ちょっとルークが家出した話   作:サリエリキキ

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インペリアル・パレスの戦い~スカイウォーカー①~

 その頃。全てを凌辱されたシスの暗黒卿の血を吐くような呪詛と慟哭の絶叫を、通信回線越しにキャッチした連邦軍の攻撃編隊では、困惑と確信のざわめきが広がっていた。

 

『……ベイダー卿? 皇帝が何か叫んでいますが? オープン回線で全軍にダダ漏れです』

『降伏宣言でしょうか? それとも政治的な交渉? 「二千年の掟」とか「ダークサイド」とか訳の分からないことを言ってますが……あとあの英雄の「アナキン・スカイウォーカー」の名も呼んでます。私の出身星を救ってくれた英雄の名を』

『ベイダー卿、皇帝はあなたに向かってそう叫びました。卿……もしかして、いえ、やっぱり、あなたは、死んだはずの英雄、スカイウォーカー将軍なのですね!』

『攻撃を一時停止しますか? もしや何らかの政治的な意図があるのでは……』

 

 通信機越しに飛び交う、連邦パイロットたちの濃密な疑問と、微かな熱を帯びた声。

 相手は恐るべき政治手腕で銀河を獲得し支配した皇帝である。彼らが「何か高度な政治的駆け引き、あるいは恐るべき罠なのではないか」と手を止めるのは、士官として当然の反応だった。

 ──だが同時に、彼らの胸中には、ずっと抱え続けていた確信をここで本人に口にしてもらいたいという、別の思惑も渦巻いていた。

 というのも、現在の連邦内において、ベイダー卿の正体と過去に関する共通認識は次のような形でできあがっていたからだ。

 

 

 

 約一年前の訓練後の休憩室。

 壁に設置されたボードには、連邦内で既に確定事項として扱われているこれまでの推論と時系列が、ベテランパイロットの手によって大文字で書き殴られていた。

 以下、主なものを挙げる。

 

 ・ジェダイ狩りの際に致命傷を負ったスカイウォーカー将軍は、盟友ケノービ将軍に息子を託した。

 ・辛うじて生き延びたが、その代わりに記憶を失った。そして、皇帝に回収されシスの暗黒卿として仕立て上げられた

 ・しかし根が善人のままだったため、武器を持った相手としか戦わないなど武人としての誇りを失っていなかった。そして、息子のルークと再会した時にようやく記憶を取り戻し、同時にシスを辞めて善政を敷き始めた。

 ・記憶喪失状態とはいえ、シスになっていた過去を今も深く後悔しているから、ルークに父親だと明かしていない。

 ・つまり悪いのは皇帝パルパティーンやターキンを始めとする帝国政府である。

 

 並べられた推論と時系列に、休憩室に集まった者たちは一様に同情の溜息を漏らした。

 それを見回してから、ベテランパイロットは声のトーンを一段階下げた。

 

「ケノービ将軍が認められたここまでは確定だな………………で、ルークの母親って誰だったんだろうな?」

 

 マーカーをペン回ししながら呟いたベテランパイロットの言葉に、同じ出撃前の休憩場所にいる者たちが続く。

 

「今とは違って、昔のジェダイって恋愛禁止だったはずですよね?」

「あぁ、ま、あの型破りなスカイウォーカー将軍なら、そんなお堅いルール無視するだろうけどな。俺たちの故郷だって、将軍がルールを無視してくれたお陰で救われたんだ」

 

 少し鼻をすするような声が混じる。

 

「……ああ。ソウ・ゲレラ将軍も言ってたよ。ジェダイ評議会が動かない中、スカイウォーカー将軍だけが評議会説得して支援してくれたって。『小さい俺たちのためのミルクや薬を頂けた。辺境が支援してもらえたのはあれが初めてだった』って、うちの母さん泣いてた」

「いけ好かないお高くとまったジェダイたちと違って、地に足が着いているというか……俺たちが一番欲しいものを分かってくれてたんだよな」

「アウター・リムの貧弱な輸送網を鑑みて、海賊は容赦なく狩るけど、密輸業者は違法物資さえ運ばなければ見逃して、正規の運輸業者として取り込んで物流ルートを太くする。今のベイダー卿のやり方そのままだわ。──全然変わってないのよねえスカイウォーカー将軍」

 

 女性パイロットのしみじみとした声に、部屋の者達が頷く。

 

