気合いでなんとかする。~煙草でポックリ逝ってTS転生させられたからがんばる   作:ひろぉ

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そりゃあきついよね

「こんにちは。これ、使いますか?」

 

 

すっと、エイルの目の前に差し出されたのは、100円の黒い使い捨てライターだった。

 

 

少し下に向いていた目線を上に向けると、さっきのコンビニの店員――胸元に『あさひな』と名札をつけたお姉さんが、静かに佇んでいた。

息を荒げる風でもなく、ただ、どこかおっとりとした、だけど少し物憂げな目でえいるを見つめている。

 

 

「......あ」

 

 

えいるが小さく声を漏らすと、お姉さんはポツリ、ポツリと、無口な人間特有の少し素朴なトーンで言葉を続けた。

 

 

「......やっぱり、見た感じライターもってなさそうだったし。...ライターも、買ってなかったから」

 

 

バイト中の敬語が、お店の外に出たせいで少しだけ崩れている。自然とそこに、少しギャップを感じた。

えいるは少し耳を赤くしながら、ぶかぶかのTシャツの袖から細い指先を伸ばし、ライターを受け取る。

 

 

「......あ、ありがと。たすかる...」

 

 

指先がほんの少しだけ触れ合った。えいるの手は冷たくて、お姉さんの手は、とても温かかった。

 

 

お姉さんは、ライターを受け取るえいるの姿を、じっと見つめていた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

タバコを唇に咥えて、タバコの先に火をつけようとしたが――

 

 

(すごい、じっと見てくるじゃん...)

 

 

(......今すぐにでも吸いたいぃ、んだけどぉ...)

 

 

念願の喫煙目の前にして、内心、テンションがうなぎ登りなえいるであったが、流石にこうもじっっと見られると、ソワソワとして、落ち着かないものがある。

 

 

「あ、あの。どうかしましたか...?」

 

 

「...っ。......何でもないよ」

 

 

スッと目線を少しだけずらし、言い訳とはいえない無難な言葉を残す。

 

 

(絶対になんかあるよね...?)

 

 

とりあえず名前でも聞いとく...?

 

 

さっき、胸元を見たら『あさひな』って平仮名の名札がつけてたし。

 

 

「えっと......あさひな、さん?」

 

 

タバコを咥えたまま、ぼそりと声をかけた。

 

 

「...あ、うん。朝比奈千沙(あさひなちさ)。千沙って呼んで」

 

 

千沙さんは少し驚いたように瞬きをして、それから、ぽつり、ぽつりと素朴なトーンで名乗ってくれた。

名札を読まれたのが、ちょっとだけ嬉しかったのかもしれない。

 

 

「......白瀬、さん、だよね」

 

 

「......え?」

 

 

今度はえいるが驚く番だった。

なんでおれの名前を――と思ったが、すぐに合点がいった。さっきレジでやけくそ気味に身分証明書を晒したんだった。

 

 

「さっき、レジでカード、見ちゃったから。ごめん。...びっくり、したんだよ...?ハタチなんだね」

 

 

「......なるほど。...まぁ、こんな見た目だけど、一応、ハタチだから...」

 

 

千沙さんの落ち着いたダウナーな声のトーンは聞いていて不思議と耳が心地いい。

心做し程度の警戒心がするすると解けていくのを感じながら、えいるは今度こそ、ライターの火をタバコの先端へと近づけた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

カチリ、と黒いライターの音が響く。

前世の慣れた手つきで、Peaceの濃密な煙を深く、思いっきり肺へと吸い込んだ――その、瞬間。

 

 

「――ッ、げほっ!ゲホッ、ゴホッ......!!」

 

 

肺が焼け付くような猛烈な刺激に襲われ、えいるは激しくむせ返った。

 

 

――違う。前世のヤニに汚れた肺じゃないんだ。神様がくれたこの身体は、煙なんて一度も吸ったことのない、驚くほど無赤で健康的な女の子の身体だった。

 

 

「っ、く、げほっ......っ、かほっ!っ、うぅ...っ」

 

 

あまりの苦しさに視界が涙で歪む。胸も、すごくムカムカとする。

コンクリートの床に膝をつきそうになるのを、すっと、千沙さんが前から柔らかな手で支えてくれた。

 

 

「......大丈夫?」

 

 

穏やかな、だけどどこか焦ったようなトーンの声が耳元で聞こえる。彼女はかがみ込んで、えいるの華奢な背中を、大きくて温かい手のひらでゆっくりと摩ってくれた。

トントン、と規則正しいリズムが心地いい。

 

 

「げほっ......っ、はぁ、はぁ......あ、ありがと...肺が、熱い......」

 

 

涙目で顔を真っ赤に染め、ぶかぶかのTシャツの襟ぐりを押さえながら息を整えるえいる。

千沙さんはそんなえいるの顔を、至近距離からじっと、どこか潤んだ物憂げな目で見つめていた。

 

 

「......びっくりした。そんなに強いの、吸ったらだめだよ」

 

 

千沙さんの声は低く、ひんやりとしていて、だけどやっぱり驚くほど優しい。

えいるの指から力なく落ちそうになっていたPeaceをすっと奪い取ると、千沙さんはそれを自分の唇に咥え、一回だけ、味わい、灰皿に押し付けて火を消した。

 

