TS転生したら異世界で可愛がられた(意味深) 作:乾燥FOX
--頭が、ひどくズキズキする。
せっかく気持ち良く眠っていたのに。
暗闇の中、激しい頭痛に耐えながら、俺はどうにか意識を浮上させる。
普通にベットで寝ていただけなのに、この頭の割れるような痛さは、一体なんなんだよ。
「いってぇ、頭割れそ……っん?」
今の状況を嘆くために口から発せられた音は、本来なら聞こえる筈の何むさ苦しい男の声ではなかった。鈴を転がしたような、透き通った、少女の声だった。
「え、なにこれ!?誰の声!?」
突然聞こえた少女の声に、俺は頭痛も忘れて周囲を確認しようとする。
だが、焦って体を動かそうとして、背中に伝わるゴツゴツとした固い感触に気が付いた。
俺が寝ているベットはもっとふかふかしているので、今寝ている場所はベットではない。
「どこで寝てるんだ……?」
混乱しながらも、とにかく現状の把握のため慌てて起き上がろうとしたその時、自分の視界に飛び込んできた手に、俺は完全に硬直した。
白い、異常なまでに白い。
その光を浴びて耀くようなその手は、爪の先まで形が良く、男の手とは比べ物にならないほど細くて、しなやかだ。
「……っ、え?」
そんなしなやかな手が何故か俺に付いている、そんな異常事態がトリガーとなり、忘れていた記憶が、濁流のように脳にフラッシュバックしてくる。
__そうだった、俺はベットに寝たんじゃない。
深夜の暗い部屋の中で、変な広告をクリックして診断を受けたんだ。
その後萎えて、寝ようとしたときパソコンから響いた『異世界転生の手続き開始しちゃうぞ♥️』という合成音声と、俺の部屋を染め上げた謎のネオンピンクの光!
「うっそだろ………。あのクソ診断、まじで異世界に飛ばしやがったのか!?」
一気に全身に冷や汗が流れるのを感じながら、俺は弾かれたように全身を確認し始めた。
首筋が細い、喉仏が無い、鎖骨のラインが驚くほど華奢だ。そして胸の辺りには、主張は少ないながらもしっかりと柔らかい膨らみが2つ、絶対に男にはない筈の、希望の塊が手の平に収まる。
「っ嘘だろ……。ってことは!?」
最悪の結果が頭を過り、恐る恐る自分の大事なところへ手を伸ばす。少し前まで動画を見ながらお世話しようとしていた俺の、男としての誇り。
何時もなら悠々と聳え立ってくれている筈の相棒に。
…………ない。
どこをどう触っても、本来ある筈の相棒が綺麗さっぱりなくなっている。
代わりに指先に触れたのは、驚くほど滑らかでスベスベとした、未開の『谷』だった。
「っっあぁっ……、きえ、っ消えてるぅぅぅぅぅ!?」
俺の大事な相棒は一度も使われることなく、ログアウトした。
矛が消え去り、現れたのは滑らかな凹み、望んでもいないのに強制的に書き換えられた現実。
深夜に一時間以上も、共に最高を目指した相棒は、異世界のピンクの光へ消えてしまったのだ。
(あのクソ診断サイトォォオオオ!!履歴は消させてくれなかったくせに、俺の大事なものは奪っていくんだなァァアアアア、持ってかれたァァアアアア)
男としての誇りを奪われ、受け取ったものは未使用の谷。クソみたいな等価交換に、心の中で血涙を流しながらも、自分が置かれた状況を確認するために周囲を見回した。
周りには、生い茂る巨大な木々と、見た事のない種類の花が咲き乱れており。THE森って感じの景色である。
「ほぉ~綺麗だなぁ」と場違いな感想を溢しながら耳を澄ましてみる。
すると、近くからチョロチョロと僅かに水の流れる音が聞こえる。どうやら近くに水場のようなものがあるらしい。
「まずは自分のがどうなってるか確認しないと……」
俺は吸い寄せられるように音のする方へと這い寄り、透き通った湧き水を溜めている小さな泉を見つけた。
これ幸いと鏡代わりに水面に映る自分の顔を覗き込む。
「………?、っだ、誰だこれ……」
水面に映っているのは、誰もが息を飲むような美少女の姿だった。
白々の肌に、太陽の輝きのような美しい金髪。少し切れ気味の目元は、他者を寄せ付けないような気品を醸し出している。
まさに『傾国傾城』という言葉がぴったりな、崇高で美しい顔立ち。
それなのに、一つ一つを見ると、薄くぷるんとした唇や、ぷにっとした柔らかそうな頬が、どうしようもなく可憐な幼さを主張している。
「……っ、本当に……美少女に、なってる…?」
水面に映る美少女が俺だと言う事実が信じられず、思わず太ももをつねって確かめてみる。
「ふゃんっ!?!?!?」
その瞬間、脳天を突き抜けるような、背筋がゾクゾクとする快感が全身に走り、思わず情けない声をあげてその場にへたりこんでしまう。
…なにこれ、ちょっとつねっただけなのに、体が。
すると脳裏に、あのクソ診断サイトの言葉がフラッシュバックしてくる。
『貴方はめっちゃM。だから異世界で可愛い女の子になって調教されるのが良いね♥️』
「あ、あのクソ診断……体の感度めっちゃ高く設定しやがったなぁぁああああ」
容姿はとんでも美少女にされ、体はクソドM体質。
そんな最悪な環境で始まった俺の異世界ライフだったが、絶望してる暇すら与えてくれないらしい。
ザザッ、と泉の向かい側から音がする。
「ひゃっ!?」
ビクッと肩を震わせ、音がした方に顔をあげると、そこには巨大な影があった。
体長は軽く二メートルは越えているであろう巨体と、漆黒の毛並みに血のように赤い眼を持ったでっかい狼が此方を見ている。
そういえばこの泉の周りには大きな足跡があることに気付く。
どうやらこの泉はデカ狼の縄張りだったらしい。多分喉を潤しに来た狼は、泉のほとりで全裸で腰が抜けている俺の方へ、低い唸り声をあげながら近付いてくる。
(う、うそだろぉ……!?早いって俺まだ全裸だし武器ないよぉ……)
狼から逃げようにも先程の快感がまだ全身を支配しており、逃げようにも逃げれない。
その間にも狼はドシドシ近付いており遂に俺を押し倒した。
「グルルル……」
「っひ、いや、食べられるぅーーー!」
狼って可愛いよね