ソードアート・オンライン〜フリーライフ・デイズ〜 作:ΣiGMA
翌日……今日は休日という事で思う存分お金稼ぎをする事に決めた俺達は、エギルの店に集合してから大強盗クエストの舞台であるセントラル中央銀行へと向かった。
ちなみにエギルは店があるので参加出来ないとの事で、せっかくなのでクロウと共にユイの面倒を見てもらう事にした。
夢のマイホーム……その為にも稼げるだけ稼ごうといざ大強盗クエストへと挑んだのだが────
「無理だぁ〜……」
最初の大強盗クエストを経て、俺達はエギルの店で揃ってテーブルに突っ伏していた。
大強盗クエストは想像以上に難しかった。
警備NPCはそこかしこにいるし、地下への階段やエレベーターはドアに鍵がかかってるし、それをこじ開けるコマンドがあるのでそれを実行するのだが、その最中に警備NPCがわんさか湧いてくるし、気付けば全然集めてないのに制限時間が来るし、逃げようとしたら目の前で脱出口が閉まるしで、結果は散々であった。
「唯一出られたリズでさえもたったの1万ダラーとは……」
「一見高そうな物がかなり安かったり、粗末そうなものが高かったり、でもそれが置かれてる所にはレーザーが張り巡らされてて地味にダメージ食らうし……」
「警備NPCも一人相手してる最中に別のが集まってきちゃったりしましたもんね〜……」
「皆で挑んだら楽かと思ってたけれど、よくよく考えたらお互いに取り合いになるから味方だったのが敵になっちゃう可能性があるのよね……」
「おいクロウ!お前さん、こうなる事知ってただろ!」
「え……まさかとは思うが、もしかして終始皆でまとまって行動してたのか?」
クラインの抗議に対しクロウがそう告げる。
確かに俺達はずっと一緒に行動してたな……。
「そういう時は誰が何処を探しに行くか手分けするのが普通だぞ?お前らみたいにずっと一緒に行動してるパーティーなんてそうそういないし、そもそも手分けして探して集めるってのが常套句だったからわざわざ教えるまでも無いなって判断したんだよ」
「先に言ってくれよ〜……」
「そういうのは1回試してみて自分達で気付かなきゃ意味ねぇだろ?」
「確かにそうだけどよ〜……」
「まぁ回数制じゃないんだ……何度も挑戦して、要領やらコツやらを掴んでくしかねぇだろ」
「結局そうなるか……」
クロウの言い分も分からない訳では無いので、その事が俺達を更に悩ませる事になった。
そんな俺達を見て居た堪れなくなったのか、ふとクロウがこんな事を言い出す。
「ひとつアドバイスくらい出してやるか……ランダムに閉じたり開いたりする脱出ポイントだが、場所自体は固定されてる。そしてその中で唯一、ひとつだけ開きっぱなしの脱出ポイントがあるんだ」
「本当か!」
「まぁ救済措置だろうね。クリア出来ないクエストなんざ最終的にやって貰えなくなるから。あとはどの脱出ポイントがそうなのかは、自分達で確認していた回って覚えるしかない」
「クロウは知ってるのに教えてくれねぇのかよ」
「釣った魚を与えるより、釣り方を教えた方が相手の為になるんだよ」
つまり人から教えて貰ったとしても身につかないって事だな……はぁ……ここはクロウの言う通り自分達で確認して回るしかないか。
そうして暫くエギルの店で休憩した俺達は、再び大強盗クエストへ……今度は脱出ポイントを確認して回るのを優先して挑むのであった。
そして何度目かの挑戦でようやくその〝開きっぱなしの脱出ポイント〟とやらを見つける事が出来た。
なので俺達はまた挑戦する前に今度は事前に作戦を決めて挑む事にした。
その際にクロウから〝えっ、今更?〟と言われ地味にダメージを負う羽目になったが、ド正論なので何も言い返せなかった。
今度こそ20万稼いでアスナとユイとの家を買うぞー!
