アナキンが身内からの極大の精神ダメージ(半分以上自業自得)でのたうち回っていた頃。
遥か彼方の宙域では、一人の当事者が日々の仕事をしていた。
「ヒャッホー! いいぞ野郎ども、残りの逃げ遅れた雑魚も残らずふん縛れ!」
アウター・リムの暗礁宙域。
危険な任務と散った者たちの葬儀を終えて羽を伸ばすハン・ソロ大佐は、ミレニアム・ファルコンの操縦桿を握りながら人生を満喫する笑い声を上げていた。
羽伸ばしこと、いつもの仕事──「シノギ(海賊狩り)」真っ最中だから心の底からの笑顔が溢れている。
彼の周囲には、青いペイントが施された麾下の精鋭部隊──連邦軍第501大隊のスターファイターとスター・デストロイヤー、そして巡洋艦が、見事な連携でほとんど被害なく海賊を制圧していた。
必死の抵抗をする連邦の流通網を脅かしていた大規模な海賊団だったが、相手が悪すぎた。
偽装貨物船からの奇襲から始めたアウター・リム最高の運び屋であるハンの裏をかく戦術と、裏稼業出身者が数多く揃う連邦最強の精鋭部隊という『絶対に海賊が戦ってはならない、目をつけられたら終わりな過剰戦力』による蹂躙により、わずか数時間で完全に一網打尽にされてベスピンへと連行されたのである。
その航海中。
拿捕された海賊船各船の内部では、どっちがならず者か分からない怒号と悲鳴が何時も通りに響き渡っていた。
「オラァ、キリキリ吐け!」
「ひぃっ!? な、何をだよ! もう何にも残ってねぇ! 全部お前らが奪い取っちまったんだ! 金も物も船もっ!」
「何にもないだぁ? 違法品も、スパイスも、隠し財産もか? ふざけんな!」
捕らえる過程で血塗れのボロボロになった海賊のボスの胸ぐらを掴み、ノリノリで脅し──ゲフンゲフン、尋問していたのは、他でもない指揮官のハン・ソロ大佐である。
「俺を誰だと思ってやがるんだ? ハン・ソロだぞ。銀河一の運び屋様だ。そんな誤魔化しが、この俺に通用すると思ってんのか?」
ハンはニヤリと笑い、手元のデータパッドを海賊の頭に見せた。
「推進器の裏に偽装隔壁。床下には鉛張りの隠しスペース。貨物室の二重底もあると報告が来ている ──ほら、どうした。まだ『何にもない』って言う気か?」
「ば、ばかな。何で見つかったんだ!」
「何でって?」
ハンは肩をすくめた。
「俺は昔、それで飯を食ってたんだよ。隠す側の気持ちくらい、嫌ってほど分かるさ。あとは──分かるだろ。犯罪者が最後まで隠しておきたいもの。裏金の在処だけだ。お前個人の持ち物でそれだけが分からないんだよ。このままじゃ船を解体するしかなくなる」
「ま、待て、この船は俺の命なんだ。何年も一緒に銀河を飛び回った船なんだよ。船乗りなら分かるだろ。それだけは止めてくれぇ!」
「ああ、待ちたいし止めたいよ。一人の男、一人の船長として、誰かの愛船をバラすなんて心が痛む──が、仕事だ。嫌でもやらなきゃならないのが渡世ってもんだ」
ハンは透き通った優しい笑顔を浮かべ──
「だから、お互いのために、そしてお前さんの愛船のために吐いてくれないか。お前さんの裏金の在処をよ」
──海賊の全てを奪うと断言した。
「ほ、本当にもう、な──」
「チューイ」
「グオォォン、アオォ! (溜め込んでるのは分かってるんだ。キリキリ出すモノ出すんだよ)」
選手交代。背後から響いたチューバッカの咆哮に、海賊のボスが飛び上がる。
「相棒も『まだ隠してるだろ』って言ってるぜ」
ハンは笑顔のまま、海賊の胸ぐらをさらに引き寄せた。
「さあ、もう一回だけ聞くぞ。裏金はどこだ?」
