気合いでなんとかする。~煙草でポックリ逝ってTS転生させられたからがんばる   作:ひろぉ

3 / 3
そりゃあきついよね

「こんにちは。これ、使いますか?」

 

 

すっと、エイルの目の前に差し出されたのは、100円の黒い使い捨てライターだった。

 

 

少し下に向いていた目線を上に向けると、さっきのコンビニの店員――胸元に『あさひな』と名札をつけたお姉さんが、静かに佇んでいた。

息を荒げる風でもなく、ただ、どこかおっとりとした、だけど少し物憂げな目でえいるを見つめている。

 

 

「......あ」

 

 

えいるが小さく声を漏らすと、お姉さんはポツリ、ポツリと、無口な人間特有の少し素朴なトーンで言葉を続けた。

 

 

「......やっぱり、見た感じライターもってなさそうだったし。...ライターも、買ってなかったから」

 

 

バイト中の敬語が、お店の外に出たせいで少しだけ崩れている。自然とそこに、少しギャップを感じた。

えいるは少し耳を赤くしながら、ぶかぶかのTシャツの袖から細い指先を伸ばし、ライターを受け取る。

 

 

「......あ、ありがと。たすかる...」

 

 

指先がほんの少しだけ触れ合った。えいるの手は冷たくて、お姉さんの手は、とても温かかった。

 

 

お姉さんは、ライターを受け取るえいるの姿を、じっと見つめていた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

タバコを唇に咥えて、タバコの先に火をつけようとしたが――

 

 

(すごい、じっと見てくるじゃん...)

 

 

(......今すぐにでも吸いたいぃ、んだけどぉ...)

 

 

念願の喫煙目の前にして、内心、テンションがうなぎ登りなえいるであったが、流石にこうもじっっと見られると、ソワソワとして、落ち着かないものがある。

 

 

「あ、あの。どうかしましたか...?」

 

 

「...っ。......何でもないよ」

 

 

スッと目線を少しだけずらし、言い訳とはいえない無難な言葉を残す。

 

 

(絶対になんかあるよね...?)

 

 

とりあえず名前でも聞いとく...?

 

 

さっき、胸元を見たら『あさひな』って平仮名の名札がつけてたし。

 

 

「えっと......あさひな、さん?」

 

 

タバコを咥えたまま、ぼそりと声をかけた。

 

 

「...あ、うん。朝比奈千沙(あさひなちさ)。千沙って呼んで」

 

 

千沙さんは少し驚いたように瞬きをして、それから、ぽつり、ぽつりと素朴なトーンで名乗ってくれた。

名札を読まれたのが、ちょっとだけ嬉しかったのかもしれない。

 

 

「......白瀬、さん、だよね」

 

 

「......え?」

 

 

今度はえいるが驚く番だった。

なんでおれの名前を――と思ったが、すぐに合点がいった。さっきレジでやけくそ気味に身分証明書を晒したんだった。

 

 

「さっき、レジでカード、見ちゃったから。ごめん。...びっくり、したんだよ...?ハタチなんだね」

 

 

「......なるほど。...まぁ、こんな見た目だけど、一応、ハタチだから...」

 

 

千沙さんの落ち着いたダウナーな声のトーンは聞いていて不思議と耳が心地いい。

心做し程度の警戒心がするすると解けていくのを感じながら、えいるは今度こそ、ライターの火をタバコの先端へと近づけた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

カチリ、と黒いライターの音が響く。

前世の慣れた手つきで、Peaceの濃密な煙を深く、思いっきり肺へと吸い込んだ――その、瞬間。

 

 

「――ッ、げほっ!ゲホッ、ゴホッ......!!」

 

 

肺が焼け付くような猛烈な刺激に襲われ、えいるは激しくむせ返った。

 

 

――違う。前世のヤニに汚れた肺じゃないんだ。神様がくれたこの身体は、煙なんて一度も吸ったことのない、驚くほど無赤で健康的な女の子の身体だった。

 

 

「っ、く、げほっ......っ、かほっ!っ、うぅ...っ」

 

 

あまりの苦しさに視界が涙で歪む。胸も、すごくムカムカとする。

コンクリートの床に膝をつきそうになるのを、すっと、千沙さんが前から柔らかな手で支えてくれた。

 

 

「......大丈夫?」

 

 

穏やかな、だけどどこか焦ったようなトーンの声が耳元で聞こえる。彼女はかがみ込んで、えいるの華奢な背中を、大きくて温かい手のひらでゆっくりと摩ってくれた。

トントン、と規則正しいリズムが心地いい。

 

 

