ちょっとルークが家出した話   作:サリエリキキ

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臨界点

 その頃、当の『歴史的瞬間』の中心にいる二つの旗艦のブリッジでは、全銀河の戦慄と恐怖とは裏腹に、帝国二大巨頭(中間管理職)による、血を吐くような胃痛と頭痛のドキュメンタリーが繰り広げられていた。

 

 

 

「ベイダー卿、伏兵の手筈は完全に整いました。高機動飛行部隊をデブリ帯に潜ませております。ご命令さえあれば、いつでも『敵艦隊』の横腹を食い破れます」

「……ヴェルシオ提督、貴官の抜け目無さには深く敬意を表するが、まずは交渉だ。同じ帝国の艦隊同士で相打つなど、あってはならない」

 

 旗艦デバステーターの艦橋。燃え盛るカミーノ第二居住星の赤黒い光が、窓越しに冷たい床を照らしている。

 整然と立ち並ぶ将校たちの中で、ベイダーの領地・ヴァードス星出身の優秀な指揮官であるヴェルシオ提督は、「なぜこの好機に仕掛けないのか」とでも言いたげな不満を滲ませていた。

 彼は極めて有能だが、軍人としての頭が固い。

 目の前のターキンの艦隊を、極々自然に『敵艦隊』と呼称し、どうやって効率的に殲滅するかしか考えていないのだ。

 いや、「帝国の星を焼く差別主義者共と我々が同じ帝国艦隊?」「エイリアンだからと帝国市民を殺戮した連中と我々が同胞?」「ベイダー卿のジョークかな?」と、フォースを使わなくても分かるほどに物語る艦橋に居る全員の眼差しから、もっと根が深い断絶があることが読み取れた。

 そう、自分が民衆を救助している間に命令してもいないのに押取り刀で集まった自分の全戦力と、自分の間には深い断絶がある。

 救助には直属の戦力だけで十分だったのに、どう見ても艦橋の──いや、集まった艦隊の者達全員が『艦隊決戦』をやる気だ。

 

 ──同じ帝国のターキン艦隊と。

 

 皇帝とターキンの首は斬りたいが! 同じ帝国軍人と殺し合いたいわけではない!! 彼ら無くしてどう治安と航路を守る気だ!!! 

 

 そう咆哮したくても出来ないベイダーはただ苦悩する。

 

『ベイダー卿!』

 

 苦悩するベイダーの耳に入ったのは、直属の精鋭である再編成された第501大隊の大隊長からの通信だった。

 先ほどの救助活動で共に民衆を可能な限り救い出してくれた彼らならば、今の自分にまともな報告をもたらしてくれるはずだ。ベイダーは僅かな希望を抱いて応える。

 

「なんだ、報告しろ」

『第501大隊、全機出撃準備完了です。ご命令さえあれば、我々が直ちにターキンの旗艦へ強襲をかけ、あのイカれたクソ野郎の頭に風穴を空けてご覧に入れます。卿の先行量産型Xウイングも、準備万端です』

 

 お前もかソウ・ゲレラ隊長。

 希望などどこにもなかった。

 

「……ご苦労。命令あるまで待機だ」

『ハッ、腕が鳴りますな。ターキンの旗艦に対し、小隊単位で対空砲火をすり抜け、ブリッジのシールド発生器をピンポイントで粉砕。そのまま強襲揚陸艇で艦内に突入し、奴の首を獲る。シミュレーションと訓練は完璧です。あの危険な狂人は、ここで確実に息の根を止めてみせます!』

 

 昔、自分がよくやっていた戦法だが、無茶苦茶すぎるから標準化しては駄目だ。やってのけた手前、何も言えんが。

 頭の痛くなる報告(黒歴史)に、ベイダーは機械の呼吸音のペースが乱れるのを感じた。

 若い頃の自分を見るオビ=ワン・ケノービの気持ちが、今のベイダーには痛いほどよくわかる。

 敵じゃないのだ。同じ帝国の人間なのだ。だから、戦うな。突っ込むな。と声を大にしたい。

 いや、目前の業火に焼けた星の惨状と、泣き叫びながら逃げ惑う中を救出した民衆の悲惨な姿を見れば、エイリアンを含む部下たちがターキン艦隊を「悪逆非道な敵」と思いたいのは分かる。アナキン・スカイウォーカー個人としては痛いほどよくわかる。

