アナキンの内心が分かりにくいので修正しました!
銀河の命運を決する大規模な攻防戦が繰り広げられている、帝都コルサント上空。
最前線のパイロットたちが通信機越しに響くシスの暗黒卿の絶叫に息を呑み、敬愛する将軍の口から悲劇の真実が語られるのを固唾を飲んで待ち構えていた、まさにその時。
既に連邦全体に水面下で広がっていた『悲劇の英雄スカイウォーカー夫妻の物語』は、色々な所に影響を与えていた。
少し前のアングラ誌に「ベイダー卿ことアナキン・スカイウォーカーの妻はナブーのパドメ・アミダラ元女王で確実……か!?」と特大見出しですっぱ抜かれたのは、まだ良い。
最も大きな影響は、今行われている特区非加盟中立惑星ナブー政府に対する連邦加盟交渉である。
「至急、噂の真偽を明かされたい! いや、そもそもそちらのプロトコル・ドロイドはアミダラ議員が所有していたC-3POですよね!? どういうことか説明していただきたい!」
ナブー現女王から身を乗り出して詰め寄られ、モン・モスマに命じられて今現在連邦側の代表として交渉の席に着いているレイア・オーガナは、完璧な鉄面皮の外交官スマイルを貼り付けながらも、内心で凄まじい動揺と驚愕に襲われていた。
無理もない。それなりに忙しい彼女は、今連邦中で持ちきりになっているそのゴシップを、今この瞬間に初めて耳にしたのだから。もっとも、彼女の若く優秀な頭脳を動揺させ驚愕させた理由は、仮面を被った自分たちの代表の妻が発覚したという驚きからではない。
自身が養女だと明かされた時に養父からC-3POとR2-D2を贈られた彼女は、二体が自分の『実の両親の形見』だと理解していたからだ。
つまりは、自分のルーツへと繋がる、その真実。それがこんな、他星系との外交交渉という大舞台のド真ん中で唐突に明かされるとは思いもしなかったのである。
(えっ、待って。C-3POがアミダラ議員のものだったってことは、私の本当のお母様って、あのパドメ・アミダラなの!? で、ナブーの噂だと私のお父様はスカイウォーカー将軍……もしかして、そうだわ! R2はいつもベイダー卿に昔からの知り合いみたいに接してるし、卿も二体を自然に扱って色々改良までしてる! なによりもオビ=ワン! 両親のことははぐらかすくせに、ベイダー卿とは兄弟みたいに接するあのオビ=ワン! そのベイダー卿は私とルークに何時もお父様みたいに接してくれて…………やっぱり、私の本当のお父様って、ベイダー卿なのッ!? でルークはやっぱり兄か弟。ちょっと、お母様のこと今まで黙ってたなんてどういうこと!? ここナブーよ!? 実家があるじゃないの!? 生まれてから一度も行ってない実家が!!?? 今まで知らなかった実家が!!!???)
表面上は「まあ、皆様落ち着いてくださいませ」と気品ある笑みを微塵も崩さないレイアだが、テーブルの下ではドレスの裾を限界まで強く握りしめ、若く優秀な頭脳を完全にオーバーヒートさせていた。
そんな主人の葛藤など露知らず、話題の中心にされた金色のプロトコル・ドロイドは、金属の腕をパタパタと振り回しながら仰々しく声を上げた。
「おやまあ! 私がかつて、あのパドメ・アミダラ議員にお仕えしていたと仰るのですか!? 申し訳ありません、誠に遺憾ながら、私の記憶回路は十七年前に完全に消去(データワイプ)されておりまして、当時の記録は一切合切残っていないのです。ああ、なんという嘆かわしいことでしょう! せっかくの光栄な想い出がぁ!」
悲嘆に暮れるC-3POだったが、『十七年前にデータワイプされた』という事実以外はもはや誰の耳にも入っていなかった。
レイアが事態を飲み込んで整理するよりも早く、その事実を叩き込まれたナブー側は、まじまじとレイアの顔を見ながら一つの真実を確信し始めた。
「十七年前……アミダラ様が亡くなられた年。そして、オーガナ代表の現在の年齢も……十七歳。オーガナ議員の養女になられたのが十七年前」
