ソードアート・オンライン〜フリーライフ・デイズ〜 作:ΣiGMA
「それにしても本当に久しぶりだ……ALOでも姿を見なかったからてっきり引退したのかと思ってたよ」
あの後スケアクロウとまさかの再会を果たした俺とアスナは、スケアクロウの誘いもあって喫茶店でコーヒーを飲みながら再会を喜び合っていた。
「いや……確かにこのまま引退しようかと思ってたさ。流石にあんな事があってから直ぐに似たようなゲームをやろうと思えなくてな」
「だからここで再会した時は本当に意外だったよ。まさかこのゲームをやってたなんてな」
「まぁね」
「どれくらいやってるんですか?見たところ新規ではないですよね?」
「どのくらいかなぁ……このゲームが正式にリリースした時からやってるからなぁ」
「「最古参じゃないか(ですか)!!」」
「ははは、まぁね」
てっきり古参……もしくは中堅辺りかと思ってたらまさかの最古参プレイヤーだった事に俺とアスナは驚く。
でもそう言われてみれば確かにスケアクロウの装備はかなりやり込んでる者のそれであった。
「だから何か分からない事があったらどんどん聞いてくれても構わんよ。あ、なんなら今ここでフレンド登録しとくか?」
「ああ、是非お願したい」
「私もお願いします!」
スケアクロウの提案を俺達は快く受け入れ互いにフレンド登録してゆく。
「そういやさっきの会話聞いてたんだが、やっぱりお前ら付き合い始めたんだな?」
「「ぶふっ!」」
不意に出たスケアクロウの言葉に俺とアスナは思わず飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「やっぱりって……」
「だってお前らの仲の良さは当時のSAOプレイヤー達の間では有名な話だったぜ?そんなんで付き合ってないって方がおかしい話だわ」
「そ、そんなにだったんですか……?」
「そりゃあもちろん。キリトに至っては嫉妬する連中も多かったが、女性プレイヤー達の大半はお似合いの二人だってもっぱらの噂だったんだからよ」
スケアクロウはそう話すと手にしていたコーヒーを一口啜る。
ふと隣を見てみればアスナは顔を真っ赤にしていた……そんな所も可愛いのだが。
「目の前で口からどころか全身から砂糖が出てきそうな雰囲気出すのやめてくれんか?見てて胸焼けと胃もたれしそうだ」
「す、すまん……」
「キリト君……」
スケアクロウからそうツッコミを入れられ、アスナからは呆れた表情を向けられる。
「ところでこうしてお前らの無事が確認出来たのは何よりだが、え〜と誰だっけ……エギル?とかクライン?とかはどうしてんだ?あとアルゴも生還出来たんか?」
「あぁ、皆今でも元気に過ごしてるよ」
俺がそう答えるとスケアクロウは〝重畳〟とだけ言って嬉しそうな表情をした。
そして俺とアスナはラフコフとの戦いの後の日々をスケアクロウへと話し、逆にスケアクロウからその後についての話を聞いたりしていた。
そのついでにマナー違反とは分かっていたが現実での話も互いに話し合っていた。
「まさか猟師をしてたなんて……想像もつかなかったな」
「元自衛官ってだけでも驚きなのにね」
「元自衛官だからこそ、射撃の腕を活かせる仕事をしたかったんだよ。それにのんびりと暮らしたいってのもあってね」
「結構稼げるものなのか?」
「意外とね。なんでも俺が卸している猪肉や鹿肉はかなり状態が良いらしくて、卸先のレストランや料亭だけでなく、その店伝いに他の店からも依頼が来るんだ。お陰で200万もするFLO専用デバイスを一括で購入できたね」
「なに?!あの高額なデバイスを?!」
「そう。だから今のこのアバターは完全に俺の生き写しってわけさ。それに動きにもラグが少なくて快適にプレイ出来るんだなこれが」