 正直、「あとはオビ=ワンに任せて突っ込め!」が出来た頃の自分なら、真っ先に単機でターキンのブリッジに突撃し、ライトセーバーで船ごとバラバラにしていただろう。

 だが、あの胃に穴を開けながら小言を言い続けていた師匠の立場──すなわち『責任ある全軍の最高指揮官』になってしまった今は、そんな個人的な感情で動く事など出来るはずもない。

 …………「ターキンの艦隊に追われていた難民船に乗っていた避難民たちを、ルークたちが安全な惑星に無事届けた」そんな連絡が来たついさっきは純粋な個人的歓声を上げて喜んでしまったが、それは仕方ないだろう。周りもみんなそうだった。よくやったなルーク。

 

「ベイダー卿」

「なんだ、トニス参謀長」

 

 周りが好戦的すぎる苦悩と親としての喜びを噛み締めるなか、声をかけてきたのは、クローン戦争時代には分離主義勢力の提督であり、銀行家でもあったムーン人の参謀長、ポース・トニスだ。

 戦争初期に共和国の捕虜となったことで指導部粛清を免れた彼は、帝国成立後にターキンらによってムーン人の資産と権益をすべて奪われた過去を持つ。ベイダーが「能力主義」を掲げて登用した、極めて狡猾で優秀な政治家でもある。

 ムーン人特有の徹底した損得勘定と、何時も的確な政治的助言をくれる彼なら、この熱狂を論理で冷ましてくれるはずだ。ベイダーは希望を抱いた。

 

「私ども幕僚と、アクバー中将以下全戦隊指揮官の意思統一が完了いたしました。──結論から申し上げます。先制攻撃です」

「………………ふぅむ」

 

 頼みの綱の政治家までそっち側だった。

 ベイダーのヘルメットの下の素顔が絶望に歪むが、そんなん見えない(見えてても変わらない)トニス参謀長は普段冷静沈着な細長い顔に隠しきれない熱を浮かべながら熱を込めた声で告げる。

 

「純粋な艦隊の主砲火力では、我が方は不利。しかし、航空戦力と機動力では圧倒的に勝ります。ゆえに、アクバー中将の戦隊を囮として敵の十字砲火を引きつけ、その間隙を縫って伏兵である航空戦力で敵指揮系統を、ターキンの首を物理的に上げる。我々が多大な損耗を避け、かつ最も高い確率でターキンの首を獲るには、敵のエネルギー充填が完了する前の今、この瞬間の先制攻撃しかあり得ません。

 アクバー中将も『困難だが不可能ではない。我が戦隊は必ず敵を釘付けにする。直ちに命令を』とのこと。他の指揮官も全く同意見です。速やかな攻撃あるのみです」

「…………ほう。しかし、先制攻撃した場合は、政治的な影響はどうなる。この状況はホロネットで全銀河に生放送されている。我々から先に牙を剥けば、たとえターキンを討ち取ったとしても『反逆者』の烙印を押されるぞ」

「ご安心を。軍事的勝利のみならず、政治的勝利の準備も既に完了しております」

「……何?」

「ホロネットの生中継回線を逆利用します。まず微弱なジャミングで映像に数秒の遅延を生じさせた上で、『ターキン艦隊が、人間種難民船団に対して非道なる主砲射撃を開始した』という偽造ホロ映像を全銀河の回線に割り込ませます。

 同時に、『難民を保護するため、特区防衛艦隊はやむを得ずターキン艦隊を武力で制圧した』という完璧な状況証拠、偽造通信記録、航行ログなどを全銀河へ同時配信する各種手段を、既に48パターン用意いたしました」

「………………」

「皇帝陛下と元老院には、我々は正当防衛──否、『帝国の法と秩序、そして無辜の民を守るために、狂人ターキンを苦渋の決断で討ち取った英雄』として報告できます。これで大義名分は盤石。政治的リスクは完全にゼロです。

