視界が赤く染まり、ついに念動力の防壁が崩壊しかけた、まさにその時──。
『父さん!!』
瓦礫の山を突き破るように、ありとあらゆるジャミング装置が付けられた一台の漆黒の重装甲シャトルが凄まじい速度で突入してきた。
強力な電波妨害により外部の通信を一切遮断し、ただフォースの繋がり(父の危機)だけを頼りに飛び込んできたシャトルのタラップから飛び降りてきたのは、一人の若者だった。
彼の手から放たれた強烈なフォースの衝撃波が、パルパティーンを押し潰そうとしていた頭上の巨大な鋼鉄の柱を弾き飛ばす。
「……ダサン、か」
血に塗れた視界の中で、パルパティーンは息を呑んだ。
ダサン。自らの遺伝子から造り出されたクローンであり、かつて『情で縛り付けた完璧なスパイ』としてベイダーの元へ送り出した息子。
シスたる者、利用できる感情は親愛であっても最大限に利用する。だからこそシディアスは彼に『真の父親』としての愛をたっぷりと注いで送り出した。
すべては、ベイダーの教育方針を探るか、ベイダーの教え子たちを知るか、あるいはベイダーの教え子たちと殺し合わせダークサイドを高めるか、その為に。
だが。
「父さん、しっかりしてください! 早くシャトルへ!」
ダサンは念動力の防壁を作ると躊躇うことなく爆撃の熱風が吹き荒れる瓦礫の海へ飛び込み、血にまみれた銀河皇帝の体を力強く抱き起こした。
パルパティーンは驚愕していた。自分は彼を道具としてしか見ていなかった。なのに、この若者は、崩壊する宮殿という絶対的な死地に自ら飛び込み、己の命を懸けて自分を救いに来たのだ。
「お前、は……ベイダーの教え子でありながら、この私を……見捨てないというのか……」
「俺はあなたの息子です! あなたをこんな所で死なせはしない!」
ダサンの瞳に宿っていたのは、ただ純粋な、父への愛着。かつてシディアス自身が打算で植え付けたはずの偽りの親愛が、ここにきて本物の絆となって、彼を死地へと走らせたのだ。
かつての愛弟子ベイダーが、シスの教義を捨て去り、純粋な軍人として己を殺しに来たのに対し。
出来損ないの道具として扱っていたはずの息子が、理屈を超えた感情で己を救い出す。
パルパティーンはそのあまりにも数奇で、強烈な運命の皮肉に、血の混じった微かな笑いを漏らした。
自分が身を捧げたシスの教義を出来る限り教えた愛弟子は、合理的な爆撃によって自分と教義をゴミのように捨てた。
だが、自分が意図的に植え付けた親愛が、瓦礫の下から自分を救い出したのだ。あの時、彼を殺さず、上辺の愛を与えてベイダーの元へ送り出した己のシスとしての采配が、回り回って己の命を繋いだのだ。
(素晴らしい。何という強固で、都合の良い鎖か)
全てを凌辱されてから瓦礫に押し潰されかけていた数秒前の絶望は、一瞬にして喜悦へと塗り替わった。
恐怖や打算で縛り上げた部下は、状況が不利になればあっさりと寝返る。ベイダーのような圧倒的な力を持つ者は、自らの論理で牙を剥く。
だが『愛』どうだ。ただ甘い言葉と温もりという幻を与えてやるだけで、自らの命すら躊躇なく投げ出し、崩落する地獄の底まで己を救いに来る。
再確認した。これほど安上がりで、これほど強固な鎖が他にあろうか。
共和国への愛で己を短絡的に襲撃し、逮捕ではなく殺害しようとした。かのメイス・ウィンドゥ*1でさえ抗えぬ強固に縛る鎖。
「……ああ、そうであったな」
血に塗れたパルパティーンの皺だらけの手が、微かに震えながら持ち上がり、自分を抱きかかえる若者の頬にそっと触れた。
その声は、銀河を恐怖で支配したシスの暗黒卿のそれではなかった。敗北の瀬戸際で、弟子に裏切られ、死の淵に立ち、ただただ息子の愛に縋りつくしかない──哀れで、惨めで、ちっぽけな、愛に満ちた『一人の老いた父親』の震える声だった。
シディアスは、己の内に渦巻く喜悦を完璧に押し殺し、その姿を演じきった。
「私としたことが、老いと絶望で目が眩んでいたようだ。救いに来てくれた息子に、あんな言葉を……許してくれ。あんな言葉を。許しておくれ。ダサン。お前は私の、誇り高き息子だ」
