イードゥーの戦い (前編)
遠い昔、はるか彼方の銀河系で……
二つの銀河国家
『虚無の対峙』事件より三年──。
銀河帝国による無謀な大軍拡は、エイリアン居住星系に圧政の暗雲をもたらした。
逃げ場を失った多くの民は、ダース・ベイダーが統治し、アウター・リムに史上かつてない安寧を実現した『アウター・リム特区』へと希望を求めた。
独自の経済圏と驚異的な軍事力を築き上げた特区は、今や帝国の暴政に対抗しうる巨大勢力として台頭していた。
しかし、皇帝パルパティーンはベイダーの増長を傍観しなかった。
些細な武力衝突を口実に、皇帝は特区を反逆者と断定。
存亡の危機に立たされた特区は、ついに帝国からの独立を宣言し、『アウター・リム連邦』を結成して宣戦を布告する。
モン・カラをはじめとする占領惑星の解放を進める連邦軍と、それを迎え撃つ帝国軍。
銀河は今、二つの国家による戦乱の業火に包まれようとしていた。
一方、水面下ではすでに帝国の究極兵器『デス・スター』が完成し、皇帝の観閲のために首都コルサントへと向かおうとしていた。
連邦の諜報網はこの要塞に隠された致命的な欠陥情報を掌握。
アウター・リム連邦の特殊部隊総指揮官ソウ・ゲレラは、設計の鍵を握る科学者ゲイレン・アーソらの救出を決断する。
歴史的な建国宣言と宣戦布告の瞬間。
その影で、第501大隊のハン・ソロ大佐率いる強襲部隊は、かつてのジェダイと共に、極秘裏に死地へと降下しようとしていた……。
──イードゥー宙域
「右翼戦隊、前進! インペリアル級の主砲の射角を殺せ! 航空隊はシールド発生器にプロトン魚雷を叩き込め!」
ギアル・アクバー大将の教義を徹底的に叩き込まれたアウター・リム連邦の艦隊は、かつての帝国軍の常識を嘲笑うかのような変幻自在の機動を見せていた。
スター・デストロイヤーとモン・カラマリ・クルーザーが重厚な盾となってターキン・ドクトリンの象徴たる大艦巨砲の十字砲火を引き受け、その間隙を縫って、トンデモテストパイロットと技師により性能が向上したXウイングとTIEディフェンダーの混成部隊が、帝国軍スター・デストロイヤーの急所を的確に食い破っていく。
独立星系連合で天才的な戦術家として名を馳せたニモーディアンの生き残り、マール・トゥーク中将が艦隊を率いている事もあって、数に勝る帝国艦隊を圧していた。
宇宙空間を圧制の象徴である純白と灰色の楔──帝国軍の標準型スター・デストロイヤーが埋め尽くす中、連邦軍の陣容は異彩を放っていた。
その中核を成すのは、特区で独自に建造された青いスター・デストロイヤー群である。かつてのクローン戦争でアナキン・スカイウォーカーが率いた精鋭部隊を彷彿とさせる深いブルーの塗装が施されたその巨艦たちは、スター・デストロイヤーの巨大さを活用する独自の改造が施されていた。
重ターボレーザー砲座の数を大胆に削減し、その分の容積とエネルギー出力を強大な偏向シールドとハンガーベイ(格納庫)の極限拡張に全振りした、航空戦力特化型の特装航空母艦型スター・デストロイヤーである。
「──展開タイミング、現在。全航空隊、発艦せよ。帝国の堅陣に、我々の飽和攻撃を味わわせてやれ」
旗艦の艦橋で、マール・トゥーク中将は薄く笑いながら冷徹な指示を下した。
青いスター・デストロイヤーの広大な腹部ハッチが一斉に開き、そこから宇宙の闇へ向かって、無数の光点が吐き出される。
シールドとハイパードライブを完備したXウイングと、圧倒的な機動力と火力を誇るTIEディフェンダーの混成大編隊。その機体数は、通常のスター・デストロイヤーに搭載される航空戦力の数倍に及んでいた。
対する帝国軍の指揮官たちも、決して無能ではなかった。彼らはこの異常な敵戦力に対し、帝国軍最高のエリートに相応しい完璧な最適解を即座に弾き出す。
「敵の狙いは規格外の航空戦力による飽和攻撃だ! 各艦、多層防御(スフィア)陣形へ移行! 各個の火器管制をデータリンクし、防空ターボレーザーで絶対死角のない弾幕を構築しろ! 迎撃機部隊は我々のシールドの内側から飛び出し、敵の爆撃ルートを潰せ!」
帝国艦隊は一切のパニックを起こすことなく、重厚なインペリアル級のシールドを相互にオーバーラップさせる完璧な密集陣形へと移行した。
被弾しシールド出力が低下した艦があれば即座に後方の無傷の艦と位置を入れ替え、さらにトラクター・ビームを微弱に放射して接近する敵機の照準を強制的に狂わせるという、極めて高度な艦隊機動を平然とやってのける。改訂されたターキン・ドクトリンの教えを忠実に守り抜く、極めて統制のとれた精強なる防衛陣であった。
反乱勢力程度ならば、この帝国の完璧なマニュアルと圧倒的練度の前に絶望し、ただ対空砲火の餌食になるしかなかっただろう。
だが、連邦軍の質と量は、帝国の処理限界値を凌駕していた。
