連邦の航空部隊は、丸裸になった宮殿へ上空から度重なる爆撃とミサイルの雨を降らせ続ける。
彼らの狙いは、逃げ道をふさいだうえで建造物そのものを完全に吹き飛ばして皇帝を数万トンの瓦礫で圧殺するか爆撃で蒸発させることだった。
「──おお、崩れる、崩れるぞ」
インペリアル・パレスの最深部。凄まじい地響きと共に天井がひび割れ、深紅の装束に身を包んだロイヤル・ガードたちが取り乱す中、皇帝パルパティーン──ダース・シディアスは、逃げ惑うこともなく、ただ歓喜に満ちた声を上げていた。
逃げ道も無く自身の命が完全に詰んでいるという、予知にもなかった致命的な危機的状況。
それをもたらしたのは、ただ物理的な質量で自分をすり潰そうとするジェダイたちの徹底した合理主義。
「素晴らしい! ついにあの忌々しいジェダイの偽善を捨て去り、純粋なる暴力と合理の力を理解したか、ヨーダよ!!」
瓦礫が降り注ぐ中を笑う皇帝の口から出たのは、恨み言ではなくまさかの高評価であった。
話し合いや誇りを捨て、敵を殺すための最善かつ無慈悲な手段を躊躇なく選択する。それはまさにシスが信奉する力そのものではないか!
今ならば心底、あの緑のエイリアンを『友』と呼ぼう。この手で抱きしめながらシスの教義を語り合おう。きっと分かり合える!!!
歓喜の中、シディアスはフォースを通じて、大総督ターキンと宰相マス・アミダとその部下たちの気配が司令部から遠ざかり、地下ドックのエグゼクターへと逃亡していくのを感じ取った。
ターキンとマス・アミダは、己の命および帝国の存続と、皇帝の命運を天秤にかけ、ただの1秒の躊躇いもなく皇帝を見捨てて帝国を守るという、何処までも俗物的な判断を下したのだ。
だが、シディアスはその事実に気づいても、ただ鼻で嗤うだけだった。
「ふん……俗物どもめ。計算と逃げ足だけは達者なことだ」
凡夫の裏切りなど、シスの暗黒卿にとっては路傍の石ころほどの価値もない。ターキンとマス・アミダが自分を見捨てて逃げようが、帝国がどうなろうが、シディアスにとってはどうでもいい些末な事だった。
彼にとって真に重要なのは、ただ一つ。
帝国でもジェダイでもなく自分の命でもなく──二千年に及ぶ『シスの教義』の絶対性のみ。ジェダイが力というシスの教義に従って自分を殺すのなら、それはシスの完全なる勝利なのだから、歓喜すべきことでしかない。
──だからこそ、今の彼は歓喜に笑いながら絶望していた。
頭上の空を舞う戦闘機の群れから発せられる、三つの強大なフォースの波動。ヨーダ、オビ=ワン・ケノービはいい、編隊を率いて爆撃せんとしている愛弟子に。
認めることすら拒みたくなるその事実を遂に受け入れた瞬間、シディアスの顔から常の余裕が完全に消え失せた。
「………………あり得ん」
玉座の肘掛けを握るシディアスの皺だらけの手が、わなわなと震え始めた。
彼は待っていたのだ。
愛弟子が若者たちを引き連れ、古き掟を打ち破って創り上げた『新たなシス・オーダー』の完成形を見せにくるのを。
極限まで高めた野心と共にこの玉座へ歩み寄り、ライトセーバーを抜いて、銀河の理すら歪めるような誇り高き一騎討ちを挑んでくるか、自らの手で暗殺しに来ると確信していた。
自分は、その至高の瞬間のためにこそ、あえて彼らの勢力を泳がせ、拡大を促してやったというのに!
「裏切りだ」
ああ、そうだ。これは裏切りだ。
弟子が野心をたぎらせ、師を裏切り殺すことはシスの道である。だが、これは違う。シスの道そのものを裏切っている。
帝国への叛逆や独立などというどうでもいいものではない。シスの教義と歴史に対する、明確な冒涜であり裏切りだ。
シスの継承とは、己のダークサイドの力で師を圧倒し、その命を奪うことで完成するのに。
だが、あの男はどうだ。ただ、泥臭い軍隊の火力で遠距離から圧殺しようというのか。
あろうことか、シスが最も憎むべきジェダイ共を引き連れて!