「グオォォォン、アロォォォ! (往生際が悪いなら、とりあえず両腕を引き抜いて、そのもげた腕でお前の頭をぶん殴ってやろうか!)」
相棒のチューバッカ少佐も、ウーキー族の言葉が分からない相手に効く効果抜群の脅迫を交えながら、巨大なブラスター・ライフルを海賊の鼻先に突きつけて威嚇する。密輸業者としての経験をフル活用したハンの追い込みと、ウーキー族の美点を活かしたチューバッカの威嚇。その二人を前に、海賊のボスはすでに顔面を蒼白にしていた。
別の拿捕船でも、勿論似たような光景が繰り広げられていた。
連邦軍きっての精鋭として知られる第501大隊。彼らは良くも悪くも、無法地帯であったアウター・リムを生き抜いたゴリゴリの腕利きが集まっている──つまりは、元荒くれ者たちだ。
そんな荒くれ者たちが、元クローンたちによる徹底した訓練を経て更生したのである。荒くれ者の中の荒くれ者、更生した表も裏も知り抜くプロたちになるのは当たり前だろう。
そんなプロフェッショナルの一人である501大隊副長は、極めて手慣れた様子で各種拷問器具を、先ほどから散々痛めつけられて情けない悲鳴を上げながらも情報を吐かなかった強情な海賊団幹部の前にずらりと並べていた。
「なあ、俺だって辛いんだよ。これ以上、君の可愛い部下たちの前で君を拷問するのは。情けない泣き声が響く度に、君の格とかそういうのが消えていくのは、見ていて辛くてたまらないんだ。だから、そろそろ海賊団の金庫のパスワードや隠し財産を洗い浚い話してくれないか。お互いの為に」
「…………だまれ、このクソ野郎ども。洗い浚い吐いても殺すだけだろうが、軍だからってやりたい放題やりやがって」
「ふむ。我々がやりたい放題していると」
「ああ、そうだ! 何もかも奪い取ってから、拷問するクソ野郎どもがお前らだ! 仁義も何もねえやりたい放題のクソ野郎どもがっ!」
「君からはそう見えるのかもしれないが、違うな。まったくもって違う。俺たちはやりたい放題なんてしていないんだ。全くね」
「ふざけるな! 警告も無しにいきなりぶっ放して、船も拠点も根こそぎ奪いやがった分際でやりたい放題してないだと!」
「もちろんだよ。これは仕事であり、義務だ。だからやりたい放題ではないんだ」
「は? なに言ってんだ!? それが何だってんだ! どこが違うってんだ!?」
「大違いだとも。君には分からないかもしれないが、我々はやりたい放題、即ち暴力など振るってはいないんだよ」
「これだけやっておいて暴力じゃない!? ふざけんじゃねえ!?」
「ふむ、やはり、君と俺とでは常識が違うのだな。ふざけてはいない。当然のことだよ──なにせ、俺たちは法と政治に従って力を振るっているからな」
「はぁ!?」
「法と政治なき力など、君たちのようにただの暴力でしかない。君たちが力を振るえば、何億もの人々を泣かせる。俺たちは違う。力を振るえば、何億もの人々から感謝される。──それが軍と海賊の違い、暴力かそうでないかの違いだ」
ピッ、と副長が端末を操作すると、空中に無数のホログラム画面が立ち上がった。
そこに映し出されているのは、企業、自治体、個人を問わず501大隊宛てに届いた『海賊討伐に対する感謝状』の数々だった。その膨大な数の感謝状を誇らしげに眺めながら、501大隊の副長はひどく優しい声で語りかけた。
自身とは全く違う論理で拷問を躊躇わない副長に戦慄する海賊に、優しく丁寧に。
「ほら。これだけの人たちが、君たちを倒してくれと我々に願って、君たちを倒し捕らえると同時に感謝してくれたんだ」
ひとつの画面を指先で弾く。
そこには、この海賊によって交易船を襲われた企業からの感謝状。