 ご決断を。閣下の一声で、ターキンという宇宙最大の負債を消去できるのです!」

 

「…………………………………………………………………………検討しよう」

 

 ターキンが主導する政策により全てを奪われた参謀長たちが穏和な解決策を出してくれると期待した自分が愚かだった。

 彼らムーン人を含めた元分離主義者の論理からすれば、かつて自分ことダース・ベイダーがムスタファーで分離主義の指導部を皆殺しにしたことは、敗戦という当然のリスクであり過去の清算として割り切れるらしい。

 だが、降伏条件になかったターキンら人間至上主義者による戦後の散々な圧政と、法を無視した資産の没収は違う。それは彼らの誇りである「契約」や「取引」を根本から否定する絶対のルール違反であり、必ず利子をつけて回収せねばならない『不良債権』なのだ。

 そんな参謀長も含めた艦隊ほぼ全員が様々な理由で憎悪をターキンに向けている。

 

(ターキンに対してこれほどまでに! ……いや、それはそうか)

 

 当然のことだった。

 帝国中央の人間至上主義から外れた有能なエイリアンたちとエイリアン差別を嫌う人間たちを実力主義で拾い集めていけば、自艦隊が「ターキンに人生を狂わされた有能な復讐鬼と、エイリアン差別と圧政を嫌悪して躊躇わずに銃を取る修羅の人間たち」の集まりになることくらい、少し考えれば分かることだったではないか。

 普段は治安維持と航路防衛に軍が散らばって完璧に務めていたし、何よりも息子にろくに会えないほど忙しかったから気づかなかった。

 

 全軍集まればターキン艦隊と渡り合えるようになれば、事が起これば躊躇わずに集まると! そこに総大将たる自分が直属部隊と共に居合わせれば、誰もが決戦の合図だと確信してしまうと!! 

 

 彼は、いや、彼含めた参謀と指揮官たちは「どうやって合法的にかつ此方の被害少なくターキンを仕留めるか」という策しか考えていない。

 人材が足りないし、エイリアン差別など間違っていると、高級将校にまで幅広く門戸を開いたのは間違っていたのかもしれない。

 自分以外は、全員が殺意しか持ち合わせていない艦隊で、シスの暗黒卿は重いヘルメットの下で激しい頭痛を堪え、天を仰ぎたくなっていた。

 救難は終わったのだから撤退と命令したいのだが、出来ない。

 

(皇帝は何をしているっ! 軍の最高司令官と特区の統治者が一触即発の事態に陥ったのだ。こんな事態になれば、即座に両者を制止し、秩序を保つのがトップの役割だろう! 今、銀河に生きる人々のためにっ!?)

 

 諸悪の根源に対して、ベイダーの胸中でダークサイドに働かない純粋な他者の為の怒りが沸騰した。

 銀河を統べる総責任者でありながら、その責任を放棄した老害に。

 

(貴様には皇帝としての責任感はないのか! シディアス!!)

 

 

 

 

 

 

 一方、ターキン艦隊の旗艦のブリッジでも、地獄が展開されていた。

 

「閣下。敵インペリアル級は9隻に対し、こちらは14隻。正面からの艦隊決戦ならば我が軍の主砲火力が圧倒してます。敵がこれ以上複雑な陣形を展開する前に、一斉射撃で前衛を粉砕すべきです!」

「敵インペリアル級4隻を基幹とした敵左翼戦隊の動き、一切の隙がありません。指揮官は──ギアル・アクバー中将!? まさか……間違いない! モン・カラマリのアクバーだ!! 