◇
もう何度目かの大強盗クエストへと挑みに行ったキリト達を見送るユイを見ながら〝とてもAIには見えないな〟と思っていると、エギルからふとこんな事を聞かれた。
「それで、実際のところはどうなんだ?」
「どうなんだってのは?」
「当然、あのクエストにも攻略法ってのがあるんだろ?」
「あ、やっぱ気付いちゃうか?」
もちろんエギルの言う通り大強盗クエストにも攻略法というものは存在する。
「あれはね〜、まぁ言っちゃうと開きっぱなしの脱出ポイントがある4階を中心に探索するのが正解なんよね。特に地下4階には美味い警備兵モブとかもいて、警備NPCについては高確率でカードキー落とすし、金額が高めなものがかなりあるしで」
「だから地下3階までは無視して一気に4階まで降りるのが正解ってことか?」
「そういう事。その中で隠れている〝見定める眼〟って監視カメラみたいな敵モブ倒すとラスボスへ挑む為のアイテム落としてくれるんよ。でも倒すのに結構時間使うから、だから直行するのが良いんよね」
「教えてやりゃいいのに」
「つまらんでしょ?自分達で苦労しながら進めてって、そんでそれを発見した時ってのは何より嬉しいもんだしな」
「ふっ……なるほどな」
「それに……」
俺はそこで区切ると、隣の席でエギルから出されたケーキを食べるユイの頭を撫でる。
「キリトは最低でも20万は稼ぎたいと思ってるらしいが、地下4階探し回ってりゃそのくらいあっという間に稼げるしな」
「私も、早くパパとママとのお家が欲しいです!」
本当にAIなのかこの子……キリト達の話ではキリトとアスナが少しの間二人で暮らしていた家の近くの森の中で出会い、その際に親代わりになっていたと聞いたが……。
その果てにユイはプレイヤーでもNPCでもなく、SAO内の何かしらのバグによって生まれたプログラムである事が分かり、その時は消えそうになっていたところをキリトの尽力でアイテム化。
その後ALOでナビゲーションピクシーとして新たに生まれ……なんて流れで今に至るらしいが、どこをどう見ても年頃の女の子にしか見えんな。
まぁ、そこまで考える必要はねぇか。
「次できっと買えるくらいの金を稼いでくるさ。だから大人しく待って…………っ!!」
そう言いながらユイの頭を撫でようと手を伸ばした時、俺は殺気を感じてその手を止めて素早くユイを持ち上げる。
そしてそのままエギルへと放り投げた。
「うおっ?!」
「きゃっ!」
エギルは驚きつつもユイをキャッチしたが、その反動でカウンターの裏へと消える。
「おいクロウ!」
「そのまま身を隠しとけ!いいか?俺が良しと言うまで絶対に出てくるんじゃ────チッ!」
二人に忠告している途中で視界にこちらを狙うプレイヤー達の銃口が見え、俺は大声で店内にいた他の客に注意を放った。
「全員その場に伏せろぉぉぉ!」
それを聞いていったい何人の客が言う通りに出来ただろうか?
俺は近くのテーブルを倒しその裏に隠れたが、一斉に飛び込んできた銃弾は他の客達を容赦なく襲う。
飛び交う悲鳴の中、次々と床へと倒れてゆく客……そのうちの何人かはHPが0になったのか光が砕けたようなエフェクトを残して消えてゆく。
暫くして銃撃は止み、悲鳴と泣き叫ぶ声……そして呻き声が響く店内に先程のプレイヤー達が入ってくる。
「そこにいるのは分かっている。大人しく出てこい」
(この声……ボイチェンか?このゲーム内でボイチェンが使えるなんて聞いた事ねぇぞ?)
