ソードアート・オンライン〜フリーライフ・デイズ〜 作:ΣiGMA
アズライルとの邂逅があってから早数日……この俺〝スケアクロウ〟がセントラルで開店したエギルの店でコーヒーを飲んでいた。
エギルは現実でもカフェのマスターをしているらしく、それ故か他の店よりも美味いコーヒーが飲めるとしてセントラルのプレイヤー達からは人気であった。
今は大半がクエストやらレベリングやらをしているからか客の入りが少ない。
お陰でのんびりと過ごせているわけなのだが、そんな折に店へとやってきたキリトとアスナが神妙そうな表情で俺に話しかけてきた。
「クロウ、ちょっと相談があるんだがいいか?」
「別に構わんよ?どうせ暇してたし」
「ありがとう、助かる!」
何やら相談事があると言うキリト……その隣ではアスナも同じように期待を寄せた視線を向けてきている。
とりあえずカウンター席から奥のテーブル席へと移動し二人に向かい合うように椅子に座ると、早速本題へと入る。
「それで……相談事って?」
「一気に金を稼げるクエストとかってないかな?」
「一気に?なんで?」
「なんでって……それは……」
急に歯切れが悪くなるキリト。
何か言えないような理由でもあるのかと不審に思っていると、アスナが変わりにこう告げた。
「私達の家が欲しくて……」
そこで俺は二人がかつてSAOで結婚していた事を思い出す。
「なるほど、夫婦としてマイホームが欲しいってわけだな」
「な、なんで俺達が夫婦って知って────」
「お前ら……SAOでどれだけ有名だったのか自覚ねぇのか?かつてビーターと呼ばれるも後に黒の剣士として有名になった英雄キリトと、〝閃光〟の二つ名を持ちトップギルド〝
「嘘だろ……アルゴにちゃんと口止めまでしてたのに……」
「それまで仲良かった二人がある日更に仲良くなってるって事と、当時攻略組だったプレイヤーの一人が二人の指にお揃いの指輪が付けられてるのに気付いたらしくてな……それで一気に広まったんじゃねぇかな?」
「そ、そうだったのか……」
「あぁ、あと……当時のんびりと生活していたプレイヤーの爺さんが二人の事を知っていると話してて、MMOトゥデイで二人を見て〝あの時の若い夫婦じゃないか!〟と驚いてたらしく、それで更に広まったそうだぞ?」
「えっ、あの時のお爺さん……生きてたんだ!」
どうやら二人もその爺さんの事を知っているらしい。
なんでも攻略の日々に疲れた二人が山奥に引っ越した際に出会った人物らしく、一緒に主を釣り上げた事があるらしい。
まぁ確かにデスゲームと化したSAOで戦い続けていたら精神的に疲労が、限界が来てもおかしくはない。
俺でさえ何度壊れそうになったことか……。
まぁ今はその事は重要では無いな。
「なるほどな、家を買いたいが金が無い。とはいえちまちま稼いでたらいつになるか分からない。だから大金を稼げるクエストを知りたいって事だな?」
「そうなんだ。長年やってるクロウなら知ってるかなって思ったんだけど……」
「残念ながら真っ当なクエストだと今のお前らじゃレベルが足りなさ過ぎるんよね」
「そう……なのか……ん?〝真っ当なクエストなら〟?って事はそういうクエスト自体はあるのか?」
あぁ……これはつい口を滑らせっちまったな。
このFLOには大金を荒稼ぎ出来るクエストがたった一つだけある。
ある事にはあるのだが、それは何というか……倫理的にというか……道徳的に宜しくないものだった。
「教えてやってもいいんだが……ひとつお前らに訊ねたい」
「な、なんだ?」
「お前ら……強盗に興味ある?」
その時の二人の顔と言ったら、正に〝鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔〟であった。
◇
「……という事で、スケアクロウによるクエスト口座〜」
クロウのそんな一言に俺達からパチパチと拍手が鳴る。
急遽エギルに店を貸し切りにしてもらい集まった俺達は今、その前にアスナと二人でクロウに相談していた際に出た〝とあるクエスト〟についての説明を受けようとしていた。
「このFLOには大金を荒稼ぎ出来る唯一のクエストがあります」
「先生!それは何ですか?」
フィリアがまるで生徒のように手を挙げてそう質問をする。
「その名も〝セントラル中央銀行大強盗大作戦〟です」
『え"っ……』
クロウが口にしたクエスト名に俺とアスナ以外の全員がそんな声を上げていた。
俺とアスナでさえも最初聞いた時同じような反応をしたんだよな。
「このクエストはどういったものかと言うと、セントラル中央銀行の頭取……まぁオーナーである大富豪が気まぐれに開催したものという設定で、プレイヤーは中央銀行にある金やら宝石やらを制限時間内に好きなだけ盗むことが出来る」
