ソードアート・オンライン〜フリーライフ・デイズ〜 作:ΣiGMA
「俺がギルドを立ち上げる……ですか?」
ユイがレベリングするようになって2日後の事だった。
ある日ログインしていたら突然レイヴンさんから呼び出しを受けたのでアスナと共に彼女のギルドに訪れたところ、彼女から突然そんな提案をされたのだった。
「ええ。貴方達は他から見ても本当に仲の良いグループですから、せっかくならそのままギルドを立ち上げてみたらどうかと思ったの」
「俺はギルド立ち上げとか……あまり性に合ってないので……」
「SAOでは基本ソロでの活動でしたものね。でも、これは貴方達の為ではあるけれど、クロウさんの為でもあるのよ」
「クロウさんの……ですか?いったいどういう事なのでしょうか?」
アスナがそう問いかけると、レイヴンさんは辛そうな表情で話し始めた。
「詳しい事は私の口からは言えないけれど、〝秩序の天秤〟というギルドがあるのはご存知でしょう?」
「クロウから少しだけ聞かされました」
「そことクロウさんの間には因縁……というか確執とでも言うのでしょうか?まぁやむを得ない事情があって。秩序の天秤……私達は〝秩序〟と略称しているのだけれど、秩序のギルドマスターは今、どうにかしてクロウをギルドに引き入れられないかと考えているのよ」
「そういえば……〝リブラ〟という女性がそれらしい事をクロウに話していたような……」
「リブラは秩序のギルドマスターよ。彼女こそ誰よりもクロウを引き入れたがっている人物でね……そのせいか秩序のメンバー達もクロウをどうにかして入れようと画策しているの」
「でもクロウさんは断っていたようですが……」
「それで引き下がるのなら今頃こうして私達が頭を悩ませることは無いわ。それに秩序について不穏な噂を耳にしてね」
「不穏な噂……?」
思わずアスナと顔を見合わせる。
「どういった噂なんですか?」
「クロウを引き入れる為に貴方達を秩序に無理矢理にでも入れようと動いているという噂よ」
「「────?!」」
これには俺もアスナも驚きを隠せない。
つまり俺達は今、その〝秩序の天秤〟から狙われているかもしれない状況なのである。
「私やイサミさんは自ら進んで今のようなスタンスでプレイしているわ。だからプレイヤーが望まない限りギルドへの加入を強要したりしないの。でも秩序は違う……彼女達の真の目的は〝セントラル内の全プレイヤーの強制管理〟よ」
「強制管理……それってつまりプレイヤー達の自由を奪い、絶対的な管理統制の下に置くってことか?」
「そういう事よ。それはクロウさんが最も嫌ってることなの。PKに対しては厳しいクロウさんだけれど、それ以外ではプレイヤー達が各々に自由にプレイして、このFLOを楽しんでくれればそれで良いって考えだから」
レイヴンさんはそう言うと立ち上がって窓越しにセントラルの街並みを見下ろす。
「一度ギルドを結成してしまえば、いくら秩序といえどおいそれと手出しは出来ないわ。もし故意に他のギルドを害したとあればペナルティ対象になりかねないもの」
「だから俺がギルドを立ち上げて、そこにクロウを所属させれば良いって事ですね?」
「そういう事よ」
俺の言葉にレイヴンさんはこちらに顔を向けて優しげな笑みを浮かべる。
「クロウさんが他のプレイヤーの自由を望んでいるのと同じように、クロウさんの自由を望んでいるの。今すぐに答えを出さなくて良いわ。でも少しだけでも考えてみて頂戴」
「……分かりました。考えてみます」
「ありがとう。ちなみにだけれど、クロウさんと秩序の確執について、もしどうしても知りたければクロウさんに聞いてみると良いわ。でも彼が話してくれるかは保証出来ないけれど」
レイヴンさんのその言葉を最後に俺達は彼女のギルドから立ち去った。
エギルの店へ向かう道中、俺とアスナは先程のレイヴンさんからの提案について話し合う。
「アスナはどう思う?」
「う〜ん……クロウさんの件を除いても、ギルドを立ち上げるというのは一つの手だと思うの。ギルドを立ち上げればそれなりの恩恵があるし、他のギルドから勧誘されることも無いしね」
「確かにそれもそうだなぁ……でもなぁ……俺、どうにもギルドマスターは性に合って無いと思うんだよなぁ」
「なんでそこで私を見るの?」
「だってアスナはKoBで副団長してただろ?俺よりもアスナの方がギルドマスターに向いてると思うんだよな」