「で、奥さんの話だが、だれだ? 今のところ本命は、ナブーのアミダラ議員か?」

「帝国成立直後に全員が粛清されたっていう、あの『二千人の嘆願書』の中心人物か。公式記録じゃ、ジェダイの反乱に巻き込まれて亡くなったとされてるが……」

「間違いなく、帝国による暗殺だろ、それ。アウター・リム出身で、異種族の俺たちを差別しないどころか、不当な法案には真っ向から反対してくれた。あんなカリスマと実績のある政治家、どう考えても皇帝の邪魔だ」

「……だから、奥さんが誰かっていう絶好のネタでも、賭けが起きないんだよな」

 

 部屋の隅にいた男がポツリとこぼした言葉に、数人が同意するように苦笑する。

 

「普通なら俺らがこぞって給料を突っ込むギャンブルネタだ。だが、パドメ・アミダラの名前が出ちまったら、茶化せねえよ」

「ああ。あんなに俺たちのための政治をしてくれた本物の政治家なんだからな。しかも、帝国の連中に無惨に殺されたんだ。そんな悲劇を賭けのネタにするほど、俺たちは腐っちゃいない」

 

 デュロス族のベテランパイロットが、毛のない青緑色の長い指先で、ボードの『やはり! 奥さんはかのパドメ・アミダラか!?』という文字をトントンと軽く叩く。大きな赤い目を不気味に、しかしどこか懐かしむように細めながら、彼は言った。

 

「俺、一度だけ前線で視察に来た議員と将軍を見たことあるけど……明らかに空気が違ったぞ。もし他の男があんな熱っぽい目で議員を見つめてたら、将軍にフォースで首を絞められてたね」

 

 誰かの冗談に、部屋の中に微かな笑いが漏れる。だが、その笑いはすぐに真剣な、そして沈痛なトーンへと変わっていった。

 

「言いたくないけど、アミダラ議員は間違いなく暗殺されたんだ。それまでも何度も暗殺未遂があった方だ。帝国成立のドサクサに紛れて、今度こそはと皇帝が腕利きの暗殺者を送ったんだろう」

「やっぱ、ダーク・ジェダイだろうな。それも複数」

「──ねえ、待って」

 

 不意に、トゥイレック族の女性パイロットが弾かれたように立ち上がった。恐ろしい真実に気付いてしまったかのように、その青い肌からスッと血の気が引き、頭部から伸びる二本のレック(頭部突起)がショックで力なく垂れ下がっている。

 

「なら、スカイウォーカー将軍って──自分の子供がお腹にいるアミダラ議員を、皇帝の粛清から護ろうとして死にかけたってことじゃないの?」

 

 その一言に、休憩室にいる全員がハッとした。

 パイロットたちは互いの顔を見合わせ、ボードに書かれた時系列と列記された証拠(状況証拠)を繋ぎ合わせていく。

 

「……そうか。アミダラ議員が嫁で、ルークの母親なら、完全に辻褄が合う」

「ああ、アミダラ議員を逃がすために、将軍はたった一人で暗殺者の群れに立ち向かって致命傷を負ったんだ。そして、駆けつけてくれた盟友のケノービ将軍に後を託した」

「ケノービ将軍は安全な場所でアミダラ議員の出産を助けたけど、彼女はそこで……。だから帝国のジェダイ狩りからスカイウォーカー将軍の血を引く子を隠すために、アミダラ議員の葬儀の時はお腹が大きいように偽装したのね……繋がったわ」

「なんてこった。将軍は愛する妻と子を守るために戦って、死にかけて、記憶を奪われ、機械の体にされてまで、皇帝に利用されてたっていうのか! ──繋がったな………………また、ケノービ将軍に確認しなきゃな。お辛いケノービ将軍には申し訳ないがあの方々は俺たちの恩人なんだ」

 

 自分たちを救った偉大な英雄アナキン・スカイウォーカーとその妻がたどったあまりに悲惨な運命を思い、休憩室に重苦しい沈黙が落ちた。

 

「「「やっぱ悪いのは皇帝だな」」」

 

 ……これが、かつてのアナキン・スカイウォーカーの英雄像と明らかになった様々な証拠から、今、共に編隊を構成しているクローン戦争経験者のパイロットたちが一年前にした憩いの会話である。

 

 

 

 かくのごとく連邦内、特にクローン戦争経験者の中では、市民・兵士を問わずに「ベイダー=アナキン」はほぼ確定扱いされていた。

 彼らがそう確信するだけの、明確な根拠があったからだ。

 威圧的な外見とは裏腹に、ダース・ベイダー自身がターキンのように惑星を焼き払ったり、民族浄化を主導したことはない。

 帝国の暴政を支える存在ではあったが、その任務はジェダイ狩りや反乱軍など武装勢力との戦いに限定されていた。

 気に入らないからと無差別に人々を殺すダーク・ジェダイや、裏社会を支配して銀河を荒らし回るダース・モールとは性質が異なり、ダース・ベイダーは何処までも任務を遂行する軍人でしかなかったのだ。

