銀河の影でクリムゾン・ドーンという組織を作り上げ、オビ=ワンへの復讐という個人的な執念に燃えるモール。
しかし、その動きは若者への適度な試練を欲するダース・シディアスからしてみれば、再利用できると認識するものでしかなかった。
モールが最も勢力を拡大し、傲慢にも自らを真のダークサイドの継承者と錯覚し始めた頃、それは起きた。
「なんだっ」
モールが支配するクリムゾン・ドーンの本拠地、その奥深き玉座の間。屈強なはずの親衛隊たちが、まるで糸を切られた操り人形のように音もなく崩れ落ちた。
それに驚愕する間もなく、フォースの圧殺するような静寂と、息すらできないほどの極寒が部屋を支配する。
「な、んだ」
あまりも理解出来ないダークサイドの強さにただ震えるモールの元に、影の中から漆黒のローブを纏った老人が現れる。
ダース・シディアスだ。
「……マス、ター?」
モールは瞬時に理解した。老いた引き篭もりと軽蔑していたかつての師との力の隔絶を。
彼が銀河の裏社会で築き上げた強大な組織も、シディアスの前ではただの塵に等しいと。
モールは即座に膝を突き、弟と二人がかりで挑み敗れ弟が殺された時のようにその顎を床に擦り付けた。
「マスター! 信じていました!マスター !私は、私はこの日をずっと心より待っていたのです!
私は、あなたが再び表に出る日のために力を蓄えていました!今から直ぐに私の、いえ、マスターの兵をこの場に――」
モールの命乞いの叫びにシディアスは冷酷な笑みを浮かべ、指先から青白いフォース・ライトニングを放った。モールは悶絶し、全身を焼く激痛に転げ回る。
外にいたモールの手下を、埃一つ被らず制圧して静かに姿を現したロイヤル・ガードの赤い仮面が雷撃に青く照らされる。
「プリーズ、マスター!プリーズ!
許しを!命を!この命を再びあなたに捧げます!いえ、元より貴方のものです!
クリムゾン・ドーンも、私の築いた銀河の裏社会の全てが貴方のものなのです!」
シディアスの指先から迸る紫電が、モールの体内の回路を焼き切る。耐電能力のある義足から火花が散り、合成筋肉が焼け焦げる悪臭が立ち込めた。
(勝てない。十数年かけて蓄えた力が、この男の前では赤子以下でしかない!ここまで強くなっていたなんて!)
「お許しを、マスター、お許しをっ、プリーズ、マスター、プリィーズ」
モールは玉座の階段に額を打ち付け、血と焦げた肉の臭いを撒き散らしながら、ただミミズのように床を這いずり回りながら泣き叫ぶ。
銀河を恐怖に陥れる暗黒街の戦士の威厳は、どこにもない。そこには、絶対的な飼い主を前にして、飼い主の怒りを鎮めようと震える一匹の獣がいるだけだった。
「プリーズ!マスターッ! 何でもします……命を……命だけは!」
「慈悲を乞うか。貴様のような失敗作には、一生その姿勢が似合っている」
フォースで足元に転がしたモールの懇願にシディアスは愉悦の笑みを浮かべた。
シディアスのブーツがモールの背中を容赦なく踏みつけ、そのたびにモールの口から血と悲鳴が漏れる。
「マスター、お願い、します。プリーズ、マスター」
命の危機に銀河を震わせる戦士の誇りは、完全に消え去った。そこにあるのはただ、次に電撃を打たれたら死ぬと恐れて震えるただの道具であった。
「貴様は賢い駒だ、モール。だが、時として駒は持ち主を忘れ、自らが盤面を支配していると錯覚する。その慢心。あまりにも愚かにすぎる。生かしておけぬ」
「プリーズ……マスター。プリーズ」
「ーーだが、まだ、おまえには価値がある」
泣き咽ぶモールから脚をどけて、シディアスは杖を床にコツリと響かせた。冷酷な威圧感が、玉座の間の空気とモールを支配する。
「貴様のクリムゾン・ドーンは、これより帝国の秘密執行部隊として吸収する。貴様はただの執行官――いや、名もなき暗殺者として、私の命ずるままに動け。貴様の個人的な復讐など、不要だ」
「イエス……マスター。私はあなたの、あなたの手足です。マスターのものです」
モールは床に顔を押し付けたまま、涙と鼻水にまみれた顔で必死に答える。
生き延びた安堵に。
「よかろう。貴様のその腐った命を、死ぬまで使い潰してやる」
シディアスは不気味な笑みを浮かべ、ローブを翻し踵を返した。
(ふふっ、モールを仕留めるのは誰か。若者たちの誰かな。ベイダー卿に当たらぬように注意せねば。さぞモールは良き糧となるだろう)
恍惚するシディアスの脳裏には、ベイダーのもとで着実に力をつけつつある若者たちの姿があった。彼らを真のシスへと覚醒させるためには、モールのような強大な復讐心を伴うダークサイドの持ち主との殺し合いが、良き試練になる。
「貴様はこれからも生き続けろ、モール。そして、若者たちが、貴様の喉元に牙を突き立てるその瞬間を楽しみに待つがいい。貴様の底の浅い憎悪は、これからの銀河を担うシスの最高の糧となる。貴様の最後の役割は、若者たちの獲物として散ることだ」
モールは、シディアスのその言葉の意味を理解し、背筋が凍るような絶望に襲われた。かつての師は、モールを弟子としてではなく、後進たちの実戦教習用の生きた標的として飼い殺すつもりなのだ。
「……イエス……マスター」
だが、今は生き延びられる。
モールは這い蹲ったまま、それだけを救いに、ただ震えるしかなかった。シディアスは満足げにロイヤル・ガードを引き連れ、優雅な足取りで部屋を去っていく。
――十四年ぶりに自分が公の場に姿を現したことに号泣しながら、これまでの鬱憤を晴らすかのように大量の決裁文書を担ぎ込んできたマス・アミダ宰相の元へ、と
少し前までは「帝国など何の価値もない」とマス・アミダに執務を放り投げただろうが、今は違う。まだ、帝国を崩壊させるわけにはいかないのだ。若者たちの糧となるためのシスの後継者を産む戦火で燃やし使い潰す、その日までは。
残されたのは、血の匂いと、暗闇の中でただ『駒』として生きることを誓わされた、無残な敗北者だけだった。シディアスにとって、モールという駒は若者の未来のために役立つよう使い潰せればそれでよかった。
圧倒的な力を持つ師に弟子は隷属する。シスの師弟の一つの形があった。
「もうソレ要らないから殺せ。(そしてソレのダークサイドの力を得るのだ)」といきなりされたドゥークやベイダーと比べたらまだマシですね。
パルパティーンはモールに優しい。