ちょっとルークが家出した話   作:サリエリキキ

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ベイル・オーガナの決断

「……信じられん。我々は、ナビコンピュターの座標指定を間違えたのではないか?」

 

 オルデランの代表であり、帝国元老院議員であるベイル・オーガナは、目の前に広がる光景に唖然としていた。

 彼の乗る外交船が降り立ったのは、アウター・リムに位置する過酷な鉱山惑星。シスの暗黒卿、ダース・ベイダーの直轄領として一年前に組み込まれた星である。

 

 オーガナがこの星を視察に訪れた理由は一つ。

「ベイダーの苛烈な支配に苦しむ人々を秘密裏に支援し、将来の反乱軍の協力者として取り込むため」であった。

 暴政のあるところに、反乱の種は芽吹く。皇帝の忠実な猟犬であり、恐怖の象徴であるベイダーが直接統治する星など、地獄以外の何物でもないはずだった。

 過労で倒れる奴隷たち、横暴に振る舞う帝国軍、搾取され荒廃したスラム。それらを確認し、同情と支援の手を差し伸べる──そのはずだったのだが。

 

「オーガナ議員、座標は正確です。間違いなく、ここはダース・ベイダー卿の直轄領です」

 

 傍らに立つ秘書も、戸惑いを隠せない声で答える。

 

 宇宙港は塵一つなく清掃され、整備区画では真新しい作業服を着た者たちが、最新鋭の機材を使って活気よく働いていた。

 彼らの首や腕に、かつてあったはずの奴隷の認識票はない。

 街角に立つストームトルーパーたちは、市民を威圧するどころか、迷子に道案内をし、重い荷物を運ぶ老人の手伝いすらしている。治安は極めて良好であり、スリや強盗はおろか、アウター・リムにはびこるハット・カルテルの密輸業者の影すら一切ない。

 自分の目がおかしくなってなければストームトルーパーにはエイリアンすらいる! 

 

「……あの、すみません。元老院から視察に来られた方々ですね?」

 

 声に振り返ると、データパッドを持った身なりの良い地元の青年が、礼儀正しく一礼した。

 

「ああ、そうだ。君は?」

「私はこのブロックの技術主任を任されております。ようこそおいでくださいました。ベイダー卿の統治下に入ってから元老院の方が来られるのは初めてですので。

 どうぞ、スピーダーまでご案内します」

「ありがとう。凄い活気だね」

「いや、漸く、中央もここの良い統治を認めたか。と、皆、喜んでおります」

「ベイダー卿の……統治が、良い統治だ、と?」

「ええ! もちろんです!」

 

 青年は満面の笑みで頷いた。

 

「一年前、ベイダー卿は自らこの星に降り立たれ、旧態依然とした奴隷制度を即日廃止されました。我々を不当に扱っていた悪徳監督官たちは、文字通り首を物理的に絞め上げられて一掃されまして。その後、我々は正式な帝国技術労働者として雇用されたのです」

「雇用。奴隷ではなく?」

「はい。基礎教育プログラムが無料で提供され、技術を身につければ正当な報酬が支払われます。おかげで生産効率は以前の三百パーセント増しです! 選挙権などの人権も認められましたし!」

「選挙権? 選挙が、議会があるのかねここは?」

「勿論です。効率的な統治には必須だとベイダー卿が認めてくださり、人種関係なく選挙権も被選挙権もあります」

「人種関係……なく」

「勿論です。人種関係なくありとあらゆる人権が保障されています」

「そう、か」

「ベイダー卿は、我々の働きを正当に評価してくださりこちらの意見にも議会を通して耳を貸してくださる、厳しくも素晴らしいお方です。帝国万歳! 

 あ、スピーダーは此方です。では、お気をつけて」

 

 青年が去った後、オーガナは目眩を覚えてその場に崩れ落ちそうになった。

 

「議員!」

「大丈夫だ」

 

 オーガナは額に滲んだ冷や汗を拭った。

 恐怖による支配ならば、いずれ人々は立ち上がる。だが、これはなんだ。

 

 圧倒的な武力と権力を持つ者が、その力を「汚職の排除」「奴隷の解放」「教育の徹底」「正当な評価と報酬」「公正な税制度と裁判」「意見を言える議会」という、真っ当な統治に振り向けているのだ。

 しかも、ジェダイのような及び腰の対話ではない。反対する既得権益層を圧倒的な暴力で物理的に粉砕し、強引に善政を敷いている。

 

 民衆はそれに熱狂し、帝国に──ダース・ベイダーに忠誠を誓い始めている。

 

(こんな星で、誰が反乱など起こすというのだっ!)

