

 そしてインターバルタイムが0を示し開始の合図が鳴った瞬間、俺達の目の前からクロウの姿が消えた。

 

 そして気付いた時にはクロウはアリスの目の前まで迫っており、振り下ろされた木剣がアリスの鼻先寸でのところで止まる。

 

 

 ビ──────ッ!!!!

 

 

 もう何度目かの一本を付けるブザー音……。

 

 クロウが放った剣圧により靡いていたアリスの髪がゆっくりと降り、アリスは自身の目の前で止まっているクロウの木剣を見ながら呆然としていた。

 

 やがてようやく目の前にあるのがそれだと認識したのか、アリスの顔から一気に汗が噴き出した。

 

 力が抜けたのかその場にペタンと座り込んでしまうアリス。

 

 

「すまんすまん。流石に驚かせ過ぎたか?」

 

 

 クロウは申し訳なさそうにそう話すと、アリスの前に手を差し伸べた。

 

 アリスはその手を握ると、立ち上がりながら先程のクロウの攻撃について問いかける。

 

 

「今のは……?」

 

「スキルだよ俺のOSS(オリジナルソードスキル)、その名も〝一刀殺(いっとうさつ)〟」

 

「いっとうさつ……」

 

「〝一刀のもとに殺す〟と書いて〝一刀殺〟。全身全霊、全力を込めた渾身の一撃を放つスキルで、正に〝一撃必殺〟を目的としたスキルだ。確定で会心が発生し、例え耐えきったとしても数秒間麻痺(スタン)状態になるオマケ付きだ」

 

「随分とエグいスキルだな……」

 

「OSSとして完成させるまでにかなりの時間を使ったからな」

 

 

 クロウはそう言いながらメニューを開き〝戦闘終了〟のコマンドをタップする。

 

 するとそれまで空中に浮かんでいたインターバルタイムが消え、代わりに〝Finish of Training(訓練終了)〟の文字が浮かんでは消えていった。

 

 

「全く姿を捉えることすら出来ませんでした……」

 

 

 クロウのOSSを目の当たりにしたアリスはそう言うと、少しだけ悔しそうな表情となった。

 

 目で追うことすら出来なかったのは俺もアスナも同じで、瞬間的な速さでいえばアスナやユウキにさえ上回ってるんじゃないか?

 

 

「ユウキがこの場にいたら自分もやりたいって言いそうだね」

 

 

 そんな事をアスナが口にするものだから、俺はその姿が容易に想像出来てしまって思わず吹き出す。

 

 ALOの時は自分のギルドメンバーだけで階層ボスを討伐しその名を刻むという目的のもと、その為に共に戦える仲間を探す為に決闘を行っていた。

 

 今は純粋に強いプレイヤーと戦いたいという思いがあるだろう。

 

 

「今度はユウキも誘って皆でPvPってのも良いかもしれないな」

 

「そうね」

 

「おいおい、PvPも良いがある程度レベリングはしとけよ?そろそろ〝アレ〟が来るんだから」

 

『〝アレ〟?』

 

 

 クロウの言葉に俺達は声を揃えて首を傾げる。

 

 すると途端にクロウは心底呆れ果てた表情となった。

 

 

「結構大掛かりなシステムだったせいで延期に延期が重なってたが、ようやく〝地下大迷宮〟が実装されるって、お前ら情報確認してねぇのか?」

 

「ああっ!」

 

 

 そう言われてようやくその事を思い出す俺。

 

 クロウの言う通り当初超大型アップデートで実装される予定だった地下大迷宮は、デバック段階でエラーやバグが多く発見された為に延期が続いていた。

 

 そうか……ようやく実装されるのか……。

 

 

「実装当日はかなりのプレイヤーがなだれ込むようにして挑むと思われるから、早めに向かうようにしないと並ぶ羽目になるぞ?」

 

「確かにそうだな。それじゃあ当日に向けてユイもどんどん強くならなくちゃな」

 

「はい!」

 

「それじゃ、今度はグレイウルフと戦おうか?グレイウルフは機動性に優れたモンスターだから気を引き締めていけよ?」

 

「うっ……が、頑張ります!」

 

 

 こうして俺達はユイのレベリングを再開し、その日はユイがヘトヘトになるまでレベリングに付き合うのであった。

 

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