宇宙空間で熱戦が続く中、コルサント地表の旧ジェダイ・テンプル──現インペリアル・パレスでは、皇帝パルパティーンにとって全く意図しない危機が進行していた。
予知と謀略の頂点に立つシスの暗黒卿。彼はこれまでの十七年間、反乱者たちがいつか己の寝首を掻きに来ることを予期し、幾重もの罠と、最高峰の近衛兵(ロイヤル・ガード)、そして何より己自身の絶大なダークサイドの力をもって待ち構えていた。
かつてメイス・ウィンドウやヨーダがそうしたように。旧共和国の流儀に縛られたジェダイであれば、少数で此処へ来てライトセーバーを手にして挑んでくるはずだ、と。
もっとも、ジェダイなどという過去の遺物はパルパティーンにとっては所詮、余興でしかなかった。彼が真に心待ちにしていたのは、自らの愛弟子(ベイダー)と、その教え子たちの襲来であった。
彼らならば必ず、野心と憎悪を限界まで滾らせてこの玉座へ歩み寄り、自らの手で直接、師たる自分を殺しに来るはずだと確信していたからだ。
正面からの誇り高き一騎討ちか。それとも、完璧で瀟洒な暗殺か。
愛弟子かその教え子は、ついに自分を凌駕し『二人の掟』を更新するのか。それとも、まだ及ばずともシスたる強大な力を見せて愛すべき弟子たる姿を見せてくれるのか。
シディアスは完璧な迎撃の算段を整えた上で、暗黒面の悦びと共に舌舐めずりをしてその至高の瞬間を待ち望んでいたのだ。
だが──今、パルパティーンの頭上に降り注いでいるのは、ライトセーバーの刃などではなかった。
数千発の貫通爆弾と対地ミサイルの雨であった。
(……今見ると、権力を逃がさまいとする豪勢な牢獄じゃな)
エグゼクター級の傘をすり抜けた編隊を指揮しながら、複座機の後部座席で燃え盛るインペリアル・パレスを上空から見下ろすヨーダは深く息を吐いた。
(大都会のド真ん中のこんな所に、「ジェダイ様扱い」で住んでおったとは。これでは我々が駄目になるわけじゃ。あのシスの墓標として、宮殿ごと木っ端微塵になるべきよ)
その瞳に、かつての神聖な寺院が業火に包まれることへの感傷は微塵もない。
アナキン・スカイウォーカーという型破りな男が育てた、ルークたち次世代の若きジェダイたち。彼らのリビングフォースに従い、愛をもって行動し、生き抜く姿を見て、ヨーダの脳はすっかり焼かれていた。
(シディアスが集めたであろうジェダイの古文書やフォースの資料──あんなものは、大いなる意志たるフォースを人間の浅知恵で解釈しようとした傲慢の産物じゃ。無いほうが良い。若者が混乱してしまうか、我らのように道を誤る)
ヨーダは心の底からそう断じていた。
これから新しい銀河を生きていく若者たちには、あんな古臭い上におそらく誤っている教義は絶対に必要のない代物だ。むしろ、未来の足枷にしかならない有害なゴミである。
だから、シスの暗黒卿ごと根こそぎ吹っ飛ばして更地にしてやるのが、年長者たる自分たちの最後の役目だと決意していた。
ライトセーバーの誇り? 旧ジェダイの道? そんなものは、あの老獪なシスを前にしては何の意味もなさないエゴだし、何よりも次代の若者たちにはそんなもの要らん──と、完全に悟り切っていたのだ。
『マスター・ヨーダ。まだパルパティーンは生きてますか?』
『うむ、まだ生きておるわ。しぶとい男じゃ』
前の席で操縦桿を握るパイロットの問いに、ヨーダは短く答える。
『こちら爆撃機大隊。貫通爆弾攻撃を実施します。座標の指示を』
『データを送る。ここじゃ──ああ、ついでに燃えておる西棟の書庫にも追加で五発ほど落としておいてくれるか。燃え残ると後の世の厄介な火種になるんじゃ』
『はっ! 了解しました』
ヨーダは目を閉じ、フォースの視覚を通じ、宮殿の地下にある古代のシスの神殿でひときわ禍々しいオーラを放つ玉座の座標と、旧ジェダイの遺物が眠る区画を掴み、ピンポイントで通信網へと転送した。
アウター・リムの育成所で、フォース・センシティブの子たちを含めた子供達から「何時もニコニコ笑顔の優しくて穏やかで教え上手な素敵なおじいちゃん」と慕われている緑色の元マスターは、一切の躊躇いなく物理的な質量兵器による絨毯爆撃でシスの暗黒卿を容赦なく追い詰めながら、過去の遺物をただのゴミとして処分していく。
一方、もう一機の複座機に同乗していたオビ=ワン・ケノービもまた、旧来のジェダイの戦い方や無駄な誇りなど、とうの昔に捨て去っていた。