「父さん……!」
ダサンの目に、大粒の涙が滲んだ。
それは、父親との愛情を証明するためだけに地獄へ飛び込んできた若者にとって、命を懸けるに値する最高の報酬だった。
ダサンが感極まって己を強く抱きしめるのを感じながら、パルパティーンは内なる歓喜に打ち震えていた。
「許してくれ、ダサン。お前を……遠ざけてしまった、この愚かな父を」
「もう喋らないでください! 早く、ここを離れなければ!」
ダサンは、パルパティーンの体をしっかりと支えながら、シャトルのタラップを駆け上がった。
パルパティーンは、痛みに顔を歪めてダサンの肩に顔を埋める。そう、まるで幼子のようにその背に強く縋り付いてみせた。
「頼むぞ、ダサン……。私にはもう、お前しかいないのだ……」
「はい! 俺が必ず、父さんを守り抜いてみせます!」
ダサンが操縦席に飛び込み、スラスターを最大出力で吹かす。
重装甲シャトルが凄まじい推進力で瓦礫の隙間を縫うように飛び立った直後、インペリアル・パレスの最下層が完全に圧壊した。数千年の歴史を誇った旧ジェダイ・テンプルは、轟音と共に跡形もなく完全に地表から姿を消す。
『──目標建物の完全な崩壊を確認。生体反応ゼロ。……やりました、ベイダー卿。パルパティーンの殺害に成功しました』
連邦軍の通信回路に、パイロットの歓喜の声が響いた、まさにその直後だった。
『瓦礫の中から何か! いや! ジャミングされた漆黒のシャトルが急速浮上! 飛び立ちました! レーダーでは探知出来ません!』
『なんだと!?』
異常事態に、通信回路が凍りつく。
機械では探知出来ない凄まじい速度で大気圏へ向けて離脱していくその機体から、強いフォースと禍々しいフォースの二つの波動が放たれているのを、先頭を飛ぶベイダーは確かに感知した。
『シディアスだ! しぶとい老人め。逃がすな、全機追撃!』
ベイダーの号令と共に、連邦の戦闘機部隊が猛然とシャトルに襲い掛かる。無数のレーザーとプロトン魚雷が、漆黒の機体を逃げ場のない十字砲火で包み込もうとした。
だが──。
ダサンの操縦するシャトルは、連邦の分厚い弾幕を、あり得ない軌道で次々とくぐり抜けていく。姿勢制御スラスターを限界まで酷使し、巨体な重装甲シャトルをまるで羽虫のように踊らせるその技術。
まさにフォースと一体となった機動だった。
『ば、馬鹿な! 重装甲シャトルであんな機動ができるはずが……っ!?』
連邦の精鋭パイロットたちが驚愕し、照準を狂わされる中、シャトルは執拗な追撃を完全に振り切り、大気圏を突破した。
「大気圏を突破しました! ペレオン提督の艦隊に合流します! 持ち堪えてください、父さん!」
眼前に広がるのは、連邦軍三百隻と血みどろの激闘を繰り広げている帝国軍三百隻の艦隊。
シャトルは味方の援護射撃を受けながら、前線で殴り合う全長十九キロの『エグゼクター』の広大なメイン・ハンガーへと滑り込むように着艦した。
プシューッという排気音と共にタラップが降りると、そこにはすでに厳しい顔の高官二人を含めた人々ずらりと待ち構えていた。
高官とは、大総督ターキンと、宰相マス・アミダである。
彼らはつい先ほど、皇帝が崩落に巻き込まれて死ぬと確信し、救出不可能という合理的な理由をもって意図して見捨てていたのだ。
それがよもや、このような単機のシャトルで生還を果たそうとは。
「皇帝陛下! ご無事で何よりでございます!」
流石と言うべきか、声さえ震えないマス・アミダが満面の笑顔で歩み寄り、大げさに安堵の声を上げる。
「我々は陛下をお助けすべく、急ぎ大規模な救援部隊を編成しようとこの艦と共に艦隊に合流した次第で──」
誰の目にも皇帝を心底心配していると思わせる見事な演技であったが、その俗物的な言い訳を遮るように、タラップの影から二つの人影が降りてきた。
煤と血にまみれ、若者の肩に寄りかかりながら歩みを進めるパルパティーンである。
「よい、アミダ。そしてターキンよ」
パルパティーンの声は弱々しく、今にも倒れそうな老人のそれだった。
だが、発せられた言葉の奥底に潜む、絶対的な暗黒面の圧力は、以前よりもさらに禍々しく彼らの首を締め上げた。