「──無駄だ。各艦の連携が完璧すぎるが故に、データリンクの演算遅延がコンマ3秒生じている。迎撃のタイミングが遅い。何よりも、装甲もシールドもない戦闘機が戦える時代ではない」
トゥーク中将が冷たく呟いた通り、装甲とシールドを持たない帝国の迎撃機では、Xウイングたちの強固なシールドと機動を抑え込めない。
TIEインターセプター部隊が足止めされるか撃墜されている隙に、それを上回る圧倒的な火力を誇るTIEディフェンダーの編隊が、帝国艦隊の緻密な弾幕のわずかなタイムラグ──艦と艦の射界が切り替わる一瞬の隙間──を正確に縫って突入する。
「敵機、防空網を突破! シールド内に入り込まれました!」
「怯むな! シールド出力を艦内部に向けろ! トラクター・ビームで敵機を捕縛し、僚艦の副砲で撃ち落とせ!」
帝国軍の将校たちは懐に飛び込まれるという致命的な危機にあっても、冷静に次の一手を打つ。侵入した連邦軍の戦闘機が数機、見えない力場に捕らえられて爆散する。
だが、それすらもトゥーク中将の計算の内だった。
「フン……各艦長の対応は迅速だ。致命傷を避けるための損害許容の計算も完璧。だが、図体がでかくなった分、教範通りの最適解の動きしかできん。かつて我々を散々苦しめたジェダイの予測不能な用兵に比べれば、いくらでも計算が立つというものだ」
帝国が連邦戦闘機の迎撃にリソースを割き、完璧だった防御陣形にわずかな歪みが生じた瞬間。
トゥーク中将は演算結果を見下ろし、ニモーディアン特有の皮肉な笑みを浮かべて手を振り下ろした。
「今だ。後方の重装甲艦隊、敵陣形の要である旗艦のシールド接続部へ全砲門を開け」
後方に控えていた連邦のモン・カラマリ・クルーザー及びスター・デストロイヤー群が、的確な集中砲火を一斉に浴びせる。
航空隊への対応でシールドの指向性を変えていた帝国艦隊は、その間隙を完璧に突かれた。インペリアル級の強固なシールドが耐えきれずにプラズマの火花を散らして弾け飛び、むき出しになったシールド発生器やエンジンノズルへと、待機していたXウイング部隊がプロトン魚雷を正確に叩き込んでいく。
帝国が誇る統率された大艦隊は、帝国軍としての最適解を出し続けながらも、アクバーの柔軟な教義とトゥークの緻密な演算、そして圧倒的な航空戦力の前に、確実にその分厚い装甲を削り取られていた。
「敵艦隊、陣形崩壊しました! 」
「よろしい。各艦は現在位置にて防衛線を維持。地表への降下ルートを確保しろ──第501大隊に準備完了と連絡」
「ハッ!」
「我が艦隊の任務は敵の殲滅ではない。あの馬鹿げた強襲作戦を請け負った連中が、仕事を終えて帰ってくるまでの『道』を確保することだ。……頼んだぞ、ソロ大佐」
体勢を迅速に立て直した帝国艦隊を見ながら、連邦の名将は呟いた。
宇宙での艦隊戦が白熱する中、その弾幕の網目を縫うようにしてイードゥーの厚い大気圏へと突入していく一団があった。
帝国軍のターゲティング・コンピュータが計算不能に陥るほどの狂った軌道で先頭を飛ぶ銀色の円盤──魔改造されたYT-1300貨物船、ミレニアム・ファルコン号と、それに続く連邦軍の強襲揚陸艇の編隊である。
「チューイ、偏向シールドを前方に回せ! 対空砲火の中を強行突破するぞ! L5、システムしっかり見てろ!」
ファルコンのコックピットで操縦桿を握り倒すのは、連邦軍大佐の階級章をだらしなく着崩したハン・ソロだ。
僅か三年で大佐になるほどの功績を上げた彼は、その功績通りの活躍をする。
猛烈な対空砲火が機体をかすめ、シールドと装甲が悲鳴を上げる中、ファルコンと揚陸艇は施設のメインプラットフォームへと墜落に近い強行着陸を敢行した。
着陸ハッチが開き、イオンと雨が入り混じる戦場に真っ先に飛び出したのは、青色に染められた重装甲のトルーパーたち──連邦最強の部隊第501大隊である。
「501大隊、展開しろ! 帝国軍の白いのを蹴散らせ!」
ブラスター・ピストルを抜き放ちながら、同じく青い装甲服のハンが部隊に怒声で指示を飛ばす。隣では特注の青い装甲服を着たチューバッカがボウキャスターを咆哮と共に唸らせ、帝国軍のストームトルーパーたちを次々と吹き飛ばしていく。
同じ規格で作られた装甲服同士が、青と白に分かれて至近距離でブラスターを撃ち合う凄惨な戦い。だが、狂気的な教練と実戦をくぐり抜け改良された装備を持つ501大隊の精鋭たちは、帝国の標準的な防衛部隊を圧倒的な練度で押し込んでいく。
「レックスの爺さんやベイダーのおっさんにドヤされる前に、アーソ博士を引っ張り出すぞ! 施設深部へ突入だ! L5はファルコンをメンテナンスしとけ!」
「ピロロロ! (了解しました! キャプテン!)」
ターキン艦隊から逃げていた時のR2−D2の活躍にアストロメク・ドロイドに対する評価を変えたハンが、所有アストロメク・ドロイドに指示しながら、メインゲートを指差して号令をかけた、その時だった。
ズシン……! ズシン……ッ!