キャプテン・タイフォが震える声で呟いた。彼の視線は、驚愕していても気品を崩さないレイアの顔立ちを、食い入るように見つめている。
「そのお顔立ち……。気高く穏やかな微笑みも、強靭な意志を秘めた瞳も、アミダラ様に生き写しだ。……そして何より、我々が真偽を確認しようと問い詰めていた、あの噂」
タイフォの言葉に、同席していたナーベたちナブー側の面々がハッと息を呑んだ。
アングラ誌がすっぱ抜いた『アミダラ元女王の夫は、記憶を取り戻した今は善政を行うアナキン・スカイウォーカーことダース・ベイダーではないか』という噂。それが真実であるならば。
所有者の死と記憶喪失と同時に、なぜわざわざ愛用のプロトコル・ドロイドの記憶を完全に消去する必要があったのか。理由はただ一つ。絶対に帝国(皇帝)に知られてはならない、二人の英雄の忘れ形見を隠し通すためだ。
すべての辻褄が完璧に合致した。
その結論に行き着いた瞬間、ナブー側の代表団の間に、もはや外交交渉を続けるだけの冷静さは一ミリも残っていなかった。
「双方の情報の整理が必要と判断し、一時的に外交を打ち切ります。……そしてオーガナ代表。大変不躾を承知で、一つお願いがございます」
「お、お願い、でしょうか?」
「ええ。貴女の遺伝子を、我がナブーの王室医療機関で照合させていただけないでしょうか。もちろん、ご無理にとは申しません。ですが……どうか」
すがるように身を乗り出す女王の瞳には、すでに隠しきれない涙が浮かんでいた。
彼女を始めとして、検査など単なる形式的な最終確認に過ぎないのだと確信しきっているナブーの面々の凄まじい熱量に押され、自身も知りたくて仕方ないレイアは「結果を教えて欲しい」とだけ言ってコクンと頷くことしかできなかった。
「ありがとうございます。オーガナ代表、貴女には、我がナブーの国賓として最上級の客室をご用意させていただきます。どうか、ゆっくりとお寛ぎを」
「あ、はい。ご配慮に感謝いたします……」
見事な鉄面皮スマイルを貼り付けたまま急転直下の展開に内心でパニックに陥っているレイアを、タイフォたちが主の忘れ形見を扱うかのように、仰々しく、かつ恭しく客室へとエスコートしていく。
そこにはもう、他勢力の外交官へ向けるビジネスライクな礼儀などなく、ただ忠臣たちによる主の娘への絶対的な敬愛と忠誠しかなかった。
そして、レイアが丁重に客室へと案内された直後。
「行ってくるわ。アミダラ様のご実家に……ネイベリー家に、この奇跡を知らせなきゃ!!」
元侍女のナーベは、誰の許可を待つこともなく、部屋を飛び出していった。
十七年間、自分と同じく消えることのなかった深い悲しみを抱え続ける遺族のもとへ。かつて銀河を想い、散っていった気高き主の忘れ形見が、こんなにも美しく、立派に育って帰ってきたのだと伝えるために。
はるか後方の外交舞台で、長きにわたる悲劇が感動的な雪解けを迎えようとしていた同時刻──最前線に立つパイロットたちの想いもまた、単なる下世話な好奇心によるものだけではなかった。
周囲の噂もあって彼を父だと確信し、何度も「父さん」と呼びかけそうになるのを、『彼が自ら話してくれるまでは』とかつての両親ことアナキン・スカイウォーカーとパドメ・アミダラを調べるだけで健気に耐え忍んでいる後輩、ルーク・スカイウォーカー。
そんな健気な少年のために、敬愛する上官の真実をここでハッキリと突き止めてやりたいと思うお節介なパイロットは、決して少なくなかったのだ。
──もう対空砲も迎撃機も全部潰したあとだから。
そんな後方での感動劇や、編隊パイロット含めた連邦市民たちのほぼ合っている推測など知る由もない最前線。
『アナキン! 貴様は自分が何をしているのか分かっているのか! 二千年に渡る我らシスの教義を、連綿と受け継がれてきた真理を何だと思っている!』
オープン回線越しには、今もパルパティーンの血を吐くような執着と哀惜の声が響き渡っていた。