「卿らの判断は正しい。帝国の重鎮たる卿らが生き延びていたこと、余は喜ばしく思っているぞ」
その瞬間、ターキンとマス・アミダは息を呑み、背筋にぞっとするような悪寒を覚えた。
激怒する皇帝にフォース・ライトニングで処刑される覚悟すらしていた。だが、皇帝は全く咎めなかった。それどころか喜んでさえいる。
皇帝にとって、自分たちの裏切りなど怒りを向ける価値すらない路傍の石ころ程度でしかなかった。いや危機において自分たちがどうするのか見定められたという事実が、処刑されるよりも遥かに恐ろしく彼らの心を冷ませた。
「陛下」
ターキンが冷や汗を流しながら、老皇帝を支えている見慣れぬ若者を見つめる。
「我々の救援を待たずして、陛下をあの絶対の死地から救い出したその功績者は……何者ですか」
その問いに、パルパティーンは口元に微かな笑みを浮かべ、自身を支える若者の肩を、慈愛に満ちた手つきでポンと叩いた。
「皆に紹介しよう。余の血を分け、余の命を救った、我が誇り高き息子……ダサン・パルパティーンだ」
「む、息子……!?」
高官だけでなくそこにいた者たちの間に、どよめきと衝撃が走る。
あの皇帝に、血の繋がった息子がいた。そしてその息子が、凄まじい技量で連邦の追撃を振り切り、皇帝の命を救ったという。
「今日より、このダサンは帝国の正統なる後継者、皇太子である。卿らも以後は息子を『殿下』と呼び、余に次ぐ忠誠を誓うが良い」
それは、帝国の絶対者による揺るぎない宣言だった。
ターキンとマス・アミダは、密かに見限っていた狂気の老人の後継者を唐突に突きつけられた形になる。彼らは一斉に膝をつき、煤にまみれた若者に向けて深く頭を垂れた。
「……はっ。殿下。帝国軍を代表し、貴方様のご生還とご勇姿に、心よりの敬意を」
帝国軍の頂点に立つ男たちの恭しい拝礼。
それを一身に浴びたダサンは、過呼吸になりそうなほどの極度の緊張と、それ以上の誇らしさに胸を張った。
自分は、父の命を救い、帝国の重鎮たちに皇太子として認められた存在なのだ、と。
もちろん、心に痛みが無いわけではない。連邦で培ったルークたちとの友情や、自分を導いてくれた師たちへ敬意は、今も彼の中に確かにある。彼らを裏切り、敵対することへの罪悪感に胸が引き裂かれそうだった。
だが、この期待と──何より自分を愛してくれる父の想いに応えねば、男ではない。
「父さん……俺……」
「よくやった、息子よ。お前こそが、余の、そして帝国の希望だ」
ダサンに向けられたのは、父親としての誇りに満ちた瞳だった。
巨大戦艦の医療ブロック。すぐに最上級の治療用カプセルが用意され、重傷を負った老皇帝の体が丁重に横たえられた。
周囲では、皇帝の奇跡的な生還を純粋に喜ぶ医療スタッフや将校たちが、安堵の涙を浮かべながら忙しなく動いている。
だが、その輪の外側に立つ大総督ターキンと宰相マス・アミダだけは別だった。
彼らは為政者として、突如として帝国のナンバー2となったこの若者が、果たしてどれ程の器なのかを早急に確かめねばならなかったのだ。
ターキンたちは、意を決してダサンの元へ歩み寄り、艦隊の現状や爾後の作戦及び政策、そして今後の戦略プランを提示した。
勿論のこと、突如として帝国の正統なる後継者(皇太子)に祭り上げられた若者は、現在の複雑な状況や政治的背景など何一つ理解していなかった。
だが、ダサンは知ったかぶりをして威圧するような愚かな真似はしなかった。ベイダーとアソーカの元で実直に訓練を積んできた彼は、有能で、熱心で、勤勉だったのだ。
「ターキン大総督。俺は……いや、私はこれまで特区、今の連邦においての現場の任務しか経験がない。これほど大規模な艦隊運用や行政のロジックには不慣れ……いや、無知なのだ。だから、今から学ばせてもらいたい。素人が下手に口を出しては混乱を招くだけだ。細部の運用や専門的な指揮は、その道の専門家たる貴殿らに一任する」
「……は?」
ターキンは思わず間抜けな声を漏らしそうになった。