「羨ましい……でもアスナも買って貰えそうだよな?」
「流石にそんな高いのは買って貰えないよ。それに買ったとしても置く場所に困っちゃうし」
「それもそうか。そうなるとクロウは何処に置いてるんだ?」
「それ専用の部屋を増築して貰ったんだよ」
「流石は社会人……」
「狩った獲物の解体場所を増築して貰うついでだよ」
「それでもですよ」
アスナがそう話すとスケアクロウは朗らかに笑っていた。
久しぶりの再会ともあって話は盛り上がり一向に尽きる様子は無い。
そんな時ふとスケアクロウが窓の方を指さしながらこんな事を聞いてきた。
「ところでお二人さん……さっきから窓の外からこっち見てる子達は二人の知り合いか何かか?」
「「え……?」」
そう言われそちらへと顔を向けた俺とアスナは揃って呼吸が止まりそうになった。
そこには窓に張り付きながらこちらを睨んでいるリズと、その後ろで苦笑いを浮かべているシリカやリーファ、そして呆れ顔をしているシノン達の姿があった。
「友人デス……」
「そうか……なら────」
スケアクロウはリズ達の方へと顔を向けると、笑みを浮かべながら手招きをする。
それを見ていたリズ達は誘われるがままに店内へと入ってきた。
「もう!ログインしても何処にもいないし!メッセージすらないし!本当にあちこち探したわよ!」
「ごめんごめん。アスナが悪質なプレイヤーに絡まれちゃってさ……その時にクロウに助けられてここでお茶してたんだよ」
「……クロウ?」
「どうも、スケアクロウです。そちらの二人……いや、その更に後ろにいるやつ含めて三人は初顔では無いけどな」
俺の言葉に訝しげな表情となるリズにスケアクロウがそう挨拶をする。
ちなみにスケアクロウが言っていた〝三人〟とはもちろんエギル、クライン、アルゴの事だ。
「お前スケアクロウだったのか!仮面じゃねぇから分からなかったぜ」
「確かに……でも今は迷彩柄だが、SAOの時に着ていた黒と深い緑色の服装と似たようなデザインの服装を見るに面影はあったな」
「まさかこんな所で会えるとは思ってなかったナ〜」
「お兄ちゃん達の知り合い?」
「あぁ、SAOの時に知り合ったプレイヤーでな。ちょっとだけ一緒に行動してた時があったんだ」
「へぇ……それじゃあ結構凄いプレイヤーだったのね」
「凄いってもんじゃないヨ。なにせ対人戦に関しては最強なんじゃないカって有名だったからネ。もし攻略組に参加してたら、もっと攻略が進んでただろうナ」
「攻略組に参加してたらって……そうじゃなかったの?なんで?」
「それは……そっちのお二人さんに聞いた方が早いと思うゾ?」
シノンの言葉にアルゴが隣の方へと顔を向ける。
つられるようにそちらへと顔を向けると、そこには青ざめた表情のルクスとグウェンの姿があった。
「ちょっ、どうしたのよ二人共?!」
リズが慌てた様子でそう問いかけるとグウェンが震える声で答えた。
「ああ、当たり前じゃない……そいつSAOでは有名なあ、〝赤狩り〟よ!」
『赤狩り?』
スケアクロウの事を知らないメンバーが声を揃えながら首を傾げる。
「SAOで暗躍していたレッドプレイヤーやオレンジプレイヤー達が揃って恐れる存在……特にレッドプレイヤー達にとって出会ったが最後ってやつでナ。つまりレッドプレイヤー達にとっての死神みたいな存在だったんだヨ」
「クロウは元々は普通のプレイヤーだったらしいんだけど、ある日レッドプレイヤー達の襲撃にあって仲間を一人失ったらしい。その事があって俺達が攻略を進めている裏でレッドプレイヤー達を狩ってたんだよ。お陰で当時牢獄に捕らえられたレッドプレイヤーやオレンジプレイヤーの大半がクロウによるものだったんだ」
「へぇ〜……正義感が強い人なのね」