「それを言うならクラインさんだって、風林火山のギルドマスターだったでしょ?ならクラインさんの方が良いんじゃないの?」
「確かにそうなんだけどな……なんというか……クラインはなぁ……」
確かにクラインも自分のギルドを持っていたが、だからといってこれから立ち上げるギルドのマスターにするかと問われれば微妙なところである。
なんというか俺達の中ではお調子者なので、肝心なところでヘマしそうなタイプなのだ。
(やはり先頭に立って皆を率いるのはアスナが一番合うと思うんだよなぁ……)
そんな事を思いながらエギルの店を訪れ、皆を集めた後でその話をしてみた所、意外にも皆の反応は予想と違っていた。
「いや、どう考えてもあんたが適任でしょ?」
「はい?」
シノンの一言にその場にいた全員(イサミさん除く)が同意するように頷いていた。
ちなみにイサミさんがここにいる理由については、偶然にもコーヒーを飲みに訪れていたからである。
「あんたは自覚無いようだけど、何だかんだで私達を引っ張ってってんのはあんたなのよね」
「そうですねぇ。確かにアスナさんは私達に指示を出したりしてくれますけど、それでも先頭に立ってその背中で引っ張ってくれてるのはキリトさんなんですよね」
「そうだぜキリの字。俺達の中でリーダーだってのはお前しか有り得ねぇよ」
「そ、そうなのか……」
これには思わず照れくさくなってしまい頬をかく。
その隣ではアスナが可笑しそうにクスクスと笑っていた。
「すまん、遅くなった」
そう言いながらクロウが遅れてやって来る。
ギルドの件で皆を呼び出そうとした際にまだログインしていない事が分かり、一応クロウにメッセージを送っておいたのだ。
「遅かったな?」
「あぁ、現実の方で用事があってな。とりあえずそちらの方を終わらせてから来たんだ」
なるほど……まぁクロウは猟師といえど意外と忙しいらしいし、今後もこういった事がありそうだから現実の方でも連絡先を教えてもらおうかな?
「それで……話があるって言ってたが、何かあったのか?」
俺はレイヴンさんからの話とギルド立ち上げについての経緯を話した。
クロウは静かにそれに耳を傾けていたが、話を聞き終えるとその場でため息を溢していた。
「余計な事を……」
「まぁまぁ、妻は貴方の事が心配なのですよ」
「その口振りから察するに、イサミも知ってたな?」
「ええ、私も同じ意見なのでね」
クロウはイサミさんへ不満気な視線を向けるが、イサミさんは平然とコーヒーに口をつける。
「そういえばクロウさんってずっとソロなんですか?」
不意にシリカがそんな事をクロウへと訊ねる。
「シリカ、あんたなんでそんな事を聞いてんの?」
「だって、クロウさんくらいの実力者なら引く手数多じゃないですか。レイヴンさんやイサミさんから誘われたりってなかったんですか?そうでなくてもクロウさんのギルドなら誰だって入りたがりそうに思えますけど……」
その瞬間、クロウの雰囲気が変わる。
クロウとイサミさんは互いに顔を見合せており、その雰囲気は何処か気まずそうなものであった。
「クロウ殿はかつてギルドマスターだった事がある」
「おいイサミ……」
イサミさんによる暴露によりクロウが睨みつけるが、イサミさんは物怖じする事なく逆に鋭い視線をクロウへと向けた。
「クロウ殿。よもや彼らは関係無いと言うつもりではありませんな?もはや彼らとて無関係ではない……もしかするとリブラに危害を加えられる恐れがあるやもしれぬのですよ?」
「そんな大袈裟な……」
「キリト殿、これが大袈裟な話では無いのだよ。リブラがクロウ殿を手に入れる為、貴殿らが邪魔だと判断した場合、容赦なく貴殿らの排除にかかるだろうな」
イサミさんはそう話すと、再びクロウへと目を向ける。
まるで〝もう隠す事は出来ないぞ〟とでも言うかのように……。
その心の声を察してかクロウは少し悩んではいたが、諦めたようにガシガシと頭をかいてからその重い口を開いたのであった。
「これを話すには少しばかり長くなるぞ」
ようやく自身の秘密を明かすとあってか、俺達は誰が言うでもなくクロウの前で居住まいを正して話を聞く態度へと変わる。
「これは、そうだなぁ……俺が初めてこのゲームにログインして暫く経った頃の話だ。かつてFLOが〝荒廃期〟と呼ばれていた頃の話だよ」