権力を持った者が陥りがちな専門外への無用な口出しを一切せず、専門家を尊重し、明確に権限を委譲したのである。これだけでも、任命するだけして放り出した老皇帝とは雲泥の差だった。
ダサンは提示されたホログラムの軍政を真剣な眼差しで覗き込む。
「だが、現場にいたからこそ、根本的な大方針については聞きたいことがある。……ターキン大総督、帝国の軍事ドクトリンについて一つ疑問がある。現行の『恐怖による支配』では、連邦には勝てないのではないか?」
「……と、仰いますと?」
「私は連邦にいたから、連邦の強さ、いや、帝国の弱点を見てきた。巨大な艦艇で弱い星系を威圧し悦に浸るような恐怖政治は、無数の反乱を生み、前線の兵站を無駄に圧迫しているだけだ。実戦的で機動力のある艦隊か、エグゼクター級のような単艦での万能性が優れた数多くの小艦隊へと再編すべきだと思うが……専門家である貴殿はどう見る?」
ターキンの冷徹な仮面に、僅かな驚きが走る。彼自身、強大な連邦を前に自身のドクトリンの陳腐化を悟っていたが、まさか同じ危機感を皇太子が持つとは。
「まさに……殿下のご慧眼、恐れ入ります。直ちに軍務局を動かし、より強靭な軍への再編に着手いたしましょう。こちらがプランになります。許可を」
さっき書き上げたばかりのプランを見せながら、速やかに皇太子を責任者(運命共同体)にしたあたり、流石はターキンだった。
(プランあったのか。それも、俺がこうした方が良いと思っていた事が全部あるプランが。やっぱり上に立つ人は違うな)と感心しながら要約を見て、良く出来てるとダサンはサインする。
かくて、帝国の改善ドクトリンは皇太子のお墨付きを得た。
軍のトップがあっさりと次期体制(彼等的にはそうなった)での主導権を確保したのを見て、宰相マス・アミダもすかさず進み出た。
「殿下、政治および内政面についてはいかがなされますか?」
ダサンはホログラムの内政データへ視線を移す。
「無知な私だが、一点だけ変えて欲しいことがある。良いか」
「……どうぞ」
(やはり、世間知らずの若者か。政治がすぐに変えられると思っている。政治や制度とはゆっくりと徐々に変えるものだ。急激な変革を強行したからこそ、銀河帝国は反発に対して力による圧政を敷かねばならなくなったというのに)
マス・アミダは内心で冷ややかに失望したが、その思いは直後に感嘆へと変わった。
「アミダ宰相。軍事ドクトリンの変更に伴い、内政の基本方針も改めたい。具体的には『エイリアン(非人類)への差別政策』の撤廃だ」
「……差別政策の、撤廃ですか」
「ああ。連邦の強さは、種族を問わず有能な者を登用する合理性にある。対して我が帝国は、人類至上主義を掲げるあまり、優秀な非人類の労働力や頭脳を自ら切り捨て、連邦や反乱分子に塩を送っている状態だ。非効率極まりない」
ダサンは、自身も非人類(チャグリアン)でありながら帝国の頂点に登り詰めた宰相を見据えた。
「内政の専門家である貴殿なら、この差別政策がどれほど帝国の生産性を落とし、無駄な治安維持費を食いつぶしているか、正確な数字を把握しているのではないか?」
マス・アミダは息を呑んだ。
図星だった。非人類である彼の個人的な思いもあるが、彼自身、国力という観点から見ればこの差別政策は明白な国益の損失だと理解していた。だが、それを推進していたのは他ならぬ老皇帝であり、逆らうことは死を意味していたのだ。
「……仰る通りでございます。実は、差別撤廃に伴う税収増加と労働力確保の試算データ、ならびに法改正の草案は既に手元に用意してございます。殿下の承認さえ頂ければ、即座に発布可能です」
非人類の裏切り者と呼ばれた男は、皇帝を恐れながら非人類の待遇改善の機会を伺っていた。そこに、待遇改善どころか、差別撤廃までナンバーツーが踏み込んでくれた。口ではメリットデメリットを語りつつも、非人類差別への嫌悪を抑えきれていない若さと良識を持つナンバーツーが。
その事に胸の奥で熱い歓喜の炎を燃やしながら、速やかに改革──いや、馬鹿げた法案を元に戻すために長年大切に温めていた草案を出した。