もうひとつ。
そこには、この海賊に家族を奴隷にされ殺された民間人からの感謝状。
さらにもうひとつ。
この海賊の略奪によって、長年苦しめられていた自治体からの感謝状。
「君たちが奪った金。君たちが焼いた船。君たちが殺した人たち。君たちが奴隷にした人たち。その一つ一つの向こう側には『助けてくれ』という意志があるのだよ。税金を納めているのだから『助けてくれ』というまったくもって当然の意志が」
声はどこまでも穏やかだった。
責めるような響きすらない。
「俺たち軍人にはその意志に応える義務がある。その為に力を振るう。それこそが、法と政治に従う力だ」
だからこそ、海賊の金庫番たる幹部には副長の合法サイコパスっぷりが恐ろしかった。
「俺たちはプロの軍人だ。だから、君たちのような暴力は振るわない。──より洗練された合法的な手順で、力を振るってやれるのさ。感謝されながらな」
背中の羽をパタパタと動かし、宙に浮きながら、トイダリアンの小柄な副長は優しく笑った。その手元では特殊な電磁デバイスが、不気味な起動音を立てている。
「今までのように、外から見えるような怪我はさせないから安心してくれ。処刑前に君らの顔を確認する必要があってね。治療費がかさむと、司法を含めた皆が嫌な顔をするのだよ。同じ公僕の仲間に迷惑をかけるなど、一社会人として当然避けるべきことだ──だから、次はこれにしようと思う。出来れば使いたくなかったが、仕方あるまい」
「な、なんだよ。それ。なんなんだよ。これ以上何する気だよ」
「これは、脳が焼け焦げるような幻痛と、無重力空間で全ての内臓を引きずり出されるような感覚を君にもたらす機械だよ。並の人間なら三秒で失禁して、赤子に幼児退行する。記憶には一切の障害を与えずに……つまり、素直に洗い浚い吐くようになるんだ──赤ちゃん言葉でね」
「なにぃ!」
「最高の尋問効率を誇るが、あまりの非人道的さに、連邦法では一般人に使うのは厳格に禁止し、一般人が絶対に手に入らないように規制されている……素晴らしい禁止と規制だと個人的に確信しているよ。このような残虐な物を罪なき人々に使うなど、俺の良心と理性において断じて許せるものではない。
──ああ、勿論、君たち海賊に使うのは合法だよ。連邦法は合理的だろう」
「は、ハッタリだ。そんなの聞いた、ことが」
「君たちのような暴力しかない狭い世界の住人にはそうだろうね──見給え。一ヶ月前の記録だよ。彼を知っているだろう」
「え……ぇ、あ、アイツは」
副長が端末を操作すると、空中にホログラム映像が浮かび上がった。
そこに映っていたのは、一ヶ月前に連邦にやられたアウター・リムで名を馳せた大海賊の筋骨隆々な幹部だった。知人としてよく知っている。略奪して奴隷となった者達の泣き声を愛する豪快かつ屈強な在り方は、ライバルとして尊敬していた。
だが、映像の中の彼は、副長の手にある装置を頭につけられた彼は──大粒の涙と鼻水、さらには涎まで垂らしてバブバブと洗い浚い吐いていた。
『あーくん、のぉ。かくし口座のばんごうは、ご、なな、きゅーでちゅぅぅ。へそくりは、きゅうじゅうはち、ばんコンテナのなかにかくちてまちゅぅぅ』
屈強な大悪党が完全な幼児と化し、股間を盛大に濡らしながら機密情報を洗いざらい吐き出す。そのあまりにも無惨で、海賊としての尊厳が微塵も残っていない映像を前に、幹部はガチガチと歯の根を鳴らすだけだった。
カチリと音がするまで。
自分の頭にも同じ装置が付けられるまで。
絶望に蒼白になる幹部に副長は先ほどまでと同じく、軍人として優しく丁寧に話しかけた。
