気合いでなんとかする。~煙草でポックリ逝ってTS転生させられたからがんばる 作:ひろぉ
「起きろ」
微かに聞こえるオタク心を擽るロリ声……むッ。だが眠い……。
「う〜ん……いやぁ」
「起きるんじゃ」
なんだぁ? だれだぁ?
布団の代わりに、妙にフカフカした何かに包まれている気がする。
「あとごふぅん……」
「⋯」
「⋯」 ˘ω˘
「起きろって言ってるじゃろがいぃい!!!!」
「ふぁああ!!!! だ、だれ!?!?」
鼓膜を引き裂くような大音量に、俺は飛び起きた――
いや、飛び起きた感覚だけがあった。
「まったく、ここに魂を引っ張ってきて何時でも目を覚ませると言うのに5時間も寝おって……」
目の前(?)で、ぷんぷんと小さな肩を怒らせて地団太を踏んでいる影がある。
「え、え? だ、だれですか……?」
というかここ、どこ……? なんでこんなに真っ白なの……?
確か俺は昼寝を思うがままに貪ってたはず……。え? ほんとにどこ?
「ここはわしの領域じゃ。そしてわしは神じゃ!」
腰に手を当てて、ふんす、と胸を張る影。
胡散臭……! ていうか、え? 俺は口に出してな――
【胡散臭いとはなんじゃ! わしは正真正銘! 神じゃぞ!】
「!? 脳内に直接……!」
「ふっふ〜ん! これで分かったじゃろう? だから早よ寝惚けてる意識を覚ませ! ふんッ!!!!!」
「ぁいったあああ!!!!!」
え、え、どこ叩かれたか分からないけどなんか痛い……!!
慌てて自分の身体を確認しようとするが、動かせない?
いや……動かすことは出来るんだけど、手足の感覚がなくて何か違和感が。
「今のお前は魂化してるからのぅ。客観的に見たらまるっこいわい」
「それで、じゃ。やっと意識も覚めてお前が今の自分をどういう状態か判断出来たところで、そろそろ話を進めるのじゃ」
影は小さく咳払いをすると、真面目なトーンに声を切り替えた。
「お前は惰性を貪っていたところ、なんか脳内の神経がぎゅん! となってポックリとそのまま永眠したのじゃ。心当たりはあるかの?」
「う〜ん……? 最近は鬱気味でなにもやる気なかったし、趣味の漫画とかアニメとかオタ活も捗らなくて……」
「ただ退屈になった日常を惰性で過ごしてただけ……」
記憶を掘り起こす。
あとはストレスでタバコの量も増えてたっけ……?
眠剤は酒で流して、薬が効くまでタバコをぼーっと吸ってたり……。
「絶対それじゃろ……薬やらタバコの摂取のし過ぎで神経がぎゅん! となったんじゃろうて」
呆れたように、影がやれやれと首を振る。
「かなぁ?」
「……まぁ気持ちは分からんでもないのじゃ。わしだって長い時間過ごしてきたそういう虚ろ気味になる瞬間だってあるのじゃ」
それまでの威圧感が消え、少しだけ寂しそうな声。
「ほぇー」
「ほぇーとはなんじゃ、ほぇーとは。それで、死んだお前の魂がわしの領域の近くをたまま彷徨っていたからそのままこの領域に引っ張ってきたわけじゃ」
「なるほどぉ。って、もしそのまま俺の魂が彷徨い続けてたらどうなってたの……?」
「運が悪ければそのまま彷徨い続けて自然消滅じゃ♡ だからだから! わしに感謝するのじゃ!!」
語尾にハートマークでもつきそうなドヤ顔(見えないけど)で、両手を広げる影。
「わしがたまたまこの領域におり、魂が彷徨うのは珍しいとは言え、特段気にするほどでも無いゆえ普通は無視する物」
「だがたまたまお前の魂の輝きがわしの目についたからここにおるのじゃ! ふふん〜!!!」
「……もしかして、目に付けられたら行けないものに目をつけられた……?」
「なんじゃその言われ様は! 確かにたまたま彷徨っていた魂が、相性良さげで、気に入ったから、引っ張ったが! ……むぅ!」
前かがみになる影と、おそらく頬っぺたを丸めてるであろう仕草。
「ごめん、ごめん。それと俺の魂を引っ張ってくれてありがとう」
感謝! 感激! 雨アラモード!(早並感)ってね。
「やはりこれから一生魂のまま彷徨うか?」
「冗談! ぅんではないけど、ちゃんと感謝してるよロリ神様」
「……まぁよい。お前が現世で薬と酒とタバコで脳をぎゅん! とさせて惰性で死んだのは事実じゃ。だからお前にチャンスをやろう!」
「チャンス……?」
「そう! 転生のチャンスじゃ! もちろんこのまま消滅しても、輪廻を巡ってもかまわん!」
「転生……? ラノベやアニメみたいな……?」
「そうじゃ」
唐突な申し出に俺は困る。
やりたいこと、やり残したことなんて、無限にある……。
だけど何も感じなくなって、退屈な惰性のまま退廃的に生きる虚しさ、常に昨日をずっと生きてるようなその朧気な日常……。
それをまた繰りかえ、す……かもしれない、
なら、いっそのこと、消えて、何もかも、忘れたほうが――。
「のう」
鼻先が触れそうなほどの超至近距離から、鈴を転がすような声がした。
「でゅあっ、びっくりしたぁっ」
先ほどまで程よく離れていた影が、目の前まで来ていた。
「ふんっ。わしの美しいふぇいすにひれ伏すがよいのじゃ! ……むっ?」
神様は俺のまあるい魂をまじまじと見つめると、小さく眉をひそめた。
「お前、もしやわしの顔がまともに見えておらんのか?」