 

 ダース・ベイダーが暴君であるという前提で組み立てていたオーガナの秘密裏の戦略は、根底から崩れ去ろうとしていた。

 

 が、彼はベイル・オーガナである故に、速やかに思考を切り替えた。

 

 圧倒的な武力と、それを正当な統治に用いる意志を持つ存在が居る。

 もしこのシスの暗黒卿が、皇帝パルパティーンの恐怖政治に見切りをつけ、独自の理想郷を築こうとしているのだとしたら? 

 オーガナの脳内に、あまりにも危険で、しかし魅力的な考えが閃いた。

 

(ダース・ベイダーを、我々の同志として引き込めるのではないか?)

 

 もちろん、彼がかつてジェダイを狩った恐るべき怪物であることは知っている。いや、そんな存在では済まないと知ってる。

 だが、反乱軍には決定的に「力」が足りない。もし帝国有数の実力者たる彼を反皇帝派として巻き込むことができれば、無駄な血を流さずに銀河を救えるかもしれない。

 何よりも、ここ数年で痛感したようにかつてのジェダイオーダーはあまり好かれていない。

 今も生き延びて人々と過ごす元ジェダイとは違い、あまりにも俗世離れしすぎて敬遠されている。

 今のダース・ベイダーの統治のようにジェダイオーダーが民衆を顧みていたらあんな悲惨な結末はなかったし、パルパティーンも暗躍できなかった。

 それが、政治家ベイル・オーガナのかつてのジェダイオーダーへの率直な評価だ。

 

 

 

 

 数日後。オーガナは自らの身の危険を承知の上で、視察の総括という名目でベイダーへの面会を申し入れた。

 

「──わざわざ元老院議員が、辺境の鉱山惑星の視察とはご苦労なことだ」

 

 総督府の執務室。

 シュー、コーという機械的な呼吸音とともに、漆黒の巨漢がオーガナを見下ろしていた。

 相対するだけで、その威圧感に全身の細胞が悲鳴を上げる。だが、オーガナは百戦錬磨の政治家としての仮面を被り、優雅に一礼した。

 

「ベイダー卿。この星の素晴らしい変革に、深く感銘を受けました。非効率な奴隷制を廃し、教育と正当な報酬によって民を導くどころか彼らに人権を認め議会まで認めている。……これは、現在の元老院や中央の星々が見失っている、真に『理にかなった』統治です」

 

 探りを入れるようなオーガナの言葉に、ベイダーは微動だにしない。

 マスクの奥の感情は一切読めなかった。

 周りにいる補佐官──なんと! 帝国では二等民扱いされているエイリアンが半分はいる! ──は、誇らしげに頷いているが。

 正直なところ、ここ数日の視察により、この執務室に来るまでの活気と誇りに満ちた人々と議会と今もベイダー卿の前に積まれている大量の書類の存在にオーガナはダース・ベイダーに対してキスしたいくらいに好感度が高まっていた。

 

「奴隷制は、才能の浪費だ。帝国の利益を損なう無駄なシステムにすぎん。私はそれを排除したまでだ」

「ええ、その通りです──エイリアン排除もですな」

 

 オーガナは一歩踏み込んだ。

 

「そのとおりだ。エイリアンを劣等扱いする意味はない。辺境は生きるだけで精一杯だ。エイリアン差別などという『悪趣味』を行う余裕などない」

「まったくですな──議会を何故認められたのですかな?」

 

 オーガナはベイダー卿を抱きしめたいという思いを込めながら二歩踏み込んだ。

 

「私は良くも悪くも軍人的価値観しか持っていない。武断的にものを進めるのではない。武断的にしかものを進められん。多数の意見を集める議会が無ければ非効率極まりない統治しか出来んから認めたまでだ。議会は手段であり道具だ。絶対的にした場合は腐敗するが、民衆の道具として役に立つ」

 

 オーガナは自分のハートが鷲掴みにされたのを感じながら三歩目にして決定的に踏み込んだ。

 

「ですが、皇帝陛下や現在の帝国上層部は、恐怖による武断的な支配こそが最善であると信じておいでです。もし、貴方がこの『効率的な統治』を銀河全体に広げようとお考えであれば……我々元老院の一部には、貴方を全面的に支持し、静かに協力できる者たちがおります」

 

 明確な反逆の誘いだった。

「皇帝に代わって銀河を統治する気があるなら、反皇帝派はお前に味方するぞ」。政治家特有の遠回しな言い回しを極力排除した率直な誘いである。

 

 部屋の空気が、急激に冷え込んだ。

 見えない巨大な圧力がオーガナの全身を包み込む。フォースによる思考の探りだ。

 

(レイアのことだけは……絶対に悟られてはならない!)