後部座席に座る彼の前で機体を操縦しているのは、連邦に合流したマンダロリアンのパイロットである。
眼下では、先ほどアナイアレイターが沈んだ後も、リーパーが大気圏内でホバリングを続け、宮殿の盾として執拗に爆撃を弾き返していた。
『厄介な盾ですね。将軍』
『シールドの位相にわずかな乱れがある。右舷の第三スタビライザーだ。そこにプロトン魚雷を集中させなさい──あと、元将軍だよ』
『了解! 将軍!』
『だから、私は、元将軍だって』
『ふむ。では、ボ=カターン様が触れ回っているように『我が亡き姉であるサティーン・クライズ公爵の夫君』とお呼びしましょうか? 義妹であるボ=カターン様の頼みで我々マンダロリアンを色々手伝っていただいてますし』
『………………………………将軍でいい』
オビ=ワンは後部座席で深く溜息をつき、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
二年前にオビ=ワンが関与した事件でダークセーバーを手にした指導者、ボ=カターン・クライズは現在この空域にはいないが、彼女は都合の良い時(つまりは常時)にオビ=ワンを『姉の旦那(自分の身内)』扱いし、その人脈と能力をしゃぶり尽くしながら、マンダロリアン復興のための厄介事を散々手伝わせていた。
彼女だけではない、極度の人材不足に喘ぐ連邦の最高指導者──は、大恩ある恩師に対して遠慮をしているが、その娘は違った。
アナキンの娘であるレイアもまた、かつて『交渉人(ネゴシエーター)』と謳われたこのジェダイ・マスターの途方もない人脈と政治的交渉力を、一ミリの躊躇いもなく酷使していた。
旧共和国時代から続く太いパイプを活かした裏交渉、閉鎖的なエイリアン種族との折衝、鎖国星系からの物資調達。愛弟子の娘(姪ともいう)から「ケノービ顧問(※無理矢理やらされた)、あなたしか頼れないの」と可憐な笑顔で無茶振りをされている。
そのたびに、有能すぎるがゆえに『それが連邦にとって絶対に必要な事だ』と分かってしまい断れないオビ=ワンは、ここ三年ほど銀河中を奔走して数々の難件を解決する羽目になっている。
つまり──彼は今、かつてあれほど大嫌いだった『政治家』にさせられてしまっていた。
そんな事情を知ってか知らずか、ボ=カターンの部下である目の前のパイロットたちも、指導者の姉が愛したこの高名なジェダイをどこか面白がってからかっている。
──マンダロリアンの公式歴史資料において『サティーン・クライズの夫:オビ=ワン・ケノービ』とはっきりと太字で記録されており、何なら復興し始めたマンダロアに建てられたサティーンの墓碑には『オビ=ワン・ケノービの愛する妻』という一文がきっちりと刻まれていることを、黙っているともいうが──
政治で過労死スレスレの日々を送るオビ=ワンだが、内心ではこの騒がしい日々を割と楽しんではいる。──老体に少々酷すぎないか、とは思いつつも。
掟に縛られ感情を殺して(※十分すぎるほど型破りなジェダイだったが)生きていた、かつての完璧なジェダイ・マスターの時代には決して味わえなかった、温かく泥臭い人生だった。
かつての弟子であるアナキンがもたらした、無茶苦茶で、掟破りで、しかし愛に溢れた未来。それをルーク(甥)たち次世代の若者へ確実に引き継がせるためにこそ、オビ=ワンはこの戦に身を投じているのだ。
──「顧問の居場所はそっち(戦場)じゃなくてこっち(連邦に新規加入したか、するか迷っている星々との交渉)でしょう!?」と慟哭してすがり付く連邦官僚とレイアの涙を、半ば強引に振り切ってまで。
『第三スタビライザーに集中攻撃。……仕留めます』
『頼むよ。そこに撃ち込めば人工海に落ちるから被害はマシだ。……さっきは優秀な帝国軍人たちのおかげで、パレスに落とし損ねて出さなくていい被害を出してしまった』
オビ=ワンの経験とフォースによる観察による誘導により、連邦の爆撃機群がリーパーの構造的弱点へと一斉にプロトン魚雷と対地爆弾を叩き込む。
防御の要であったスタビライザーを砕かれた十九キロメートルの巨体が、断末魔の連鎖爆発を起こし、ゆっくりとコルサントの地表の人工海へと沈み始めた。
巨大な傘が崩落し、宮殿の防空網はついに完全に丸裸にされた。もう、皇帝への道を──物理的破壊の雨を遮るものは何一つない。