プレイヤーの一人が放った声がかなり機械的だったのに驚きつつもテーブルの影から顔を覗かせプレイヤー達を確認する。
するとそのうちの一人の名前を見て俺は眉を顰めた。
しかし他のプレイヤー達の名前を確認する前に撃たれ、直ぐにまたテーブルの裏へと引っ込んだ。
(〝
その昔……それこそFLOの超大型アップデートなんて話が上がる前の事だ。
レイヴンから俺を狙っているプレイヤーがいるとの情報を受けた。
そのプレイヤーは様々な街に現れては俺の事を聞いて回っていたという……。
確かそのプレイヤーの名前が〝ドッド〟と呼ばれていると聞いた事がある。
まさかそいつが今ここに現れるとは……。
「二手に回って撃て。生き残ってるプレイヤーも一人残らず始末しろ」
ドッドというプレイヤーの指示に他のプレイヤーが言われた通りに行動する。
生き残っている客は容赦なく撃ち殺され、助けようと動いてもドッドの射撃で思うように動けない。
(仕方ない……これは使いたくなかったんだが)
俺はアイテム欄からとあるアイテムを選択すると、その手に円盤型のアイテムが現れる。
その中央にあるボタンを押し、それを真上へと放り投げた。
「許せよエギル。駄目になった酒や飲み物は弁償するからな!」
そして俺はその場で頭を抱えるようにして蹲る。
その直後に円盤型アイテムが変形し、その側面にぐるりと小さな穴が現れる。
そしてそこから細い筒のような部品が飛び出した瞬間────
「────っ、お前ら伏せろ!」
「えっ……ぐわぁ!」
円盤型アイテムが高速で回転し飛び出していた筒から何発もの小型の銃弾が飛び出す。
それを受けたドッドの部下達はドッドを残して全員消え去った。
「さ、流石はFLOきっての卑劣武器……地雷機銃
そう言いながら俺は直ぐに体勢を変えて壁にしていたテーブルを蹴り飛ばした。
運良く逃げ切っていたドッドはそのテーブルを避けることが出来ず直撃し、手にしていたライフルを手放す。
「ぐっ……流石は……最古参プレイヤー……これくらいじゃどうにも出来ぬか」
「特にテメェみてぇな変声野郎になんか絶対に負けるかよ。ほれ、牢屋行きにしてやるからさっさとかかってこい」
そう挑発するとドッドは腰のナイフを素早く抜き取る。
ジグザグな刀身をしたそのナイフは怪しい光を帯びており、どうにもただのナイフとは思えない。
(こうして襲撃をかけてくるくらいだ……あのナイフにも何かありそうだな)
俺はナイフを警戒しながら慎重にドッドとの間合いを取る。
奴もまた同じようでおいそれと突っ込んで来ようとはしない。
(スキルで一気に詰めるか……それとも様子見で鎖を使うか……)
そんな事を考えていた時だった。
不意に背後から幼い声が聞こえてくる。
「あの……クロウさん、もう終わったんですか?」
見ればユイがカウンターから恐る恐る顔を覗かせていた。
その隣では慌ててユイを引っ込めようとエギルも身を出している。
「馬鹿っ!まだ引っ込んでろ!」
「隙あり!」
ドッドは顔を覗かせていたユイの眉間目掛けてナイフを放った。
その速さは予想を超えるもので、つい気を逸らしてしまっていた俺は武器を抜く暇が無かった。
だから────
「……ぐっ!」
「クロウ!」
「クロウさん!」
俺は横へと飛んでユイを庇うようにナイフを受けた。
その際に鎖分銅をドッド目掛けて投げる。
「〝
「────?!」
稲妻の如き鎖分銅の一撃がドッドを襲う。
雷速で飛んできたそれをドッドは避けきれずに右肩で受けてしまう。
結構なダメージを負ったのかドッドはこれ以上仕掛けてくることはなく、悔しそうな雰囲気でその場から消え去った。
追いかけようかと思ったのだが、やはりと言うか……どうやら奴のナイフには状態異常スキルが施されていたようで、俺はそのまま床へと崩れ落ちる。
(麻痺に毒に睡眠……状態異常の三段重ねたぁレアなナイフだな!)
そうして動くことが出来ない俺は、睡眠による状態異常でそのまま意識を失ったのだった。