ソードアート・オンライン〜フリーライフ・デイズ〜 作:ΣiGMA
「マッドボアは群れで生活するモンスターだ。一体一体はそう強くは無いが、奴らは連携して襲いかかってくるからパーティーで戦う際は極力分散させながら戦うことを意識しろ〜」
そんなクロウの指示が飛ぶ。
今、俺達はクロウがレイヴンさんから教えて貰った狩場とやらに来ている。
あの後レイン、セブン、ユイ、ストレアの事を向かいがてら紹介し、とりあえず非戦闘員であるユイはクロウが守ってくれることになった。
現状、俺達の中で一番強いのはクロウだしな。
「シノンだっけ?お前さんが使うマスケット銃はいわば戦国時代の火縄銃みたいなもんだ。一発ごとに装填せにゃならんし射撃の精密さもかなり劣っている。遠くから撃とうとしても味方に当たる可能性が高くなるだけだぞ」
「エギル。お前さんは
「クライン!いい加減マッドボアの行動パターンを覚えろ!遠くにいる場合は突進、近くにいる場合は角の振り回し。牙の振り回しは2回ほどで、その後は背後に向きを変えてもう2回行うからな」
「キリト、レイン、あとルクスは双剣なんだから手数で勝負しろ。それとヒット&アウェイを心がけねぇと足を止めた瞬間に防戦一方になるぞ」
「ストレアは片手剣のユウキや細剣のアスナと比べてかなり攻撃速度が遅い。その代わりその2人よりも高い威力が出せるから、二人が翻弄してる間に攻撃を叩き込むようにしろ」
こんな感じで指示を出してくれるので非常に戦いやすい。
まぁ言い方に若干のスパルタを感じるが、それでも的確なアドバイスである事には変わりないので助かっている。
しかし少しの油断というものは付き物で、クライン、リーファ、そしてシノンが担当していたマッドボアの牙の振り回しによりクラインとリーファが吹き飛ばされてしまう。
「うわぁ!」
「きゃあっ!」
「ちょっ……!」
二人を吹き飛ばしたマッドボアはそのままシノンへと狙いを定め突進をする。
シノンはすんでの所で回避出来たが、その先にはクロウとユイがいた。
「やべっ……!」
クラインが慌てて追いかけようとするが到底間に合いそうもない。
俺達も目の前のマッドボアで手一杯であり、そちらへと手が回らなかった。
そうこうしている内にマッドボアは徐々に近づいていき、クロウに当たるのも時間の問題に思われたのだが────
「ふっ!」
「ピギィィィィィ────!?」
あわや直撃する寸前、クロウは腰に差していた大鉈を抜き放つと、それをマッドボアの目の前に突き立てた。
するとそれに直撃したマッドボアはその巨体からは想像も出来ないほど後方へと吹き飛んでゆく。
「今のがジャストガード……タイミングよく防御する事によって敵に
「そんなのがあるのか……なら俺も────ぐはぁ!」
「何やってんのキリト君?!」
「あんた馬鹿じゃないの?!」
クロウに習って俺もジャストガードを試そうとしたのだが、タイミングが外れて牙で吹き飛ばされてしまった。
その事でアスナとリズから手痛いツッコミを受けてしまう。
「いてて……これはなかなか難しいな」
「まぁタイミングを合わせないとならんからな。初見で出来たら相当だぞ?」
「あ、出来た」
「……その〝相当〟がいたようだな」
ジャストガードの難しさについて話している横で難なくそれを決めてしまったユウキに思わず悔しさを覚えてしまう。
そうして苦戦することようやく俺達はマッドボアの群れを倒すことに成功した。
「今ので結構レベルが上がったな……たしかにここの狩場は美味そうだ」
「ねぇクロウさん。ちょっと気になるのがあったんだけど?」
俺がレベルの上がり具合を見て満足していると、マッドボア討伐の報酬を確認していたリズがクロウを呼ぶ。
「どうした?」
「これ……〝部位破壊ボーナス〟ってなんなの?」
「あ〜……リズの嬢ちゃんは途中マッドボアの牙をへし折ってたろ?」
確かにリズはマッドボアの牙を砕いていた。
「そういうのは〝部位破壊〟って言って、モンスターごとに破壊できる箇所があるんだよ。そんでその破壊に成功すると今みたいにボーナスが貰えんだ」
「ボーナスって例えば?」
「基本的にそのモンスターの素材よな。今回はマッドボアの牙の破壊成功だから、その牙がボーナスとなるね」
「何かしらの武器とか装備じゃねーんだな?」
「そういったのは結構高レベルなボスとかだな。そのボスに関する武器や装備がたまにボーナスとしてドロップしたりする。マッドボアみたいな雑魚モンスターだと素材だよ」
「なんか損した気分ね」
「いやいやこれが馬鹿には出来んぞ?例えば防具を作りたいとする。でもその為の素材が足りない。だからそのモンスターを倒して素材を得る。だが通常のドロップ品はランダムだから決して欲しい素材がドロップする訳じゃない。けど部位破壊なら高確率でその部位に関する素材がドロップするんだよ」
「なるほど、つまり素材が欲しいのなら積極的に部位破壊を狙っていけば良いってことか」
「そういう事。まぁでも今の時点ではどの装備にどんな素材が必要かなんて分からんし、今のところはレベリングに集中すればいいんじゃねぇかな」
