アナキンが家族の温かさと罪悪感、そして迫り来る「ダブル結婚式」に直面し、ひたすらコホーコホーと生命維持装置を鳴らしていた頃。
アウター・リム連邦の政治の中枢である議事堂の一室では、連邦のトップ二人が全く別の意味で背筋を凍らせていた。
「……背筋が寒くなるわね、ベイル」
連邦議長モン・モスマは、手元のデータパッドに表示された膨大なリストを眺めながら、思わず両腕を擦った。
リストには、最近になってアウター・リム連邦への参加を打診してきている、ミッド・リムやコア・ワールド近縁の豊かなエイリアン星系の名前がずらりと並んでいる。
「彼らが連邦への参加条件として、水面下で打診してきた条項の数々……『平和的互恵関係の構築』『終戦後の連邦正規軍の段階的縮小』『各星系防衛軍の独立性担保と、連邦軍の中央単一への反対』……」
「ああ。どれもこれも、響きだけは素晴らしい『美名』に満ち溢れているな」
連邦副議長であるベイル・オーガナも、ひどく苦い顔で同意した。
「もし、我々に『特区』という強大で盤石な地盤がなければ、喉から手が出るほど欲しかったはずの提案だ。彼らの持つ強大な経済力と工業力は、我々にとって何よりの薬に見えたはずだからな」
「そうね。そして私たちは、その薬にして甘い毒を飲み込み、彼らを取り込むための妥協として、連邦が持つ軍事力を自ら手放していたはずよ。平和という美名のもとに。唯一彼らを上回ることができる軍事力を妥協で失わざるを得なかったわ」
モスマの脳裏に、最悪のシミュレーションが過った。
もし、アウター・リム連邦に絶対的な基盤がなかったら。
彼らのような「豊かな星系」に少しでも高く自分たちを売り込もうと付け込まれ、連邦は資金援助と引き換えに軍縮を受け入れていただろう。
結果としてどうなるか。
連邦政府は牙を抜かれた張り子の虎となり、各星系が自分勝手に自警団を持つだけの、烏合の衆へと成り下がる。いざ帝国が──あるいは全く別の新たな脅威が牙を剥いた時、中央政府には立ち向かうだけの直轄艦隊すら存在せず、なす術もなく中央政府(※新共和国だろうか)は崩壊し、銀河は再び暗黒時代へと逆戻りする。
(平和と自由を掲げて軍を捨てた結果、新たな独裁者か侵略者に為す術もなく蹂躙される、無力な政府……いえ、そもそも通常の統治さえ出来ないわ。この銀河を統治する力が圧倒的に足りない。軍事力なくては何もできない)
そのあまりにもリアルで、起こり得たかもしれない未来の幻影に、モスマは再び身震いした。
豊かな新規星系たちが美名を掲げて要求しているのは、平和ではない。単に自分たちを力で脅かす可能性のある中央に軍事力を持たせないための、極めて利己的な生存戦略なのだ。
「……本当に、彼(アナキン)には感謝しなければならないな。彼がまとめ上げてくれた特区という名の絶対的な基盤があったからこそ、我々はこの甘い毒を突っぱねることができる」
ベイルの言葉に、モスマも深く頷き、データパッドを机に置いた。
現在のアウター・リム連邦は、銀河の1割を超える領域を占める特区という巨大な母体から始まった経歴がある。
スカイウォーカー代表(当時はベイダー卿)がエイリアンたちの生存権を認めることで敷いた強大な経済圏、莫大な工業生産力、そして単独で帝国軍の主力と渡り合えるだけの精強な軍。それらが既に一つの完成された巨大経済・軍事圏として機能していた所から周辺を飲み込んで強大な国家となった。
だからこそ、新しく参加を希望する豊かな星系が、少しでも自分たちを高く売ろうと画策し、美名で武装して条件闘争を挑んできても──連邦側からすれば、彼らを特別扱いして機嫌を取る必要など、どこにもない。
「彼らの突きつけてきた特別条件や軍縮案は、すべて却下で構わないな、モン」
「ええ。私たちは何も変わる必要はないわ。『連邦の法とルールに従うのであれば、参加を歓迎する』。ごく自然に、他の星系と平等に受け入れるだけで十分よ。……特別扱いなどせずとも、どうせ彼らから折れてくる」
モスマは、かつて旧共和国元老院で理想主義者と呼ばれていた頃には見せなかった、為政者としての冷徹で力強い笑みを浮かべた。
「今の帝国(ダサン新体制)の恐るべき統率力と、先日のコルサント戦を見れば、彼ら単独で生き残れる道理などないことは、彼ら自身が一番よく分かっているはず。私たちの巨大な軍事的な傘と経済圏の家の中に入りたければ、身勝手な主張を取り下げて頭を下げるしかないのよ」
「……連邦の総大将が聞いたら、『政治家ってのはやっぱり怖いな』とボヤきそうだな」
ベイルが冗談めかして笑うと、モスマもふっと表情を和らげた。
「彼には、政治のドロドロした部分は私たちが引き受けると約束したんだもの。それに……今頃彼は、帝国との戦い以上に恐ろしい『家族会議』の真っ最中でしょうし、これ以上の心労をかけるわけにはいかないわね」
そうなるだろうと見越して、レイアをナブーへの交渉へ行かせた二人の連邦トップは密かに笑い合った。
強大な軍事力と経済基盤という現実を手にしたことで、理想主義の罠を完全に回避したアウター・リム連邦は、かつてないほど盤石な国家として歩み始めていた。
