「太りたくないからラーメン食べるの断るだなんて.......全く、私より女子みたいなんだから......なのにキミコーラは飲むよね? 研究者になりたいなら不健康になろうよ」
「ならねえよ、あとコーラはまた別。じゃあな~」
「ちぇ......またな~」
街灯が照らす夕暮れの中、シャッターの締まった商店街で、
不満気だが別れを返してくれた友人を尻目に、ラーメンの事を考えながら蒸し暑い商店街を歩き始めた。
「はぁ、疲れた~。今日カレーだっけ、袋麺食べたいな」
誰もいない商店街で言葉をこぼした。テストで寝不足、
自販機で買った、冷たいコーラを片手に、帰路についた───はずだった。
「───ん?」
空が割れるような、世界が裂けるような、とても大きく、この世のものではないかのような異音。視界の端で、黒と白の光が走る。
疑問と恐怖を覚え、音と光の源に視線を向けようと思えば、キーンと劈く耳鳴りと共に脱力感に全身を襲われる。そして俺は耐え難い眠気に身を任せて瞼を落とし、その場に倒れ伏した。
まず視界に入ったのは、金髪で、とても大きな西洋風男性の顔だった。
そして俺の意志とは関係なく喉が枯れそうなほど大きな叫び声をあげている。
一瞬思考停止した。
まず俺は
そこから先が思い出せない。体が動かせない。夢なのか? でも夢にしてはなんかすっごいリアルだ。
今の状況の意味が分からず現状に思考を巡らせていると、耳鳴りが収まり、徐々に耳が聞こえるようになった。
「■■■■! ■■■■■! ■■■■■■! ■■■■■!!! ■■■■■、■■■■■■!!!」
この男性が何を言ってるのか何もわからない。言葉なのか? 状況的に見ればこの男性に恐怖を覚えるのがごく自然なはずなのに、なぜか怖いと思えない。逆に恐怖ではなく、安心感を覚える。
赤子が泣く声、うれしそうな男性の声、息を荒げた女性の声、また別の男性の声。なにが起きてるのか全く分からない。
視点が持ち上がった。そして次に視界に移るのは黒髪の女性の姿。男性も女性もどっちもすごい美人なのがなおさら困惑を引き立てる。
「はぁ...はぁ...■■■■■■■■」
息を荒げて、俺を見つめる。またしても何か言葉?を投げかけてきている。
誘拐されてるんだとしたら明らかに身体と状況がおかしい。動けないし、夢にしてはリアル過ぎる。
「■■■■■■、■■■。■■■・■■■ー■■」
瞬間、俺は今置かれている状況に気づいた。それと同時に、とても冷静に思考ができている自分に驚愕と疑問を覚える。
まさか......? いやいやいや、そんな訳は......
五感全てを追体験できる俺の知らない最新VR、ライトノベルに出るようなフルダイブ型ゲームを遊んでるだけかもしれない。ならなんかこう、脳波でゲーム終了とかできる.......はず。
ふと思い立った可能性、それを検証すべく周囲の風景に目を向ける。
壁は白い。視界が曖昧で少し先を見ようと思えばぼやけてしまう。目が光に慣れてないのだろうか。
匂いも、音も、視覚も、触覚も全てが曖昧だ。だけど確かに、赤子の鳴き声は俺が出していて、明らかに視点が低くい。
今俺は産まれてきたばかりの赤ちゃんとしてここに居る。
黒髪の女性と目が合った。その人の表情はとても愛おしいものを見るような顔で、母親の表情だ。
スー............異世界転生って奴だぁあああ!?!?
あの後俺は死んだのか? 死んだとしても、商店街の中。人通りも少ないし転生トラックが通るような場所ではない、ましてや通り魔が出るような治安でもない。転生の瞬間を何も思い出せない......
とりあえずなんでだァ?! 俺TSUEEEなのか!? テンプレだったらとっても嬉しい。
暫くして、乳母車に乗っています。本当に赤ちゃんになっているみたいです。
「あうあ~」
「■■■?■■■■■■~」
黒髪の女性が俺の頭を撫でながら、言葉を投げかける。
舌が短いので、言葉もしゃべれません。あと本当に何を言っているのですかあなたたちは。
元のそこそこ高かった視界に戻るなんてこともなく、ずっと赤ちゃんの目線です。
何もできない無力感に襲われる。暇をつぶすこともできない。
異世界転生? って普通転生してしばらくたってから前世の記憶を思い出すとかじゃないの?
......スマホ弄りたい。
特に何かできるということもないので、流れに任せて惰眠をむさぼる。
次第に視界が明確に見えるようになったので、辺りを見渡した。
豪勢な部屋だ、屋敷なのか? きらびやかだが質素で、俺がのっている乳母車とベッドと机、本棚以外に特筆するようなものはない。窓の外からは、菜園の素晴らしい緑が見える。
聴覚もかなりはっきりしてきたが、相変わらず言葉は分からない。ゲームとかなら都合よく日本語なのだが、やはりそういったものではないのだろう。
「■■■■■■■~」
「え」
赤子にはおむつというものがある。屈辱的でさらに強い無力感に襲われるのだが、赤子はそれを人に交換してもらわなければならない。
その中で気づくことがあった。俺は女の子だったらしい。股に物がない。
「あうあぁぁあ!!!」
「■!?■■■!■■■■ーっ、■■■■■~」
強い感情がそのまま泣き声に変換される。無き声に驚き、慌てた黒髪の女性は俺を抱き上げ、軽く揺らす。
少し前までの環境と何もかもが違う。ストレスで死にそうだ。なんなんだ畜生め、ゲーセン帰りなんだよ俺は。
女性が乳母車に俺を置き、指を空に向ける。
「■■■■」
女性が何かをつぶやくと、青白い光を放つ円形の何かが展開された。
突然のことで驚いていると、女性の指先から青白い閃光が走る。稲妻のように宙を掛け、霧散する光。
......魔法だ!
あの円形のものはよくある魔法陣で、先程の青白い閃光は魔法で起きた現象なんだ。CGでも合成でもない実在する超常。
先程までの感情全てが好奇心で上書きされてしまったようで、目の前の出来事に釘付けになる。さっきまで泣いていたのに、もう魔法しか見えていなかった。
「きゃっ! きゃっきゃ!」
「■■■■」
女性は自慢げな表情を浮かべ、次々と魔法を繰り出していく。といっても、水を出したり、ちょっとした火を出したり、風で黒髪を浮かばせたりなどだ。
どうなってるんだ? 魔法ってどうすれば出来るんだ? 魔法を使えば元の世界に帰れるんじゃないか? 幾つもの疑問と淡い期待が沸く。
しかし、魔法を見ていると、なんだか眠くなってきた。
まだ魔法を見てみたい、物理法則で説明できない現象を、まだ見ていたいという思いで必死に眠気に抗おうとする。だが奮闘も空しく、微睡に沈むのだった。
こんにちわ。初めて小説を書いたので至らぬ点がございましたら教えていただきたいです。