 栄光あるインペリアル級を4隻も含めた麾下最大の主力戦隊を、エイリアンの彼に委ねたというのか! 中将にして! 将官にして! ……ベイダー卿……なんと見事な。

 閣下! あのアクバーは銀河で3本の指に入る戦上手です! これ以上の戦力を彼が任されるようになれば、いかに我が艦隊でも抑えきれなくなります! 直ちに攻撃し、宇宙の塵にいたしましょう!」

「ダース・ベイダー卿……奇術師が同じ奇術師相手に棒(ライトセーバー)を振り回すだけで陛下に取り入ったと思っておりましたが、特区の経済力とエイリアンの技術を統合し、これほどの私兵艦隊を短期間で練成するとは。

 このまま彼を野放しにすれば、帝国中央の軍事バランスが根底から崩壊します! 攻撃あるのみです!」

「閣下! ご覧の通り、ベイダー卿は我々の治安維持を批判する裏で、法を逃れたエイリアンの莫大な資産と頭脳を特区に囲い込み、独自の軍事力を構築しつつあります! 

 星を焼くという帝国の秩序のための必要悪すら背負わず、民の歓心を買うような軟弱な偽善! あのような統治モデルの成功を許せば、閣下の掲げる『ターキン・ドクトリン』は根底から瓦解します! 

 彼の偽りの善政が全銀河に波及する前に、帝国の真の力をもって粉砕すべきです! 攻撃です! 攻撃あるのみです!」

「敵右翼の戦隊も、やけに動きがいい。帝国軍の教義にはない変幻自在な遊撃機動。それを麾下の戦隊に徹底しているどころか他の戦隊と完璧に連動してのけるとは。指揮官は何者だ? トワイレック? チャム・シンドゥーラ少将だと!? ライロスの英雄か! ベイダー卿、ライロスを領地にした時にあのゲリラ戦の天才を取り込んだな! 

 ……良いだろう、チャム、14年前に共に肩を並べた戦友への餞だ。君らの機動力が完全に展開しきる前に、十字砲火で終わらせてやる! 

 直ちに攻撃命令を!」

「くそっ! 右翼のもう一つの戦隊。防陣を固めているのはニモーディアンの英雄だ! マール・トゥーク少将だ! クローン戦争における分離主義勢力屈指の戦術家だ! 見事な戦術運動を熟せるわけだ。ベイダー卿っ、あの奇術師め! クローン戦争の亡霊を墓場から呼び出したな! 

 ……よかろう本懐である。我らの砲列が先に整っている今、墓場に確実に叩き込み、貴様にやられた戦友たちへの手向けの花にしてやろう。

 閣下! 攻撃命令を!」

「閣下、ご覧ください! 敵インペリアル級は、ターボレーザーの門数を意図的に減らし、そのリソースを航空戦力の展開に全振りする改装を行っています! あれは愚行などではありません! 大艦巨砲を旨とする我々の弱点を突く、極めて合理的な対戦艦用ドクトリンです! 懐に入り込まれれば戦力比が逆転します! 

 敵の航空戦力がその射程内に我々を収める前に、先制攻撃で指揮系統を叩き潰すべきです! 我が方の航空戦力では時間稼ぎしか出来ません! 

 主砲による先制攻撃のご命令を!」

「断固として攻撃です! 主砲のエネルギー充填率はすでに80%を超えています! 撃ちましょう!」

「ターボレーザーを撃てとのご命令を! 閣下!」

「閣下!」

「閣下!」

「閣下!」

 

 許されるのなら、ターキンは今すぐ自らのブラスターで、この幕僚と指揮官という紙を顔に貼った連中の頭を撃ち抜きたかった。

 ターキンの周囲にいるのは、エイリアンというだけで相手を侮る感情的な差別主義者でもなければ、「大艦巨砲VS機動戦」という派閥争いに現を抜かす阿呆でもない。むしろ、帝国軍のエリートとして極めて優秀で、敵の真の脅威を正確に測れる冷徹な分析力を持った軍人たちばかりだった。

 単機で艦隊に突撃して旗艦を制圧しうるフォース使用者の桁違いの戦闘能力の認識不足以外は、的を射た意見しか言っていない。

 だからこそ、タチが悪いのだ。

 彼らはベイダー艦隊の異常な完成度と指揮官たちの危険性を正確に分析し、『軍事的には、今ここで先制攻撃を仕掛けるのが唯一の勝ち筋である』という完璧な正解を導き出してしまっている。

 

(そう! 愚かなことに同じ帝国軍を敵軍としているのだ!! それも、自分たちと同じくらいに働いている帝国精鋭軍を!!!)