「そんな褒められたもんじゃねぇよ。なにせ初めて襲撃を受けた際、襲撃してきたレッドプレイヤー達を勢い余って殺っちまったんだから」
『えっ?!』
この言葉には俺も驚いた。
出会った時からオレンジプレイヤーだったのは覚えていて、その理由についても聞かされていたから知っていたが、まさか殺人までしていたとは知らなかった。
「あの時は捕縛する余裕なんて無かったからな……オレンジプレイヤーになっちまった事で当時一緒だったメンバー達に迷惑をかけられんと自ら離れ、そしていくらキリト達が攻略を進めようとそんな事でプレイヤー達が死んでゆくのは宜しくないと思って積極的に動いてただけだしな」
「それでも……」
ここでふとシリカが口を開く。
「それでもスケアクロウさんのお陰で助かった人達は多かったと思います」
「お嬢さんにそう言って貰えると少し救われるよ」
「でもそれによってあのPohまで恐れる赤狩りが誕生したのよね」
「あの男がですか?!」
グウェンの言葉にそう驚きの声を上げたのはアリスであった。
アリスはアンダーワールドでPohと面識がある……本名をヴァサゴ・カルザスと言ったが、あの男はアンダーワールドでも凶悪であった。
やっとの事で倒したという記憶があるが、そんな奴でさえも恐れたとなればスケアクロウはどれ程のプレイヤーだったのか……。
「Pohとは……これまた懐かしい名前が出てきたもんだな。あの時に奴と対峙したが、動きはプロのそれだった。自衛官の頃に近接格闘やら武器格闘やらを訓練してなかったら今頃こうして生きてなかったろうな」
スケアクロウはそう染み染みと話していた。
思い返してみればラフコフとの戦いの際、スケアクロウが僅かに圧倒していたような記憶もある。
「あの時は〝殺しても死なないプレイヤー〟ってラフコフでは有名だったんだから!」
「いやいや、殺されたら死ぬだろ?」
「実際にそいつを暗殺した事があるメンバーがいたのよ。確かに死んだ際のエフェクトが発生したのも確認したって……でも次の日、そのメンバーは投獄されたわ。一緒にいたメンバーの話では捕らえたのが他でもないそいつだったらしいのよ」
「どういう事だ?」
あまりにも意味が分からなくて思わずスケアクロウにそう問いかける。
するとスケアクロウは嘆息しながらこう言った。
「まぁ今となっちゃ隠す必要もねぇしネタばらししとくか。実はSAOにはある復活アイテムが存在したんだよ」
「復活結晶のことか?でもあれは自分では使えないだろ?」
「それの他にあったんだよ。お前らは知らなかったと思うが、SAOのクエストに〝死霊の呼び声〟ってのがあって、それをクリアすると一日に一度だけ死んでも復活出来る〝不浄の指輪〟ってアイテムがドロップするんだよ」
「なっ……そんなアイテムがあったのか!」
「でもそれを明かすとレッドプレイヤー達の耳にも入るかもしれねぇだろ?だから隠してひっそり装備してたんだよな。本当に復活出来るかどうか分からんかったから、あの時不意を食らった時は本当に焦ったよ」
「だからそんな噂が立ったんだな。ちなみにそのアイテムは……」
「もう無いねぇ。このゲームを始める際は転送なんてせずに新しく作ったからな。そもそも転送したとしてアイテムが引き継がれるのかは分からんしな」
「引き継がれなかったと思うな……俺もALOを始めた際にSAOのアバターを転送したけど、一つを除いてあとのアイテムは全部文字化けしてたよ」
「それじゃあ俺の方でも結果は同じだっただろうな」
スケアクロウはそう言うとまたコーヒーを一口啜った。
ちなみにその頃には他のメンバー達も注文品が届き各々に口にしていた。
「……で、キリト達はこれからどうすんの?どうやら待ち人は全員来ているようだし、今すぐにでもチュートリアルくらいは進めておいた方が良いんじゃないか?」
