息子の愛に救われ、息子に自身の命よりも大切なモノを譲ろうとする父。
なんて、ベタな話なんでしょうか!
(息子よ)
そんな有様を、シーヴ・パルパティーンはフォースを通じて克明に感じ取っていた。
巨大戦艦の医療ブロック。最上級の治療カプセルに身を横たえながら、老皇帝は静かに目を閉じていた。
愛弟子に裏切られ、絶望的な敗走。それに加えてターキンやマス・アミダが自分を見限り、次代へと乗り換えたことすら、彼には手に取るように分かっていた。
そんな、すべてを失ったかのように見える老人の黄金の瞳の奥には、いささかの翳りもなかった。
いや、よりますます煌めきを増していた。
(──これほどまでに強くなったのだな、息子よ)
フォースの視界の先にあるのは、皇太子としてターキンたちと堂々と語り合い、帝国の実権を握りつつあるダサンの頼もしい姿だ。
先ほど、崩壊する宮殿でシーヴ自身が抑えるので精一杯だった巨大な鋼鉄の瓦礫を易々と吹き飛ばした、あの桁外れの念動力。そして連邦の大軍勢をすり抜けてみせた、神業のような操縦技術。突如として帝国の頂点(殿下)に祭り上げられても、一切臆することなく有能な高官たちを使いこなす器。
そう、それはかつてシーヴが焦がれ、手に入れ、そして失った『選ばれし者』──若き日のアナキン・スカイウォーカーを思わせるほどまでに強大で、眩いばかりの力だった。
(おお、息子よ)
出来損ないの紛い物だと見限っていたクローンが、あの裏切り者の教育によってここまで見事に開花したのだ。
しかも、その強大な力は今、『父親への純粋な愛』という絶対に切れない強固な鎖によって、シーヴの手の中に完全に収まっている。オビ=ワンやパドメとの愛に揺れていたアナキンの時とは違って!
(おお、おぉ、息子よぉ……!)
シスの真理から逃げ出し、機械的な合理主義に逃げたあの臆病者(ベイダー)とは違う。裏切った弟子がシスを棄てた結果、その弟子が手塩にかけて育てた真の傑作が、最高の仕上がりで自分の手元に転がり込んできたのだ。
(私の命よりも大切な教義をっ、私の全てを渡すべき息子よぉっ)
感涙してしまった己を、一体誰が責められようか。
(フフフ……ハハハハハッ……!!)
銀河皇帝ダース・シディアスは、かつてのアナキン・スカイウォーカー。いや、それ以上を思わせるほどまでに強くなった息子ダサンを煌めく歓喜の瞳で目に焼き付けながら、心の中で狂おしいほどの高笑いを響かせていた。
シスの暗黒卿に、自己犠牲や見返りを求めない『無償の愛』など微塵もない。
だが、この息子を己の真の後継者として育て上げるという、黒く歪んだ誇りと親の情だけは確かにそこにあった。
(今は『愛』などというくだらない感情で私を守っているが、それこそが最高の苗床。
徹底的に『親の情』を与えてやろう。老いさらばえ、息子にしか頼れない哀れな父親を演じきり、彼を帝国軍の新たな英雄として祭り上げよう。
私が彼を深く愛し、彼もまた私を深く愛し、私が彼にとっての世界のすべてになるまで、甘やかな親愛の鎖で幾重にも縛り上げよう。
そして、彼が私への愛で完全に満たされ、私なしでは生きられないほど依存しきった、まさにその絶頂の瞬間に──すべてを奪ってやろう。
私が彼を道具としか見ていなかった真実を突きつけ、彼が帝国で得た仲間や愛する者を自らの手で破壊させ、彼が慕ったベイダーやかつての友と殺し合わせるのだ。
私への愛が深ければ深いほど、裏切られた時の絶望と憎悪は底知れぬほど深くなる。純粋な愛が極上の憎悪へと反転し、すべての真実に絶望した彼が、私への純粋な殺意で暗黒面に染まりきり──その手で私の心臓を貫く日。
私を殺した愛息子は、最強の偉大なシスになるのだ。それこそが『二人の掟』。それこそが、アナキンが拒絶した、シスの最も美しく誇り高き継承の儀式)
己を裏切った不肖の弟子に対する怒りは、今や歓喜へと反転していた。
(感謝するぞ、アナキン。……おお、感謝する。お前は私に後継者をくれた。息子を、私自身を殺せるに足る最高の『シスの後継者の器』を育て上げてくれた。あの屈辱的な裏切りも、この結末のための産みの苦しみだったと思えば、実に有意義なものであったな。
……何より、この盤面はどうだ)
かつて、真のシスの後継者を鍛え上げるため、銀河を二分する未曾有の総力戦を望み準備した。
今、その舞台は想像を遥かに超える完璧な形で組み上がった。