「げほっ......っ、はぁ、はぁ......あ、ありがと...肺が、熱い......」

 

 

涙目で顔を真っ赤に染め、ぶかぶかのTシャツの襟ぐりを押さえながら息を整えるえいる。

千沙さんはそんなえいるの顔を、至近距離からじっと、どこか潤んだ物憂げな目で見つめていた。

 

 

「......びっくりした。そんなに強いの、吸ったらだめだよ」

 

 

千沙さんの声は低く、ひんやりとしていて、だけどやっぱり驚くほど優しい。

えいるの指から力なく落ちそうになっていたPeaceをすっと奪い取ると、千沙さんはそれを自分の唇に咥え、一回だけ、味わい、灰皿に押し付けて火を消した。

 

 

その一連の動作が、妙にしっとりとしていて目が奪われる。

 

 

「あ...おれの、Peace......」

 

 

「......白瀬さんには、まだ早い。......身体、壊しちゃうから」

 

 

ハタチの身分証を見たはずなのに、千沙さんはまるで小さな子供を諭すような、素朴で重たい声音で言った。

そのまま、千沙さんの温かい手がえいるの頬に伸び、目元に溜まっていた涙を親指の腹でそっと拭う。

 

 

「......お昼休み、終わっちゃうから、私お店戻るね。.....これ、あげる」

 

 

「それと...この、タバコも。なんとなく...無理して、またタバコ吸っちゃいそうだから、Peaceの代わりに、吸って」

 

 

千沙さんは、さっきの黒いライターと、ぱっとパッケージを見るに、1mgのタバコをえいるのポケット(ダボTだから下に履いているルームウェアのポケットを探すのに、少し手惑いながら)

に押し込むと、最後に視線を一度だけ、えいるの生足に向け、なんだか寂しそうに、静かにコンビニへと戻っていった。

 

 

「......ん?脚...?...脚フェチ、なのかな...?」

 

 

今更ながら、ダボTで傍から見たら生足ノーパンと勘繰れてしまう格好した金髪美少女。お巡りさんが飛んできてもおかしくない。

 

 

「......結局、なんだったんだろう...」

 

 

「千沙、さん。覚えた...最初は緊張したけど。優しくて、手が温かくて......なんか落ち着く...」

 

 

なんだか、今の格好も相まって、羞恥心が心の奥底からせりあがってくる。きゅっと下半身に力が入り、少し内股になる脚。

顔をTシャツの襟に埋める。コンビニのガラスを見てみれば、反射で顔が少しだけ、赤くなってくるのがわかった。

 

 

こんなに、素直に恥ずかしくなるのは、本当に久しぶりかもしれない...

 

 

「はぁ...」

 

 

千沙さんが残していった、穏やかで、だけどどこか逃がしてくれなさそうなダウナーなオーラの余韻。

それと一緒に、むせた影響で汗がにじんでいる肌から、キンモクセイの香りが少しだけ混じり合っている気がする。

 

 

ポケットに押し込まれた黒いライターの重みと、見知らぬ1mgのタバコの箱。

 

 

結局、おれのPeaceは一本もまともに吸えなかったな、と苦笑する。

 

 

だけど「もう一本、火をつけよう」という気にもなれなかった。

千沙さんに言われた「身体、壊しちゃうから」という、あの低くて優しい声が、まだ耳の奥で心地よくリフレインしているからかもしれない。

 

 

(――あと、純粋にこの身体ではキツかった...)

 

 

「......帰ろ」

 

 

結局、目的のニコチンは一ミリも摂取できなかったけれど、えいるはタバコを吸う気になれないまま、トボトボと自分のお家への道を引き返した。

 

 

秋の生涼しい風が、白いダボTの裾をふわりと揺らす。

そのたびに、生足が露出してしまいそうで、えいるは慌てて両手でTシャツの裾をきゅっと押さえた。

 

 

歩幅は狭く、なんとなく内股気味に縮こまるようにして歩いている。

そんな自分の挙動に気がついた瞬間、えいるは自嘲気味に心の中でツッコんだ。

 

 

(......待て。いつからおれは、こんなに女の子らしくなってんだ...?)

 

 

前世の、簡易的で、でも薄汚い部屋で、昨日も今日も曖昧に過ごしていた自分なら、こんなダボついた服になんて何も感じず、ただ街を歩いてた。

なのに今は、ちょっと風が吹くだけで、下半身に意識が向いている。

 

 

(.......脚を出すことって、こんなに恥ずかしかったっけ...?いや、まぁ...ぶっちゃけTSは好きだったし、美少女になって、ちやほや満喫なんて憧れてた時期もあったけど...)