「え、うん……」
悩む神様、どうやら俺を見てうむうむと頷いている。
「うぅん……? ぅん~……?」
「……あ〜, なるほどのぅ。現世で魂をすり減らしすぎて、世界の解像度が落ちてしまっておるんじゃな。うむ, ほれ」
神様が小さく白い指先で、俺の額? のあたりをツン、と軽く弾いた。
その瞬間、パキィン――と頭の中でガラスが割れるような音が響く。
「――っ!?」
おぼろげだった視界が、一爆(ひとばく)ではじけた。
ただの「退屈で真っ白な空間」だと思っていた場所は、違った。
足元には星空を溶かしたような銀河がゆらゆらと流れ、
見上げる天井からは、言葉にできないほど神聖で温かい黄金の光が降り注いでいる。
世界って、こんなに美しかったっけ。
そして何より、目の前にいる神様だ。
透き通るような白磁の肌に、光の加減で七色にきらめく絹糸のような髪。吸い込まれそうなほど深い瞳。
さっきまで「ロリ神」なんて思っていたのが失礼に思えるほど、それは圧倒的で、慈悲深くて、息を吞むほどに美しい『神』の姿だった。
世界から色が消え、ただ消えてしまいたいと願っていた俺の泥のような心が、そのあまりの美しさと鮮やかさに、一瞬で塗りつぶされていく。
呆然とした有様の俺を、神様は満足そうに覗き込み、フッと優しく微笑んだ。
「気は紛れたか?」
「ああ……」
「それで? お前は今消えたいと、そう思ったな? ただ退屈で虚しく生きる辛さはわしにもわかる」
「それでも退屈な灰色の日常をすり潰すように死んで、本当に良かったと思っておるのか?」
「それは……」
「わしには見えるぞ。お前の魂の奥底、まだ消えていない『熱』がな」
「お前と同じように、現代には魂を灰色にして、惰性で生きている人間がたくさんおる。だから、もう一度言う。チャンスをやろう! 転生のチャンスを!」
神様が力強く手を差し伸べる。
その手の先から、まばゆい光の粒子が溢れ出し、俺たちの間に一つの『カタチ』を形作り始めた。
「ほれ、これがお前の新しい身体じゃ! どうじゃ?」
光が収まったそこに浮かんでいたのは……言葉を失うほどの、超絶美少女だった。
きらきらと輝く金髪のツインテール。まるでお人形さんのように整った、透き通るような白い肌。
フリフリとした白ベースのドレスを纏ったその姿は、誰が見ても「純潔の天使」そのものだ。
「え……? いや、めちゃくちゃ可愛いけど……これ、女の子じゃん」
「っていうか、まだ転生するって……あとなんか見覚えが……これ、今流行りのVTuberのデザインじゃ……」
「その通り! わしの趣味全開の特製スペシャル美少女ぼでぃじゃ!!」
「お前には、この姿で現世に生まれ変わり、画面の向こうから世界を照らす『VTuber』になってもらう!!!」
神様はフンスと胸を張り、ニカッと不敵に笑った。
「お前と同じように、毎日を惰性ですり潰している奴らを、惰性で過ごしてきたお前が、お前の配信で救ってやるのじゃ」
「……どうじゃ? もう一度、この世界で『気合い』を入れて、生きてみる気は、沸いてきたかの?」
唐突な展開に、ただ困惑するだけだった。
慈愛に溢れた表情で、こちらに両手を差し伸べて、俺の魂を優しく両側から包み込む。
ここまで用意をして、もう一度希望を持ってほしいと、
それでも俺の選択を尊重するかのように、最後の決断は俺に託すような姿勢。
神様の両手は、びっくりするくらい温かかった。
泥みたいに濁って、冷え切っていた俺の心が、そのぬくもりに触れて、じわじわと解けていくのが分かる。
画面の向こうから、世界を照らす。
俺と同じように、毎日を灰色ですり潰してるやつらを救う。
「……勝手な神様なんだな」
ぽつりと、俺の口から言葉が漏れた。
「俺みたいな、ただ惰性で生きてポックリ死んだようなクズに、そんな大層なことができるわけないじゃん」
卑屈な言葉。だけど、不思議と嫌な気持ちはなかった。
包み込まれた魂の奥底で、神様が言った小さな『熱』が、確かにパチパチと音を立てて燃え始めているのを感じていた。
「でも……何もかも忘れて消えるよりは、そっちの方が、少しはマシ、かもな」
俺はまあるい魂のままで、包み込んでくれていた神様の手をそっと押し返すように動き、前を向いた。
「いいよ、その身体、貰う。……現世に戻って、もう一回だけ、気合い、入れてみるよ」
ローテンションで、ぶっきらぼうな俺の決意表明。
それでも、俺がはっきりと「生きる」ことを選んだ瞬間、神様がぱぁっと、今日一番の本当に嬉そうな笑顔を咲かせた。
だけどすぐにそれを隠すように、ふんすと小さな胸を張って、ツンとそっぽを向く。
「……ふん、お前ならできると思って引っ張ってやったんじゃから、感謝するのじゃぞ?」
ちょっと照れくさそうな、でも、どこか誇らしげな鈴の音。
それが、俺がこの白い領域で聞いた、ロリ神様の最後の声だった。
「ほれ、行ってこい! 画面の向こうで、輝いてみせるのじゃ!」
神様の手が、俺の魂をそっと現世へ押し出す。
次の瞬間、視界はまばゆい純白の光に包まれ、俺の意識は心地よい浮遊感とともに、新しい『女の子の身体』へと沈んでいった。