 

 オーガナは必死に精神の防壁を築いた。

 最愛の養女であり、目の前にいる男の実の娘。彼女の存在がバレれば、すべてが終わる。反乱の希望も、オーガナの家族も、すべてがこの暗黒卿に奪われる。

 ……正直、目の前の男はどう見てもアナキン・スカイウォーカーに戻っているから、レイアのこと話しても良いんじゃないか。とは思うが、そんな賭けに出るには失うものが多すぎるのだ。

 額から冷や汗が流れ落ちる。心臓が早鐘を打ち、恐怖で足が震えそうになるのを、長年培った気力だけで押さえ込んだ。

 

 やがて、不意に圧力がフッと消え去った。

 

「……ふむ」

 

 ベイダーは低く唸った。

 

「オーガナ議員。貴様の言葉、記憶に留めておこう。……実は今、私が個人的に進めている『計画』があってな。元老院の政治的な根回しや、安全な環境の手配が必要になるかもしれん。その時は、貴様の力を借りることもあるだろう」

 

(……!! 乗ってきた!!)

 

 オーガナは内心で快哉を叫んだ。

 ベイダーは皇帝への反逆を企てている。そして、その計画のために政治家である自分の影響力を必要としているのだ。

 恐ろしい男だが、話は通じる。レイアの秘密さえ守り抜けば、彼は最強のカードになる! 

 

「……光栄です、ベイダー卿。貴方の『計画』が実を結ぶよう、このベイル・オーガナ、粉骨砕身の覚悟でご協力させていただきます」

 

 深々と頭を下げるオーガナ。

 

 その直後だった。

 執務室の隅で控えていた補佐官たちが、弾かれたように顔を見合わせ、データパッドを操作しながら声を潜めて囁き交わし始めた。

 

「(……聞いたか。ついに中央のパイプができたぞ)」

「(ああ。これで皇帝の宗教じみた無茶苦茶な要求からおさらばできる。デス・スターだか何だか知らんが、あんな巨大兵器に莫大な税を吸い上げられるのはもう御免だ)」

「(卿の名を看板に据えれば、この星区の関税を我々で自主管理できるな。元老院に働きかけてエイリアン排斥法案も正式に破棄して、労働力を他星系から確保しよう)」

「(皇帝のオカルト趣味に振り回されるのはもううんざりだ。我々はただ、自分たちの故郷を安全かつ豊かにしたいだけのに)」

「(ヴェイダー卿の艦隊は惑星間の治安維持もして頂けてる。安全な航路を中央に繋げればさらに化けるぞ)」

「(流通さえ整備すれば辺境は豊かになれる。これからだ)」

 

(大したものだ)

 

 此方に聴こえるように話すあまりにも生々しく現実的な密談に、オーガナは内心で感心した。

 普通なら即座に処刑されてもおかしくない不敬発言だが、ベイダーは咎める様子すらない。いや、黙認している。自由な討論を認めているのだ

 この星の官僚たちは、決してダース・ベイダーに技師のような狂信的な忠誠を誓っているわけではない。彼らは「皇帝のオカルトじみた恐怖政治」よりも「ベイダーの理にかなった実務的な統治」を天秤にかけて後者を選んだのだ。

 

(だからこそありがたい。対話ができる)

 

 ダース・ベイダーの支配地として皇帝に投げられた地は銀河の一割に及ぶ。

 その地域にエイリアンを差別せず治安を維持する現実的な政府と軍隊が存在して育まれているというのはありがたい。

 

「実に、実に良い話し合いでしたなベイダー卿」

「全くだな。オーガナ議員……次は実務者協議をしたい。辺境とオルデランに航路を繋げられる。この一点に我々は利害を一致できるだろう」

「全くですな」

 

 固い握手を交わし、オーガナは表面上の平静を保ちながら執務室を後にした。彼の背中は、これから始まる「皇帝打倒のための極秘同盟」への緊張と興奮で僅かに震えていた。

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