 

その一連の動作が、妙にしっとりとしていて目が奪われる。

 

 

「あ...おれの、Peace......」

 

 

「......白瀬さんには、まだ早い。......身体、壊しちゃうから」

 

 

ハタチの身分証を見たはずなのに、千沙さんはまるで小さな子供を諭すような、素朴で重たい声音で言った。

そのまま、千沙さんの温かい手がえいるの頬に伸び、目元に溜まっていた涙を親指の腹でそっと拭う。

 

 

「......お昼休み、終わっちゃうから、私お店戻るね。.....これ、あげる」

 

 

「それと...この、タバコも。なんとなく...無理して、またタバコ吸っちゃいそうだから、Peaceの代わりに、吸って」

 

 

千沙さんは、さっきの黒いライターと、ぱっとパッケージを見るに、1mgのタバコをえいるのポケット(ダボTだから下に履いているルームウェアのポケットを探すのに、少し手惑いながら)

に押し込むと、最後に視線を一度だけ、えいるの生足に向け、なんだか寂しそうに、静かにコンビニへと戻っていった。

 

 

「......ん?脚...?...脚フェチ、なのかな...?」

 

 

今更ながら、ダボTで傍から見たら生足ノーパンと勘繰れてしまう格好した金髪美少女。お巡りさんが飛んできてもおかしくない。

 

 

「......結局、なんだったんだろう...」

 

 

「千沙、さん。覚えた...最初は緊張したけど。優しくて、手が温かくて......なんか落ち着く...」

 

 

なんだか、今の格好も相まって、羞恥心が心の奥底からせりあがってくる。きゅっと下半身に力が入り、少し内股になる脚。

顔をTシャツの襟に埋める。コンビニのガラスを見てみれば、反射で顔が少しだけ、赤くなってくるのがわかった。

 

 

こんなに、素直に恥ずかしくなるのは、本当に久しぶりかもしれない...

 

 

「はぁ...」

 

 

千沙さんが残していった、穏やかで、だけどどこか逃がしてくれなさそうなダウナーなオーラの余韻。

それと一緒に、むせた影響で汗がにじんでいる肌から、キンモクセイの香りが少しだけ混じり合っている気がする。

 

 

ポケットに押し込まれた黒いライターの重みと、見知らぬ1mgのタバコの箱。

 

 

結局、おれのPeaceは一本もまともに吸えなかったな、と苦笑する。

 

 

だけど「もう一本、火をつけよう」という気にもなれなかった。

千沙さんに言われた「身体、壊しちゃうから」という、あの低くて優しい声が、まだ耳の奥で心地よくリフレインしているからかもしれない。

 

 

(――あと、純粋にこの身体ではキツかった...)

 

 

「......帰ろ」

 

 

結局、目的のニコチンは一ミリも摂取できなかったけれど、えいるはタバコを吸う気になれないまま、トボトボと自分のお家への道を引き返した。

 

 

秋の生涼しい風が、白いダボTの裾をふわりと揺らす。

そのたびに、生足が露出してしまいそうで、えいるは慌てて両手でTシャツの裾をきゅっと押さえた。

 

 

歩幅は狭く、なんとなく内股気味に縮こまるようにして歩いている。

そんな自分の挙動に気がついた瞬間、えいるは自嘲気味に心の中でツッコんだ。

 

 

(......待て。いつからおれは、こんなに女の子らしくなってんだ...?)

 

 

前世の、簡易的で、でも薄汚い部屋で、昨日も今日も曖昧に過ごしていた自分なら、こんなダボついた服になんて何も感じず、ただ街を歩いてた。

なのに今は、ちょっと風が吹くだけで、下半身に意識が向いている。

 

 

(.......脚を出すことって、こんなに恥ずかしかったっけ...?いや、まぁ...ぶっちゃけTSは好きだったし、美少女になって、ちやほや満喫なんて憧れてた時期もあったけど...)

 

 

(いざ自分が当事者になると、なんか、こう...クるものがある。......意識せざる、を得ないモノが、あるのかもしれない。......そんな大層なモノじゃないけど、女の子としての自覚とでも言うのか?)

 

 

「......あー、もう、考えるのやめよ......なんか、だるくなってきたし...」

 

 

 

――案外、素直に可愛らしく過ごすのも、悪くないのかもしれない。

 

 

 

頭の中にポツンと浮かんだそんな柄にもない予感を、秋の涼しい風に誤魔化されるようにして、えいるは小さく足早に歩いた。

 

 

 




えいるくんちゃんは別に、精神的なあれこれを受けてるわけでも、意識が世界なあれこれな“強制”をされてるわけでもありません。えいるちゃんくんはえいるちゃんくんです。
前世の記憶、意識、人格のまま。ただ女の子の身体になったギャップでどう変化するかだけです。
自分でもえいるくんちゃんがどう変化するか楽しみです。

ちなみに皆さんは、くんちゃん派ですか?ちゃんくん派ですか?
わたしはわかりません。
男だけど今は可愛い女の娘だよね?なくんちゃん派と、可愛い美少女になったけど元は男だよね?なちゃんくん派が半分ずついます。

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