「それってペナルティ対象外なの?」
「頭取本人が開催しているものだから後々ペナルティが課されるとかは無いから安心しろ。それでルールとしては開始から制限時間までに金目のものを奪うだけ奪って逃げ出せれば成功。逆に制限時間を超えたり、途中でHPが尽きた場合はそこで
「逃げ出せればって……そういった脱出ポイントがあるのか?」
「地上は2階、地下は5階まであるんだが、脱出ポイントは地下にしか無く、その地下にいくつか点在している」
「なら制限時間を確認しながら進んでって、制限時間が来そうになったらそこから脱出すれば良いってわけね」
「残念ながらそう単純には行かない。脱出ポイントはランダムで開いていて全ての脱出ポイントから出れれるわけじゃねぇ。しかも時間経過でそれまで開いていた脱出ポイントが閉じたり、閉じていた脱出ポイントが開いたりもする。つまりその脱出ポイントが開いてるからってその階でウロウロしてるといつの間にか閉じていて脱出出来ずにタイムオーバーって事も有り得るんだ」
「かなりシビアじゃねーか」
「その通り。だが上手くすれば最大で100万ダラーを一気に稼ぐことが可能だ。とは言っても奪った品物で価格が違うから、100万を一気に稼ぐ奴はそうそういないけどな」
「最大100万ダラーって……それ以上は無理なの?」
「毎週得られる金額が決まってんだよ。その制限額が累計で100万なんだ。100万稼いだら翌週に更新されるまで待つしかねぇな」
このゲームにおいての通貨〝ダラー〟は日本の〝円〟と同じで、〝1ダラー〟は日本円で〝1円〟となる。
確か家を購入するのに必要な金額は最低でも20万ダラー……マンション一部屋であれば最低5万ダラーだが、やはり俺としては買うなら一戸建ての方が良い。
つまり最低でも20万稼げれば良いってわけだ。
「ちなみにこのクエストには警備NPCが配置されていて、プレイヤーを見つけ次第捕縛しようと襲いかかってくる。強さはプレイヤーの現時点のレベルに合わせているから苦戦することはまず無いだろうよ。ただ所々にいる中ボスは結構強い。戦うならかなり時間を消費するのを覚悟しておけ。ラスボスに勝てればかなりの大金が見込めるが……それに挑むのには銀行内に隠されてるカードキーとアイテムが必要で、隠し場所もランダムだから何処にあるかは教えられん。見つけられればラッキー程度に思った方が良い」
「そのボスへ挑む為のアイテムを獲得したとして、挑まずに終わったらそのアイテムは無くなるの?」
「それは次に持ち越されるから大丈夫だ。けど消費アイテムだから一度使用したらまた探すところから始めなきゃならん」
なるほど……つまりラスボス狙いでアイテムを探し回るか、それとも無難に金品を集めて回るかはプレイヤーの自由って事だな。
「ちなみにクロウさんは挑戦した事があるんですか?」
「まぁ手持ちが寂しくなった時にちょこちょこな。今は溜まりに溜まりまくって使い道に困ってるくらいだが」
「いくら溜め込んでんの?」
「待ってな……え〜と……」
「あぁ……クロウさんくらいになるといちいち確認する必要すら無い、と……」
「まぁね……っと、現時点で10億5千万ダラーあるわ」
『じゅっ────』
思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
でも彼がやってきた時間を考えれば、そのくらい溜まっていてもおかしくは無い……のか?
「キリト君……考えてる事は分かるけれど、多分それ相当バグってる感覚だよ?SAOやALOでも長年やってるプレイヤーでそれだけ溜め込んでる人達っていなかったじゃない」
「た、たしかに……やっぱクロウが可笑しいのか?」
「失礼な奴らだな〜……言ったろ?真っ当に大金を稼げるクエストは今のお前らのレベルじゃ到底足りないって。だからレベルが追いつきゃ大金を稼げるクエストを受けられるようになるんだよ」
「な、なるほど……まぁとりあえずは皆でそのクエストを受けてみようか?」
「まぁお金はいくらあっても良いしね〜。可愛い服とか買いたいし、そうでなくても装備の強化とかで結構使うしね〜」
そういう訳で俺達は大強盗クエストを行うことに決めた。
ちなみにクロウを誘ってみたが、〝俺が参加したらイージー過ぎるし、下手すりゃ敵のレベルが俺のレベルに合わせたものになる可能性もあるから〟という理由で断られてしまった。
まぁ確かに……クロウレベルの敵が出てきてしまったら、もう金集め所の話じゃなくなりそうだ。
こうして俺達は各々に準備を整えてから明日、大強盗クエストへと挑む為にまたエギルの店に集合する約束をしたのであった。