そんな老獪な宰相の思惑など露知らず、ダサンは差し出された草案を真剣な目で確認して、頷きサインする。
(やっぱり、上に立つ人は用意周到で違うんだな。良く出来てる。やっぱり、みんな非人類差別なんて嫌だったんだな。当たり前か、文化や生態で区別するのは当然でも此処までの差別は意味がない)
「素晴らしい。すぐに進めてくださ──くれ」
こうして、帝国の悪名高きエイリアン差別法は皇太子により撤廃された。
ターキンとマス・アミダは、密かに視線を交わした。
パルパティーンに死んでもらい扱いやすい無能な傀儡を据えるつもりが、素晴らしい計算外が起きた。この若者に比べれば、今の未曾有の危機において、無能な君主など無価値だ。
この若者にはシスの狂気はない。だが、強いフォースと、合理性と、皇帝には劣るが無駄のない政治的打算と、皇帝にはない良識が備わっており、今も資料を読み続ける勤勉さがある。そして、宗教に耽溺していない。
何より、自分たち専門家の能力を正しく評価し使いこなす器と、皇太子などという職に急に就かされても果たそうとする責任感がある。
見た目もいい。一目で穏やかで優しいと分かる好青年だ。非人類差別法を真っ先に撤廃したことも合わせ、帝国の悪評は直ぐに劇的に好転するだろう。──そして何より、彼と共に新体制で改革する自分たちも「これまでの非道な政策は、すべて皇帝に従わざるを得なかったからだ」と正当化できる。
そんな理想的な人物が、あの『老いた無気力ニートカルト信奉皇帝』の正統な後継者として据えられたのだ。
((ならば、帝国を存続させるために乗るべき船は一つだ))
「殿下、次はこちらの承認を」
マス・アミダが淀みない動作で次々とデータパッドを差し出す。それは、首都コルサントが政府施設ごと火の海に沈んだことに伴う、爾後の緊急政策や政府機能の再編、および首都機能の移転に関する膨大な決裁書類であった。
本来であれば、これほどの国家の根幹に関わる重大な決定は、最高権力者である皇帝シーヴ・パルパティーンの裁可を仰ぐべきものである。
だが、二人は医療ブロックの治療カプセルに入った老皇帝へ伺いを立てる素振りを、微塵も見せなかった。
「首都機能の移転先ですが、一時的にこの『エグゼクター』を仮の玉座とし、追ってコア・ワールドの安全な宙域に臨時政府を樹立いたします。プロパガンダ省にはすでに『野蛮なる連邦のテロリズムによる悲劇』としてコルサントの悲劇を全銀河へ報道させました。各星系の総督への指揮権も、全て殿下の名において発令されます」
「わかった。コルサントの救援含めた政府機能の再構築と、各総督への根回しはアミダ宰相の手腕に任せる。ターキン大総督は、新ドクトリンに基づく艦隊の再編と前線への再配置を急いでくれ。私は前線の戦術しか分からない、全軍の広域な指揮権限の割り振りは貴殿に一任する」
「はっ。全て、殿下のご意志のままに」
ダサンは提示された要約に目を通し、事態の切迫を正しく理解した。父たる皇帝が動けない今、一刻の猶予もない。皇太子になった自分が許可しなければ、数多の人々が絶望に突き落とされる。
理解した彼は素早く、しかし正確に書類を精査し、次々と『皇太子ダサン・パルパティーン』の電子署名を刻んでいく。
それは紛れもなく、帝国の実権が老皇帝から若き皇太子へと、法的実行力を伴って完全に移行していく瞬間であった。
皇帝が重傷を負い、医療カプセルから動けない「今」こそが好機。
ターキンとマス・アミダの腹は完全に決まっていた。老皇帝が目を覚まし、再びあのオカルト的な執着で帝国を振り回す前に、この有能で理知的な次期皇帝のサインをもって、軍事と内政の既成事実を積み上げ、新たな政権の基盤を磐石に固めきってしまうのだ。
シスの教義や暗黒面の力など、彼らには知ったことではない。
彼らが忠誠を誓うのは、己の権力と、それを保証してくれる強大で合理的な帝国のみ。
ターキンとマス・アミダという帝国の二大巨頭は、この未曾有の危機の最中において、老いて宗教に耽溺する『シーヴ・パルパティーン』から、若く勤勉な後継者『ダサン・パルパティーン』へと、迅速に乗り換えたのであった。