ちょっとルークが家出した話   作:サリエリキキ

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アウター・リム連邦独立

 ハンたちが見事に撤退したのと同時刻──。

 アウター・リム最大の金融・経済拠点にして、帝国国営となったインターギャラクティック銀行グループの本拠地ムーニリンスト。

 完璧な根回しにより、一発のブラスターすら撃ち合われることなく、すべてのインフラと莫大な資産を無傷で保ったまま瞬時に連邦へと寝返った星のうちの一つである。

 地表を覆う大理石と黄金の高層ビル群が優雅な曲線を描くこの美しい都市惑星は、今や帝国の搾取から解放され、熱狂と歓喜の渦に包まれていた。

 首都ハルナイダンの巨大な中央広場。

 全銀河のホロネット回線がジャックされ、その映像が帝国中央を含むあらゆる星系へと強制的に配信される中、バルコニーの演壇に一人の女性が進み出た。

 帝国の現役元老院議員であり、今日からはアウター・リム連邦議会の議長となったモン・モスマである。

 

『──全銀河の、恐怖に怯え、今日を生きる希望を奪われている市民たちへ』

 

 彼女の凛とした声が、黄金の都市に、そして銀河中に響き渡る。

 

『我々は過去十七年間、銀河帝国の名の下に行われた非道なる大虐殺と、果てなき搾取に耐えてきました。彼らは平和を騙りながら、その実、暴力と恐怖で我々の自由と生活を縛り付けました。ですが、我々はもう沈黙しません。多様なる種族、多様なる文化が手を取り合い、自らの命と尊厳を守るための新たな盾をここに築きあげます』

 

 連邦代表であるダース・ベイダーの姿が無いことを、微塵も不自然に思わせない圧倒的なカリスマをもって、モン・モスマの声が響き渡る。

 

『我々はここに、銀河帝国からの完全なる独立を宣言します。我々は皇帝の駒ではありません。恐怖の奴隷でもありません。我々は、自由と共存を掲げる新たな星々の連合──アウター・リム連邦です!』

 

 その瞬間、ムーニリンストの空をXウイングの編隊が祝砲の代わりに美しい軌道を描いて飛び去っていく。

 広場を埋め尽くした無数のエイリアンや人間たちが種族の壁を越えて抱き合い、鼓膜が破れんばかりの歓声を上げた。

 演壇の少し後ろの暗がりで、連邦軍参謀長トニスは、自身の故郷であるムーニリンストの歓騒を万感の思いで見下ろしていた。

 

(……見事です、ベイダー卿。そしてモスマ議長)

 

 ムーン人である彼にとって、皇帝によって不当に国有化され、吸い上げられていた故郷とその資産を取り戻すことは悲願だった。

 戦火によって美しい都市やデータバンクを焼失させることなく、これほど完璧に無傷のまま奪い返すなど、通常の軍事侵攻では絶対に不可能な芸当である。が、出来た。

 ベイダーの今までの善政とカリスマと、モスマの政治力が結実し、彼らは帝国と戦えるだけの経済を手に入れたのだ。

 

「これで、連邦の金庫は磐石となりました。あとは、勝つだけです。よろしくお願いします」

 

 遥か彼方の宇宙を見るトニスの呟きには、決戦の色が滲んでいた。

 

 

 

 

 

 時を同じくして、帝国中央・コルサント。

 豪奢な大総督の執務室でホロネットの独立宣言を見ていたターキンは、手にしたワイングラスを、自身の血が滲むほど強く握り潰した。

 

「ムーニリンスト、だと……っ!?」

 

 パリンッ、という鋭い音と共に高級な赤いワインが絨毯を汚していくが、ターキンはそれに気づく余裕すらなかった。彼の顔面は、これまで見たこともないほど蒼白に染まり切っていた。

 周囲の将校たちが「たかが辺境の星の寝返りではありませんか」と楽観的な言葉をかけようとするのを、ターキンは血走った目で一喝した。

 

「奴らが何を奪ったか分からんのか! ムーニリンストはアウター・リムの経済の心臓だ! 旧銀行グループの莫大な隠し資産と、独自のクレジット発行権、そして無数のペーパーカンパニーのネットワーク!」

 

 ターキンは痛む手でコンソールに拳を叩きつけ、血を吐くように叫んだ。

 

「武力侵攻で制圧されたのならまだいい! だが奴らは、一発のブラスターすら撃ち合うことなく、通信インフラも、銀行のデータバンクも、そして莫大な資産も、すべてを無傷のまま一瞬にして丸ごと手に入れおったのだぞ!」

 