シスを棄て去り、軍事的な合理性と己の理に従って己を殺しに来た、かつての愛弟子ベイダーが率いる民主国家『連邦』。
(……連邦の愚か者どもが、かつての帝国の処刑人を代表として受け入れたのも道理だ。あの男は前線での戦いでは容赦がなかったが、非人類の奴隷化や種族絶滅といった意図的な大虐殺には一切興味を示さず、自ら主導することはなかった。
つまりは、シスの悦楽を何一つとしてしなかったのだ。自分を奴隷として扱ったタトゥーインの商人にさえ、何もしない──あの裏切り者は能力はあれどシスの面汚しでしかなかった。
それゆえに、絆だの信頼だの愛だのという吐き気を催す幻想にすがる者どもは、「ベイダーもまた皇帝に縛られていた悲しき武人であり、打倒すべき真の巨悪は皇帝である」と、自分たちの都合のいいように事実を切り取り、彼を軍のトップとして担ぎ上げた。
くくく……ああ、なんと滑稽な光景か。連邦の者たちもアナキンも、『信頼や愛や思いやりによる結びつき』などという錯覚を抱いているのだからな!
笑止千万。他者への信頼や愛など、弱者が己を慰めダークサイドを弱める欺瞞であり詐欺。奴らは私という共通の敵を倒すため、互いに過去の遺恨から目を逸らして利用し合っているだけの利合の集まりだ。彼らが必死に取り繕ったその薄っぺらい結びつきなど、絶望を与えてやればいとも容易く剥がれ落ちる)
そんな『連邦』に対して、偽りの親愛を本物の絆と信じ込み、己の命を懸けて父親(シディアス)を救い出し、帝国の実権を握り善政を行う息子ダサンが率いる独裁国家『帝国』。
裏切り者の弟子と、愛息子。連邦と帝国。この二つの巨大な国家が、互いの持てるすべてを懸けて真っ向から激突する。
(もはや、私が小細工を弄して圧政を敷く必要などどこにもない。今日この日、コルサントが燃えた開戦初日だけで百億近い人命が散った。
それも、各星系の代表たる元老院議員をはじめとする、銀河の重要人物たちを無数に巻き込んで、だ。
のみならず、私が意図して政を放置した狙い通りに。クローン戦争の傷痕から血を流し続ける広大すぎる銀河の統治に焦った帝国の官僚や将官や総督どもは、己の保身とかりそめの秩序を保つために、自ら非人類の浄化、強制労働、飢餓政策、惑星爆撃、そして種族絶滅へと手を染めた。
彼らが帝国の名のもとに敷いた過酷な圧政は、すでに数千億の命をすり潰し、巨大な死の山を築き上げている。
そのすべてが、ダークサイドの極上の糧となっているのだ)
ターキンやマス・アミダを含めた帝国の臣下たち──否、この老人を何としても殺そうとしているアナキンたち旧ジェダイの生き残りと、彼らから真実を告げられた一部の者たちを除いて銀河の誰も知らなかった。
数千億の命をすり潰した血みどろの圧政が、国家の繁栄のためでも、強固な秩序のためでもなく、ただ『シス』などというカルト宗教のためだけに仕組まれていたとは知らなかった。
そんな、目に見えないフォースを感じられない一般の人々からすれば、それはあまりにも荒唐無稽でオカルトじみた妄言にしか聞こえない。それゆえにアナキンたちも、この悍ましい真実を銀河に向けて公言することはできない真実。
もし、己の信じた大義や背負った罪が、一人の老人のそんなふざけた理由のために弄ばれていたと知ったならば──絶望のあまり発狂し、自ら命を絶つ帝国人がどれほどいたことだろう。
そんな、ダークサイドを産み続ける完璧な地獄を作り上げた達成感の中、シスの暗黒卿の意識は次いで自らの命を直接狙ってきた者たちへと向けられる。
(連邦とジェダイの奇襲。それ自体は私の予測を超えた動きであったと認めよう。だが……それがどうしたというのだ? 戦争という手段を用いる時点で、彼らは何時も通りに私が作り上げた『ダークサイドを産み出す盤上』で踊っているに過ぎない。
──唯一、アナキンがシスを棄てたことだけは盤外であったが、それすらもはや些末な問題だ)
銀河を二分するこの血みどろの悲劇のすべてをゼロから設計し、両軍に殺し合いをさせる絶望の創造主。
この宇宙における紛れもない諸悪の根源は、自ら用意し仕掛けた戦争が産み出すダークサイドの愉悦に、皺くちゃな唇をカプセルの闇の中で音もなく吊り上げる。
(過去の圧政で失われた無数の命と、今日の戦争で散った命。それらに対する人々の執着と恐怖と怒りと憎しみは──ダークサイドとなってこの宇宙を満たしている。