 

 

(いざ自分が当事者になると、なんか、こう...クるものがある。......意識せざる、を得ないモノが、あるのかもしれない。......そんな大層なモノじゃないけど、女の子としての自覚とでも言うのか?)

 

 

「......あー、もう、考えるのやめよ......なんか、だるくなってきたし...」

 

 

 

――案外、素直に可愛らしく過ごすのも、悪くないのかもしれない。

 

 

 

頭の中にポツンと浮かんだそんな柄にもない予感を、秋の涼しい風に誤魔化されるようにして、えいるは小さく足早に歩いた。

 

 

 




えいるくんちゃんは別に、精神的なあれこれを受けてるわけでも、意識が世界なあれこれな“強制”をされてるわけでもありません。えいるちゃんくんはえいるちゃんくんです。
前世の記憶、意識、人格のまま。ただ女の子の身体になったギャップでどう変化するかだけです。
自分でもえいるくんちゃんがどう変化するか楽しみです。

ちなみに皆さんは、くんちゃん派ですか?ちゃんくん派ですか?
わたしはわかりません。
男だけど今は可愛い女の娘だよね?なくんちゃん派と、可愛い美少女になったけど元は男だよね?なちゃんくん派が半分ずついます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

たとえ転生先が鬱ゲーな上に主人公の幼なじみだとしてもTS少女は曇らせがしたい(作者:ヒナまつり)(オリジナル現代/ホラー)

いつも、俺は小説を読んで思っていたことがあった。▼それは、どんな登場人物でも曇らせにあった瞬間が世界一美しいと言うものだ。▼クール美女も、甘々幼なじみも、ミステリアスな不思議ちゃんも…全部、全部絶望に伏せて泣き喚くあの瞬間が俺にとっては最高で、その後色々あって立ち上がるまでの道のりが世界で一番好きだった。▼けれど、残念ながら現実の俺は誰かにとってそこまで大切…


総合評価:156/評価:5.75/連載:9話/更新日時:2026年04月29日(水) 22:14 小説情報

実力隠し系TS転生者、目ざといやつにはだいたいバレてる(作者:しるふっふ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

シフルは実力隠し系TS転生者だ。▼今日も今日とて影に生き、目立たず密かに活動してきた。▼しかし、そんなシフルの活躍は、目ざといやつにはだいたいバレている。▼強い冒険者や、国の有力者などには、特に。▼ただ、シフルはそれでも構わないと思っていた。▼なぜならシフルには、チヤホヤされたいけど目立ちたくないという欲望しかないから。▼とはいえ、周囲の目ざとい者たちの期待…


総合評価:221/評価:7.71/連載:1話/更新日時:2026年06月10日(水) 20:05 小説情報

ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない(作者:なはた)(オリジナル現代/冒険・バトル)

▼フィジカルよわよわなTS銀髪魔法少女がクール系敵幹部を必死に装いながら魔法少女達と戦うお話。


総合評価:3440/評価:8.47/連載:14話/更新日時:2026年07月24日(金) 12:38 小説情報

TS転生おっさん物語(作者:すすぺっと)(オリジナル現代/日常)

▼社会に疲れた元おっさんは、死後、丸い蛍光灯のような神様によって、現代日本によく似たパラレルワールドへ女の子として転生する。▼赤ちゃんから成長し、高校生になった彼女――**高遠透花**は、180cm前後の高身長と整った容姿を持つ無気力系JK。▼本人はただ平穏に過ごしたいだけだが、前世の社会経験から来る落ち着きや距離感が、周囲には妙に大人びた魅力として映ってし…


総合評価:2231/評価:7.9/連載:20話/更新日時:2026年06月20日(土) 12:00 小説情報

TS転生者、魔法少女世界に転生するも洗脳悪堕ち魔法少女にされて妹と戦わされる(作者:辻契約マスコット)(オリジナル現代/冒険・バトル)

 悪の組織『シン・アーク』と魔法少女達が日夜戦う世界にTS転生した光の魔法少女オタク(自称)は、ある日悪の組織に連れ去られ、洗脳悪堕ち魔法少女にされてしまった!▼ 一方その頃、彼/彼女の今世の義妹はマスコットと契約し、魔法少女として戦う覚悟を決める。▼ これは、愉快な悪の組織の洗脳悪堕ち魔法少女と、愉快なニチアサ風光の魔法少女の、姉妹の戦いのお話し。


総合評価:1812/評価:8.16/連載:6話/更新日時:2026年07月11日(土) 21:51 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>