 冷徹な軍人であり、有能な政治家でもあるターキンは、このムーニリンストを首都にして独立の持つ真の絶望を一瞬で理解してしまった。

 ダース・ベイダーは、ただの反帝国組織を作ったのではない。

 今までの善政に加えてモスマという現役元老院議員を担ぎ上げて完璧な大義名分を掲げ、アクバーという稀代の用兵家を擁する軍という強靭なる盾を前に置き、その後背にムーニリンストという無限に等しい財布を背負ったのだ。

 大義、武力、そして経済。

 国家を成立させるための絶対的な三本柱を、あの反逆者たちは完璧に揃えきったのである。

 

「奴らは……帝国軍の全軍と、十年単位で正面から殴り合えるだけの国力を、文字通り一夜にして完成させたのだぞ!」

 

 ターキンの胃が、物理的にねじ切れるような激痛を訴えた。

 デス・スターを完成させ、艦隊の大軍拡を行う彼が今、その莫大な建造費用と維持費を一体どこから捻出していると思っているのか。

 帝国の経済はすでに火の車であり、アウター・リムからの搾取なしには成り立たないというのに。その最大の金づるを、そっくりそのまま敵対国家の首都にされたのだ。

 

「……お待ちください、大総督閣下」

 

 重苦しい絶望を破るように、優秀な情報将校の一人が震える指でホロネットの映像を指し示した。

 

「映像の解析を進めていますが……式典のどこにも、ダース・ベイダーとギアル・アクバー大将の姿がありません。モン・カラを始めとする敵侵略軍の何処にもいません! 何よりも式典に居る兵力が少なすぎます!」

 

 その一言に、執務室の空気が物理的に凍りついた。

 新国家の樹立という歴史的かつ最大の式典。本来ならば連邦の武力の象徴としてモスマの隣に並び立ち、その絶対的な権威を銀河に誇示すべき二人の姿が、ムーニリンストのどこにもないのだ。今、敵が続々と侵攻している各地の前線にすら。

 

「……ッ!」

 

 ターキンと、この場にいる者たちの明晰で冷徹な頭脳が、瞬時に最悪の可能性を弾き出した。

 モスマの演説は、銀河の目をムーニリンストに釘付けにするための壮大な囮だ。あの女は自分が討たれても構わないと新たな首都の戦力を手薄にした。

 ベイダーとアクバーの二人が、ただ式典を欠席するはずがない。彼らはこの瞬間に合わせ、既に自ら主力艦隊を率いて動いている。

 どこへ? 決まっている。

 

「今現在、前線に見えていない敵艦隊はどれほどか!?」

「…………我が方のエグゼクター級スーパー・スター・デストロイヤーに匹敵する超大型空母八隻を含めた、大凡五百隻が確認出来ていません! それらは全て機動力に優れた艦艇です!」

「奴らの目標は、ムーニリンストでも、他でもない!」

 

 ターキンは血を吐くような凄まじい声で叫んだ。

 

「標的はここ、コルサントだ! ベイダーは機動艦隊をもって、真っ直ぐにここに来ている!!」

 

 その言葉に、室内にいた全将校の顔から一瞬にして血の気が引いた。

 ベイダーを矛先としたアクバー率いる連邦軍の主力機動艦隊が、今、一個艦隊しかいない帝国の心臓部に直接ワープしてくれば、いかに万を超える戦闘機を含めた重厚な防備があるコルサントといえど陥落は免れない。

 

「恐れている暇などない! 直ちに全艦隊へ第一種戦闘配備を発令しろ!! 半日もせずに来るぞ!!!」

 

 ターキンは己の絶望と恐怖を怒号に変え、即座に大総督としての顔を取り戻した。彼の下に集う有能な将校たちもまた一瞬の硬直から覚め、コンソールを叩き壊すような勢いで向かう。

 

「間近にいるデス・スターを急ぎコルサント周辺宙域へ移動させろ! 最終試験など後回しだ! あの圧倒的な質量と火力をもって、この星の絶対の盾とする!」

「はっ! クレニック長官へ特命を送信! 同時に第四、第七、第九、第十一艦隊へ緊急指令! 現在の任務を全て放棄し、最短航路でコルサントへ集結させます! 彼らなら間に合う!」

「防衛グリッドを最高レベルへ再構築! コルサント宙域のハイパースペース出口を全て封鎖します!」

 

 帝国のエリートたちが、狂気じみた速度で銀河最大の防衛陣形を組み上げていく。

 

(来るなら来い、ベイダー)

 

 ターキンは窓の外、十七年ぶりに非常警戒が鳴り響く帝国の象徴たるコルサントの摩天楼を睨みつけた。




 おかしい。極悪人って言っていいほど悪いことしてるターキンが、どんどん可哀想な人になっていく
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