「先ほどまで、赤子のように泣きわめいても情報を吐かなかった君の精神力には敬意を表する。だから──彼のように赤子にしてしまおう。そう決断せざるを得なかった…………辛いよ本当に辛い」
「やめてっ、やめてくれええ」
「そんなに泣き喚かなくてもいいだろう。君は、そんな風に泣き喚いた民間人を何人も蹂躙し何人も奴隷にして何人も殺した泣く子も黙る極悪非道な大海賊の幹部じゃないか。きっと、赤子に戻っても部下たちの前で威厳を保ってくれると信じている…………よし、レベル8でスイッチを入れろ。幼児退行させてから、改めて情報を聞き出す。その後は処刑だ」
「やめろおおおおお!? 金庫のパスコードは35248766542%089だ! 裏帳簿のデータも秘密の隠し口座の番号も全部吐くから、それだけは勘弁してくれえええ!! 俺のままで殺してくれえええ!!!」
このようにベスピンへの航海中、制圧した各海賊船の内部では、プロたちによる対象の精神と肉体を徹底的にへし折る容赦ない尋問が積み重ねられていた──何時も通りに。
「「「おぉ、やっぱ溜め込んでやがったぜ! 50年続く大海賊は違う! この三割が俺らの物!! カタギのシノギはたまんねえ!!!」」」
その結果、ベスピンに辿り着いた501大隊は、隊長のハン大佐以下、歓喜に咆哮した。隊長と副長から始まり、後方要員に至るまでハイタッチや抱き合ってやり遂げた喜びを分かち合う光景。
501大隊側の死傷者はゼロ。装備の損失もなく、救出した奴隷や民間人にも一人の死者も出さずに海賊を狩る。
それが、501大隊の麗しい日常である。
「いやぁ、金庫番がスムーズに吐いてくれて助かりましたよ。私の合法サイコパスの演技、バッチリでした? あの機械は、本当に使うと報告書の事務処理が面倒でたまらないですからねぇ。使わなくて本当に良かった」
「おうよ、流石副長! 迫真すぎて、映像越しで見る味方の俺までドン引きだったぜ!」
先ほどの冷徹非道な姿はどこへやら、何時もの人の良さそうな顔に戻って愛嬌たっぷりに笑うトイダリアンの副長(※元詐欺師)とハンが、ノリノリでハイタッチを交わす。
連行されていく悲痛に泣き崩れる海賊のボスや幹部たち(※なお、彼らはこのまま連邦法に則り略式裁判で処刑される運命にある)を放っておき、ルンルンと吐かせた隠し財産や船の積み荷や船そのものを点検するハンと501大隊の面々。
連邦法により、これら海賊から押収した財産の三割は、討伐した部隊へのボーナスとして支給される決まりになっている。
つまりは、アホみたいな大金が転がり込んだのだ。笑いが止まらない。
「頭割でも並の仕事の一生分になるなぁ」「やっぱ海賊狩りはたまんねぇぜ」「治安維持にもなって一石二鳥だな」「これだけの略奪品、どれだけ今まで治安が悪かったことか。酒が美味いぜ」「親父に見せたかった。連邦が出来たらこんな風になるんだって」「これなら息子を良い学校に入れられるな」「奴隷の人等も保護局に送れたしな」「これだけやって感謝されるとは、やっぱ正業は違うねえ」「中間に搾取されねえから、昔より稼げるとは思いもしなかった。やっぱお天道様の当たる仕事は良いぜ」「俺は嫁をもう一人貰うか」「チューイ、これでファルコンのコンプレッサーを最新型に新調できるぞ!」「ウオオッ(ああ、それと、故郷と実家に仕送りが更に増やせる。真っ当な仕事って素晴らしいな)」などなど、頭割りされるボーナスの額を計算して、ハンたちが皆一様に顔を綻ばせるのも当然だった。
まさに連邦軍最精鋭部隊におけるアットホームな一日だった――ここまでは。