 

 確かに、ダース・ベイダーは厄介な政敵だ。

 彼の勢力拡大を牽制し、あわよくば失脚して欲しいと願っている。今回のカミーノ第二居住星の破壊も、皇帝の内意を汲んだ上でベイダーの領地の隣で行うことで「皇帝は貴様の政策に疑問を抱いているぞ」という圧を狙ったものだ。

 だが、砲火を交えるべき相手では断じてないのだ。

 ホロネットを通じて銀河中にこの宙域の映像が流されている今、ターキン艦隊とベイダー艦隊が正面から戦闘行為を行えば、どれ程の致命的な政治的混乱が巻き起こるか、どいつもこいつも分かっていない。

 もしここでこちらが一発でもターボレーザーを撃てば、経済的にベイダーと結びついている無数のエイリアン星系が「ターキンから身を守るためにベイダー卿と共に戦う」と、一斉に帝国中央から独立して戦争になってしまう。

 もちろん最終的には勝つ。各個撃破で勝てる。だが、間違いなく帝国はボロボロになる。

 ターキンが求めているのは「恐怖によって統制された、安定し豊かな帝国」であって、「治安が崩壊し、荒廃した廃墟の帝国」などではないのだ。

 ──そして、その各個撃破という最悪のシナリオでさえ、『この場でベイダー艦隊に完勝できること』が前提であり、それは今や不可能だ。

 

(ベイダー艦隊。まさかあれ程の戦力だったとは。迫害されたエイリアンどもと、中央の強権に反発する融和派の人間たち。本来なら無力な有象無象が、ダース・ベイダーと共にこれほど巨大な牙を研ぎ澄ませていたとは! 

 あの物量と質と練度、信じられん。 帝国中央が特区に供与したのは、インペリアル級たった一隻のみのはず。 なのに残りの戦艦群や、あの宙域を埋め尽くす高コストな最新鋭戦闘機はどこから湧いた。 奴に与えられた特区の経済力と、そこに逃げ込んだエイリアン共の技術力、そして我々が弾圧した旧分離主義勢力すら取り込んだ独自のネットワークだけで、これだけの軍備を造り上げていたとでもいうのか! 

 クローン戦争を戦い抜いた歴戦の将兵で構成された、帝国最強の我が第1宙域艦隊。それに匹敵する私兵軍を、ベイダーは練成したというのか。──特区成立からたったの二年弱で!!!???)

 

 ウィンドウ越しに見えるのは、虐げられたエイリアンたちと融和派の怨念と憎悪と復讐心と生存への渇望が具現化したかのような隙のないベイダー艦隊。

 その威容を前に、ターキンは背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、政敵への警戒度を極限まで跳ね上げた。

「今のうちに抑えなければ何れ自分を超えるかもしれない政敵」ではなく「可及的速やかに葬り去るべき最大の政敵」へと。

 ベイダーの艦隊は、艦艇数こそ少ないものの、艦載機の展開速度と数が常軌を逸していた。

 宙域を埋め尽くす無数のTIEディフェンダー(あのパイロット上がり、いったい幾らかけたんだ!)。

 それに続く重武装の爆撃機群(こっちもだよ! 幾らかかったんだよ! パイロットって奴は金が無限に湧いてくると思いやがって!)。

 さらには、ついさっき我が軍のヴィクトリー級一隻を含め何機ものTIEを沈めたのと同型の謎の戦闘機少数。(やはり、あの連中もベイダーの手先だったか! 帝国軍の識別反応が無い戦闘機と改造輸送船で此方を撹乱しているうちに、本隊の戦力を結集させるとは──やってくれたなベイダーァァァ!!!)(※コレだけはベイダー卿完全無罪であるが責任者なので責任がある)

 それらの航空戦力は、完全にこちらの艦隊を内側から食い殺すために研ぎ澄まされた、殺意の刃の陣形を取っている。

 もし今、自分の部下がうっかり一発でも主砲を撃てば、次の瞬間にはあの殺意の群れが艦隊のシールドをすり抜け、このブリッジを火の海にするだろう。

 艦の火力はこちらが勝っているため、最終的にはベイダー艦隊を殲滅できるだろう。だが、こちらも壊滅的な打撃を受ける。いや、刺し違えて壊滅する。

 そう──このままでは、帝国最強の二大艦隊が同士討ちで宇宙の塵と消えるのだ。

 

(最悪などという生ぬるいものではない、帝国の破滅だ!)