大地を揺るがす絶望的な重低音が響き渡った。
硝煙と降りしきる雨の向こうから、巨大な四脚の鋼鉄獣──帝国軍が誇る全地形対応装甲トランスポートAT-ATが四両、そびえ立つように姿を現したのだ。
「おいおい、聞いてねぇぞ! あんなバカでかい装甲にブラスターが通じるかよ!」
ハンは即座に状況を判断し、通信機に向かって怒鳴った。
「501大隊、退避しろ! 防壁の陰まで下がって航空支援部隊の援護を待て! 無駄死にはするな!」
部下の命を最優先した、的確な戦術的後退の指示。だが、退避行動に移ろうとした連邦兵たちを嘲笑うかのように、AT-ATの顎部に搭載された重レーザー砲が火を吹き、盾にしようとしていた防壁を紙屑のように吹き飛ばしていく。
幸い死者は居ないが、その圧倒的な火力と質量を前に、さしもの501大隊も完全に釘付けにされてしまう。
巨大な四脚が青い装甲のトルーパーたちを踏み潰そうと持ち上がった、まさにその瞬間。
バロロロロォォォンッ!!
上空の分厚い雷雲を切り裂き、大型ヘリコプターにも似た独特のエンジン音が戦場に轟いた。
ファルコン号と共に大気圏を突破し、上空で降下の機を窺っていたハンの直属航空部隊だ。
かつてクローン戦争で戦場を駆け巡った共和国の象徴たる強襲用空中砲艦の設計をベースに、連邦が独自の最新技術で装甲と火力を極限まで高め、完全新造した連邦式リパブリック・アタック・ガンシップの編隊である。
『こちら航空支援中隊! ソロ大佐、お待たせしました! 退避ご苦労様ですってな。デカブツの相手は我々が引き受ける! いけ!』
通信機から響く頼もしい部下にしてアカデミー時代の同期であるヴァレンの声と共に、ガンシップの両サイドに設けられた球形レーザー・タレットが猛烈な緑の閃光を放った。
帝国の巨大歩行兵器と、連邦の空中砲艦。地上と空の重装甲兵器が、地上で真っ向から激突する。
AT-ATの重レーザーが雨雲を焼き焦がしながら対空砲火の網を張る。一撃でも直撃すれば致命傷となる凶悪な弾幕に対し、青いガンシップ部隊は偏向シールドを限界まで軋ませながら見事くぐり抜けた。地上からの極太の光条と空からの緑のレーザーが幾重にも交錯し、分厚い装甲同士が火花を散らす凄まじい激戦となった。
『怯むな! 懐に飛び込んで足を狙え!』
急降下ですれ違いざま、至近距離からガンシップの背部ランチャーが火を噴く。無数の対装甲ミサイルがAT-ATの首の付け根と前脚の関節部に次々と着弾し、凄まじい爆炎と衝撃波を巻き起こした。
「ヒューッ! 最高だぜ! さすがヴァレンたちだ!」
集中砲火を浴びた巨大な鋼鉄獣がバランスを崩し、ガクンとその巨体を傾かせる。その千載一遇の隙を、ハン・ソロが見逃すはずがなかった。
「野郎ども、空からの援護が稼いでくれた隙に突っ込むぞ! 施設深部へ急げ! ヴォスのおっさんは、今、たった一人で帝国の警備隊のど真ん中に突っ込んじまってるんだ!」
ハンはブラスターを撃ち鳴らしながら、チューバッカや青いトルーパーたちと共に、激しい爆発と炎に包まれるAT-ATの足元を駆け抜け、施設深部の冷たい金属の通路へと一気に突入していった。