 こうした軍人としての側面に加えて、特区で理にかなった善政を敷くようになったのだから、『堕ちきっていない高名な元ジェダイ』であることは確定となり、その正体は二人までに絞られていた。

 

 そう、三年前までは、オビ=ワンかアナキンのどちらかがベイダーの正体だろうと噂されていたのだ。

 机上の空論ばかりだった殆どのジェダイと違い、誰も効果的な政策を行えなかったアウター・リムの現状を肌で理解し、地に足の着いた善政を敷けるシス──つまりは、元ジェダイなど最前線で現地の泥に塗れながら兵士や民衆のために奔走してくれたあの二人くらいしか考えられなかったために。

 だが、オビ=ワンが生存して連邦に合流し、ルークを陰から見守っていた事実が判明したことで、噂は一つの結論に収束した。

 勿論このままでは、根も葉もない推測による噂の域を出ない。結論と言っても不確かなものでしかなかった。

 そう、オビ=ワン・ケノービという政治家がジェダイやっていた人物が関わるまでは。

 

 

 

 確認の為に、アナキンとオビ=ワンをクローン戦争のころから知るとある将校が恐る恐るこれらの噂の真偽を尋ねた際、あの伝説のジェダイは、涙を浮かべたひどく悲しげな顔で「彼の心は、今も傷ついているのだ──どうか、察してやってくれ」と暗に肯定したのだ。

 

(真実を馬鹿正直に語るより、この悲劇の英雄譚のままにしておいた方がルークやレイアを初めとする皆のためになる。何よりも大筋は合っている。悪いのは間違いなくパルパティーンなのだから)

 

 そう計算を働かせ動くことで、現在の『美談』の流れを決定づけたのである。このような、政治家嫌いのくせに本質は誰よりも政治家なオビ=ワンの畜生な立ち回りにより、連邦内において噂は確定事項へと押し上げられた。

 なにしろ、オビ=ワンが肯定しているうえで、日頃のベイダーがルークへ向ける態度がどう見ても実の父親のそれなのだから説得力しかない。

 直ぐに当時特区だった現在の連邦中に広がり、「「「やっぱり」」」と誰もが深く頷いた。

 

 正体についてはもはや疑いようもなく、オビ=ワンの肯定以降の兵士や市民たちの間で最大の関心事となっているのは「では、嫁(ルークの母親)は誰だったのか」という一点のみであった。

 そして、こちらも、上記に記している通り、一年前には往時を知る人々によってパドメ・アミダラだろうと見当が付けられていた。

 これに関しても、上記の話し合いのパイロットたちだけでなく、恩人たちはどうなったのかの疑問に耐えられなかった人々がオビ=ワンに真偽を尋ねた。

 その際、本質的に政治家な畜生ジェダイはひどく痛ましげに目を伏せ涙を流し、ただ一言だけこう呟いたのだ。

 

「彼女は、崩れゆく共和国における最後の光だった。彼女を失ったことこそが、彼の心に決定的な致命傷を与えたんだ」

 

 明言こそ避けたものの、それは事実上の肯定に他ならなかった。

 スカイウォーカー将軍にとってアミダラ議員がどれほど特別な存在であったか、そして彼女の死が彼をいかに狂わせたか──その深い哀愁(こればかりは一切の計算がないオビ=ワンの素の悲しみであった。だからこそ、効果抜群だった)を帯びた言葉に、質問した将校たちはそれ以上踏み込むことができなかった。

 言うまでもなく、畜生元ジェダイの狙い通りに、この誰もが共感せずにはいられない美しい悲劇は瞬く間に噂として連邦中へと広まった──ダース・ベイダーがまったく知らないうちに。

 かくて──悲劇の英雄スカイウォーカー夫妻は連邦において生きた物語となった。

 

 ──だからこそ、今。

 オープン回線で響き渡るパルパティーンの慟哭を聞いた最前線のパイロットたちは、高度な政治的駆け引きへの警戒もさることながら、思わず攻撃の手を止めてしまったのだ。

 敬愛する悲劇の英雄の口から、今こそ真実が語られるのではないかと、固唾を飲んで。




 この畜生ジェダイことオビ=ワン・ケノービに相談してれば、エピソード3の悲劇はなかったという公式。
 オビ=ワンはジェダイ<アナキンなので、ジェダイ評議会を敵に回してでもアナキンを助けた。
 だからシディアスはオビ=ワンをコルサントから離したのですが……
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