そんな風に話題をFLOへと戻したスケアクロウ。
そこで俺はある事を彼に問いかけた。
「クロウはこのゲーム長いんだよな?」
「さっきも話してた通りサービス開始当初からやってるからねぇ。とは言っても今回の超大型アップデートで何がどう変わったのか確認して回らんととは思ってるけどな」
「それじゃあクロウさえ良ければでいいんだけど、俺達の手伝いをしてくれないか?」
「手伝い?」
俺の言葉にスケアクロウは訝しげな表情となる。
「ほら、NPCからチュートリアルを受けるより、長年やってる最古参から教えを受けた方が分かりやすいと思うんだよ」
「そう言って、本音ではあわよくばレベリング付き合ってもらおうって魂胆だろ?」
「ギクッ……よ、よくご存知で」
「お前さんの仲間達と比べりゃ付き合いのある期間は短いが、それでもお前さんの人となりは知ってるつもりだ」
「やっぱ難しいか……?」
「う〜ん……」
スケアクロウは暫く悩む……そして一つ息を吐いたあと、〝仕方ないな〟というような表情でこう答えた。
「分かった、俺で良ければ手伝ってやるよ。まぁ誰かに何かを教えるのはこれが初めてでもねぇしな」
「やった!」
「あんたらもそれで良いのか?」
スケアクロウが他のメンバーにそう問いかけると、皆揃って快く頷いた。
「それじゃあこれからよろしく頼む。ちなみに俺の事はキリトのように〝クロウ〟と呼んでくれて構わん。そっちの方が呼びやすいだろ」
『よろしくお願いしますクロウさん!』
「別にさん付けせんでも……まぁいいか。それじゃあ何から教えようか?うん、先ずはこのセントラルを案内するのが先だな」
そうしてスケアクロウ……もといクロウは立ち上がると、全員分の伝票を持ってレジへと向かう。
「あ、おい……俺達はそれくらい自分で払うぞ?」
「いいからいいから、ここは一つ奢らせろよ」
クロウがそう言うので俺達はお言葉に甘えて今回はクロウに奢って貰うことにした。
そうしてクロウを先頭に店を出ようとした時、そこに数人のプレイヤー達を連れた一人の女性プレイヤーと鉢合う。
その事に何故かクロウは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「誰かと思えば〝リブラ〟か……」
「お久しぶりですクロウさん。またも悪質なプレイヤーを成敗したようですね?」
「成敗じゃなくて追い払っただけだ」
「どちらでも構いません。貴方がそうして下さる事でこのセントラルの治安は維持出来ているのですから。それよりも前々からしていた話……考えて下さいましたか?」
「いい加減くど過ぎるぞ?何遍も言ってるだろ?俺は入る気なんざねぇってよ」
「ですが、私達には貴方が必要で────」
「リブラ……いい加減、くど過ぎるって言ってるのが分からんか?」
クロウが纏う雰囲気が一気に変わったことで俺達は僅かに身体が震えるのを感じた。
悪寒と言うやつだろうか……それに今のクロウはかなり怖い。
どうやら相当怒っているらしい。
その事に〝リブラ〟という女性も表情を強ばらせており、数秒クロウと睨み合いをした後にため息を溢してこう言った。
「はぁ……分かりました、今回も引くことにします。ですが、私は決して諦めるつもりはありませんよ?」
「何度来ても無駄だ。それだけでも胸に刻んでおけ」
「残念ながら承知致しかねます」
「「……」」
長い沈黙の後、どちらからということも無くクロウとリブラは互いに歩き出す。
俺達も店を出たクロウに続いて店を出たのだが、その際にリブラがずっとこちらを睨みつけている事に気がつく。
だが俺はあえてそれを無視してクロウの後を追ったのだった。