血で血を洗う苛烈なコルサント攻防戦から一週間後。
帝国との一時停戦延長、新たな参加惑星の処遇、交易ルートの再編などなど……。
ようやく連邦の代表としての公務から解放され、プライベートエリア(マスクを外しても大丈夫なように生命維持装置付きの私室)に戻って一休み出来たアナキンは、途方に暮れていた。
今も彼のデータパッドには、『アウター・リム連邦スカイウォーカー代表』として決裁を求める仕事の山が押し寄せている。だが、彼を途方に暮れさせている最大の原因は、それではなく──。
「やはり──信じ難い。いや、許し難い……。間違いない、ナブーだ。我が家の別荘だ。あの子の好きな場所だ。──なのに、私たちがいない、だと? ……………… 一体何を考えていたんだ」
部屋に、義父ルゥイーの怒りと悲哀が入り交じった震え声が響く。
「その通りですわ、あなた。パドメが昔から強情で困った子なのは分かっていたけれど……いくらなんでも、これは有り得ないわ。母親として、あの子のウェディングドレス姿を見る権利くらいあったはずなのに!」
ジョバルがハンカチを噛み締めながら涙ぐむ。
「そうだね。お祖父さん、お祖母さん。僕もそう思うよ」
ルークが深く頷きながら、アナキンにジト目を向ける。
「私も信じられないわ。いくら戦争の直前とはいえ、親族に完全内緒で式を挙げるなんて。それよりも、もっと早くいってよ。自分が父親だって早く。ナブーで受けた遺伝子検査の結果が出た時、私とお祖父様たちがどれだけパニックになったか、父さん分かってるの?」
レイアが鋭い視線で追撃する。
──そう、すべての発端はレイアだった。
彼女が公務でナブーを訪れた際、色々あって受けた遺伝子検査で『パドメ・アミダラとアナキン・スカイウォーカーの実子』という結果が文字通り確定してしまったのだ。ついでにルークも調べられ、長年隠されていた事実が科学的な完全なる証拠として白日の下に晒された結果、両家を巻き込んだ大騒動に発展したのである。
ああ、有無を言わさずにダース・ベイダーの遺伝子も調べられた。アナキン・スカイウォーカーだった。ルークとレイアの父だった。当然だった。
「ジオノーシスの後、ナブーへもう一度来た時には深い仲になったとは薄々勘付いていたけど……まさか、こんな、ウチの別荘で結婚していたなんて、しかも、参列者なしのドロイドだけなんて」
そこで一度言葉を切り「いくらジェダイの掟があったからって、一言くらい相談してくれてもよかったじゃない」義姉のソラが大きなため息をつく。
「全くだ。お似合いの二人だとはずっと思っていたが、親兄弟にすら完全な秘密にするってのは、流石に有り得ないな」
義兄のダレッドも呆れ顔で同意する。
「……うちだって同じだぞ、アナキン」
腕を組んだオーウェン・ラーズが、厳しい顔で苦言を呈した。
「あんたがジェダイで忙しかったのは知ってるが、親父(クリエグ)も、シミ母さんも、これを知ったら悲しんだはずだ。だいたい、ルークを預かるまで、俺たちはあんたが結婚したことすら知らなかったんだぞ」
「オーウェンの言う通りよ。パドメさんも、なんてことを……。あんなに可愛らしい方だったのに、家族を頼ってくださらなかったなんて」
ベルーもまた、非難というよりは寂しそうな目でアナキンを見つめる。
「おばさん、ひどいわ! 私たち、子供の頃に『いつか結婚式をする時は、絶対にフラワーガールをやらせてあげる』って約束してもらっていたのに!」
「そうよ! ずっと楽しみにしていたのに……もう二人とも、ブライズメイド(※大人の付添人)をやるような年齢になっちゃったわよ。アニーおじさんも、どうして止めてくれなかったの!?」
すっかり大人の女性へと成長した姪のプージャとリョーカが、パドメと過ごした昔に戻ったように唇を尖らせて、アナキンを非難する。
「プピッィィィ、ピロロロ! (本当だよ。僕も絶対誰か呼んだほうがいいって言ったんだ。ドロイドの僕に分かるくらい、信じられないことだよね)」
「こんな、こんな……私が同席しているのに、私がこの神聖なる誓いの場を一切覚えていないなんて──何故っ、私だけ記憶ワイプなどされねばならなかったのですかっ! 酷すぎる仕打ちです!」
自室のホロ・プロジェクターでR2-D2が嬉々として上演している『自分とパドメのナブーでの結婚式(※参列者ドロイドのみ親族なし)』の映像。
パドメの実家であるナベリー家と、アナキンの身内であるラーズ家。
遺伝子検査という言い逃れ不能の事実を突きつけられ、遠く離れていた両家の親族が勢揃いした大所帯のなかで。
連邦の総大将にして、元・銀河最強のジェダイであるアナキン・スカイウォーカーは、言い訳一つできず、身を縮こまらせて完全に孤立無援の針の筵に座らされていた。
「……本当なのかね、R2。ナブーで、我が家の別荘で式を挙げながら……我々親族を呼ばなくていいと言い出したのは──アナキンではなく、パドメの方だったというのは」
「まさか、あの子は私たちが反対するとでも思っていたの! アナキンなら喜んで賛成したのに! ──議員とジェダイを辞めるだけでよかったのよ!」
