ちょっとルークが家出した話   作:サリエリキキ

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アソーカ・タノ

 厳重なロックが施されたベイダー卿の私室。

 漆黒の装甲に身を包んだシスの暗黒卿がコンソールを操作すると、青白いホログラムが浮かび上がった。

 そこに映し出されたのは、深い灰色のクロークを羽織ったトグルータの女性──かつてのジェダイ・パダワン、アソーカ・タノであった。

 

『元老院の議員さんたちとの「政治ごっこ」は終わった、マスター?』

「……ああ。彼らはオルデランの総力を挙げて、我々を支援すると言っていた」

『へえ。ずいぶんと気前が良いのね。ベイル・オーガナも相変わらず真面目というか、お人好しというか……。で? こっちの状況は聞かなくていいの?』

 

 アソーカが意地悪く微笑んでホロ・カメラの向きを変えると、そこはどこかの辺境の星──美しい森と遺跡に囲まれた、隠された訓練施設だった。

 映像の奥では、数人の若者たちがライトセーバーの訓練やフォースの修行を行っている。

 一人は、尋常ではない強力な念動力で巨大な岩を空中に浮かべる黒髪の少年。キャッシークで見出されたガレン・マレックだ。

 もう一人は、双剣の訓練用セーバーを操り、俊敏な動きで彼に斬り込んでいる赤毛の少女。孤児から見出された特異なフォースの資質を持つマラ・ジェイドである。

 二人の戦いは激しく、一歩間違えれば命に関わるほどの熱気を帯びていたが、そこにシス特有の憎悪はなかった。刃を交えながらマラが不敵に笑い、ガレンが岩の盾を展開しながら余裕の笑みで応じる。

 彼らは殺し合っているのではなく、互いの技量を高め合う「仲間」として競い合っていた。

 そして──その集団の中心で、一際目を引く動きをしている金髪の少年がいた。

 

『──そこだっ! とりあえず回ってみる!』

 

 少年は訓練用ドロイドのブラスターを、空中で狂ったようなきりもみ回転をしながら回避し、完全に物理法則とジェダイの型を無視した体勢からライトセーバーを振り下ろした。

 ドロイドは綺麗に真っ二つになるが、少年自身も着地に失敗して派手に土煙を上げて転がる。

 

『ルークの調子はどうだ』

『見ての通りよ。ライトセーバーの型も飛行のセンスも、ジェダイの教えを全部すっ飛ばして直感だけで動く。……あの無茶な機動ばかりするクセ、誰かさんにそっくり。完全に血筋ね』

 

 ホログラム越しに「まったく手がかかる」と呆れ顔を見せながらも、どこか嬉しそうなアソーカに、ベイダーは機械的な呼吸音を鳴らしながら無言で頷いた。

 そのマスクの下で、親としての喜びに口元が緩んでいることを、かつての弟子はとうに見抜いている。

 

『彼らには、ジェダイの窮屈な教義も、シスの破滅的な教義も教えていない。ただ「フォースを感じろ」「自分の心に嘘をつくな」って教えてるだけ。……でも、本当に良かったの?』

「何がだ」

『銀河中からこれだけの優秀なフォース・センシティブをかき集めて。これほどの「光」と「闇」が入り混じったフォースの奔流があれば、いずれシディアスの感知するところになるわよ。いえ、もう探知しているかも』

 

 アソーカは声を潜め、真剣な眼差しでベイダーを見つめた。

 ジェダイ狩りを逃れた生き残りたちや、シスの素養を持つ者たちを一つの場所に集め、互いに切磋琢磨させる。そんな異常な空間を、あの疑い深い皇帝が見逃すはずがない。

 

「それで構わん」

『え?』

 

 ベイダーは腕を組み、低く重い声で答えた。

 

「皇帝は常に疑い深い。私が反逆を企てていないか、隙あらば首をすげ替えようと常に監視の目を光らせている。ならば、隠すよりも『見せつける』のが最も効果的だ」

『……どういうこと?』

「『私が皇帝を打倒するため、密かに強力なフォースの使い手たちを育成している』というダミーの真実を、いずれ皇帝に掴ませる」

 

 ベイダーが指差した先には、ダサンが圧倒的なフォース・プッシュで模擬標的を粉砕し、ルークがそれを称賛している姿があった。

 

「あのように分かりやすく強大な力と闘争心を見せつければ、皇帝の目は必ずそちらに向く。彼らが『ベイダーの秘密の刃』であると錯覚するからだ」

『……なるほど。皇帝の目が強力なフォースの候補たちに向いている間は、その中に紛れ込んでいるあの呑気な金髪の少年が、まさか「アナキン・スカイウォーカーの息子」だなんて思いもしない、ってわけね』

 

 アソーカの顔に、納得と、そして深い深い呆れの色が浮かんだ。

 

『木を隠すなら森の中。要するに、死んだと思っていた息子が生きていて舞い上がったのはいいけど、皇帝にバレたら一発で奪われるから、カモフラージュのために銀河中からフォース・センシティブな若者をかき集めて「秘密部隊の訓練です」って言い訳を作ったのね』

「……皇帝の目を欺くための、高度な戦術的欺瞞だ。何よりも叛逆の刃を砥ぐのはシスの伝統でもある」

『はいはい。シスねシス。ジェダイを追い出された私を教官にしてるシスね。

 皇帝が知ったら「ベイダーの奴、ついに私を倒すための刃を育て始めたな。シスらしくてよろしい」って大喜びするでしょうね。まさかその暗殺部隊の真の目的が、自分の息子を過保護に育てるための『隠れ蓑』だなんて、あの老獪なシディアスでも夢にも思わないわ』

 

 シスの暗黒卿の威厳を木端微塵に粉砕するアソーカの鋭いツッコミに、ベイダーは「コー……ホー……」と少しだけバツの悪そうな呼吸音を漏らした。

 

「言葉を慎め、アソーカ。私は真剣だ。それに、ガレンもマラも、いやあの子たち全員が強力な戦力になるのは事実だ。あの子たちには資質がある」

『分かってるわよ。でも、あの子たちを見ていると、本当に不思議な気分になるの』

 

 アソーカは振り返り、泥だらけになって笑い合うルークやガレンたちを見つめた。

 

『ジェダイのような感情の抑圧もない。シスのような憎悪や殺意もない。ただ純粋にフォースを高め合い、仲間として助け合っている。……私たちがクローン戦争の頃に夢見ていた、本当の意味での「フォースのバランス」が、こんな辺境の森の中で育っているなんてね』

 

 その言葉に、ベイダーはかつてのジェダイ聖堂の光景や、自分を縛り付けた掟の数々を思い出し、静かに目を閉じた。

 彼がルークたちに与えたかったのは、まさにそれだった。自分が得られなかった、しがらみのない自由な学びの場。

 

『あ、そろそろ成長期の連中が腹減らして押しかけてくる時間だわ。今日の夕食は私なのよ』

「そうか。……レックスにもよろしく伝えておいてくれ。彼の戦術指導は、若者たちに不可欠だ」

『ええ、あの頑固親父も「ジェダイの坊主どもを教えるのは慣れてる」って張り切ってるわ。じゃあね、マスター。また定期連絡(成長記録)を送るわ』

 

 プツン、とホログラムが切れる。

 後に残されたのは、冷たい機械の身体の中で、密かに温かい親心と師としての誇りを抱くシスの暗黒卿の、静かな呼吸音だけだった。

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