 

 自分とベイダーの艦隊なしで、これからどうやってこの広い銀河を統制し支配するというのか! そもそも、帝国軍同士で相撃つなど絶対に出来るはずがないのだ!!! 

 

 ギリィッ、と。ターキンの奥歯が鳴った。

 極限の緊張と焦燥は、やがて沸々と湧き上がる一つの巨大な怒りへと変換されていく。

 その怒りの矛先は、目の前のベイダーではない。この絶望的な状況を作り出した、諸悪の根源たるただ一人に向けられていた。

 

(パルパティーンッ!!)

 

 ターキンの胸中で、普段の冷徹な理性すら吹き飛ばすほどの凄まじい怒号が響き渡った。

 

(玉座の奥底に引きこもり、実務をすべて丸投げにして惰眠を貪り宗教に耽溺するだけの、あの無気力引き篭もりニートの老害がぁっ!! 旧共和国時代、最高議長として辣腕を振るい、議会をまとめ上げていたあの卓越した調整力と指導力は一体何処へ行ったというのだ!!! 帝国軍が相打つなどという馬鹿げた事態にならないよう、手綱を握るのがトップである貴様の仕事だろぅがぁっ!!!)

 

 大総督としての矜持も建前も投げ捨てた、腹の底からの咆哮だった。

 だが、そんな大総督の魂の咆哮など、部下たちには微塵も届かない。軍事的な正解のみを追う無慈悲な報告が耳を打つ。

 

「閣下! 敵全艦及び敵全機のロックオンを完了しました! 一分後に同時射撃を実行いたします!」

「待て馬鹿者! 誰が撃てと言った!」

「しかし閣下、このままでは敵航空戦力の射程内に我が艦隊が──」

(このままでは、政治が分からない部下たちが、帝国の歴史をここで終わらせてしまう!)

 

 ターキンは、もはや一刻の猶予もないと悟った。

 そして、その数百キロメートル先に浮かぶ漆黒の旗艦のブリッジでも、全く同じ光景が展開されていた。

 

「アクバー戦隊より『これより我ら突撃する!』──伏兵全機、一分後にプロトン魚雷による波状攻撃を実施いたします! 爾後全軍突撃に入ります! ──くたばれターキン!!!」

「「「くたばれターキン!!!」」」

「待て! 待つんだ! 全軍待機だ!!」

 

 参謀長の咆哮に応えて艦隊一丸となって「くたばれターキン!」を叫ぶ部下たちの熱狂を、フォースによる威圧すら忘れて必死に制止したダース・ベイダーもまた、ターキンと完全に同じ結論に達していた。

 

「……デバステーターより、大総督ターキンの旗艦エグゼキュトリクスへ通信を繋げ。私が直接話す。繰り返すが全部隊、絶対に待機だ!」

「……閣下! ベイダー卿のデバステーターより緊急通信です!」

「よし、直ちに繋げ! いいか、撃つなよ! 絶対に撃つなよ!」

 

 かくして、互いに「殺意の塊と化した有能な部下たち」を抱え込み、胃痛と頭痛の限界に達した帝国二大巨頭(中間管理職)による、銀河の命運を懸けた停戦通信が始まろうとしていた。

 

 ──その時である。

 

 艦隊の全システム、いや、全銀河のあらゆる回線から緊急放送のアラートがけたたましく鳴り響き、最高のタイミングを見計らっていた『声』が響き渡った。

 

『──全銀河の市民に告ぐ』

 

 両艦隊の全メインモニターに強制投影されたのは、14年も公に姿を見せなかった男。

 深くフードを被った銀河皇帝(秩序も治安も航路も統制も支配も何もかもが、シスの教義に比べればどうでも良い無敵のラスボス)──パルパティーンの巨大な幻影だった。

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