「まぁそれもそうだな。というわけでこの調子でどんどんレベル上げてこーぜ!」
『おー!』
─それから数時間後……─
「いや……始めたてで古参とは行かなくとも中堅プレイヤーに追いつこうという気概は素晴らしいよ?でもよ……」
クロウはそう言いながら俺達を見渡した後、呆れた様子でこう言った。
「満身創痍になるまでやるのは流石に馬鹿者としか言いようが無いぞ?」
「そ……ソウデスネ……」
あの後、俺達は時間を忘れてレベリングに没頭していた。
いや、没頭してしまっていた。
そのせいで俺達は揃ってみっともなく地べたに座り込んでしまっている状況だった。
「レベル1からレベル20……流石の俺でもこのペースでのレベリングはして来なかったな。何なのお前ら?こんだけ生き急いで明日死ぬんか?」
『め、面目次第も御座いません……』
「パパ……ママ……流石にこれはやり過ぎだと思います……」
ユイでさえも呆れ返ってしまっている事に俺とアスナは地味にダメージを負う。
「まぁともかく今日はここらで終いにしよう。せっかくのFLO……戦闘以外にも楽しむ要素は色々とあるんだからそっちも満喫しろ」
「あぁ、そうするよ。悪いな、付き合わせちゃって」
「気にするな。まぁ俺としても久しぶりに楽しめて────」
不意に言葉を区切るクロウ……彼の視線は俺達ではなく何処か別の方へと向けられていた。
その視線の先を追うようにそちらへと顔を向けてみると、そこには全身黒の服装をしたプレイヤーを先頭に数人のプレイヤーの集団の姿があった。
そして先頭にいたプレイヤーは俺達……と言うよりクロウの存在に気付くと、ニヤリと笑って口を開く。
「おやぁ?誰かと思ったらかの最強さんじゃ〜あ〜りませんか〜?」
「アズライル……」
その時のクロウの様子は何処か怖いものがあった。
まるで親の仇でも見るかのような視線を〝アズライル〟というプレイヤーへと向けているクロウ……しかし当のアズライルは気にもとめない様子でヘラヘラと話し続ける。
「こんな所でいったい何をしてるんです?」
「テメェこそここで何してんだ?ここはまだセントラルの領域だぞ?マナー違反じゃねぇのか?」
「いやぁ、大物目当てに歩き回ってたらここに出っちまっただけですよ〜wそんなに睨まなくてもい〜じゃないですか〜www」
「だったらさっさとテメェの領地に帰んな。それとも……ここでやり合うか?」
そう言って腰の大鉈に手をかけるクロウ。
するとアズライルは両手を振ってそれを拒否した。
「いえいえ〜、あんたとやり合おうなんざ自殺行為なんでやめときやすよ〜wというか何してるんです?そこにいんのはもしかしてビギナーですかね?大変ですね〜、クソの役にも立たないビギナーの相手だなんてw」
「……は?」
その言葉には思わず俺も声を出してしまった。
アスナ達も無言ではあったものの頭に来ているらしく、揃ってアズライルを睨みつけている。
「おや?その後ろにいるのは女の子ですか?見たところ……もしやサポートAIってやつですかね?どうです?俺が暫く預かってましょ〜か?俺達子供好きなんで〜w」
奴の視線はまともなものではなく、何処か下卑た光を宿していた。
その後ろにいたプレイヤー達も同じでユイの事を品定めするかのように見ている。
「貴方達……」
「待て、やめとけ」
思わず飛び出しそうになるアスナをクロウが手で制する。
「うおっ、あの子めっちゃ美少女じゃん!」
「他の子達も可愛いし」
「あの子めっちゃ巨乳じゃね?揉みしだきてぇ〜」
そんな声が奴らから上がり始めた瞬間、押し潰すかのような雰囲気がクロウから放たれる。
それにより下品な発言をしていたプレイヤー達は一瞬で黙ってしまった。
「お〜怖っ!やだな〜、ただの冗談なんですからそう怒らないで下さいよ〜w分かりました、今回は大人しく素直に帰りますよwほら、テメェら帰るぞ〜」
『へ〜い』
踵を返して去ってゆくアズライルとその一行……奴らの姿が消えるまでクロウはずっと睨みをきかせていた。
「すまんな……不快だったろ?」
「いや、大丈夫だ……それよりもあいつは?」
「奴はアズライル……西方都市ウェステルを拠点としている古参プレイヤーでな。まぁはっきり言えば目的の為には手段を選ばねぇ超悪質なプレイヤーだ」
「ペナルティ対象じゃないのか?」
「残念ながら実力は確かなんでな……ウェステルの領主にとってはどれだけ性格が終わってようと貴重な戦力なんだよ。後で詳しい事は説明するが、ウェステルではトッププレイヤーだ」
だからさっき飛び出しそうになったアスナを止めたのか……今のままじゃ奴に勝てないと知っていたから。
「帰ろう……悪いが胸糞が悪いんでな」
「あぁ、そうするよ」
こうして俺達はレベリングを切り上げてセントラルへと帰ることになった。
その帰り道は重い空気が流れ、誰も何も言えない様子だった。
(アズライル……何となくだが、いつかまた奴と関わりそうな気がする)
俺はそう思うと、それまでに強くなろうとそう心に決めるのであった。