義父ルゥイーと義母ジョバルは、あまりのショックに小刻みに震える両手を、ルークとレイアに優しく包み込まれていた。
十七年も会えなかったどころか、生まれた事さえ知らなかった(※当然、色々あった)孫たち。その頼もしく成長した手からの温もりを感じ、愛おしさを瞳に宿しながらも──愛娘に蚊帳の外にされたという事実に、二人はやり場のない悲しみに暮れていた。
「ピィィィピー、ピロロロ! (うん。アナキンは「ご両親や家族を呼んだほうが良いんじゃないかな。絶対に内緒にしてもらえれば大丈夫だ」って提案したんだ。でも、パドメが「ダメよ! 父も母も、私たちが結婚したらジェダイと議員を辞めることになるって知ったら、『じゃあ、すぐに辞めなさい』と言うに決まってるわ! 戦争が始まったばかりなのに、今私たちが表舞台を降りるなんて無責任すぎる!」って、猛反対してアナキンを説得したんだよ──やっぱ戦争ってカスだね)」
「お、おお……なんと痛ましい……!」
R2-D2の電子音を、C-3POが両手を天に掲げながら大仰な身振りで翻訳し始める。
「R2は申しております。『クローン戦争が勃発したあの激動の時代において、致命的なスキャンダルを起こす訳にはいかない苦渋の決断だった』と! 『お二人とも、愛と義務の狭間で、血の涙を流すほどにお辛かったのだ』と!」
「やっぱり……! やっぱり、あの子が初めて家にアナキンを連れてきてくれた時に、議員なんて無理やりにでも辞めさせるべきだったのよぉぉっ!」
ドロイドが二十年近くの時を超えて告げる愛娘パドメの意志に、義母ジョバルがついに耐えきれず泣き崩れた。
「あの子達なら! ジェダイや議員なんて辞めても、何とでも生きていけたはずなのに! 政治と戦争と、パルパティーンが、あの子からウェディングドレスを……アナキンとパドメの素晴らしい結婚式を家族に見せる機会を奪ったのよぉっ!」
「「お祖母さん……」」
愛娘の晴れ姿を見られなかった無念と、娘を戦争で喪った悲しみをないまぜにして啜り泣く義母を、ルークとレイアが悲痛な顔で慰め、抱きしめる。
──あまりにも、居心地が悪い。
確かに、パドメがそう言って自分を説得し、それに流されるように頷いたのは事実だ。いや、自分も隠すべきだと思っていたので躊躇わず頷いたのが真実だ。当時はそれが良いと思っていたのだ。
だが、ダース・ベイダーとしての地獄のような年月を経て、ルークやレイアという『子を持つ親』の視点を得た今の自分から振り返ってみれば、当時の自分たちはあまりにも幼く、ひどく視野が狭かったと痛感させられている。
『お互いさえいてくれれば、それでいい』
『二人だけの秘密の世界が守れればいい』
戦争と重圧から逃避するように、そんな盲目的な熱情と若さゆえの身勝手な陶酔に浸りきっていたのだ。自分たちを愛してくれる家族を頼る、という当たり前のことにすら思い至らなかった、あまりにも視野が狭すぎた愚行。それがあの頃の自分たちの真実なのだ。
そうだというのに、自分たちを責めるどころか、ドロイドたちの熱演によって『大義のための自己犠牲』などという完璧な美談にすり替えられてしまっては、良心がチクチクと苛まれて仕方がない。
(………………いや、本当に、パドメの実家の別荘で式を挙げながら家族を呼ばないとは、我々は何を考えていたのだろう)
このいたたまれない空間から一秒でも早く逃げ出したいアナキンは、「失礼、仕事が」と一言断るとデータパッドを取り出し、端末に押し寄せる仕事の波へと全力で現実逃避した。
ポチポチ、ポチポチ。狂ったような速度で書類を決裁していく。
(……おお。タトゥイーン代表のコブ・ヴァンスから、新たな支援要請と報告書が上がってきているな)
アナキンは、その報告書をすがるように見つめた。
相変わらずヴァンスの要請書は簡潔かつ明瞭だ。過不足のない箇条書きで現状の課題を挙げ、必要な物資を提示し、さらに『それによって連邦側にどのような経済的・軍事的メリットがあるか』まで完璧に論理立てて記載されている。
かつてのハット・カルテル支配時代からは考えられないほどの治安改善と、各種産業の進捗データ。
(これほど善良かつ誠実で、かつ有能な政治家は銀河を見渡してもそうはいない。連邦の中枢に引き抜いてもっと出世してもらいたいが……『俺にはあの砂漠の田舎が合ってるんですよ』と固辞されたんだったな。地元が大事なのだ、しかたない)
義父母が啜り泣くのを息子と娘が慰め、義姉義兄夫婦及び姪がため息をつく重苦しい空間のなかで、アナキンの思考は完全に現実から遊離し、大量の仕事と思い出深い遥か彼方の砂の惑星へと飛んでいた。
(あの最悪のゴミ溜めだったタトゥイーンが、ここまで豊かな星になるとは思わなかったな。タスケン・レイダーさえも協定を結んで無力化するとは……やっぱり、上に立つ『人』って大切なんだなあ。素晴らしいことだ)
今、自分の周囲で巻き起こっている『かつての自分たちの黒歴史』に嘆き悲しむ家族たちから完全に目を逸らして。
アナキン・スカイウォーカーは、ひたすらにポチポチと無心で事務仕事をこなしていくのだった。
色々あったので、次回遅くなります