──その時である。
「大変です!!!???」
血相を変えて執務室に飛び込んできた情報武官の声に、二人は同時に振り返った。
「どうしたのかね?」
「未確定情報ですが! シーヴ・パルパティーンが、前の皇帝が──死んだとの情報が入りました!!」
「「──なっ!?」」
銀河最大の巨悪の突然の死。
その報せに、百戦錬磨の連邦トップ政治家二人も流石に顔色を失い、一時的にパニックに陥りかけた。
「パルパティーンが死んだ!? 暗殺か!? それとも帝国軍内部のクーデターか!?」
「情報局は何をしていたの!? 何らかの罠の可能性は!?」
立ち上がり、矢継ぎ早に問い詰める二人に対し、武官は困惑したように報告書を読み上げる。
「い、いえ、それが……前皇帝は先日の激戦で負った負傷の治療中、そのまま容態が急変して息を引き取ったと……」
「…………は?」
「つまり……寿命、あるいは怪我の悪化による自然死、だそうです──未確定情報です、が」
数秒の、完全な沈黙。
フォースという神秘の力を持たず、良くも悪くも常識的な一般人であるモスマとベイルは、急速に冷静さを取り戻していった。
「…………そう。そういえば、彼はもう83歳だものね。いつ死んでもおかしく無い歳だわ」
モスマが、スッと椅子に座り直した。
「だな。83歳の老人が、先日の首都攻防戦で大怪我を負った。そのまま死に至るのは……医学的にもごく自然なことだな」
ベイルも、ひどく現実的な納得の仕方で深く頷く。
フォースの暗黒面がどうこう、シスの執念がどうこうといった常識外の概念を知識としてでしか知らない二人にとって、『83歳の負傷した老人が寿命で死んだ』という事実は、あまりにもスッと胸に落ちる(そして正解である)理屈だった。
「しかし……」
ベイルが、ひどく苦いものを噛み潰したような顔で天を仰いだ。
「なに? ベイル」
「いや、なに──勝ち逃げされたな、とね」
「…………ええ。そうね」
モスマも、力なく同意した。
呆然とするしかない。パルパティーンのあまりの見事な勝ち逃げに。
政治家としてシーヴ・パルパティーンと交流し、ジェダイたちからシスがどういう存在かを知識として教えられた彼らははっきりと幻視した。
(ジェダイを滅ぼし! 共和国を滅ぼし! 銀河帝国を樹立し! シスが銀河の支配者となり! 銀河をダークサイドで染め上げ! 次なるシスに教義を渡した!! ダース・ベインのグランド・プランは、この私が完成させたのだ!! ──我が生涯に一点の曇りなし!!!)
直接聞いたわけではないが、今際の際にそんな悪魔のごとき台詞をドヤ顔で言い残した薄汚い老人の顔が、二人の脳裏にははっきりと幻視できた。
実際にその通りなのだ。
彼はやりたい放題に銀河を掻き回し、全ての野望を達成し、新たな戦争を生み出した挙句に、一番面倒な泥沼の戦争を含めたその後を後継者たちに丸投げして、自分は天寿を全うして大往生を遂げたのである。
「……やりたい放題やって、帝位を譲った直後に大往生。両国の一般人が互いを激しく憎み合い、殺戮の連鎖が止まらなくなったこの最悪のタイミングで…………全ての元凶が寿命で逃げ切ったわ──これではシーヴ・パルパティーンを討ったから手打ちなんて出来ない」
モスマは、やり場のない虚脱感と共に呟くのに、ベイルも合わせた。
「彼が死んでも、もう何も変わらないな。いや、より酷くなった。民衆の怒りは収まらず、連邦も帝国も後戻りはできない。……戦争は続く──認めたくないが、政治家として完敗した」
アナキンやジェダイたちが「絶対に何か裏がある!」「罠だ!」と深読みして戦慄している中。
政治のトップである二人は、完璧すぎる勝ち逃げをしてのけた前皇帝に、ただただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
私は正史(カノン)の新共和国は、基盤が弱すぎてあとから参加した星系に無力化されたと思っています。
日本史で言えば、足利(室町幕府)並みに基盤が弱い政治システムが新共和国。この世界線は『特区』という強大な軍事・経済基盤があったからこそ、モスマたちは弱体化の罠を回避できた、という設定です。
そもそも、統一国家を作るなら、その母体となる組織が大きくなければどうしようもありません。
例えば、年収300万円の人が1億円の家を買うのと、年収2億円の人が1億円の家を買うのとでは、同じ1億円の家でも意味が全く違います。前者は家を買っただけで人生のほとんどを犠牲にせざるを得ませんが、後者には十分な余力がある。
反乱軍と特区は、だいたいそれくらいの国力差があります。
反乱軍は銀河帝国を倒すことは出来ても、帝国に代わって銀河規模の統一国家を運営するには、あまりにも母体が小さい。
一方で特区は、最初から巨大な経済力・工業力・軍事力を持った一つの完成された国家基盤でした。
だからこそ、この世界線ではモスマたちが「新規加盟国を増やすために軍縮する」という罠を回避できたわけです。
その結果、ファンボックスに書いている外伝のマンダロリアンとグローグーの話のように、戦争中でも連邦そのものは比較的安定しています。