連邦は自らの大義と、帝国の圧政で散っていった無数の同胞のために。帝国は理不尽に砕かれた帝都の民と、殺された各星系の代表たちのために。
互いに正義を掲げて戦い、殺し合い、無尽蔵のダークサイドを産み出し続けるのだ)
ダークサイドを産むために人々に塗炭の苦しみを与え続ける悪魔──ダース・シディアスは笑った。
(『失われた命のために』──ああ、なんと美しく、なんと見事に、愚かな可愛らしい人々を熱狂させる大義名分か。その愚かな情愛から生じる正義感こそが、次の殺戮をうみ、さらなるダークサイドを無限に生み出していく。
どちらかが完全に滅び尽くすまで決して止まることのない、これから何年と続く血みどろの総力戦。戦火が長引けば長引くほど、互いの憎悪が際立ち、銀河はより濃密なダークサイドに染まりきっていく
これ以上ない舞台だ。
これこそが、これこそが! 最強のシスを産み落とすための、極上の舞台だ!)
銀河に住まう人々を、ダークサイドを産む家畜としか考えない。カプセルの闇の中で、悪魔シーヴ・パルパティーンの黄金の瞳が、かつてないほどの悍ましい熱を帯びて爛々と輝く。
(己の魂を移し替えるための不完全なクローン施設も、いや全てのプランが不要だ。この肉体も命も魂も、最強の暗黒卿を産み落とすための苗床として使い潰そう。他の保険もすべて破棄する。私の残る命と全存在は、この愛息子を最強のシスにするためだけに捧げよう)
銀河をダークサイドで満たす準備を完璧に整えたシーヴは、数年以内に自分を殺して究極のシスとなる自らの愛息子ダサンの大きな背中をフォースで愛おしく撫で、ゆっくりと目を閉じた。
他のプランなどという浮気を捨て、今はただ待てばいい。
自らが用意した最高の暗黒卿(ダサン)の誕生に必要な銀河を真っ二つに引き裂く極上の大戦乱が、老いた身体を熱く満たしていた。
──だが、シスの狂気によるその安らぎの瞬間は、宇宙そのものが引き裂かれるような凄まじい衝撃によって終わりを告げた。
『……っ!? なんだ、今の異常な重力震は!?』
ターキンたちと事後を話し合っていたダサンが、ホログラム・テーブルに手をついて叫ぶ。
血みどろの激闘を繰り広げていた両軍の全艦隊も、一斉に戦いの手を止め、センサーの警告音が鳴り響く宙域を見上げた。
そして、戦場にいたすべての者が、驚愕して己の視覚を疑った。
コルサントの高軌道を覆っていた巨大な影が、崩れている。
チャム・シンドゥーラ中将の執拗な足止めと、アクバー提督が放った戦闘機の猛爆撃の果てに。
直径百二十キロメートルに及ぶ帝国の誇る究極兵器『デス・スター』が、無数の誘爆によって赤蓮の火だるまとなりながら、帝都コルサントの重力圏へ向けて、絶望的な質量とともに墜落し始めていたのである。
──素晴らしいダークサイドの糧がまた来たと微笑むのは銀河で唯一人
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"The Sith are the ones that throw the Force out of balance."
(シスこそがフォースのバランスを乱す存在だ)
"What happens when you go to the Dark Side, it goes out of balance."
(ダークサイドが強くなると、フォースはバランスを失う)
"Greed, fear, and anger. those are the path to the dark side."
(貪欲、恐れ、そして怒り。それらがダークサイドへの道だ)
"The Emperor is the ultimate evil. He is the devil. He is pure evil."
(皇帝は究極の悪だ。彼は悪魔であり、純粋な悪そのものなんだ)
"The Emperor doesn't understand love and compassion. He only understands power."
(皇帝は愛や思いやりというものを理解できない。彼が理解できるのは力だけなんだ)
"He thinks everybody is as selfish as he is."
(彼は、誰もが自分と同じように利己的で身勝手なのだと認識している)
── ジョージ・ルーカス