「裏切ったな! 裏切ったなベイダーぁぁぁ! いや、貴様は最初から裏切っていたのだな!!」
それは、誇り高きシスの暗黒卿と、二千年に及ぶその教義に対する、これ以上ない究極の裏切りであった。
ダース・ベインから連綿と受け継がれてきた『二人の掟』。弟子は師の力と知識を貪り尽くし、やがて野心と憎悪を限界まで滾らせ、自らの手で師の心臓を貫き凌駕する。そうしてシスは世代を重ねるごとに強大化していく。その血塗られた神聖な継承の儀式こそが、シスの絶対的な誇りであり、存在意義であった。
シディアスは、銀河の頂点を極めた己に最期が訪れるとすれば、それは愛弟子かその教え子との銀河を戦火で焼き払う戦において宇宙の理すら歪めるような壮絶なフォースの激突によって自分の心臓が貫かれると信じて疑わなかった。
自分が敗れるにしても、それはシスの二千年の歴史において最も美しく、至高の瞬間になるはずだったのだ。
それ以降は組織化されたシスという新たな時代が始まるはずだったのだ。
「なのにっ!? 貴様はっ!?」
だが、現実はどうだ。
あの男は、シスを組織化などしていなかった。
いや、シスとしての野心も、憎悪も、暗黒面への崇拝すらも最初から抱いてはいなかったのだ。
自分が『愛弟子の壮大なシス組織化の実験』だと信じて微笑ましく見守っていたものは、この場に教え子一人連れてこない、ただのフォース使いの育成でしかなかった。
そして今、師を殺すにあたって、わざわざ顔を合わせる手間すら惜しみ、ただ空から無機質な爆弾の雨を降らせている。
そこにシスとしての情念も、師への敬意も、誇りすらない。ただ『邪魔な標的を安全な遠距離から、もっとも効率よく物理的に駆除する』という、無感動で事務的な害虫駆除のごとき軍事的プロセスがあるだけだ。
「貴様はっ!? そこまでっ!? 堕落したのかっ!?」
──見ろ。今のあの男の心を。
師を乗り越えようとする野心はおろか、かつて自分をダークサイドに引きずり込んだことへの憎悪すら、上空にいるあの男にはない。
ヨーダやオビ=ワンの方が、まだ自分に対して敵意や憎しみを持っているほどに微塵もない。
上空にいる裏切り者にとって、銀河の支配者たる自分はもはや乗り越えるべき師ですらなく、ただの処理すべき存在に過ぎないのだ。
あの裏切り者はシスを棄てたのだ。
「そこまで……棄てたというのかッ!?」
この十七年間、己が玉座の間に張り巡らせてきた絶大なダークサイドの罠も、ロイヤル・ガードたちも。そして何より、愛弟子とその教え子が反逆してきた時に語りかけようと何万回も頭の中で反芻していた完璧な台詞すらも。
すべては、顔も見せずに空から鉄屑を落としてくるだけの男を待ち続けていた、滑稽な一人芝居でしかなかったのだ。
──シスの教義の受け継ぎ改革をしてくれるという、老人の切なる希望は踏み躙られたのだ!
「至高の真理を! ただの塵芥と切り捨てるかッ!?」
シスの二千年の歴史。
歴代の暗黒卿たちが血を吐きながら紡いできた、ダークサイドの深淵なる哲学。自分が人生のすべてを賭けて磨き上げた、継承すべきシスの教義。
それらすべてが、あの裏切り者にとってはどうでもいい物であり、鉄屑と火薬の量で吹き飛ばせば済む程度のゴミでしかなかったのだ。
そう、これは──己の人生そのものを、存在の根源を、何よりも大切な教義を。己が最も見込んだ者からの完全なる無関心と徹底的な合理によって路傍の石ころのように無惨に踏み躙られる──凌辱だった。
「裏切ったな! 私を! いや! シスの道そのものを裏切ったなぁ!! アナキン・スカイウォーカー!!!」
自らの全てを凌辱される老人の、オープン回線を通じてコルサントに響き渡る血を吐くような慟哭。
その絶叫には、怒りや悲しみだけでなく愛弟子に対する深い哀惜と絶望が混じっていた。
銀河最強の資質を持つ選ばれし者。幼き頃から目をかけ、自らの手で暗黒に染め上げ、真のシスとして育て上げるはずだった至高の傑作。
彼かその教え子が己を打ち倒し、全てを奪い取る日が来るのなら、それは暗黒面を懸けた究極の死闘によって成されると信じていたのに。
それがどうだ。ライトセーバーの刃を交えることを拒絶するならばまだいい。独力で寝込みを襲いに来るというのなら喜んで受け入れた。
だが、高みから無機質な爆弾をばら撒いて、自分をただの障害物として事務的に処理しようとする、シスの教義ごと焼き払おうとする、この卑劣極まりない裏切りはどうだ。
自分が身を捧げ、歴代の暗黒卿たちが二千年かけて紡いできたシスの歴史を、あの裏切り者は爆薬と鋼鉄とレーザーによって無残に踏みにじり無かったものにしていく。
「何のためのシスだ! 何のための二千年だ! 力とは……フォースの暗黒面とは、このような安い鉄屑ではないッ!!」
崩落する瓦礫の中で、ダース・シディアスは己の信じた世界そのものを凌辱される痛みに身を捩った。
「シスの掟を、ダークサイドの真髄を何だと心得ておる……っ! 貴様は誇り高きシスを、ただの俗に堕としたのだぞ!! 裏切り者め!! 私はずっと貴様に裏切られ続けていたんだっっっ!!!???」
書いていてシスの過激派カルトっぷりに頭痛くなりました