『アナキン・スカイウォーカー! ダースを与えた事を踏みにじる! 恩知らずの裏切り者め! シスの偉大さを理解できぬ愚か者めがぁっ!!!???』
悲劇の英雄たる総大将は、自らの名を叫ぶ怨敵に対してどのような反応を見せるのか──。パイロットたちが、誰もが固唾を飲んで通信機に耳を傾ける中。
(……シディアス、貴様は)
編隊の先頭を飛ぶ漆黒のXウイングの中で、アナキン・スカイウォーカーは冷たく重い息を吐き出した。
今日この日だけでも、この男のせいで、数え切れないほどの連邦の兵や民だけではなく、帝国の兵や民が命を散らした。
帝国兵の中には、かつて自分が直接指揮した部下たちもいた。彼らは最後まで帝国のために皇帝のために立派に戦い抜いた。敵に分かれても、悼む気持ちしか湧かない。
だというのに、彼らが命を懸けて守り抜こうとした頂点の男は、シスのカルト教義をわめき散らすことしか頭にない。
(こんな、男に──こんな、男を)
かつては、偉大な政治家と信じていた。それを裏切り、自分から全てを奪ったこの男に対する底知れぬ怒りと憎悪があった──宮殿を目にして声を聞くまでは。
今、カルトを喚き散らす老人の声を前にして、アナキンの内に残ったのは、怒りでも憎しみでもなく──絶対零度の『殺意』だった。
『耳を貸すな。あれは誇大妄想に取り憑かれた老人の、カルト宗教的妄言だ』
編隊の先頭を飛ぶ漆黒のXウイングの中で、アナキン・スカイウォーカーは極めて冷淡に、かつ事務的に言い放った。
『カ、カルト宗教、ですか?』
『そうだ。価値は皆無。一切無視しろ。直ちにプロトン魚雷及び対地爆弾、一斉射撃に入る。パルパティーンを仕留めるぞ』
自身の美化された噂が連邦内で広まっていることなど、多忙すぎて知る由もないアナキンには、もはやパルパティーンに対する一切の感慨も、情けも、怒りも、憎悪も、未練もない。
あるのは──皇帝が始めた戦争で、皇帝を護るために散っていった帝国兵も戦争で燃える星も宇宙も無視して、只々己のカルト(シス)を叫び散らす皇帝を確実な火力で排除するという純粋な殺意のみ。
『『『──イエッサー!!!』』』
総大将の命令に、それどころじゃないと思い出したパイロットたちは皇帝の発言を『命の危機におかしくなった老人のカルト的妄言』として処理した。
シスの二千年の大義も、老人の哀惜も、彼らからすれば知ったことではない。排除すべき敵の総大将が今、目前にいるのが全てだ。
──英雄の真実を聞くのは皇帝を殺した後でいい。
『発射!』
アナキンの号令に従いスイッチが押され放たれた極大の火力が、見事にパルパティーン直上の天井を突き破った。
「く──!?」
直後、パルパティーンの頭上で何十層もの分厚い大理石と鋼鉄の防壁が、紙切れのように吹き飛ぶ。
完全に逃げ道を塞ぐように、数万トンに及ぶ瓦礫の雨と爆撃の暴風が、皇帝の頭上へと直接降り注いだ。
周囲に控えていた真紅のロイヤル・ガードたちが、悲鳴を上げる間もなく無残な肉塊へと変わっていく。
「おおおおおおおおっ!!」
パルパティーンは両手を天に掲げた。
迸る紫電のフォース・ライトニングで迫り来る瓦礫を空中で蒸発させ、同時に念動力の防壁を展開し、防ぎきれない質量と爆風を不可視の盾で受け止める。
生存への執念だけでその身を支え、周囲で事切れたロイヤル・ガードたちの残存生命力すらもダークサイドで強引に吸い上げながら、パレス崩壊のエネルギーを凌ぎ切ろうと足掻く。
その上に、何発もの対地爆弾が叩き込まれる。
「ぐっ……、ガァァッ……!」
パルパティーンの鼻と目から、黒い血がどっと吹き出した。
骨が軋み、細胞が焼き切れる。圧倒的な質量と猛爆撃に押し潰され、両膝を床に激突させながらも、彼は生存本能と執念だけでその身を支えていた。
だが、限界だった。
いかに強大なシスの暗黒卿といえど、絶え間なく降り注ぐ爆撃の雨と数万トンの瓦礫を、たった一人の生身で永久に支え続けることなど、できるはずもなかった。